2017年06月20日

開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当か?



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(Rolleiflex SL66 / Rollei HFT Planar2.8 / 80, Kodak TRI-X 400)

拙稿『オリンピック開催都市契約にそっと蒔かれているかもしれない「共謀罪のタネ」』、『<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案と知的財産権侵害』の続き。

開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当か?
もう一度、様々な角度から考え直してみたい。

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<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が成立した。

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共謀罪については一般的規定としてその犯罪類型が歴史的に定着している米国での適用の範囲を知る必要がある。連邦法の共謀罪規定は合衆国法典第 18 編第 371 条(18 U.S.C. § 371.)にある。

米国における共謀罪の機能についてのサマリーは「司法取引の材料として拡張されてきた米国の共謀罪の威力(法と経済のジャーナル・2014/05/28掲載)」記事を参照されたい。

共謀罪の構成要件のうち、行為者の客観的行為に関する要件(客観的構成要件)については判例法によって犯罪に向けた合意(agreement)の立証があれば足りる(合意を促進する顕示行為=over actの立証は不要)とされ、また、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)については、自ら合意に加わることを認識して合意に参加したに違いないことと、犯罪目的の達成を助けることを意図して違法な合意に加わったに違いないこと、の二つが要件であり、内心を直接立証できる証拠(物証)が存在することは稀であるため、状況証拠による立証が認められている。認識そのものの要件については、直接且つ明確な現実の認識(違法であると知っていた)でなくとも、意識的且つ意図的に、違法な行為であることを知ることを避けようとする認識であれば足りるとされている

この「認識」に関する要件は、米国輸出管理規則(EAR)に違反する行為について行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)と比較することができる。

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米国における共謀罪が域外適用されることは前回ブログ記事でも記した通りである。そして、米国の輸出管理関連の法規も同様に域外適用される。

即ち、米国の輸出管理関連の法規は、米国の企業のみならず米国外の企業であっても米国の行政制裁の対象となり、米国や米国以外の国から米国製の貨物や技術を輸出入することが不可能になることがある。関連法規の中で、米国輸出管理規則(Export Administration Regulations “EAR”)は日本の対米輸出企業にとって対応すべき規則となっている。

この米国輸出管理規則(EAR)に違反する行為については、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)がSec 764.2に定められている。

その中の(d)謀議と(e)違反と知りながら行動すること、については特に留意を要する。

(d) 謀議
何人も、いかなる方法又は目的においても、EAA、EAR 又はこれらのもとに発行された命令、輸出許可若しくは認可に対して違反となる行為を、引き起こしたり、行なうことを一人以上の者と協力して共謀したり、実行してはならない。
“(d) Conspiracy
No person may conspire or act in concert with one or more persons in any manner or for any purpose to bring about or to do any act that constitutes a violation of the EAA, the EAR, or any order, license or authorization issued thereunder.”

(e) 違反と知りながら行動すること
何人も、米国から輸出される品目若しくは米国から輸出される予定の品目又は別途 EAR の規制を受ける品目に関連して、EAA、EAR 又はこれらのもとに発行された命令、輸出許可若しくは認可に対する違反が発生したこと、今にも発生しようとしていること、或いは発生する意図があることを知りながら、これらの品目の一部又は全部について、発注、購入、移動、隠匿、貯蔵、使用、販売、貸与、処分、譲渡、輸送、融資、発送、又はその他の役務を行なってはならない。
“(e) Acting with knowledge of a violation
No person may order, buy, remove, conceal, store, use, sell, loan, dispose of, transfer, transport, finance, forward, or otherwise service, in whole or in part, any item exported or to be exported from the United States, or that is otherwise subject to the EAR, with knowledge that a violation of the EAA, the EAR, or any order, license or authorization issued thereunder, has occurred, is about to occur, or is intended to
occur in connection with the item.”


