2017年06月21日

不安による支配(不安ファシズム)が安倍政治の原動力


社会不安を増幅し不安による支配を扇動する機関と化した産経新聞が「個人のテロ」も危ないから「共謀罪」だけでは不十分で電話などの盗聴もやれと言い出した。個人のプライバシーなどもうどうでも良いとの記事である。個人の内心の自由を保障する憲法を足蹴にするような記事を平気で書く産経新聞社こそ「共謀罪」が適用される対象ではなかろうか(産経記事『個人のテロ、対応できず 「犯罪前の通信傍受」議論置き去り』)。

追伸:内閣官房がついにテレビCMで不安を扇動し始める。異常極まりない!安倍政権の支持率低下に合わせて「不安ファシズム」を強化し始めるようだ。北のミサイルの脅威を徒らに煽ることで、国民の心理まで支配しようとする魂胆。

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<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案が参院本会議で成立した。議論でなく時間と数が決めるのなら良識の府とは全くの名折れ。議会政治に泥を塗った与党(自公維)の責任は万死に値する。

安倍首相は、「テロ等準備罪(共謀罪)を成立させなければ、テロ対策で各国と連携する『国際組織犯罪防止条約(TOC条約)』が締結されず、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催できない」と主張してきた。

各国が立法作業をする際の指針とする国連の「立法ガイド」を執筆した刑事司法学者のニコス・パッサス氏は、TOC条約については「組織的犯罪集団による金銭的な利益を目的とした国際犯罪が対象」で、「テロは対象から除外されている」と指摘し、さらに「条約はプライバシーの侵害につながるような捜査手法の導入を求めていない」と述べていることからも、安倍首相の主張には何ら合理的裏付けがない。

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ここで、あえて百歩譲って「テロ対策」として<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正が必要であるとしよう。幸い、「(各国と連携を要するような)テロ」と見做されるような事件は日本国内に於いて過去発生していない。他国でのテロの準備段階又はそれ以前の合意などがわが国においてなされた事例も知らない。中東や欧米での「テロ」の震源がわが国であった事例も知らない。国際「テロ」に関係する人物がわが国に潜伏し摘発された事例も知らない。安倍首相がオリンピック招致段階で言い続けた通りわが国が「(テロの脅威において)世界一安全な国」であることに変わりはない。剣豪の塚原卜伝が、渡し船の中で真剣勝負を挑まれた時、州に相手を先に上がらせ、自分はそのまま竿を突いて船を出し、「戦わずして勝つ、これが無手勝流」と、その血気を戒めたという故事があるが、軍事的に関わらず話し合いを基調とするわが国の外交戦略が国際テロを日本国内に呼び込まずに済んだとも言える(安倍政権はこの実績ある無手勝流を放棄し、テロリストと真剣勝負をするつもりらしい。ISILによる日本人拘束殺害、ダッカ・テロ事件での日本人犠牲者は血気を呼び込んだ結果と言える)。

「(各国と連携を要するような)テロ」の事例はイラクやアフガニスタンなどの紛争当事国を除けば、先年のアメリカ(オーランド・ナイトクラブ)、ベルギー(ブリュッセル地下鉄駅・国際空港)、フランス(ニース・花火会場)、ドイツ(ミュンヘン・ショッピングセンター及びベルリン・クリスマス市場)での事例がわが国で「テロ」が起こるとした場合の想定の範囲だろう。アメリカの事例では死者49人、ベルギーの事例では負傷者約340人・死者32人、フランスの事例では死者86人、ドイツの事例では負傷者約50人・死者21人である。

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他方、福島県の小児甲状腺がん及び疑いのある子どもたちの総数は190人(出典:2017年6月5日公表の福島県民調査報告書)となった。これからもこの数は増え続けるであろう。事故原発に由来する放射性物質の環境への曝露による被曝の実態はチェルノブイリ事故原発では「100万人以上の死亡者」と報告されている(2009年にニューヨーク科学アカデミーから出版された『チェルノブイリ大惨事、人と環境に与える影響』)。人口密度がチェルノブイリ周辺とは桁違いに大きいわが国にあって、人的被害が将来拡大するおそれは非常に高い。原発事故に起因することを政府は一貫して否定し続けるが、それ以外の明確な原因は何ら示されていない。

