2019年07月04日

GATT第21条を以て無理筋な主張をしてはならない



GATT第21条 安全保障のための例外

この協定のいかなる規定も、次のいずれかのことを定めるものと解してはならない。
(a)​締約国に対し、発表すれば自国の安全保障上の重大な利益に反するとその締約国が認める情報の提供を要求すること。
(b)​締約国が自国の安全保障上の重大な利益の保護のために必要であると認める次のいずれかの措置を執ることを妨げること。
(i)​ 核分裂性物質又はその生産原料である物質に関する措置
(ii)​ 武器、弾薬及び軍需品の取引並びに軍事施設に供給するため直接又は間接に行なわれるその他の貨物及び原料の取引に関する措置
(iii) ​戦時その他の国際関係の緊急時に執る措置
(c)​締約国が国際の平和及び安全の維持のため国際連合憲章に基く義務に従う措置を執ることを妨げること。

----

[認められた主張]
世界貿易機関(WTO)の紛争処理小委員会(パネル)は5日、輸出品の通過ルートを制限するのは不当としてウクライナがロシアを提訴していた問題で、ウクライナの主張を退けた。安全保障上、正当な措置としていたロシアの訴えを認めた格好だ。WTOが安保を理由にした紛争案件で判断を下したのは今回が初のケースとなる。安保上の脅威を理由に18年の鉄鋼・アルミニウムに続き、自動車への追加関税を各国対象に検討するトランプ米政権にとって、今回の判断が追い風となる可能性はある。(日本経済新聞 2019/4/6)

WTOは2017年3月にパネルを設置し、ウクライナの主張を審議した結果、ロシアがとった措置は、緊急状況にある国際関係下における安全保障上の利益保護に不可欠で、GATT第21条(b)(iii)「戦時その他の国際関係の緊急時にとる措置」およびロシアのWTO加盟議定書に合致するとの結論を出し、主張を退けた。今後は当事者のどちらか一方が上級委員会へ控訴しない場合、WTO紛争解決機関の採択後に発効する。

ロシア経済発展省は、WTOはこれまでGATT第21条について解釈を行ってこなかったため、今回の紛争は非常に大きな意義を持つとコメント。同相のマクシム・オレシキン氏は「現在、米国政府は鉄鋼・アルミニウムに対する追加関税賦課(2018年3月27日記事参照)に関して、国家安全保障を理由とする正当な措置と説明しようとしているが、今回の採択によって、(安全保障の基準が明確化されたことで)米国との貿易紛争における、より重要な論拠となる」と語り、自国産業保護のため、国家安全保障を名目とする貿易制限を課す米国政府を牽制している。(JETRO 2019/4/9)

WTOルールはモノの通過の自由を保障するが、安全保障を理由に規制できる「例外規定」(GATT第21条)がある。ロシアは2014年に軍事力でウクライナ領クリミア半島の併合を宣言。軍事物資が混入しないようカザフスタンなどに輸出されるウクライナ製品のルートを制限した。WTO紛争処理小委員会(パネル)は、かかる状況に於いて安保上の利益を守るためロシアが採った措置は必要と判断し、貿易秩序に於ける例外規定を認めた。

----

[無理筋な主張をする米国]
トランプ大統領は3月1日、鉄鋼には25%、アルミニウムには10%の輸入関税を課すと発言した。戦闘機や軍艦の製造に使われる鉄鋼やアルミニウムが、中国で過剰に生産されて国際的に価格が下落し、各国から不当に安く輸入されているとして、アメリカの国内法(通商拡大法第232条)を根拠として、安全保障への脅威を理由に、大統領権限で行う異例の輸入制限措置を発動すると言うのだ。安く輸入されることが安全保障を脅かすとはわかりにくいが、中国等からの安い輸入によってアメリカの鉄鋼業界が衰退すれば、軍事産業への鉄鋼等の供給ができなくなると言っているのだ。(キャノングローバル戦略研究所 研究主幹山下一仁氏 2018/3/22)

