東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、今後さまざまなライセンシーパートナーと提携し、大会エンブレムやJOC/JPCのエンブレムを使用した公式ライセンス商品を展開する。東京2020ライセンシング事務局では、公式ライセンス商品の製造・販売を希望し、大会を共に盛り上げてくれる一般企業のライセンシーを募集中だ。(2016年5月26日付電通報から)
東京2020ライセンシングプログラムとは、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)が保有する東京2020大会に関するマーク、公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク、並びに、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(以下、JPCという)が保有するJPC及びパラリンピック日本代表選手団に関するマークを契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から・下線:筆者以下同じ)
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通常のオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラム(それら自体もライセンシングプログラム)の枠外にさらにライセンシングプログラムを設け、大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾(「商品化権」の使用許諾と言い換え)に係るライセンス契約を大会組織委員会が行っていたということである。その契約にはJOCの保有するマーク(商標)の使用許諾も含まれている。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料にそのライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」たる一般企業の一覧がある。「ライセンシー」として高橋元組織委理事の収賄容疑で名前の上がった「コモンズ2」や「サン・アロー」が記載されている。
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ライセンシーである「コモンズ2」は株式会社コモンズの関連会社である疑いがあり、高橋治之組織委理事が株式会社コモンズの代表取締役会長である旨が東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に記載されている。
大会組織委員会の理事を含む役員職は令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法で「みなし公務員」と定められている。みなし公務員とは、公務員ではないが当該法人の設立根拠法において、「刑法、その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」旨の規定(みなし公務員規定)を持ち、罰則について刑法が適用されるものをいう。
つまり、大会組織委員会の理事職は「みなし公務員」であり、公務員法が適用される(ただし、みなし公務員なので服務義務等、公務員法違反行為があっても服務・懲戒制度=人事院勧告制度の適用外)。
職員は、営利を目的とする私企業(以下「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。(私企業からの隔離・国家公務員法第103条)
高橋元理事は「自分はみなし公務員だとは思わなかった」と言っている。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「スポンサー」と記載のある「コモンズ2」が代表取締役会長として高橋治之組織委理事の名のある株式会社コモンズと関連しているか否かは、大会組織委員会が事前に精査すべきことであり(「コモンズ」と共通する社名だけでも関連性を疑うべきである)、大会組織委員会のコンプライアンス欠如の指摘は免れない。
また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に東京 2020 ゴールドパートナーとして記載のある「アシックス」はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムの下、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品として大会組織委員会の保有する商標(オリンピック・エンブレム)を付したマスクを製造販売していた。

(アシックス・東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品)
ライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である「コモンズ2」もマスクを製造販売している。

(コモンズ2・東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品)
東京2020スポンサーのカテゴリーの商品は、東京2020スポンサーにライセンシングの優先権があります。このため、同カテゴリーの商品、スポンサーシップセールスに関連したカテゴリーに関しては、許諾が制限される場合があります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)
ライセンシングの優先権はアシックスにあり、アシックスと同様のマスクの製造販売をコモンズ2に認めたことは、上位であるべきスポンサーシッププログラムを大会組織委員会自身があからさまに侵したことになる。
公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。(刑法197条1項前段 収賄)
収賄容疑以前に、国家公務員法第103条に違反し且つ東京2020ライセンシングプログラムの内規に反したカテゴリー設定であると指摘できる。
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商標法の観点から「ライセンシー」の問題点は以下指摘できる。
1. 大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾 、およびその旨の契約を、「商品化権」の許諾およびその旨の契約として行うことによる信義則違反(民法第1条第2項)