また、非正規雇用社会にあって、低所得世帯は増加の一途を辿り年収300万円以下の人口が全給与所得者の4割を占め(2014年)、OECD(経済協力開発機構)の貧困率調査では、わが国は発展途上国と同等のワースト4位にランクされている。子どもの貧困率は教育格差(主に学校外教育)として広がる一方であるのに、GDPに占める教育費の公的支出額において日本はOECDの先進国中最も低い水準となっている。

我々が肌身で感じる社会不安とは、原発事故による将来への放射線被害(実害)であり、低所得世帯の増加に伴う子どもの貧困(ひいては少子化)であって「テロ」ではない。その実質的な人的被害は前者であれば数百〜数百万人単位であるが、後者は発生したところで指を折って数える程であろう(それで良いと言う意味では決してない)。前者でこの国が亡びることはあっても、後者で亡びることはないものごとの軽重を違えてはならない

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不安ファシズム>なる言葉がある。国家が国民を絶対的に支配しようと思えば、不安に過敏な社会を作ることこそ手っ取り早い。その不安とは政治やマスメディアや官僚が恣意的に作り上げアンダーコントロールできるもので、その不安の解消のためにはいかなる手段も仕方ないと国民に思わせ、しかし、その手段を講じる対象は不安なるものではなく、社会であり国民でありその上で絶対的権力を振るう政治体制を意味する。

「あなたには獣の霊が憑いている」と人々を不安がらせ、「このままでは呪い殺されるから除霊が必要」と信じ込ませ、財産から挙句には命まで人々から奪ってしまうカルト教祖と同じで(オウム真理教など)、霊といった不安なるものをちらつかせながら、実質支配しようとする対象は霊などではなく、その人の財産や人権であると同じことだろう(拙稿『キツネ憑きの話(「戦争に戦う」が「戦争で戦う」になる)』)。

そのように、不安といっても政治やマスメディアや官僚が恣意的に作り上げアンダーコントロールできるものでなくてはならないので、放射線被害(実害)とか貧困といった実体が科学的に明らかな不安には飛びつかない。それらの責任の所在はまさに彼らにある上に、それらを下手に扱えば彼らの権限・利益を脅かすだけだからである。それが事実、チェルノブイリ事故被害の隠蔽に失敗し、まともに被害と向き合ったことがソ連邦なる体制の崩壊(アンコントロール)に繋がったと言われている。本当の不安こそ政治にとっては隠すべきことなのだろう(拙稿『国家ぐるみの壮大な「粉飾決算」』)。

「ユダヤ民族」を仮想敵とし社会でのその存在を不安化・危険視することが独裁政治の最適解であったドイツのファシズムを引き合いに出すまでもない。治安維持法を必要としたかつてのわが国であればその仮想不安化・危険視は先ずは共産党員に向けられやがて体制に批判的な一般市民にまで及んだ。アンダーコントロール可能な不安として「テロ」を仮想不安化することがアメリカの政治・経済にとって最適であることは、アメリカの対テロ戦争からも明らかだった。爾来不安が自己増殖し続けているが、そもそもの開戦の大義や根拠は今もって曖昧なままだ。「テロ対策のためなら共謀罪には賛成。治安維持法の時代と今では社会が違うから大丈夫」などとサラッと言う人が多いが、不安に過敏な社会はあの時代と今とで大差ない。ここ数か月の北鮮のミサイルへの社会の反応ぶりをみれば明らかだろう。不安を煽っているのは刈り上げの首領ではなく、安倍首相でありマスメディアである。社会不安を政治やマスメディアや官僚が最大限利用した<不安ファシズム>はしっかりと現代にも息づいている。不安に過敏な社会が<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法を必要とし、その法律がさらに不安に過敏な社会へと深化させるという自己回転を始め、不安がどんどん社会の中で自己増殖していくのである。不安を餌に<不安ファシズム>なる政治体制はより鉄壁なものになるだろう。<共謀罪>なる無言の圧力の下、罪を被せられることを怖れる余り、思想・表現・結社の自由を市民が自ら封印し内に閉じこもれば、陰鬱で生気のない社会が到来する。無口で引きこもりの社会に経済活性など望むべくもない。「一億総○○」と個人を括って、生き方・働き方まで上から指図するようなアドバルーンを次々と上げているところからすると、安倍政権は自由主義とは真逆の統制経済を志向しようとしているのか

