2021年04月14日

東京新聞のミスリード



”トリチウムは、原発や使用済み核燃料の再処理施設でも発生し、排出基準は各国で異なるものの海に流している。”(「汚染水を浄化しても残るトリチウムとは? 世界中の原子力施設で海洋放出、環境への蓄積で内部被ばくの懸念も」2021年4月14日付東京新聞記事から引用)

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剥き出しの核燃料に直に接触した水など世界中のどの原子力施設も海洋に放出はしていない。

つまり、福島のメルトスルーした核燃料やデブリに直接触れた汚染水は、正常運転の原発の核燃料に直に触れない冷却排水(トリチウムを含む)とは全然違う。

正常運転の原発ならば廃炉にすればトリチウムを含んだ冷却水の排水も止まるが、デブリの在り処すら全く判らない東京電力福島第一原子力発電所は石棺化しない限り、未来永劫、このデブリ汚染水が発生し続ける。ALPSで濾過しても物理的に除去できないヨウ素129など12の核種はトリチウム共々、今般の政府決定によって、海洋に投棄し続けることになる。これら事故由来の核種の半減期はヨウ素129は約1570万年、セシウム135は約230万年、炭素14は約5700年と人類のタイムスケールを遥かに超えている(トリチウムの半減期12.32年だけがメディアによって喧伝されているが)。

将来世代(ほぼ未来永劫)に「悲しげな微笑み」しか贈れず、大いなる懐疑・不確実性の上に「(願わくば)幸運を!」と言うかの、処理水を騙った放射能汚染水の海洋投棄に、「世界中の原子力施設で海洋放出」など簡単に引き合いに出してはならない!

このようなミスリードは、読者をして「事故由来」の汚染水を「正常運転」の処理水と同じと思い込ませ、その印象のすり替えによって、事故責任もどんどん希釈されていく。

繰り返すが、剥き出しの核燃料に直に接触した水など世界中のどの原子力施設も海洋に放出はしていない。海洋を大気と置き換えれば、核分裂生成物の微粒子が地球の大気循環流に乗って全世界に広まったかつての大気圏内核実験の「フォールアウト」、すなわち、地球規模の環境汚染問題と同じであることを付け加えておく(メルトスルーした核燃料の不測の臨界によって今後も核分裂生成物が継続的に発生する可能性があるゆえ)。

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(日刊ゲンダイ 2021年4月14日付記事)

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(ネット民の声)


(おわり)

関連記事:「原発事故がもたらす過酷な時代を生きるには

posted by ihagee at 18:00| 原発

2021年04月13日

放射能の拡散防⽌は⽇本社会の地球に対する責任



東京電力福島第1原発の汚染処理水を、放射性物質の濃度を国の放出基準より下げて海に流すとの日本政府の13日の決定は、原発事故責任の放棄でしかない。

たとえ希釈しようと海に放出される放射性物質の総量は変わらない。放射性物質ゆえに分解されることなく生態系での食物連鎖を経て逆に濃縮される。その連鎖の最上位がわれわれ人間だから子々孫々永劫に海洋放出の報いを受けることになる。

経産省としては、トリチウム=処理水の前提で、濃度を薄めて海洋に放出すれば安全との説明に終始する筈だったが、多核種除去装置(ALPS)処理水の中に告示濃度を超えるヨウ素129、ストロンチウム90、ルテニウム106が残存していたことを隠し、公聴会の資料では基準を超えていないデータが用いられていることが判り、そもそもの前提が崩れ去った。それにも関わらず海洋放出を決定することは暴挙以外の何ものでもない。

一旦海洋に放出してしまえばもはやコントロールのしようもない。ばら撒いた後の挙動については「知り得ません」は管理と言えるのだろうか?ただ単に「管理し切れないのでばら撒きます」と同じことなのではないのか?タンクから海洋にばら撒かれれば、東電・国の得意の「無主物だから関係ない」なる方便が利く。責任も大海に流せばなくなるということだ。

