2022年12月12日

サイアノタイプ・ヴァンダイク(Virtual negative)-その2


これは誤りだった。このLCDではRGB トリプレットの平均を取り、その値を 3 つのチャネルすべてで使用していることが判った。つまり、2560x1620の画像入力に対応するのは間違いではなかったということ。訂正したい。LCD上のネガ像の表示領域は大きく設定可能となり、印画紙と引き伸ばし機との間の距離が近くなったことで露光時間も短くなることが判った。


前回記事(サイアノタイプ・ヴァンダイク(Virtual negative)-その1)より

----

あれこれ試行錯誤し、アスペクト比16:10、解像度2560x1620の画像をミラーリングしたLCDに出力することが可能となった。ただし、やはりPC側のグラフィックボードとのアスペクト比の違いか、全画面表示にはなっていない。しかしLCD上のネガ像の表示領域は以前よりも大きく設定可能となり、印画紙と光源(UV光源)の距離が近くなったこともあって露光時間も短くなった。

前回は誤った理解の元にアスペクト比16:10、解像度2560x540の画像をLCDに出力し、結果として短辺方向は540画素の3倍に拡大した為、プリントの輪郭に短辺方向のジャギーとピクセルの影が顕著に現れた。

52555360536_5051b617a0_k (2).jpg

(ヴァンダイクでの前回作例:F2の水彩画紙)

今回はプリントの輪郭に短辺方向のジャギーとピクセルの影が前回ほど現れていない。

52556305222_6de5488618_k.jpg

(サイアノタイプでの今回作例:B5の安手な水彩画紙)

露光時間も前回までは約8時間(サイアノタイプ・ヴァンダイク共)を要したが、今回は約3時間だった。

(おわり)

2022年12月10日

サイアノタイプ・ヴァンダイク(Virtual negative)-その1


3. Virtual negative
さて、諸物価高騰の折、アナログフィルムも現像代もその例に洩れずますます高価な趣味となりつつある。フィルムレコーダによるデジ⇨アナ変換は失敗やムダなく、サイアノタイプやヴァンダイクプリントのアナログネガを作成する手段であり、一般的なコンタクトプリントのコスト(OHPフィルムやインクジェットプリンターのインク代)に比較すればコスパに優れるが、それでも一考の余地がある。引き伸ばし機の利便性(ネガがあればいかなるサイズにもプリント可能な点)は捨て難い。したがって、アナログフィルムや乾板に拠ってきたネガを液晶ディスプレイ(LCD)に代替できないか?と思案した。


以上、サイアノタイプ・ヴァンダイクプリント(近況報告)から

----

3Dプリンタ用のLCDはアスペクト比が16:10(横:縦)。かたや、そのLCDに画像を出力するPCのグラフィックボードがサポートするアスペクト比は16:9。LCDの最大解像度は2560x1620(アスペクト比16:10で2560x1600、ゆえ略16:10)だから、横ピクセルの数値(2560、所謂 "2K")を合わせると、モニターのサポートする解像度は2560x1440(アスペクト比16:9)となる。LCDに付属するグラフィックボードはアスペクト比16:9の2560x1440をサポートしていないから、PCのモニターとLCD(外部モニター)をミラーリングさせるとLCD上のミラーリングされた画像は縦に伸びて表示されることになる(1440/WQHD→1620/略WQXGA)。


(画像出典:Rene.E Laboratory)


----

LCD(外部モニター)のアスペクト比(16:10)でも正しい縦横比で表示されるには、PCのアプリであらかじめ画像をリサイズする必要がある。つまり、LCD(外部モニター)にミラーリングされる画像の縦に伸びて表示される分(1440→1620)を補正しておくということだ。

----

以下はその例:

1 (35).jpeg

コロタイプ印刷の100年以上前のポストカード(ガブリエル・レイ

スキャンして(モノクローム)16:9でトリミング後、16:9のアスペクト比を維持せずに2560x1620にリサイズし反転(ネガ)。

1 (34).jpeg

(ポートレイトが横長になる)