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不安払拭の代償として我々国民はこれからずっと人権のあからさまな侵害や立憲主義の否定という煮え湯を飲まされ続ける。その審議過程から到底まともな法的手続を踏んでこなかった<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法であれば、この先捜査当局が恣意的に運用しないなどとは到底信じることはできない。手段など容易に自己目的化し(探ることが目的化する)、嫌疑のための捜査から、捜査のための嫌疑へ(冤罪)と個人の内心の自由(プライバシー)を当局が如何様にも恣意解釈できるようになる。「公益及び公の秩序(自民党憲法改正草案第13条)」を擬制するのが国体・政体であれば、末端の捜査員がそれらを思料忖度しない筈がない。かつての治安維持法を要した時代に回帰する懸念は深まるばかりだ。斯様に最初から<不安ファシズム>の臭いが芬々としている。

実体も定かでない「テロ」とは政治やマスメディアや官僚にとって、不安心理を煽った上で国民を支配するにおいてまことに都合の良い錦の御旗なのである。

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個人の内心の自由から生き方・働き方まで国が支配することに対して、もう我慢ならないと<棄国>が若い世代の心に浮かぶ日は近いかもしれない。

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自己開明な人ほど「人間到る処青山あり」とばかりに日本を棄てるだろうが、そうさせる安倍政治こそこの国の目下の最大不幸である。

(おわり)

追記:
不安ファシズム>は、安倍晋三という人間の内にある心の闇(病み)そのもの。我々までこの闇(病み)に憑かれてはならない。闇(病み)を共有してはいけない。

「あるときより精神の異状をきたし、われは何々の狐なりと自らいい出だし、その身振りはおのずから狐のごとく、その声も狐をまねるようになり、「われに小豆飯、油揚げを与えよ」と呼ぶからこれを与うれば、二、三人前くらいを食して人を驚かし、狐のおらざるに狐の友達が来たりたりとてこれに向かって話を交え、あるいは人の秘密をあばき、あるいは未来のことを告げ、人をしてますます不思議に思わしむるものである。(井上円了「迷信解」より)」(拙稿『キツネ憑きの話(「戦争に戦う」が「戦争で戦う」になる)』より)

posted by ihagee at 03:31| 政治

2017年06月20日

開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当か?



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(Rolleiflex SL66 / Rollei HFT Planar2.8 / 80, Kodak TRI-X 400)

拙稿『オリンピック開催都市契約にそっと蒔かれているかもしれない「共謀罪のタネ」』、『<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案と知的財産権侵害』の続き。

開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当か?
もう一度、様々な角度から考え直してみたい。

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<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が成立した。

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共謀罪については一般的規定としてその犯罪類型が歴史的に定着している米国での適用の範囲を知る必要がある。連邦法の共謀罪規定は合衆国法典第 18 編第 371 条(18 U.S.C. § 371.)にある。

米国における共謀罪の機能についてのサマリーは「司法取引の材料として拡張されてきた米国の共謀罪の威力(法と経済のジャーナル・2014/05/28掲載)」記事を参照されたい。

共謀罪の構成要件のうち、行為者の客観的行為に関する要件(客観的構成要件)については判例法によって犯罪に向けた合意(agreement)の立証があれば足りる(合意を促進する顕示行為=over actの立証は不要)とされ、また、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)については、自ら合意に加わることを認識して合意に参加したに違いないことと、犯罪目的の達成を助けることを意図して違法な合意に加わったに違いないこと、の二つが要件であり、内心を直接立証できる証拠(物証)が存在することは稀であるため、状況証拠による立証が認められている。認識そのものの要件については、直接且つ明確な現実の認識(違法であると知っていた)でなくとも、意識的且つ意図的に、違法な行為であることを知ることを避けようとする認識であれば足りるとされている

