2022年09月25日

東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点


東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、今後さまざまなライセンシーパートナーと提携し、大会エンブレムやJOC/JPCのエンブレムを使用した公式ライセンス商品を展開する。東京2020ライセンシング事務局では、公式ライセンス商品の製造・販売を希望し、大会を共に盛り上げてくれる一般企業のライセンシーを募集中だ。(2016年5月26日付電通報から)


東京2020ライセンシングプログラムとは、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)が保有する東京2020大会に関するマーク公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク、並びに、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(以下、JPCという)が保有するJPC及びパラリンピック日本代表選手団に関するマークを契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から・下線:筆者以下同じ)


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通常のオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラム(それら自体もライセンシングプログラム)の枠外にさらにライセンシングプログラムを設け、大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾(「商品化権」の使用許諾と言い換え)に係るライセンス契約を大会組織委員会が行っていたということである。その契約にはJOCの保有するマーク(商標)の使用許諾も含まれている。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料にそのライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」たる一般企業の一覧がある。「ライセンシー」として高橋元組織委理事の収賄容疑で名前の上がった「コモンズ2」や「サン・アロー」が記載されている。

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ライセンシーである「コモンズ2」は株式会社コモンズの関連会社である疑いがあり、高橋治之組織委理事が株式会社コモンズの代表取締役会長である旨が東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に記載されている。

大会組織委員会の理事を含む役員職は令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法で「みなし公務員」と定められている。みなし公務員とは、公務員ではないが当該法人の設立根拠法において、「刑法、その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」旨の規定(みなし公務員規定)を持ち、罰則について刑法が適用されるものをいう。

つまり、大会組織委員会の理事職は「みなし公務員」であり、公務員法が適用される(ただし、みなし公務員なので服務義務等、公務員法違反行為があっても服務・懲戒制度=人事院勧告制度の適用外)。

職員は、営利を目的とする私企業(以下「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。(私企業からの隔離・国家公務員法第103条)


高橋元理事は「自分はみなし公務員だとは思わなかった」と言っている。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「スポンサー」と記載のある「コモンズ2」が代表取締役会長として高橋治之組織委理事の名のある株式会社コモンズと関連しているか否かは、大会組織委員会が事前に精査すべきことであり(「コモンズ」と共通する社名だけでも関連性を疑うべきである)、大会組織委員会のコンプライアンス欠如の指摘は免れない。

また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に東京 2020 ゴールドパートナーとして記載のある「アシックス」はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムの下、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品として大会組織委員会の保有する商標(オリンピック・エンブレム)を付したマスクを製造販売していた。

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(アシックス・東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品)

ライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である「コモンズ2」もマスクを製造販売している。

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(コモンズ2・東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品)

東京2020スポンサーのカテゴリーの商品は、東京2020スポンサーにライセンシングの優先権があります。このため、同カテゴリーの商品、スポンサーシップセールスに関連したカテゴリーに関しては、許諾が制限される場合があります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)


ライセンシングの優先権はアシックスにあり、アシックスと同様のマスクの製造販売をコモンズ2に認めたことは、上位であるべきスポンサーシッププログラムを大会組織委員会自身があからさまに侵したことになる。

公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。(刑法197条1項前段 収賄)


収賄容疑以前に、国家公務員法第103条に違反し且つ東京2020ライセンシングプログラムの内規に反したカテゴリー設定であると指摘できる。

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商標法の観点から「ライセンシー」の問題点は以下指摘できる。

1. 大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾 、およびその旨の契約を、「商品化権」の許諾およびその旨の契約として行うことによる信義則違反(民法第1条第2項)

「商品化権」がキャラクタービジネス(商品化)から派生した業界概念であり、実定法に基づく権利ではないのでそれ自体に保護法益が存在しない。キャラクターが商品化される場合、そのキャラクターの著作物性に著作権法上の保護法益があり、キャラクターに付された商標に商標法上の保護法益があり、さらにキャラクターが商品等表示としての機能を有し、それが著名である場合は不正競争防止法上の保護法益がある。

「商品化権」の許諾およびその旨の契約に基づき、キャラクターをライセンシーが商品化した場合、著作権法や商標法の法理を示さない限り、保護法益はないということになる。したがって、大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用を許諾するのであれば、契約上、商標法上の保護法益を明示しなければならない。