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(d) 謀議は、<共謀>のことで、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)が(e) 違反と知りながら行動すること、である。

この認識に関する要件については、Morrison Forrester事務所の「米国輸出規制法および特許問題」での説明を以下引用したい。

『状況についての認識(「知る」、「知る理由」「信じる理由」等言い方は多様である)とは、状況が存在する、または状況が発生する可能性が非常に高いことを積極的に知っているというだけでなく、状況の存在または将来発生する可能性が非常に高いことを意識することも含まれる。このような意識は、或る者が知っている事実を意識して無視したという証拠、または、或る者が事実を意図的に避けたことから推定される。』

EAR Sec 764.2(e)で定めている行為者(=輸出者)の認識に関する要件(主観的構成要件)は米連邦法の<共謀罪>の認識に関する要件(主観的構成要件)と重なる点がある。

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さて、開催都市契約(第32回オリンピック競技大会・2020/東京)の41項d)の<無許諾使用に対する措置>、46項<入場チケット、流通システム>及び53項c)の<放送契約・法的行為>には、
「(無許諾使用が)が発生した、または発生しそうであることを知った場合、“In the event that OCOG learns that any such unauthorized use has occurred or is about to occur,”」
というフレーズが登場している。

このフレーズについては拙稿「<共謀罪>が必要とされる本当の理由とは?」で、「発生しそうであること “is about to occur,”」に、未遂以前の予備行為を読み取り、<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法との関連で「共謀罪のタネ」と考える旨を記した。上述の行為者の認識に関する要件は、その考えの下敷きになっている。

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さて、「(無許諾使用が)が発生した、または発生しそうであることを知った場合、“In the event that OCOG learns that any such unauthorized use has occurred or is about to occur,”」については、<公益通報者保護法>の観点から開催都市契約に盛り込んだとの理解もある。

公益通報者保護法
第2条
この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一 当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二 当該労働者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受ける事業者
三 前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
2 この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした労働者をいう。
3 この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。
一 個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
二 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)
4 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。
一 内閣府、宮内庁、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関、法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
二 地方公共団体の機関(議会を除く。)

同法の逐条解説に拠ると、通報の主体は、
ア「労働者」=「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者を言う(労働基準法第9条)」つまり、労働契約関係にある者を指す。
イ「公務員」=一般職の国家公務員及び一般職の地方公務員
ウ (以後省略)

公益通報の対象となる事実が規定されている法律には、別表第8号の法律を定める政令で、
特許法、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法とともに、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律が挙げられている。

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一般に公益財団法人に於いて、<公益通報者保護法>に基づき公益通報の受付に対応するために<通報窓口>を設置する場合は、<公益通報の事実=生じている・まさに生じようとしている><通報内容=いつ・どこで・何を・どのように・何のために・なぜ生じたか><対象となる法令違反等=例:不正競争防止法違反><通報対象事実を知った経緯><証拠書類等の有無><通報者の身分=役員・職員・派遣労働者・委託業務従事者・その他>などの通報様式を定めている。(公益財団法人 東京都保険医療公社の例

開催都市契約(第32回オリンピック競技大会・2020/東京)の契約当事者たる、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)及び公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(大会組織委員会)ではかかる公益通報の受付はいかなる様式となっているのか?

開催都市契約の41項d)の<無許諾使用に対する措置>、46項<入場チケット、流通システム>及び53項c)の<放送契約・法的行為>での義務主体は大会組織委員会である為、公益通報の受付については、たとえば、<無許諾使用に対する措置>について同委員会のウエブ上(知的財産権の保護)では、「オリンピック・パラリンピックマーク等の保護とアンブッシュ・マーケティングの防止にご協力いただきますようお願い申し上げます」とあり、<公益通報者保護法>に基づき公益通報の受付に対応しているとの明示はない

マーク等の使用等に関する確認書」の特記事項において、以下の条件の厳守の確認を「当団体」すなわち、申請事業者に求めている。「確認書」は当事者の合意事項を書面にしたもので法的証拠力としては「契約書」と同じ扱いと思われる。これは、<公益通報者保護法>に基づく公益通報の様式でないことは明らかである(主体・客体・対象となる法令など)。