この「認識」に関する要件は、米国輸出管理規則(EAR)に違反する行為について行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)と比較することができる。

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米国における共謀罪が域外適用されることは前回ブログ記事でも記した通りである。そして、米国の輸出管理関連の法規も同様に域外適用される。

即ち、米国の輸出管理関連の法規は、米国の企業のみならず米国外の企業であっても米国の行政制裁の対象となり、米国や米国以外の国から米国製の貨物や技術を輸出入することが不可能になることがある。関連法規の中で、米国輸出管理規則(Export Administration Regulations “EAR”)は日本の対米輸出企業にとって対応すべき規則となっている。

この米国輸出管理規則(EAR)に違反する行為については、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)がSec 764.2に定められている。

その中の(d)謀議と(e)違反と知りながら行動すること、については特に留意を要する。

(d) 謀議
何人も、いかなる方法又は目的においても、EAA、EAR 又はこれらのもとに発行された命令、輸出許可若しくは認可に対して違反となる行為を、引き起こしたり、行なうことを一人以上の者と協力して共謀したり、実行してはならない。
“(d) Conspiracy
No person may conspire or act in concert with one or more persons in any manner or for any purpose to bring about or to do any act that constitutes a violation of the EAA, the EAR, or any order, license or authorization issued thereunder.”

(e) 違反と知りながら行動すること
何人も、米国から輸出される品目若しくは米国から輸出される予定の品目又は別途 EAR の規制を受ける品目に関連して、EAA、EAR 又はこれらのもとに発行された命令、輸出許可若しくは認可に対する違反が発生したこと、今にも発生しようとしていること、或いは発生する意図があることを知りながら、これらの品目の一部又は全部について、発注、購入、移動、隠匿、貯蔵、使用、販売、貸与、処分、譲渡、輸送、融資、発送、又はその他の役務を行なってはならない。
“(e) Acting with knowledge of a violation
No person may order, buy, remove, conceal, store, use, sell, loan, dispose of, transfer, transport, finance, forward, or otherwise service, in whole or in part, any item exported or to be exported from the United States, or that is otherwise subject to the EAR, with knowledge that a violation of the EAA, the EAR, or any order, license or authorization issued thereunder, has occurred, is about to occur, or is intended to
occur in connection with the item.”


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(d) 謀議は、<共謀>のことで、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)が(e) 違反と知りながら行動すること、である。

この認識に関する要件については、Morrison Forrester事務所の「米国輸出規制法および特許問題」での説明を以下引用したい。

『状況についての認識(「知る」、「知る理由」「信じる理由」等言い方は多様である)とは、状況が存在する、または状況が発生する可能性が非常に高いことを積極的に知っているというだけでなく、状況の存在または将来発生する可能性が非常に高いことを意識することも含まれる。このような意識は、或る者が知っている事実を意識して無視したという証拠、または、或る者が事実を意図的に避けたことから推定される。』

EAR Sec 764.2(e)で定めている行為者(=輸出者)の認識に関する要件(主観的構成要件)は米連邦法の<共謀罪>の認識に関する要件(主観的構成要件)と重なる点がある。

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さて、開催都市契約(第32回オリンピック競技大会・2020/東京)の41項d)の<無許諾使用に対する措置>、46項<入場チケット、流通システム>及び53項c)の<放送契約・法的行為>には、
「(無許諾使用が)が発生した、または発生しそうであることを知った場合、“In the event that OCOG learns that any such unauthorized use has occurred or is about to occur,”」
というフレーズが登場している。

このフレーズについては拙稿「<共謀罪>が必要とされる本当の理由とは?」で、「発生しそうであること “is about to occur,”」に、未遂以前の予備行為を読み取り、<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法との関連で「共謀罪のタネ」と考える旨を記した。上述の行為者の認識に関する要件は、その考えの下敷きになっている。