メルトアウトした核燃料に直接触れた高放射能汚染水は地下水系を通じて環境に日々放出されているのだから(凍土遮水壁は無意味)、タンクに保管している汚染処理水を垂れ流したところで大差ないと開き直っているのだろう。直ちに影響がないだろうし、あとはどうなろうと知ったことではないと「今さえ良ければ」を決めこんでいる。「アンダーコントロール」と国際社会に壮語しておきながら、所詮アンコントロールだから管理など馬鹿馬鹿しいから海に放出してしまえとは、言行不一致。そんな舌先三寸の国は国際社会で信頼される筈はない。近い将来、重い咎めを我々は国際社会のみならず生活環境に於いても受けることになる。

(おわり)

関連記事:「放射能の拡散防止は日本社会の地球に対する責任です(矢ヶア克馬氏)
トリチウム水と政府は呼ぶけど実際には他の放射性物質が1年で65回も基準超過(木野龍逸氏)
そもそも、「トリチウム水」なのか?
そもそも、「トリチウム水」なのか?(続き)
安全神話を鵜呑みせず、自分で考えることの重要性

追記:
「アンダーコントロール(安倍元首相)」と矛盾しない処置だとする菅首相のステートメントが、海外メディアを通じて国際社会に発信されたが「嘘つき」との声!




ゴミ屋敷にはゴミが投げ込まれるのが世の常。杜撰に捨てようものなら杜撰に世界中から投げ込まれることになる。「食べて応援」とか「痛みを分かつ」とか「笑っていれば放射能は取り憑かない」とか政府や御用学者達が言えば、核のゴミに寛容な国民性であるかのごとく国際社会にも発信していることになる。(拙稿:『「リニア中央新幹線」が「オンカロ」になる日』)

posted by ihagee at 18:00| 原発

2020年02月19日

「科学の樹」のないこの国の暗愚・続き2



何一つ根拠もないのに「アンダーコントロール」と唱える暗愚な政治が罷り通っている。<哲学>に拠って立つ<科学=Science>の精神(「科学の樹」)の不在が、クルーズ船を「第二の感染源」に変えた。(拙稿『「科学の樹」のないこの国の暗愚』)

感染症を専門とする岩田健太郎・神戸大教授。その専門家が検疫中の船内から追い出された。18日「ダイヤモンド・プリンセス」の船内に入り検疫の現場を観察するも、即日、追い出された。検疫が全く機能していないばかりか(検疫から感染防止のフェーズにあったのに感染症の専門家の現場不在)、船内感染を助長するばかりの杜撰極まりない体制と環境(カオス)であったことを岩田教授は内部告発した。

岩田教授を船外に追い出したのは橋本岳厚生労働副大臣とされる。政治が科学を放逐する。2011年(平成23年)3月11日の東北地方太平洋沖地震による地震動と津波の影響で発生した東京電力福島第一原子力発電所の大事故。今なお地下水系を介して環境中に放射性物質を垂れ流している事故原発に、何の科学的確証もなく安倍首相が「アンダーコントロール」と言い放つように、経済的成果物を受け取るためには不都合な事実はことごとく隠蔽する政権ゆえの結果となっている。放射能と異なりウィルスは直ちに人体に影響を及ぼした。国籍の異なる人々が乗り合わせるクルーズ船なる国際社会まで政治的に「アンダーコントロール」しようとした。しかし、その実、科学的には「アンコントール」に等しい不都合な事実が次々と明るみに出ている。

この岩田教授の内部告発を受けて、加藤厚労相は「船内の感染管理は適切」と発言。適切でないことも政治家の口を経ればただちに適切となる。「適切か否か科学的に検証し説明する」となぜ言えないのか?「科学の樹」のないこの国の暗愚に他ならない。根や幹への関心よりも枝に実る果実にばかりにこだわり、乗員乗客の命を無用に危険に曝した。「必要だから安全・安心」と進めた原発政策然り。その逆はない。政治経済的な必要性が科学に勝る。加藤厚労相は岩田教授を放逐した政治経済的な必要性に「適切」と言葉を添えたに過ぎない。

「科学の樹」のないこの国の暗愚の根源を我々は糾さなくてはならない。それは誰か言うまでもない。放逐されるべきはその者である。

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(おわり)

posted by ihagee at 19:14| 原発