大会組織委員会が保有するマーク(商標)に即して言えば、その通常使用権許諾契約は、
登録商標・使用商標の表示:大会組織委員会が所有する商標登録番号6008759(オリンピック・エンブレム)
使用権の許諾内容および範囲:通常使用権(どの地域 /どのような商品・サービスに商標を使用してよいか)
商標使用料(ロイヤリティ)に関する事項:計算方法(出来高払方式・固定額払方式・それらを組み合わせた方式の別)、他に商標使用に当たっての遵守事項、使用許諾期間など、によって構成されていなければならない。

それらを表示した通常使用権許諾契約の体裁でなければ、少なくとも大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報が提供されていないことになり、大会組織委員会は提供すべき信義則上の説明義務の違反に当たる。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。(民法第1条第2項・信義則)


さらに、そのロイヤリティの計算方式に於いて、大会組織委員会は公式ライセンス商品の製造数をロイヤリティの対象とし、事前に事業者に製造数に応じた正規品の証明となる証紙(シール)の買取(メーカー希望小売価格の5%または7%を掛けた額)を以てロイヤリティを得ている。このロイヤリティの計算方法は、商標使用料(ロイヤリティ)として一般的な商品の総売上高に所定の比率を乗じた売上高形式や、契約で取り決めた一定の金額を毎月のロイヤリティとする固定額形式と異なり、売れ残りの商品を事業者に買い取らせることであり(事業者にとって不測の不利益が発生する)、事業者が商品を抱える限りバーゲンセールを行うか、使用許諾期間を超過すれば契約上廃棄せざるを得ないという事業者にとって不利益となる計算方式である(事業者がさらに小売店に商品を卸した場合はその小売店での再販は認められる)。相手方に対し不測の不利益を与えてはならない信義則上の義務を大会組織委員会はロイヤリティの計算方式に於いて放棄した契約内容であり、民法第1条第2項の信義則に問われることである。

事程左様に商品化権という大雑把な括りで大会組織委員会はライセンシングを行っている。したがって、契約の内容を事細かに記述した膨大な書類を契約相手ごと取捨選択して示すようなことはせず、定型約款(民法第548条の2)を契約の内容に代えている可能性がある。

定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の 者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。 )があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。(民法第548条の2)


使用態様ごとに、個別具体的に内容をその契約に於いて表示しなくてはならない商標の使用許諾契約に、「その内容の全部又は一部が画一的である」ことを要件とする定型約款をその内容に代えることはできない。かと言って、所詮大雑把な商品化権の許諾契約であるから契約案件ごとに個別具体的に必要な内容を記載することはあり得ない。要するに、「商品化権」の許諾およびその旨の契約は、その契約の内実たる商標権にみれば、信義則に反し無効とみなされる契約である可能性が高い。

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2. 「ライセンシー」は商標法が禁じる「サブライセンシー」となる点。

拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?でも詳述した通り、大会組織委員会の所有する商標=オリンピック・エンブレムは自他識別機能および出所表示機能に於いて問題のある結合商標であり、その構成要素の一つであるオリンピック・シンボルに着目すると、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標はそれ自体単独で商標として自他識別機能を有するわけだから、オリンピック・エンブレムの通常使用権を許諾すると、そのオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標(IOCが商標権者)は再許諾=サブライセンス(IOC→大会組織委員会→ライセンシー)したと同じことになる。

適法な通常使用権者であっても、その通常使用権について他人に通常使用権を許諾(サブライセンス)することことは認められていない。このサブライセンス問題は市区町村でもオリンピック・エンブレムが使用されている実態にも指摘可能である。

大会エンブレムは組織委員会から東京都に使用許諾され,その使用許諾に基づき東京都が各区市町村に使用許諾しており,東京都は大会エンブレムを各区市町村にサブライセンスしているように見える(実際,大会エンブレムが描かれた新宿区の広報誌が定期的に新宿区民たる筆者に届いている)。(「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決」パテント 2019 Vol.72 No.10より)


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3. JOCの商標権の使用許諾に係る契約を大会組織委員会が行ったこと

公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク(・・・)契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)


著作権、商標権などをたとえ包括する商品化権の使用許諾契約であっても、JOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク、つまりそのマークに係る商標権の通常使用権許諾を、その商標権者(JOC)とは他人の大会組織委員会が行うことはできない。

東京2020マーケティングでは、日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会を「東京2020」という)に移管し、東京2020が東京2020オリンピック大会の権利と共に販売することになります。(「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」より)


要するに、大会組織委員会に移管したJOCの商標(たとえば、JOC第二エンブレムやがんばれ!ニッポン!)の使用権を、大会組織委員会は第三者に使用許諾するということである。