「18.特記事項 (略)また、当団体は、本アクションの実施会場において、第三者によるアンブッシュマーケティングを防止するためにあらゆる合理的な措置を講じるものとし、アンブッシュマーケティングが行われていることを把握した場合には直ちに、貴法人に対し書面により通知し、必要な調査を行うことを承諾します。また、貴法人の要求があれば、当団体は自らがアンブッシュマーケティングの解決に向けてあらゆる措置を講じることを承諾します。(略)」

開催都市契約の当事者たる大会組織委員会が負うべき<無許諾使用に対する措置>についての義務を申請事業者に負わせている点、問題があるのでは?

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大会組織員会のサイト内を「公益通報者保護法」で検索すると、「公益通報外部窓口の設置」として幾つかのページがヒットするが、「(サプライチェーンの)調達コードの不遵守に関する通報を受け付ける窓口を設置することと、通報を受けた場合は、事実確認の上で解決に向けた対策を行う(詳細な仕組みは今後検討)」とある程度で(平成29年度事業計画書)、「オリンピック・パラリンピックマーク等の保護とアンブッシュ・マーケティングの防止にご協力いただきますようお願い申し上げます」と関係していないことが判る。

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開催都市契約 VII.知的財産権に関連する事項 41.大会に関するIOCの独占的権利、条件付での権利の移転のa)IOCの独占的権利に於いて、

「開催都市、NOC、およびOCOGは、IOCに代わって、また、IOCの利益のために、これらの権利を保護する目的で、IOCが満足するかたちで適切な法律およびその他の保護対策(アンブッシュ・マーケティング対策を含む)が開催国にて整備されるようにするものとする。」
The City, the NOC and the OCOG shall ensure that appropriate legislation and other protection satisfactory to the IOC are put in place in the Host Country in order to protect these rights on behalf and for the benefit of the IOC, including protection against ambush marketing activities.

と、下線部のように義務規定となっている。

開催都市契約の当事者たる大会組織委員会が負うべきアンブッシュ・マーケティング対策を含む<無許諾使用に対する措置>についての義務を申請事業者に負わせているところをみると(丸投げ)、「するものとする」なる大会組織委員会に課された保護義務を到底満たすものではない。

「IOCが満足するかたちで適切な法律およびその他の保護対策」であれば、やはり、開催都市契約の41項d)の<無許諾使用に対する措置>、46項<入場チケット、流通システム>及び53項c)の<放送契約・法的行為>での「発生しそうであること “is about to occur,”」を以て、未遂以前の予備行為のことであると理解し、<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法との関連で捜査機関が知的財産権法違反犯罪を処罰対象とすることを以て、「IOCが満足するかたち」にしたとしか思えない。

開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当だろう。

(おわり)


posted by ihagee at 00:00| 政治

2017年06月19日

企業犯罪(独占禁止法違反)が犯罪類型として含まれていない<共謀罪>



<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が成立した。

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(連邦法の共謀罪規定の域外適用の事例)


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共謀罪については一般的規定としてその犯罪類型が歴史的に定着している米国での適用の範囲を知る必要がある。連邦法の共謀罪規定は合衆国法典第 18 編第 371 条(18 U.S.C. § 371.)にある。

米国における共謀罪の機能についてのサマリーは「司法取引の材料として拡張されてきた米国の共謀罪の威力(法と経済のジャーナル・2014/05/28掲載)」記事を参照されたい。