「自国産業保護」理由に貿易相手国に一方的に輸入関税を課せば、貿易秩序の破壊としてWTO上正当化されないが、それを「国家安全保障への脅威」と言い換えれば「例外規定」として認められるのだとするのが、トランプ政権である。しかし、ロシア=ウクライナのWTOパネルで認められた「安全保障の基準」は緊急状況にある国際関係下における安全保障上の利益保護に不可欠で、GATT第21条(b)(iii)「戦時その他の国際関係の緊急時にとる措置」に合致するものであって、自国産業保護のため、国家安全保障を名目に貿易制限を課すことには合致していない。ゆえに、トランプ大統領の鉄鋼・アルミニウムへの輸入関税は「無理筋」として、EUなどは係る米国の関税措置は明らかなWTO違反として、WTOに提訴している。

----

[対米WTO提訴を躊躇する日本]
鉄鋼についてはEU、カナダ、メキシコは一斉に報復関税を課すとともに、世界貿易機関(WTO)違反だとしてWTOへ提訴する方針を明確に打ち出した。WTO協定は安全保障を理由とした輸入制限を例外として認めるが、鉄鋼製品にまで安全保障を口実にするのは明らかに無理筋だ。当然WTO違反としてWTOへ提訴すべきである。米国の口実を許せば、WTOの貿易秩序自体を揺るがすことになる。ところが日本はどうだろうか。EUなどのように適用猶予もされずに4月から適用されているにもかかわらず、未だWTOへの提訴をしていない。… しかもEU、カナダ、メキシコがWTOに提訴するのだから、日本は何の躊躇も必要ない。むしろWTOの貿易秩序を守ることが極めて大きな国益につながる日本が、唯一WTOに提訴しないことの方が奇異だ。本気で貿易秩序を守るつもりがあるのか、世界からその姿勢を疑われる。EUはWTO提訴を「国際ルールに基づく貿易システムを守るためだ」と強調している。これこそ日本が率先して言うべきセリフではないか
(日経ビジネス 細川 昌彦中部大学特任教授(元・経済産業省貿易管理部長)2018/6/8)

----

[無理筋な主張を始めた日本]
「WTOの貿易秩序を守ることが極めて大きな国益につながる日本が、唯一WTOに提訴しないことの方が奇異だ。」との理由が、貿易秩序(=国益)をかなぐり捨ててまでも、韓国に政治的報復を与えたいとする偏狭なナショナリズムだということが、今般の韓国に対する貿易制限ではっきりわかった。

スマートフォンに使われるフッ化ポリイミドなど3品目の輸出管理強化(実質は輸出制限)は、我が国の産業保護の為ではなく、もっぱら韓国側のサプライチェーンを破壊し同国の産業にダメージを与えることにあるから、トランプ大統領の鉄鋼・アルミへの輸入関税(自国産業保護)とも異なる。「輸出先として信頼できない国」というその口実は、トランプ以上に「無理筋」なのである。韓日間の企業同士では信頼で確立されたサプライチェーンが厳然と存在しているのに、何を以って「輸出先として信頼できない国」となるのか?信頼できないのは政治だけではないのか?

安倍政権が「無理筋」な米国の口実に口を噤んでいたのも、「輸出先として信頼できない国」だからと国家安全保障を名目として、「例外規定」(GATT第21条)をトランプ流に対韓関係でフリーハンドに使ってやろうと企んでいたからか?その通り、「国家安全保障への脅威」との整合から「輸出先として信頼できない国」としか表向き言わないが、韓国人元徴用工らへの損害賠償問題への事実上の対抗措置であることを与党幹部は隠そうとしない。

