2020年12月05日

サイアノタイプ - その111(引き伸ばし機)



写真乾板のコレクションが増え、昭和11年(1936)製乾板用ハンザ特許引き伸ばし機(Anastigmat F=125, 1:6.3)を使う機会が増えた。しかしこの引き伸ばし機は扱いが楽ではない。ヘッドボード(木製)の溝に鋳鉄の支柱を嵌めネジで留めているので、その昇降には重いコンデンサーレンズを収容したヘッドボードを手で支えながら慎重にネジを緩めて行わなければならない。ラック・アンド・ピニオンではなく静摩擦に頼って固定するこのプリミティブな方式が「特許」なのかは判らない。
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同上システムでのプリント過程(反時計回り):

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プリント例(Cotman Water Colour Paper (B5/ Smooth) ・ジャスミン茶でトーニング):

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上述の引き伸ばし機は原板枠である手札判サイズ(8×10.5cm)の乾板用であるが、私なりに改造して5" x 7"(13×18cm)乾板まで枠穴に挿入可能にしている。当然、手札判サイズより大きな乾板は全体をプリントすることはできない。4" x 5"なら枠穴内で乾板を動かしてプリント範囲を多少は調整できるものの、枠穴の大きさいっぱいの5" x 7"ではそれもできず不便を感じていた。

4" x 5"用引き伸ばし機は有名どころではDurst Laborator 138、Omega D-5などが海外機種が存在する。いずれも非常に高価(中古でも)で到底手が出ない。諦めていたところ、Yahooオークションで4" x 5"用(通常の35mm、120フィルムにも対応する)LPL Model 7451(中古)が1,000円で出品されているのを見つけた(「直接引き取りのみ対応」)。上述の課題も解消すると期待するものの、ウォッチが30以上入っていたのでどのみち落札しないだろうと1,500円で入札。幸いその金額で落札した(応札は他1名だけだった)。

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パワーサプライ等いくつか欠品はあるものの、4" x 5"引き伸ばし用のFUJINON フジノン EX 135mm 5.6も付属するこの代物。原価は30万円以上した。

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「直接引き取りのみ対応」の場所は私の自宅から車で小一時間の距離(川越郊外)ゆえに愛車(デミオ DJ)で向かい、大きな筐体を小さなデミオに押し込むに苦労したが無事連れ帰ることができた。

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本稿の目的(UV光源のサイアノタイプ)に使う為、本来の用途に係る部品(巨大なランプボックスなど)は取り外した。4" x 5"引き伸ばしともなると集散光式(コンデンサーレンズ)ではなく散光式(散光板箱)が一般的(Omega D-5は集散光式)で、LPL Model 7451も散光式である。どういう働きなのか確かめようとLED懐中電灯を散光板箱の入射口に当てて4" x 5"相当のネガフィルムを使ってを投射。
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この程度の光源でも投射像は十分視認できた(上掲の画像は不鮮明だが)。無論、ヘッドを上げれば60cm角の台板の面積以上に投射可能でその像も視認した。さらに散光板箱を外して代わりにCOB LEDのパーティ演出用UVブラックライトを装着し実際にサイアノタイププリントを試みる。

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COB LEDは「サイアノタイプ - その71(引き伸ばし機)」記事で触れた通り、集散光式の引き伸ばし機を用いるサイアノタイププリントの光源としては不適である(散光であること・光量が足らない等の理由)。しかし散光を目的としたこのUVブラックライトならテスト程度に使うことはできる。iPod Touchをアタッチメントで装着したピントルーペ(小穴式ピークルーぺI型(No. 2000))で液晶画面越しにはっきり像を確認することができ、適切なピントを探すのも楽だった。

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小一時間照射した程度でも印画紙上に像が顕れたので、本稿で用いているほぼ点光源のSMD UVを何らかの手段で散光させれば良いことになる。SMD UV光源を配置するには元からある散光板箱は物理的制約が多い。代替となる手段でハタと思いつくモノがあった。

(おわり)

posted by ihagee at 21:03| サイアノタイプ

2020年11月30日

サイアノタイプ - その110(引き伸ばし機)




銀塩プリントの代替手段としてサイアノタイプの可能性を本稿ではテーマとしている。

アナログのデータソース(アナログフィルム・乾板)に記録されている情報をそのまま紙に焼き付けること、一般的なコンタクトプリントでは難しい階調や細部の表現にチャレンジすること、その過程はシンプルで且つ費用がかからないこと、そして過去の資源(フィルムなど記録媒体・引き伸ばし機など暗室用品)を再利用できることに理があると勝手に思っている。