さて、ミラーリングしてみて気付いた。LCDに付属するグラフィックボードのモノクローム動作周波数: 60hzであれば2560x1620の解像度となるが、最終解像度を確認すると2560x540。これは、このLCDがモノクローム専用LCDではなく、RGB LCDであることを示している。

スクリーンショット 2022-12-10 8.48.32.png


3Dプリンター用のLCDは入出力共にカラー(RGB)であっても構わないのだから、そのLCDのRGBの内の1つのチャネルでしか出力させないようにして(カラーフィルタを外した上、サブチャネル(赤Rと緑G)を残したまま青Bのチャネルだけで)擬似的にモノクロームとしたのだろう。1/3にした分、短辺方向の画素は少なくなるということだ(1620/3=540)。RGB トリプレットの平均を取り、その値を 3 つのチャネルすべてで使用すれば良さそうなものだが(グレースケール)、このLCDに付属するボードはそんな仕掛けはないようだ。そこに2560x1620の画像を入力すれば、短辺方向に元の設定の3倍ピクセルが使われ、結果として画像がその方向に拡張されてしまう。

そこで、再びPC側で2560x1620をアスペクト比は固定せずに2560x540にリサイズ。つまり、最初から2560x540(モノクローム)にしておけば良かったということだ。

PCのモニターでリサイズ(2560x540)した画像は以下のように見える。
1 (36).jpeg


PCのモニター上では短辺方向にひしゃげて見えるが、最終解像度2560x540のLCDでは正しく表示され、UV光源下、印画紙(ヴァンダイク)には以下顕像する。

1 (32).jpeg

1 (33).jpeg

(引き伸ばし機の影が映り込んでいるが、実際は綺麗に感光している)

----

1 (30).jpeg

1 (31).jpeg


PS. Cotman Water Colour Paper F4 (210 × 330 mm) にプリントした結果(露光時間約8時間):
52555109321_317d985c8d_k.jpg


短辺方向(この作例では水平方向)の輪郭にジャギーが現れている(首や肩周りで判るように)。ピントルーペでピントを追い詰めると却ってジャギーとなるのかもしれない。若干ピントアウト(アウトフォーカス)にした方が良いのか?他方、フィルムレコーダによるデジ⇨アナ変換で作成したアナログネガではどんなに大きく引き伸ばしてもこのような現象は発生しない。

フィルムレコーダでもこのLCDと同じく、モノクロームでの出力はRGBの内の1つのチャネルでしか出力させないようにしてアナログフィルムに焼き付けているが(ただし、LCDとは異なりCRTフィルムレコーダー上のカラー画像は赤、緑、青の3原色に分解されて同じグレースケールのCRTに表示され、順番に3原色それぞれのフィルターを通過してフィルムの感光面上に照射)、CRTのビーム(レーザーグラフィック)の物理的特性(セルがない)が奏功しているのか、フィルムレコーダの性能の高さをあらためて認識した次第である(フィルムレコーダで作成したアナログネガを用いた作例:Film Recorder (Digital to Analog Converter)

ジャギーの原因は、使用した液晶の性能の低さにあると思われる。上述のようにRG成分を捨てると短辺方向(この作例では水平方向)の画素が低下するため(1620/3=540)、短辺方向は540画素の3倍に拡大し擬似的に1620画素(実行画素)としているゆえ、ジャギーは短辺方向(この作例では水平方向)で現れるということである。やはり、モノクローム用に最初から設計されたLCD(Duobond製LCD)を使うべきなのだろう。Alibaba.com(Aliexpressサイトでは入手不可能な為)から取り寄せることにした。

(おわり)

再追記:

3Dプリンター用のLCDは入出力共にカラー(RGB)であっても構わないのだから、そのLCDのRGBの内の1つのチャネルでしか出力させないようにして(カラーフィルタを外した上、サブチャネル(赤Rと緑G)を残したまま青Bのチャネルだけで)擬似的にモノクロームとしたのだろう。1/3にした分、短辺方向の画素は少なくなるということだ(1620/3=540)。RGB トリプレットの平均を取り、その値を 3 つのチャネルすべてで使用すれば良さそうなものだが(グレースケール)、このLCDに付属するボードはそんな仕掛けはないようだ。そこに2560x1620の画像を入力すれば、短辺方向に元の設定の3倍ピクセルが使われ、結果として画像がその方向に拡張されてしまう。