----

[すでに見抜かれている日本の無理筋]
第二次世界大戦中、日本は鉱山や重工業で、特に韓国人を強制労働者にした。数百万人がいると推定された。2018年 12月以来、韓国の最高裁判所は、新日鐵と三菱を含むいくつかの日本企業に、以前の強制労働者またはその子孫を補償するよう命じた。日本政府は、この問題は1965年に締結の日韓基本条約で金銭的に解決(3億ドル賠償金支払い)していて、個別補償請求は受け入れられないとする。しかし、1965年当時日本はすでに経済成長の只中にあったが、他方、その元植民地である韓国は当時最も貧しい国の一つであり、戦争中、日本の将校であった独裁者(朴正煕、日本名では高木正雄)によって統治されていた(軍事政権)。その後、韓国は文民政権となり、ゆえに(民意が一切反映されなかった)軍事政権下の1965年条約について改正を望んでいるのである。
(独Deutsche Zeitung誌2019/7/2)

1965年条約では、被害者の手に渡らないことを承知で賠償金を支払って(韓国の経済政策に使われた)、日韓政府間で手打ちをしたことは却って、徴用工問題、従軍慰安婦問題における、個別具体的な請求権を残す結果となり、事実、債務者側の自発的な対応を妨げないと最高裁は判例で示している。

AS20181203003186_comm.jpg

朝日新聞報 2018/12/4

当事者同士(日本企業と元徴用工の間)が交渉で解決するしかないことなのに、日本政府はこの解決は受け入れられないとして、「輸出先として信頼できない国」という無理筋な口実にすり替え、韓国に政治的報復を加えようとすることは、ドイツですら知っていることである。また、安倍晋三首相がG20サミットで「自由で公正なルールに基づく世界貿易」を表明してから2日後、日本はこの原則に大きく違反する行動を取ったことに、貿易秩序を壊そうとするトランプ政権に安倍政権が追随した、とEU諸国では驚愕を以て報道されている。

GATT第21条に無理筋な主張をしてはならない。貿易秩序を破壊することは結果として国益を損なうことに他ならないからだ。繰り返すが、貿易秩序をかなぐり捨ててまでも、韓国に政治的報復を加えたいとする偏狭なナショナリズムに(ひとえに国内向け)、国際社会は一切理解を示さないだろう。「貿易秩序を破壊する国」=WTO違反(GATT第21条の恣意解釈)としてアメリカに続き、やがては日本が提訴されることになる。

----

トランプ米大統領は1日のツイッターで、大阪市で開かれた主要20か国・地域(G20)首脳会議に関して「欠けているものや失敗は何もなかった。完璧だった!」と絶賛した。「このように素晴らしく、良く運営されたG20を主催した安倍首相に祝意を伝える。日本国民は首相をとても誇りに思うだろう」とも書き込んだ。(読売新聞 2019/7/2)

G20首脳声明では「反保護主義」、「WTO協定整合的な貿易措置」、「多角主義(マルチラテラリズム)の重視」といった米国にとっての『NGワード』は盛り込まれなかった(Wedge報 2019/7/3)。米国に最大限の忖度をし、トランプ大統領から褒めちぎられた安倍首相は、他の首脳からはパッシングされた。そして、「自由で公正なルールに基づく世界貿易」を表明したG20議長国が、その二日後に安全保障上の同盟国たる韓国に「輸出先として信頼できない国」という無理筋な口実(韓国人元徴用工らへの損害賠償問題への事実上の対抗措置)で経済制裁を加える。須らくトランプ流儀であるがトランプよりも数倍筋が悪い。

----

[絶妙の一枚?]
今井氏と彼の出身部署である経済産業省は緻密なシナリオを整えた。韓国にとって最大の急所である半導体とスマートフォンを精密打撃地点に選んだ。名分として掲げたのは「安全保障」だった。安全保障上、必要なら例外的に貿易規制を許容しているWTO(世界貿易機関)の協定上の隙間に食い込んだ。安保友好国に貿易審査に関連した特恵を提供する「ホワイト国」から韓国を除外する措置も巧妙だった。日本が前面に出した「安全保障」という名分にも合い、今後、韓国企業の対応によって輸出規制対象を無尽蔵に拡大することも減らすこともできる。駆け引きとアメとムチを手に、韓国を意のままに圧迫できる絶妙の一枚を見つけ出した。(中央日報 2019/7/3)