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さて、「(無許諾使用が)が発生した、または発生しそうであることを知った場合、“In the event that OCOG learns that any such unauthorized use has occurred or is about to occur,”」については、<公益通報者保護法>の観点から開催都市契約に盛り込んだとの理解もある。

公益通報者保護法
第2条
この法律において「公益通報」とは、労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、その労務提供先(次のいずれかに掲げる事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該労務提供先若しくは当該労務提供先があらかじめ定めた者(以下「労務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該労務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第三号において同じ。)に通報することをいう。
一 当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二 当該労働者が派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(昭和六十年法律第八十八号。第四条において「労働者派遣法」という。)第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(同条第一号に規定する労働者派遣をいう。第五条第二項において同じ。)の役務の提供を受ける事業者
三 前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
2 この法律において「公益通報者」とは、公益通報をした労働者をいう。
3 この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。
一 個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
二 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)
4 この法律において「行政機関」とは、次に掲げる機関をいう。
一 内閣府、宮内庁、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関、国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第三条第二項に規定する機関、法律の規定に基づき内閣の所轄の下に置かれる機関若しくはこれらに置かれる機関又はこれらの機関の職員であって法律上独立に権限を行使することを認められた職員
二 地方公共団体の機関(議会を除く。)

同法の逐条解説に拠ると、通報の主体は、
ア「労働者」=「職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者を言う(労働基準法第9条)」つまり、労働契約関係にある者を指す。
イ「公務員」=一般職の国家公務員及び一般職の地方公務員
ウ (以後省略)

公益通報の対象となる事実が規定されている法律には、別表第8号の法律を定める政令で、
特許法、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法とともに、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律が挙げられている。

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一般に公益財団法人に於いて、<公益通報者保護法>に基づき公益通報の受付に対応するために<通報窓口>を設置する場合は、<公益通報の事実=生じている・まさに生じようとしている><通報内容=いつ・どこで・何を・どのように・何のために・なぜ生じたか><対象となる法令違反等=例:不正競争防止法違反><通報対象事実を知った経緯><証拠書類等の有無><通報者の身分=役員・職員・派遣労働者・委託業務従事者・その他>などの通報様式を定めている。(公益財団法人 東京都保険医療公社の例

開催都市契約(第32回オリンピック競技大会・2020/東京)の契約当事者たる、公益財団法人日本オリンピック委員会(JOC)及び公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(大会組織委員会)ではかかる公益通報の受付はいかなる様式となっているのか?

開催都市契約の41項d)の<無許諾使用に対する措置>、46項<入場チケット、流通システム>及び53項c)の<放送契約・法的行為>での義務主体は大会組織委員会である為、公益通報の受付については、たとえば、<無許諾使用に対する措置>について同委員会のウエブ上(知的財産権の保護)では、「オリンピック・パラリンピックマーク等の保護とアンブッシュ・マーケティングの防止にご協力いただきますようお願い申し上げます」とあり、<公益通報者保護法>に基づき公益通報の受付に対応しているとの明示はない

マーク等の使用等に関する確認書」の特記事項において、以下の条件の厳守の確認を「当団体」すなわち、申請事業者に求めている。「確認書」は当事者の合意事項を書面にしたもので法的証拠力としては「契約書」と同じ扱いと思われる。これは、<公益通報者保護法>に基づく公益通報の様式でないことは明らかである(主体・客体・対象となる法令など)。

「18.特記事項 (略)また、当団体は、本アクションの実施会場において、第三者によるアンブッシュマーケティングを防止するためにあらゆる合理的な措置を講じるものとし、アンブッシュマーケティングが行われていることを把握した場合には直ちに、貴法人に対し書面により通知し、必要な調査を行うことを承諾します。また、貴法人の要求があれば、当団体は自らがアンブッシュマーケティングの解決に向けてあらゆる措置を講じることを承諾します。(略)」

開催都市契約の当事者たる大会組織委員会が負うべき<無許諾使用に対する措置>についての義務を申請事業者に負わせている点、問題があるのでは?