商標法に照らすと「使用権の移管」が何を意味するのか理解できない。たとえ、JOCの商標の通常使用権を大会組織委員会が有し、さらに第三者に大会組織委員会が許諾するという意味であれば、上述の2. 「ライセンシー」は商標法が禁じる「サブライセンシー」となる。また、商標権をJOCから大会組織委員会に移転することを意味するのであっても、商標法では公益著名商標については、事業ごとの移転(一般承継)しか認められず、JOCの公益事業を丸ごとその商標と共に大会組織委員会に移転することは考えられない。事実、JOC第二エンブレムについて特許情報プラットフォーム J-Plat Pat上で該当する登録情報(経過記録)を見る限り、そのような移転の記録は存在しない。

また、JOC第二エンブレムは、区分ごとに商標登録(42の商標登録)されている。

JOC 第二エンブレム(図形)(登録例:JOC第二エンブレム.pdf
JOC がんばれ!ニッポン!(文字)登録例:JOCがんばれ!ニッポン!.pdf

その使用許諾にあたっては、使用区分とそれに相応する商標登録番号が登録商標・使用商標の表示として、使用許諾契約書に記載されていなければならない。おそらく契約書にそのような表示はないだろう。また、たとえ契約内容を別に定型約款に定め契約当事者同士が合意したことを前提にしても、定型約款が契約の内容として認められるのは全部又は一部が画一的な内容であることとされている(民法第548条の2)のだから、個別具体的な内容をその契約に於いて表示しなくてはならない商標の使用許諾契約に定型約款を当てることはできない。

上述の1. 大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾 、およびその旨の契約を、「商品化権」の許諾およびその旨の契約として行うことによる信義則違反(民法第1条第2項)に当たる。

使用態様:
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ライセンシー:株式会社丸眞
オリンピック公式グッズ(ウォッシュタオル)
使用商標:JOCの「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレム

株式会社丸眞は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料にそのライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である。

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スポンサーシップの最上位から最底辺まで貫くオリンピック・シンボル(=IOC)という横串こそが違法性を象徴(シンボル)していると言え(拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?)、商品化権の許諾という民法の契約上の信義則に反する商慣行が、本来ならば契約上、明示されるべき商標法などの権利法益を闇雲にし、商標法では明らかに違法・脱法な行為をあたかも合法かに洗浄化(ロンダリング)する仕組みと言えよう。

大会ブランド保護基準は「定型約款」たり得るのか?” は民法上の契約に係る問いである。大会組織委員会のライセンシングの本問はここにあるのかもしれない。

(おわり)

追記:
オリンピックのスポンサーシッププログラムの最上位はIOCと直接契約する世界的に名だたる大企業であり(トヨタなど)、その下の東京 2020オフィシャルサポーター(Tier 1-3)もブランドイメージが確立している誰もがその名を知る企業が連なっている。

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このピラミッドに位置する企業はそれぞれ商品やサービスで確固としたブランドイメージがあるから、大会組織委員会に贈賄などでスポンサーとなれるよう口利きをするといったイメージを毀損するようなリスクは負わないし、そもそもスポンサーとなるだけの協賛金の支出など資力に事欠くこともない。Tier 3のスポンサーシップを得るために高橋元理事に賄賂を以て口利きを図ったAOKIは結果として大きなリスクを負ったことになる。
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さて、このヒエラルキーにはない、まさにピラミッドの床下に世間ではあまり名前が知られていない会社がライセンシングプログラム枠でライセンシーとして存在している。サン・アローやコモンズ2がそれらである。公式ライセンス商品の製造・販売をこれらの会社が行ったとしても、パッケージに小さくその事業者名が記載されるだけで商品そのものに名はない。パーケージを捨ててしまえば、誰が製造・販売した商品なのかもわからなくなる。商品そのものに事業者なりのブランドイメージがない。また、ピラミッドに位置できるような資金もない。そういった床下のいくつかの事業者に組織委員会の利権の温床があるということだ。スポンサーではないがライセンシーという按配は世間に目立たずに懐に入る程度の札束でそっと口を利き合うには都合が良いのである。

再追記:
東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点と表題にしているが、この問題点はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムの下での「TOKYO 2020 スポンサー(Tier 1-3)」にもそのまま当て嵌まる。
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要するに、オリンピック関連商標を使用することによるスポンサーおよびライセンシーのライセンス事業について、「知的財産の排他的商業的利用権が与えられて」いるとか、商品化権が許諾されている、といった契約は多義的な意味を含むゆえに、商標法を前提とした一義的な権利義務関係を明示しない契約である可能性が極めて高く、その契約に基づく事業には商標法の保護法益・権利性がなく、不法行為の効果をスポンサーおよびライセンシーに享受させる虞があるということだ(スポンサーおよびライセンシーのライセンス事業を商標権侵害状態に置くこと)。




posted by ihagee at 03:39| 東京オリンピック

2022年09月24日

組織委はアンブッシュ・マーケティングを自ら行った!