安倍首相の懐刀たるその今井秘書官はG7伊勢志摩サミット(2016年)で「現在の世界経済は、リーマン・ショック直前のような危機にある」と安倍首相に吹聴させ、各国首脳を騙そうとしたストーリーメイカーでもある。またぞろ調子に乗ってWTO(世界貿易機関)の協定上の隙間を見つけて喜んだのかもしれないが「無理筋」であることは上に述べた通り。その筋の悪さは2016年に証明済み。

元徴用工問題で関係が悪化する韓国に対し科す経済制裁は第二弾三弾と続くようだ。国際協調、貿易秩序に背を向けても安倍政権が固執するのは精神的ナショナリズムである。それは他者を差別し排除し蔑視しその相対で自らを良くみせる偏執性ゆえに経済さえも顧みず最後は国益までも捨てる。国益に背く政権に対して我々はその恥を知らしむために一票を投じなければならない。

粗暴に見えてもトランプは国益は捨てない。彼の口癖「判断は後だ・様子を見よう」という言葉の底には「具体的な行動につながらないものは無意味」とするプラグマティズムがある。それが無意味なうちは「何を実行していくのか注目される」とコメントするに留めることが政治的胆力である。

翻って、安倍晋三首相にはこの胆力がない。意味があろうと無かろうと自らを良くみせるためであれば、堪え性もなくキレてしまう。外交も自分本位にあっちを齧ってはヤメ、こっちを齧ってはヤメと汚く食い散らかし、挙句は国益も捨ててまわる。北方領土問題然り。プライドさえそれなりに満たしてやれば国富を気前よく差し出す者として、トランプやプーチンは手玉に取っているのだろう。トランプから板門店でそっと耳打ちされたのか、北の首領も加わりそうな雰囲気である。

(おわり)


posted by ihagee at 04:10| 政治

2019年07月02日

「たかが鯨」と甘くみてはならない



国際捕鯨委員会(International Whaling Commission; IWC)を日本は脱退し、商業捕鯨が再開された。テレビでは美食家が美味そうに鯨肉を頬張る姿や、鉦太鼓に旗を振り出漁を祝う漁港が次々映し出されるが、海外の報道は極めて厳しい論調である。

----

捕鯨でしか国民がタンパク源を得られない国ならとあれ我が国はそうではない。有限な海洋資源は本当にそれを日用の糧とせざるを得ない人々に優先されるべきであって、伝統技能や美食家の為にはない。

鯨が日用の糧であった時代は終わった。私の少年時代、安価且つ貴重なタンパク源として学校給食に竜田揚げなどに調理されて鯨肉が供されたものだった。あの独特な風味は今も舌が覚えている。だからと言って、鯨のいのちを「いただく」必然を今の食卓に考えることは一切ない。もっと滋養があり旨い食べものは他に幾らでもある。鯨はどの部位も全て社会に役立つとされてきたが、今はそのどの部位も代替するものがある。鯨でなくてはならない理由もない。

しかし、捕鯨を生業とする人々(和歌山や山口の一部沿岸漁業者)、食を含めた伝統文化や技能保全の為に鯨のいのちを「いただく」のは必然と言って日本はIWCと袂を分かち脱退した。しかし、私を含め多くの日本人はもはや日用でもないものを必然だとは思わない。

必然を同じ理屈で繰り出すのなら、象牙や鼈甲も同じ。伝統工芸の為だと、象やタイマイを殺しその象牙や鼈甲を市場に流通させることは正しいと主張してワシントン条約も離脱することになる。