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大会組織員会のサイト内を「公益通報者保護法」で検索すると、「公益通報外部窓口の設置」として幾つかのページがヒットするが、「(サプライチェーンの)調達コードの不遵守に関する通報を受け付ける窓口を設置することと、通報を受けた場合は、事実確認の上で解決に向けた対策を行う(詳細な仕組みは今後検討)」とある程度で(平成29年度事業計画書)、「オリンピック・パラリンピックマーク等の保護とアンブッシュ・マーケティングの防止にご協力いただきますようお願い申し上げます」と関係していないことが判る。

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開催都市契約 VII.知的財産権に関連する事項 41.大会に関するIOCの独占的権利、条件付での権利の移転のa)IOCの独占的権利に於いて、

「開催都市、NOC、およびOCOGは、IOCに代わって、また、IOCの利益のために、これらの権利を保護する目的で、IOCが満足するかたちで適切な法律およびその他の保護対策(アンブッシュ・マーケティング対策を含む)が開催国にて整備されるようにするものとする。」
The City, the NOC and the OCOG shall ensure that appropriate legislation and other protection satisfactory to the IOC are put in place in the Host Country in order to protect these rights on behalf and for the benefit of the IOC, including protection against ambush marketing activities.

と、下線部のように義務規定となっている。

開催都市契約の当事者たる大会組織委員会が負うべきアンブッシュ・マーケティング対策を含む<無許諾使用に対する措置>についての義務を申請事業者に負わせているところをみると(丸投げ)、「するものとする」なる大会組織委員会に課された保護義務を到底満たすものではない。

「IOCが満足するかたちで適切な法律およびその他の保護対策」であれば、やはり、開催都市契約の41項d)の<無許諾使用に対する措置>、46項<入場チケット、流通システム>及び53項c)の<放送契約・法的行為>での「発生しそうであること “is about to occur,”」を以て、未遂以前の予備行為のことであると理解し、<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法との関連で捜査機関が知的財産権法違反犯罪を処罰対象とすることを以て、「IOCが満足するかたち」にしたとしか思えない。

開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当だろう。

(おわり)


posted by ihagee at 00:00| 政治

2017年06月19日

企業犯罪(独占禁止法違反)が犯罪類型として含まれていない<共謀罪>



<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が成立した。

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(連邦法の共謀罪規定の域外適用の事例)


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共謀罪については一般的規定としてその犯罪類型が歴史的に定着している米国での適用の範囲を知る必要がある。連邦法の共謀罪規定は合衆国法典第 18 編第 371 条(18 U.S.C. § 371.)にある。

米国における共謀罪の機能についてのサマリーは「司法取引の材料として拡張されてきた米国の共謀罪の威力(法と経済のジャーナル・2014/05/28掲載)」記事を参照されたい。

共謀罪の構成要件のうち、行為者の客観的行為に関する要件(客観的構成要件)については判例法によって犯罪に向けた合意(agreement)の立証があれば足りる(合意を促進する顕示行為=over actの立証は不要)とされ、また、行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)については、自ら合意に加わることを認識して合意に参加したに違いないことと、犯罪目的の達成を助けることを意図して違法な合意に加わったに違いないこと、の二つが要件であり、内心を直接立証できる証拠(物証)が存在することは稀であるため、状況証拠による立証が認められている。認識そのものの要件については、直接且つ明確な現実の認識(違法であると知っていた)でなくとも、意識的且つ意図的に、違法な行為であることを知ることを避けようとする認識であれば足りるとされている。

共謀罪の実際の適用の範囲は組織犯罪が関与する強盗や殺人等の粗暴犯から、一般企業が関与する犯罪まで広く活発に適用されており、企業犯罪(たとえばカルテル)に共謀罪を適用する際には、共謀罪に加担した者に対して情報を提供することを条件とする司法取引(罰条の加減の合意)を捜査当局が採用する場合が多い。