「商品化権」がキャラクタービジネス(商品化)から派生した業界概念であり、実定法に基づく権利ではないのでそれ自体に保護法益が存在しない。キャラクターが商品化される場合、そのキャラクターの著作物性に著作権法上の保護法益があり、キャラクターに付された商標に商標法上の保護法益があり、さらにキャラクターが商品等表示としての機能を有し、それが著名である場合は不正競争防止法上の保護法益がある。
「商品化権」の許諾およびその旨の契約に基づき、キャラクターをライセンシーが商品化した場合、著作権法や商標法の法理を示さない限り、保護法益はないということになる。したがって、大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用を許諾するのであれば、契約上、商標法上の保護法益を明示しなければならない。
大会組織委員会が保有するマーク(商標)に即して言えば、その通常使用権許諾契約は、
登録商標・使用商標の表示:大会組織委員会が所有する商標登録番号6008759(オリンピック・エンブレム)
使用権の許諾内容および範囲:通常使用権(どの地域 /どのような商品・サービスに商標を使用してよいか)
商標使用料(ロイヤリティ)に関する事項:計算方法(出来高払方式・固定額払方式・それらを組み合わせた方式の別)、他に商標使用に当たっての遵守事項、使用許諾期間など、によって構成されていなければならない。
それらを表示した通常使用権許諾契約の体裁でなければ、少なくとも大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報が提供されていないことになり、大会組織委員会は提供すべき信義則上の説明義務の違反に当たる。
権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。(民法第1条第2項・信義則)
さらに、そのロイヤリティの計算方式に於いて、大会組織委員会は公式ライセンス商品の製造数をロイヤリティの対象とし、事前に事業者に製造数に応じた正規品の証明となる証紙(シール)の買取(メーカー希望小売価格の5%または7%を掛けた額)を以てロイヤリティを得ている。このロイヤリティの計算方法は、商標使用料(ロイヤリティ)として一般的な商品の総売上高に所定の比率を乗じた売上高形式や、契約で取り決めた一定の金額を毎月のロイヤリティとする固定額形式と異なり、売れ残りの商品を事業者に買い取らせることであり(事業者にとって不測の不利益が発生する)、事業者が商品を抱える限りバーゲンセールを行うか、使用許諾期間を超過すれば契約上廃棄せざるを得ないという事業者にとって不利益となる計算方式である(事業者がさらに小売店に商品を卸した場合はその小売店での再販は認められる)。相手方に対し不測の不利益を与えてはならない信義則上の義務を大会組織委員会はロイヤリティの計算方式に於いて放棄した契約内容であり、民法第1条第2項の信義則に問われることである。
事程左様に商品化権という大雑把な括りで大会組織委員会はライセンシングを行っている。したがって、契約の内容を事細かに記述した膨大な書類を契約相手ごと取捨選択して示すようなことはせず、定型約款(民法第548条の2)を契約の内容に代えている可能性がある。
定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の 者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。 )があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。(民法第548条の2)
使用態様ごとに、個別具体的に内容をその契約に於いて表示しなくてはならない商標の使用許諾契約に、「その内容の全部又は一部が画一的である」ことを要件とする定型約款をその内容に代えることはできない。かと言って、所詮大雑把な商品化権の許諾契約であるから契約案件ごとに個別具体的に必要な内容を記載することはあり得ない。要するに、「商品化権」の許諾およびその旨の契約は、その契約の内実たる商標権にみれば、信義則に反し無効とみなされる契約である可能性が高い。
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2. 「ライセンシー」は商標法が禁じる「サブライセンシー」となる点。
拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?でも詳述した通り、大会組織委員会の所有する商標=オリンピック・エンブレムは自他識別機能および出所表示機能に於いて問題のある結合商標であり、その構成要素の一つであるオリンピック・シンボルに着目すると、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標はそれ自体単独で商標として自他識別機能を有するわけだから、オリンピック・エンブレムの通常使用権を許諾すると、そのオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標(IOCが商標権者)は再許諾=サブライセンス(IOC→大会組織委員会→ライセンシー)したと同じことになる。
適法な通常使用権者であっても、その通常使用権について他人に通常使用権を許諾(サブライセンス)することことは認められていない。このサブライセンス問題は市区町村でもオリンピック・エンブレムが使用されている実態にも指摘可能である。
大会エンブレムは組織委員会から東京都に使用許諾され,その使用許諾に基づき東京都が各区市町村に使用許諾しており,東京都は大会エンブレムを各区市町村にサブライセンスしているように見える(実際,大会エンブレムが描かれた新宿区の広報誌が定期的に新宿区民たる筆者に届いている)。(「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決」パテント 2019 Vol.72 No.10より)
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3. JOCの商標権の使用許諾に係る契約を大会組織委員会が行ったこと
公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク(・・・)契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)
著作権、商標権などをたとえ包括する商品化権の使用許諾契約であっても、JOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク、つまりそのマークに係る商標権の通常使用権許諾を、その商標権者(JOC)とは他人の大会組織委員会が行うことはできない。