和歌山や山口(各々、二階・安倍の選挙地盤)の一部沿岸漁業者の民意を汲んで国際機関を離脱したのであれば、なぜ、辺野古の基地問題で沖縄の民意を汲んで日本政府は県外移設を前提に米国と膝詰め談判をしないのか?捕鯨と基地問題とどちらが喫緊且つ重要な問題なのか?事の軽重をわきまえないのにも程がある。

そして食品廃棄。捨てて経済なるこの国の常識。大量に食料を輸入し大量に捨てる。他国から買えば良いといった「食料輸入」は裏返せば「飢餓輸出」でもある。なぜなら、世界の食料事情は潤沢どころか、飢餓人口は年々増大の一途。飢餓に苦しむ人々に本来まわすべき食料およびその生産耕地まで、日本が買い漁ることでもあるからだ。大量に他国から買っておきながら、大量に捨てる。「豚の餌になるから問題ない」などと言うなかれ。飢餓に苦しむ人は豚以下だと言うに等しい。後々捨てるような食料を地球の裏まで商社が買い漁って回ることは、翻って罪深いことだとそろそろ我々消費者も悟らなければならない。年金問題で「下級市民」と我が身を憐れむその食卓さえ飢餓に苦しむ国からは「上級市民」の贅沢なのかもしれぬ。もっと謙虚にならなければダメだ。

----

拙稿「黄金のウナギ(Zlati uhor)」に続く。

(おわり)
タグ: 飢餓輸出
posted by ihagee at 04:20| 政治

2019年06月20日

厚労省「福祉レジーム」からみた年金問題



厚生労働省「平成24年版厚生労働白書 −社会保障を考える−」の第4章「福祉レジーム」から社会保障・福祉国家を考える、に社会保障の3類型が記載されている。

スクリーンショット 2019-06-20 18.33.28.png


1. 自由主義レジーム(市場)
2. 社会主義レジーム(国家)
3. 家族レジーム(家族)

その説明を詳らかに読むと、
1. 自助
2. 公助
3. 共助

の所謂「三助」と各々合致しているように思われる。

自民党の政策綱領では、
「私たち自民党の基本的な考え方は、「自助」を基本として、「共助」「公助」の組み合わせに拠っています。(教育・農業・生活保護・憲法・子育て)」と謳っている。

福祉=国家・公助に本来基本を置くべき、福祉レジームを(経済)市場に委ね、国家は必要最小限の役割しか果たさないことが「自助」であり、アメリカなどアングロ・サクソン諸国の自由主義レジームである。公助を最小限にし代わって労働市場に老若男女問わず参加させることで、公助は困窮層にのみ当てる選別主義、残りは自己責任・格差社会を前提としているようだ。この仕組みでは「所得の再分配」は小さくなる。

スクリーンショット 2019-06-20 18.33.47.png


----

「所得の再分配」とは、社会保障制度などを通じて、高所得者から低所得者へ所得の分配がされること。厚生年金では、現役時代の所得の違いほど年金額の違いは生じない仕組みにより、所得の再分配が機能している(厚生労働省)、とされてきた。しかし、「自助」を基本とする自民党および安倍政権では1. 自由主義レジームを目指しているのは明らかである。そして、「百年安心」の一定の根拠とされてきた「所得の再分配機能」を社会保障制度ではなく、アベノミクスなる投機的な経済政策の水物的なトリクルダウン(富者のお恵み)に委ね、結局、「死ぬまで働け」とばかりに労働市場参加に老人まで駆り立てて(勤労支援)、それが割の良い給付の条件であると言い出しているのである。消費増税についても実質重税になるのは子育て世代・低所得者層であり、法人税を負けてもらっている大企業や、高額所得者の金融所得(株式譲渡益)の低率分離課税で目減りした税の穴埋めに使われるばかりで、社会保障に充てられることはないと言われている。消費増税は社会保障財源とならず、富者の減税分を貧者が埋め合わせる逆トリクルダウン。これでは社会保障制度は存立しない。安倍政権の諸政策が公助を潰しにかかっている。公助を当てにするな、自己責任で市場に(労働)参加し投資せよと言うのが先般の金融庁諮問会議から出された「報告書」の中身である。市場の側からの公的年金のあり方について金融庁に「報告」させておきながら、「自助努力」なる言葉は国民の不評を買う・選挙に不利と官邸の指示で「報告書」はなかったことにした。だからといって「自助」が基本であり、「自助」の比重を高めていくことは寸分も変えないだろう。言葉遣いだけ改めて・・と、実に不誠実な対応を安倍政権は取っている。