これは誤りだった。このLCDではRGB トリプレットの平均を取り、その値を 3 つのチャネルすべてで使用していることが判った。つまり、2560x1620の画像入力に対応するのは間違いではなかったということ。訂正したい。LCD上のネガ像の表示領域は大きく設定可能となり、印画紙と引き伸ばし機との間の距離が近くなったことで露光時間も短くなることが判った。

2022年12月04日

サイアノタイプ・ヴァンダイクプリント(近況報告)


サイアノタイプヴァンダイクプリントについて記事が途絶えていたが、近況を以下報告したい。

本稿ではUV光源、引き伸ばし機、アナログネガ(フィルムレコーダを用いたデジ⇨アナ変換のネガ含む)の組み合わせで、サイアノタイプおよびヴァンダイク方式のプリントを扱っている。

----

1. 石膏板へのヴァンダイクプリント(レジンでコーティング)
ヴァンダイク感光剤は紙に塗布する際、塗布ムラが結果に影響する。水彩画用のジェッソ(リキテックス製)と混ぜることで、サイアノタイプ同様、刷毛でムラなく紙に塗布可能であることを発見した。また、米Bostick & Sullivanからゴールド=チオ尿素トナーキットとの相性はジェッソと混ぜた場合の方がなぜか良い。紙に代えて石膏板(焼石膏を型に入れて作成したもの)を用いたのは表面をUVレジンでコートできる点にある(コートすることでドライダウンを防ぐ)。もっとも、石膏は水に弱いので、感光剤を混ぜたジェッソを塗る面には予め防水処理を施した。

作例:
52215699244_a67da126f1_c.jpg

52191476207_4c0a18c9fd_c.jpg

52215904340_d22d71ebb8_c.jpg

(いずれもフィルムレコーダで作成したデジ⇨アナ変換アナログネガから引き伸ばした。名刺大で露光時間は驚くべきことに約10分である。)

----
大きな作品には石膏板ではなく、百均のスチレン板を用いた。
52162223608_85da5fc742_c.jpg

52163918777_9e7a34a8d8_c.jpg

(いずれも写真乾板から引き伸ばした作例・ゴールド=チオ尿素トナーが適切に働いている。)
----
捨てるつもりのCDを基材にした作例
52143032525_2cfa8767f5_c (1).jpg

(ジェッソゆえCDにも塗布できる)

----

2. サイアノタイプ
サイアノタイプはジャスミン茶などタンニン成分によるトーニングを種々試みていたが、トーニングをしないプルシャンブルー【Prussian blue】に回帰した。
52503962725_d10edc736b_c (2).jpg

52504692545_0eb3e510cf_c.jpg

(いずれも1970年代のアナログフィルムから引き伸ばした。B5水彩画紙・露光時間およそ3時間)

----

3. Virtual negative
さて、諸物価高騰の折、アナログフィルムも現像代もその例に洩れずますます高価な趣味となりつつある。フィルムレコーダによるデジ⇨アナ変換は失敗やムダなく、サイアノタイプやヴァンダイクプリントのアナログネガを作成する手段であり、一般的なコンタクトプリントのコスト(OHPフィルムやインクジェットプリンターのインク代)に比較すればコスパに優れるが、それでも一考の余地がある。引き伸ばし機の利便性(ネガがあればいかなるサイズにもプリント可能な点)は捨て難い。したがって、アナログフィルムや乾板に拠ってきたネガを液晶ディスプレイ(LCD)に代替できないか?と思案した。


プリント手段でアナログネガに拘ってきたわけであるから、これは完全なる宗旨替えである。フィルムレコーダによるデジ⇨アナ変換は、デジタル画像を元にする点ですでに半分宗旨替えであったが、アナログネガをデジタルそのものである液晶ディスプレイ(LCD)にすることで、本ブログのアナログ礼賛「Film photography」は看板倒れということになる。