東京2020マーケティングでは、日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会を「東京2020」という)に移管し、東京2020が東京2020オリンピック大会の権利と共に販売することになります。(「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」より)
要するに、大会組織委員会に移管したJOCの商標(たとえば、JOC第二エンブレムやがんばれ!ニッポン!)の使用権を、大会組織委員会は第三者に使用許諾するということである。
商標法に照らすと「使用権の移管」が何を意味するのか理解できない。たとえ、JOCの商標の通常使用権を大会組織委員会が有し、さらに第三者に大会組織委員会が許諾するという意味であれば、上述の2. 「ライセンシー」は商標法が禁じる「サブライセンシー」となる。また、商標権をJOCから大会組織委員会に移転することを意味するのであっても、商標法では公益著名商標については、事業ごとの移転(一般承継)しか認められず、JOCの公益事業を丸ごとその商標と共に大会組織委員会に移転することは考えられない。事実、JOC第二エンブレムについて特許情報プラットフォーム J-Plat Pat上で該当する登録情報(経過記録)を見る限り、そのような移転の記録は存在しない。
また、JOC第二エンブレムは、区分ごとに商標登録(42の商標登録)されている。
JOC 第二エンブレム(図形)(登録例:JOC第二エンブレム.pdf
JOC がんばれ!ニッポン!(文字)登録例:JOCがんばれ!ニッポン!.pdf
その使用許諾にあたっては、使用区分とそれに相応する商標登録番号が登録商標・使用商標の表示として、使用許諾契約書に記載されていなければならない。おそらく契約書にそのような表示はないだろう。また、たとえ契約内容を別に定型約款に定め契約当事者同士が合意したことを前提にしても、定型約款が契約の内容として認められるのは全部又は一部が画一的な内容であることとされている(民法第548条の2)のだから、個別具体的な内容をその契約に於いて表示しなくてはならない商標の使用許諾契約に定型約款を当てることはできない。
上述の1. 大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾 、およびその旨の契約を、「商品化権」の許諾およびその旨の契約として行うことによる信義則違反(民法第1条第2項)に当たる。
使用態様:

ライセンシー:株式会社丸眞
オリンピック公式グッズ(ウォッシュタオル)
使用商標:JOCの「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレム
株式会社丸眞は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料にそのライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である。
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スポンサーシップの最上位から最底辺まで貫くオリンピック・シンボル(=IOC)という横串こそが違法性を象徴(シンボル)していると言え(拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?)、商品化権の許諾という民法の契約上の信義則に反する商慣行が、本来ならば契約上、明示されるべき商標法などの権利法益を闇雲にし、商標法では明らかに違法・脱法な行為をあたかも合法かに洗浄化(ロンダリング)する仕組みと言えよう。
”大会ブランド保護基準は「定型約款」たり得るのか?” は民法上の契約に係る問いである。大会組織委員会のライセンシングの本問はここにあるのかもしれない。
(おわり)
追記:
オリンピックのスポンサーシッププログラムの最上位はIOCと直接契約する世界的に名だたる大企業であり(トヨタなど)、その下の東京 2020オフィシャルサポーター(Tier 1-3)もブランドイメージが確立している誰もがその名を知る企業が連なっている。

このピラミッドに位置する企業はそれぞれ商品やサービスで確固としたブランドイメージがあるから、大会組織委員会に贈賄などでスポンサーとなれるよう口利きをするといったイメージを毀損するようなリスクは負わないし、そもそもスポンサーとなるだけの協賛金の支出など資力に事欠くこともない。Tier 3のスポンサーシップを得るために高橋元理事に賄賂を以て口利きを図ったAOKIは結果として大きなリスクを負ったことになる。
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さて、このヒエラルキーにはない、まさにピラミッドの床下に世間ではあまり名前が知られていない会社がライセンシングプログラム枠でライセンシーとして存在している。サン・アローやコモンズ2がそれらである。公式ライセンス商品の製造・販売をこれらの会社が行ったとしても、パッケージに小さくその事業者名が記載されるだけで商品そのものに名はない。パーケージを捨ててしまえば、誰が製造・販売した商品なのかもわからなくなる。商品そのものに事業者なりのブランドイメージがない。また、ピラミッドに位置できるような資金もない。そういった床下のいくつかの事業者に組織委員会の利権の温床があるということだ。スポンサーではないがライセンシーという按配は世間に目立たずに懐に入る程度の札束でそっと口を利き合うには都合が良いのである。
再追記:
東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点と表題にしているが、この問題点はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムの下での「TOKYO 2020 スポンサー(Tier 1-3)」にもそのまま当て嵌まる。
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要するに、オリンピック関連商標を使用することによるスポンサーおよびライセンシーのライセンス事業について、「知的財産の排他的商業的利用権が与えられて」いるとか、商品化権が許諾されている、といった契約は多義的な意味を含むゆえに、商標法を前提とした一義的な権利義務関係を明示しない契約である可能性が極めて高く、その契約に基づく事業には商標法の保護法益・権利性がなく、不法行為の効果をスポンサーおよびライセンシーに享受させる虞があるということだ(スポンサーおよびライセンシーのライセンス事業を商標権侵害状態に置くこと)。