感光剤を紙に塗布する段階でいくつか工夫を施すことでプリントに深みと奥行きを与えることができるということも次第に判ってきた。

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前回に引き続き由来のある写真乾板(4x5インチ)でプリントを行った。

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カンザス・ジャクソンシティーを本拠に活動した写真家 Joseph J. Pennell (1866-1923)の乾板である。1891年から没年の1923年迄に撮影された約30,000枚の写真乾板はカンザス大学に遺贈されているが、この一枚は個人の蒐集家が売りに出した一枚を私が購入したものである。

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昭和11年(1936)製乾板用ハンザ特許引き伸ばし機(Anastigmat F=125, 1:6.3)の手札判サイズ(8×10.5cm)原板枠を使わず、直接枠穴に乾板を差し込んでバストアップのプリントを作製した。

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(Cotman Water Colour Paper (B5/ Smooth)に約五時間露光しジャスミン茶でトーニング)
morphing (glass negative transferred to cyanotype)

(モーフィング:写真乾板→プリント)

写真乾板はフィルムよりも俄然平面性に優れ銀の含有量も多いので、本稿の引き伸ばし機でのプリントに好適である。

さらにサイアノタイプ 液剤(Potassium Ferricyanide & Ferric Ammonium Citrate)を豆乳(無調整)で希釈し紙に塗布したプリント例:
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タンパク質(豆乳)が紙の繊維に絡んでプリントに深みを与える(繊細さは損なわれるが)。

(おわり)


posted by ihagee at 06:48| サイアノタイプ

2020年11月21日

サイアノタイプ - その109(引き伸ばし機)




銀塩プリントの代替手段としてサイアノタイプの可能性を本稿ではテーマとしている。

アナログのデータソース(アナログフィルム・乾板)に記録されている情報をそのまま紙に焼き付けること、一般的なコンタクトプリントでは難しい階調や細部の表現にチャレンジすること、その過程はシンプルで且つ費用がかからないこと、そして過去の資源(フィルムなど記録媒体・引き伸ばし機など暗室用品)を再利用できることに理があると勝手に思っている。

感光剤を紙に塗布する段階でいくつか工夫を施すことでプリントに深みと奥行きを与えることができるということも次第に判ってきた。

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1860年代に創業し英国ビクトリア朝時代、当時の王室や著名人(チャーチル、オスカー・ワイルドなど)を顧客にソーシャルフォトグラファーとして名を馳せたHills&SaundersのHarrow-on-the-Hillスタジオで撮影された希少な写真乾板(5x7インチ)を偶然手に入れた。
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(タグのある乳剤面を上にスキャンしたもの)

No. 15783の被写体はMrs Williamsで撮影年度は1898年とある。同スタジオでは再注文(ダゲレオ又はアルビュメンプリント)に備えて被写体毎に番号で乾板を分類管理していたようである(番号簿はネットで公開されている)。

蒐集家 Tim Boswell氏の下にあった数万枚のアーカイブスは同氏の新たな事業の資金調達の為に2016年2月頃全て売りに出されたようである(ネット資料)。手に入れた乾板はその一部であろう。

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手に入れた乾板は横向きのポートレイトの顎に一部剥離がある以外は概ね状態が良い。またフィルムと比較して乾板は銀を多く含むので引き伸ばし機のプリントでは階調を整えやすい。

しかし、5x7インチ(13x18cm)の乾板は、私の昭和11年(1936)製乾板用ハンザ特許引き伸ばし機(Anastigmat F=125, 1:6.3)の手札判サイズ(8×10.5cm)原板枠に収まらない。
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手札判以上のサイズでは枠を使わず直接乾板を枠穴に差し込めるが、その場合は全体をプリントすることはできない。バストアップのプリントを作製した。

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Cotman Water Colour Paper (B5/ Smooth)に約五時間露光しジャスミン茶でトーニングを施した。乳剤面を下にしたので上掲の乾板とは鏡像となる。

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(テクスチャーに変化を求めて、豆乳でプリコートしその上に感光剤を塗布した紙にプリントした例)

凛とした面差しはこの時代の人物写真に概ね共通する。Mrs Williamsもその一人だった。

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赤外線(熱線)や有害な紫外線(UV-B)を含む白熱球光源や太陽光と比較すれば、UV SMD光源(50W)の照射(露光)は長時間であっても乾板にダメージを与えない。乾板はコンタクトプリントが可能な大きさなので、太陽光を用いてプリントしたくなるがこれは乾板にダメージを与えるので止めた方が良い。

(おわり)


posted by ihagee at 09:42| サイアノタイプ