共謀罪の構成要件のうち、行為者の客観的行為に関する要件(客観的構成要件)については判例法によって犯罪に向けた合意(agreement)の立証があれば足りる(合意を促進する顕示行為=over actの立証は不要)とされ、また、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)については、自ら合意に加わることを認識して合意に参加したに違いないことと、犯罪目的の達成を助けることを意図して違法な合意に加わったに違いないこと、の二つが要件であり、内心を直接立証できる証拠(物証)が存在することは稀であるため、状況証拠による立証が認められている。認識そのものの要件については、直接且つ明確な現実の認識(違法であると知っていた)でなくとも、意識的且つ意図的に、違法な行為であることを知ることを避けようとする認識であれば足りるとされている。

共謀罪の実際の適用の範囲は組織犯罪が関与する強盗や殺人等の粗暴犯から、一般企業が関与する犯罪まで広く活発に適用されており、企業犯罪(たとえばカルテル)に共謀罪を適用する際には、共謀罪に加担した者に対して情報を提供することを条件とする司法取引(罰条の加減の合意)を捜査当局が採用する場合が多い。

かかる米国法令の域外適用は、独占禁止法やFCPA(海外腐敗行為防止法)の分野で顕著であり、海外に子会社や営業拠点を持つわが国の企業にも共謀罪(特にカルテル)が適用される。カルテルは競合相手との価格や販売条件、市場割り当て及び生産制限に関する協定や、契約入札プロセスの結果を左右する取り決めを目的とした交流(参加又は参加しているという印象)を指す。

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<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法で示されている277の犯罪類型は、大別すると、ハイジャックなどテロの実行に関する犯罪=110、覚醒剤の輸入等を含む薬物犯罪=29、強制わいせつなど人身に関する搾取犯罪=28、保安林の区域内での森林窃盗など、その他資金源犯罪=101、偽証など司法妨害に関する犯罪=9。

特別公務員職権乱用(刑法)、多数人買収および多数人利害誘導(公職選挙法)、届け出前の政治団体による寄付受け、支出(政治資金規正法)や、偽りその他不正な行為による政党交付金の受交付(政党助成法)など公権力の関わる犯罪は悉く除かれている。また、カルテルといった企業犯罪(独占禁止法)も含まれていない。

他方、昨年5月24日に成立(6月3日公布)された刑事訴訟法等の一部を改正する法律(改正刑事訴訟法)で、合意制度(司法取引)が導入された。即ち、通信事業者の立会人なしでの通信傍受や、他人の犯罪事実を明らかにするなどした容疑者の起訴を見送る司法取引(協議・合意制度)が可能になった(捜査当局が武器を得た)。この司法取引の対象となる犯罪には、独占禁止法違反、<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法違反等が含まれている。

米国での共謀罪の実際の適用(域外適用含め)は独占禁止法の分野で顕著であり捜査手法として司法取引が採用されているのに、わが国での共謀罪を適用する犯罪類型に肝心の独占禁止法に違反する犯罪は含まれていない。改正刑事訴訟法での合意制度(司法取引)導入の趣旨は、談合(カルテル)で、内部者の捜査協力にあるにも拘わらず、その談合(カルテル)なる企業犯罪(独占禁止法)そのものは<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法の対象ではない。即ち、改正刑事訴訟法での合意制度(司法取引)が<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法で採用される場面は、上述のように公権力に関わる犯罪や企業犯罪(独占禁止法違反)を除く、277の犯罪類型となれば、それは国民の日常活動での軽い罪責の共謀までも対象とし、捜査機関による国民の監視の常態化と密告の奨励につながる。

「対象犯罪の選び方が恣意的なうえ、一般の個人や事業者が対象になる犯罪をこれだけ多く対象にすることが問題」という法曹界からの指摘は、通信傍受や司法取引といった捜査機関の武器(改正刑事訴訟法)は<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法での犯罪類型を対象としており、その中で最も数多く類型化されている一般の個人や事業者の共謀に照準を合わせることになり兼ねない危険にある。思想でなく行為を処罰する刑事法体系の基本原則との矛盾、憲法上の内心の自由や表現の自由を脅かす(又は委縮させる)懸念は言うまでもない。