UV光源の引き伸ばし機や印画紙(それらはアナログ)を引き続き使う点で、よく言えばいまどきのハイブリッド。これを私は以下の先例に倣って "Virtual negative"と呼ぶことにした。

LCDをネガとする引き伸ばし機にはDE VERE 504DS Digital Enlarger(銀塩プリント用)が過去存在した。これは商業用で且つ超高価な代物だった。このDE VERE 504DS Digital Enlargerが"Virtual negative"をそもそもキャッチワードにしていたのである。

銀塩プリントよりも格段に感光性の低いサイアノタイプやヴァンダイクプリントに、アナログネガに比べて透光性(開口率)が低いと思われるLCDを果たして代用可能なのか?物理的な銀粒子の隙間と電子的な液晶パネルの開口率の違いでもある。

モノは試しと、3Dプリンタ用の6.08インチ・モノクローム液晶(バックライト無し)をドライバーボードと共に、Aliexpressから購入した。解像度1620x2560で2K出力に対応している。ドライバーボードはUSB(電源)と入力ポート(HDMI)を備えている。6.08インチ(対角)という大きさは、小型の写真乾板と同じなので乾板まで使うことが可能な大型の引き伸ばし機なら扱える(LPL Model 7451を使用した)。

スクリーンショット 2022-12-04 13.42.32.png


早速、iMAC(5K, MacOS: Monterey)にThunderbolt=HDMI変換ケーブルにて接続するも全く機能せず(LCDにミラーリングを試みたが、iMACは認識せず)、Aliexpressの出品者にその旨を連絡すると、Windowsで動作するとのこと(「3Dプリンタ用」なので、PCでの接続はWindowsよりもRaspberry Pi 4を想定しているとのこと)。

Raspberry Pi 4は扱ったことがないので、Windows 10をプリインストールした中古のMiniPC(4K映像まで出力可能)を7インチの液晶モニターと共に購入した。"マッキントッシュ" 以外のPCを所有するのはPC9800以来である。ミラーリング(複製)は働くものの、アスペクト比がPCとLCDでは異なることに気付いた(PC: 9:16, LCD: 10:16、Raspberry Pi 4ならプログラミングでアスペクト比などどうにでもなるのだろう)。これでは、PCからの出力画像をLCDは正しく表示されない。Windowsの"Photo"アプリで画像を縦横ピクセル単位でリサイズしてこの問題はとりあえず解決。さっそく、サイアノタイプを試みた。

52538882923_340139964c_c.jpg


作例:
52536955029_35c9d77ceb_c.jpg

52539088566_149b9cbace_c.jpg

52541898763_102bebbfc0_c.jpg


いずれも、古いポストカードをスキャンしたデジタル画像をそのまま用いた。露光時間はおよそ8時間(B5の印画紙)。やはりアナログネガと比較して感光が十分でない場合のターコイズ色で、プルシャンブルー【Prussian blue】になっていない(二番目の作例はジャスミン茶でトーニング)。最大解像度1620x2560、2K相当だからか、液晶の網目も筋も一切プリントに現れない(引き伸ばし機を使わず、LCDを印画紙に密着させてプリントする(コンタクトプリント)とプリントに筋が現れるようだ。厳密にはLCDを覆うガラスと印画紙が密着しているのであって、そのガラスに背後のセルの影が映るのであろう。影を映す余地のない引き伸ばし機に理がある。報告例:Digital Picture to Analog Darkroom print)。

UV光源とコンデンサレンズの距離を調整し直して、さらにプリント(露光時間およそ2時間 / ポストカード大の印画紙)。

52540761315_1d87821b2f_c.jpg

(大宮「画家の小道」の壁絵 / iPhone 14で撮影)

iPhone 14の写真をそのまま使うことができる。プルシャンブルーに近くなってきた。それでも如何せん露光に時間がかかりすぎる。UVの透過性も良好とは言えない。開口率がもっと良いLCDを探す必要があるかもしれない(例:Duobond製LCD)。

そんなこんなで、これではアナログカメラの出番はない。ドライボックスのカメラたちが恨めしそうな顔をしていた。

(おわり)