我々の頭の中では、公的年金=社会保障制度=公助=国の責任、という図式が未だあるので(北欧諸国の手厚い社会保障制度がイメージとしてある)、それがいつの間にか、勤労=投資=自助=自己責任、と変わったことに不安を覚えるわけである。厚労省(社会保障)ではなく金融庁(投資)から公的年金に関わる報告書が出たことが何よりの証左だろう。

「共助」と「自助」を組み合わせ、などと自民党は政策綱領で述べているが、その「共助」も、自由主義に邁進するあまり、派遣労働法を改悪。その単位となる「家庭」や「家族」を持つことすらできない非正規雇用を増大・常態化させ(これが非婚化・少子化の最大要因)、TPPなど自由主義経済政策によって、社会資本やコミュニティが失われつつある(故郷など拠り所さえ消滅している)現状に於いて、「共助」と言わんばかりに自民党が掲げる「家族主義」(拙稿『<家族主義の美風と大政翼賛>(自民党憲法改正草案第24条第1項)』)はもっぱら「美風」などという精神主義に加担するものであって(「絆」もその意味で精神主義)、実体は家族なき「おひとり様・無縁社会」が拡大深化している。

----

ゆえに、「公助」「共助」を自民党が政策綱領として掲げてもお題目に過ぎず、この国の行く末は「自助」で良いというのが安倍政権の本音だろう。嘘や言葉遣いで誤魔化しその実、本音をこっそり進めるのはやめて、はっきり安倍総理は国民に「自助しかない」と白状すべきである。なぜこの国は「公助」の責任を放棄し「共助」も不能な社会にするのかは、総理自身、胸に手を当てて自問すれば良い。国会をサボり意味のない外遊を繰り返し、内政に興味を示さず、自国民の生活に心を砕くことをしていないからだ。<民の竈(かまど)>、<民の炊煙(すいえん)>という言葉すら知らないだろう。庶民のかまどの煙の上がりを心ある為政者は見るというのだ。ゴルフと仲間内の饗宴に明け暮れる為政者の目に煙など見えはしまい。国民の安定した生活の基本を「公助」「共助(精神主義ではなく実体として)」に求めるよう最大努力するのが政治の役目であり政権の義務であろうに。

(おわり)

追記:
「自助」=働くのが好きだからではなく、生活費の為には働かざるを得ない。ゆえの高齢者雇用拡大がこの国の将来の姿。仕事中、死ぬかもしれないと職場で毎朝血圧を測る。




耐用年数を超えても稼働し続けようとする原発が危険極まりないのと同様、肉体的・精神的危険を冒してまでも働かざるを得ない社会を「働き甲斐・人生百年」などと美化・肯定して良いのだろうか?



(「いくつまで働きますか?(自由意志・労働力確保)」であっても、「いくつまで働かざるを得ないですか?(自助努力・公助崩壊)」ではない、がNHKの報道の仕方だが、これこそ肉体的・精神的危険を冒してまでも働かざるを得ない社会を「働き甲斐・人生百年」などと美化・肯定することではないのか?)

こんな消耗戦(インパール作戦)を招いたのも、我々が政治に関心を抱かないからである。このままでは決定的な敗戦(共倒れ)は遠くない将来に訪れるだろう。

posted by ihagee at 19:02| 政治