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<共謀罪>が登場する現実世界の場面は、<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が成立したばかりのわが国では事例がないように思うかもしれないが、連邦法の共謀罪規定の域外適用の事例がトヨタ自動車の米国で発生したリコール問題であった。MWF(Mail Fraud及びWire Fraud)含む刑事罰に共謀罪が加重された例である。米国の<共謀罪>の威力が最大限発揮されるのは、企業犯罪に於いてである。サマリーは『米司法省のトヨタ摘発でも使われた「郵便・通信詐欺」とは何か(法と経済のジャーナル・2014/05/14掲載)』記事を参照されたい。

ハイジャックなどテロの実行に関する犯罪と、詐欺(Fraud)スキームやカルテル(独占禁止法違反)での企業犯罪と、どちらが社会の不安や国益の逸失に繋がるのか考えるべきであろう。<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が後者の為でない(同法に独占禁止法違反犯罪が犯罪類型として含まれていない)となれば、企業犯罪に於いて最も威力を発揮している連邦法の共謀罪規定の域外適用と法的均衡を欠くことではなかろうか?

(おわり)


posted by ihagee at 18:00| 政治

2017年06月16日

「藪の中」考


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「藪の中」という言葉がある。たいてい「真相は藪の中」というように用いられる。

その意味は「関係者の認識の食い違いなどにより、物事の真実が明らかにならないでいること。これからも明らかになりそうにないというニュアンスを多分に含む。」(weblio辞書)

芥川龍之介の短編小説「藪の中」が語彙の元になっている。真相を捉えることが困難なこの作品の構造に芥川の別小説「羅生門」に描かれた時代性と人間の究極的秩序を組み合わせ描き出したのが黒澤明の映画作品(「羅生門」)。

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芥川の「藪の中」では殺人と強姦という事件をめぐって目撃者と当事者の証言が矛盾錯綜している。読者は真相さがしを命じられるが、一つの真相へまとめあげることが困難な作品の構造化がなされている。

芥川の「羅生門」では遺体の女から髪を引き抜いて髷を作って売ろうとしている老婆を見て正義の心から激しい怒りを感じた下人は刀を抜いて老婆に踊りかかるが、「生きるために仕方が無く行った悪だ。だから自分が髪を抜いたとて、この女は許すであろう」と老婆は自らの行いを説明する。老婆の話から下人は勇気を得て老婆を組み伏せて着物を剥ぎ取り「己(おれ)もそうしなければ、餓死をする体なのだ」と言う。ここで読者に与えられる真実とは正義でも善悪でもなく、人間の究極的秩序たる保身である。

芥川は善悪,正邪の判断といった社会通念への無自覚なもたれかかりを拒絶するかの如く読者を突き放し人間の究極的秩序に触れさせようとしている。それが保身でありエゴイズムである。そしてシニカルなまま作品が終わる。

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さて、黒澤明は「羅生門」の中で、芥川のような突き放し方をしつつも、捨て子拾いの結末を用意して「人を信じていくことができそうだ」登場人物の一人に言わせている。羅生門に巣食う鬼(人間の究極的秩序)を最後にそっと退治してみせた黒澤はやはりヒューマニズムの人なのだろう。ここで観客に与えられた真実とは「人を信じること」である。

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さて、古来より羅生門に鬼はつきもののようだ。

羅生門は平安京の正門(羅城門)で、大江山の鬼(酒呑童子)退治を源頼光らとした渡辺綱が取り逃がした鬼の腕を切り落とすのはその羅生門である(謡曲)。

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「必ず鬼が腕を取り返しにやって来るから、七日の間家に閉じこもり物忌みをし、その間は誰も家の中に入れないように」と頼光に忠告するなど、朝廷よりその鬼を払う役目を仰せつかりながら、その朝廷において精神的支配者の地位を確立した者がいた。陰陽師・安倍晴明である。

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晴明に始まって爾来安倍氏は朝廷内で宗教的な呪術・祭祀の色合いが濃い陰陽道の家として精神的支配者の地位を確立していったようだ。精神的支配者とは今流に言い換えると「カリスマ」のことだ。