かかる米国法令の域外適用は、独占禁止法やFCPA(海外腐敗行為防止法)の分野で顕著であり、海外に子会社や営業拠点を持つわが国の企業にも共謀罪(特にカルテル)が適用される。カルテルは競合相手との価格や販売条件、市場割り当て及び生産制限に関する協定や、契約入札プロセスの結果を左右する取り決めを目的とした交流(参加又は参加しているという印象)を指す。

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<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法で示されている277の犯罪類型は、大別すると、ハイジャックなどテロの実行に関する犯罪=110、覚醒剤の輸入等を含む薬物犯罪=29、強制わいせつなど人身に関する搾取犯罪=28、保安林の区域内での森林窃盗など、その他資金源犯罪=101、偽証など司法妨害に関する犯罪=9。

特別公務員職権乱用(刑法)、多数人買収および多数人利害誘導(公職選挙法)、届け出前の政治団体による寄付受け、支出(政治資金規正法)や、偽りその他不正な行為による政党交付金の受交付(政党助成法)など公権力の関わる犯罪は悉く除かれている。また、カルテルといった企業犯罪(独占禁止法)も含まれていない。

他方、昨年5月24日に成立(6月3日公布)された刑事訴訟法等の一部を改正する法律(改正刑事訴訟法)で、合意制度(司法取引)が導入された。即ち、通信事業者の立会人なしでの通信傍受や、他人の犯罪事実を明らかにするなどした容疑者の起訴を見送る司法取引(協議・合意制度)が可能になった(捜査当局が武器を得た)。この司法取引の対象となる犯罪には、独占禁止法違反、<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法違反等が含まれている。

米国での共謀罪の実際の適用(域外適用含め)は独占禁止法の分野で顕著であり捜査手法として司法取引が採用されているのに、わが国での共謀罪を適用する犯罪類型に肝心の独占禁止法に違反する犯罪は含まれていない。改正刑事訴訟法での合意制度(司法取引)導入の趣旨は、談合(カルテル)で、内部者の捜査協力にあるにも拘わらず、その談合(カルテル)なる企業犯罪(独占禁止法)そのものは<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法の対象ではない。即ち、改正刑事訴訟法での合意制度(司法取引)が<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法で採用される場面は、上述のように公権力に関わる犯罪や企業犯罪(独占禁止法違反)を除く、277の犯罪類型となれば、それは国民の日常活動での軽い罪責の共謀までも対象とし、捜査機関による国民の監視の常態化と密告の奨励につながる。

「対象犯罪の選び方が恣意的なうえ、一般の個人や事業者が対象になる犯罪をこれだけ多く対象にすることが問題」という法曹界からの指摘は、通信傍受や司法取引といった捜査機関の武器(改正刑事訴訟法)は<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法での犯罪類型を対象としており、その中で最も数多く類型化されている一般の個人や事業者の共謀に照準を合わせることになり兼ねない危険にある。思想でなく行為を処罰する刑事法体系の基本原則との矛盾、憲法上の内心の自由や表現の自由を脅かす(又は委縮させる)懸念は言うまでもない。

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<共謀罪>が登場する現実世界の場面は、<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が成立したばかりのわが国では事例がないように思うかもしれないが、連邦法の共謀罪規定の域外適用の事例がトヨタ自動車の米国で発生したリコール問題であった。MWF(Mail Fraud及びWire Fraud)含む刑事罰に共謀罪が加重された例である。米国の<共謀罪>の威力が最大限発揮されるのは、企業犯罪に於いてである。サマリーは『米司法省のトヨタ摘発でも使われた「郵便・通信詐欺」とは何か(法と経済のジャーナル・2014/05/14掲載)』記事を参照されたい。

ハイジャックなどテロの実行に関する犯罪と、詐欺(Fraud)スキームやカルテル(独占禁止法違反)での企業犯罪と、どちらが社会の不安や国益の逸失に繋がるのか考えるべきであろう。<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法が後者の為でない(同法に独占禁止法違反犯罪が犯罪類型として含まれていない)となれば、企業犯罪に於いて最も威力を発揮している連邦法の共謀罪規定の域外適用と法的均衡を欠くことではなかろうか?

(おわり)


posted by ihagee at 18:00| 政治