カリスマとは、「預言者・呪術師・英雄などに見られる超自然的・または常人を超える資質のことを指す。(中略)宗教社会学においてカリスマは、人間の社会生活の中で例外的に世界の根底にある究極的秩序にふれているものとして、日常的秩序を支え、あるいは破壊し新たな秩序を創造する性格をもつとされる概念であり、非合理的である」(Wikipedia)

また、カリスマ的支配とは『「特定の人物の非日常的な能力に対する信仰」によって成立している支配で、その正当性は、カリスマ的な人物の「呪術力に対する信仰、あるいは啓示力や英雄性に対する崇拝」に基づく』ため、『善悪という価値判断からは自由な(「価値自由(Wertfreiheit)」な)概念』(マックス・ヴェーバー)とされている。

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陰陽道は幕末まで命脈を保ったが、その精神世界と独特な呪術や占術からなる技術体系及び呪術力を拠り所とする正当性は、明治政府の下では西欧近代科学導入の障害となる「迷信」とみなされ、以後急速に衰退し、その名残は手帳などに六曜(先勝・友引・先負・仏滅・大安・赤口)なる補助暦として記され、慶弔の目安として使われているだけである。

また、節分の豆まきは、季節の変り目に鬼(厄)を払うために平安京の昔、陰陽師が宮中で執り行っていた儀式=鬼遣(おにやらい)・追儺(ついな)の名残である。

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奈良桜井の古刹・安倍文殊院は安倍晴明が陰陽道の修行をした場所として知られており、その晴明を祀る安倍晴明堂に「第90代内閣総理大臣 安倍晋三」名義で石塔が寄進されている。安倍晋三氏は陰陽道の安倍晴明に始まる安倍氏と関わりがあるとされる。

晴明に始まって爾来安倍氏は朝廷内で宗教的な呪術・祭祀の色合いが濃い陰陽道の家として精神的支配者の地位を確立したが、そのカリスマ性を昭和の妖怪(岸信介)の血とともに引き継いだのが安倍首相かもしれない。「宿命の子」たる所以である。

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森友学園・加計学園問題における安倍首相は嘘も方便と堂々とし、関係者間の証言がどんなに矛盾錯綜しようとも、我々国民を突き放したまま国会を閉じようとしている。まさに芥川の「藪の中」であり、善悪といった社会通念上の価値基準に従う気配が全くないところは「羅生門」の下人そのものである。黒澤明が描いたような「人を信じること」など莫迦らしいし信じてもらわなくても結構と言いたげだ。その通り、籠池氏を切り捨て、前川氏の人格を貶めている。

「預言者・呪術師・英雄などに見られる超自然的・または常人を超える資質のことを指す」通り、我々常人とはまともに対話できない精神的世界から国政を行っているようだ。

そして、安倍昭恵夫人は、大麻の神秘性と有用性を訴え、「『日本を取り戻す』ことは『大麻を取り戻す』こと」と発言するなど、同じく常人とは異なる精神的世界からこの国を変えようとしている。(拙稿『安倍晋三首相・座右の銘「至誠」が意味するもの』)

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(神宮大麻)


さらに、この夫妻のバックボーンには「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く<森喜朗元首相の神の国発言>」を政治教義として共有し合う神道政治連盟国会議員懇談会が存在し、その会長が安倍晋三氏である。

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平安の昔、朝廷を精神的に支配した陰陽道が、今の世の中になってその末裔によって復活しこの国を支配しているなどとは都市伝説の範疇に留めておきたいが、天皇の地位まで自在に操るばかりか何があっても「真相は藪の中」の国政を目の当たりにすれば、もしかしたらと思わざるを得ない不可解さばかりである。

「もり・かけ」蕎麦は「やぶ」になる前「おろし」たい。

(おわり)



posted by ihagee at 18:15| 政治