「ミライトワ」受注先(サン・アロー)が800万円送金 組織委元理事側に渡った疑いに関連した、商標法上の重大な問題点については先のブログ記事(この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?)にて触れた通りである。

さらに、「サン・アロー」はスポンサーではなく、オリンピックのライセンス商品を販売していた会社であるとの報道までされている。

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公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の「大会ブランド保護基準」では以下の記載がある。

3. オリンピック関連スポンサー
オリンピック関連スポンサーには、IOC のスポンサーであるワールドワイドオリンピックパートナー(いわゆる TOP パートナー)と組織委員会のスポンサーであるローカルパートナーがあり、IOC または組織委員会と合意したカテゴリー(業種)において、オリンピックに関する知的財産の排他的な商業的利用権が与えられています。(下線は筆者)


要するにオリンピック関連スポンサー企業にのみ「知的財産の排他的商業的利用権が与えられて」いるということだ。

「利用権」とは知的財産のうち、著作物(キャラクターなど)の利用許諾に関する用語であって、商標では「使用権」であり、知的財産をオリンピック関連商標とすると正しくは「オリンピック関連商標の商標的使用を許諾している」となる。許諾しているのは商標権者(大会組織委員会)自身も使用可能な「通常使用権」であるから、独占排他権ではない。ゆえに、「排他的」の意味は、オリンピック・パラリンピック関連スポンサーの合法的なマーケティング活動を妨害する「アンブッシュ・マーケティング」を排除する権利=禁止権、の意味である。

平たく言えば、スポンサー企業でない者がオリンピック関連商標の商標的使用を行った場合は商標権侵害となり、商標権者である大会組織委員会は使用差止請求等、法的措置を採るということだ(アンブッシュ・マーケティング対策)。

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アンブッシュ・マーケティング対策がいかに重要であるかは大会ブランド保護基準に以下の記載がある。

アンブッシュ・マーケティングとは、故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者である IOC や IPC、組織委員会の許諾無しにオリンピック・パラリンピックに関する知的財産を使用したり、オリンピック・パラリンピックのイメージを流用することを指します。オリンピック・パラリンピックムーブメントに公式に関与するように見せかけ、そのことによりマーケティングパートナーの合法的なマーケティング活動を妨害し、かつオリンピック・パラリンピックのブランドを損なわせることになります。オリンピック・パラリンピックマーケティングの根本は、オリンピック・ パラリンピックに関する「知的財産」をスポンサーシップ、ライセンシング等の権利として、カテゴリーごとに独占的に企業等に対し販売するものです。したがって、「知的財産」の保護が確立されなくてはマーケティングそのものが成立しません。大会の運営経費の大部分をマーケティングによる財源調達に依存している状況で、「アンチ・アンブッシュ」はオリンピック・パラリンピックの知的財産を守るだけではなく、マーケティング活動の一部として「絶対に不可欠」な要素となってきました。言い換えるなら、万全な「アンチ・アンブッシュ」のための方策が実施されなくては、オリンピック・パラリンピックマーケティングは成立しないのです。


スポンサーシップについてはさらに、大会組織委員会等が作成した「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」に以下記述がある。

もし、パートナー以外の企業や組織がその権利を侵害することになると、このスポンサーシッププログラム構造が崩壊し、東京2020大会の運営やアスリートの育成・強化が困難になる可能性があります。


スポンサーでない企業のオリンピック・パラリンピックの知的財産の使用は侵害である、とはっきり述べている。ゆえに、侵害行為に対しては上述の通り、大会組織委員会は排除する権利=禁止権を行使するとなる。

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「サン・アロー」がスポンサー企業でないことは「大会ブランド保護基準」の「3. オリンピック関連スポンサー」一覧を見れば一目瞭然であり、大会組織委員会自身が認知しているにも関わらず、「サン・アロー」の製造販売した「ミライトワ」等のぬいぐるみ商品には、公式ライセンス商品である旨の大会組織委員会の下げ札が付いている。

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マスコット(著作物)に係るキャラクタービジネス(商品化)では「商品化権」というそのキャラクターに関する著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法、民法などの権利を一括りに総称した業界概念が存在する。しかし「商品化権」という名の権利が法律上存在するわけではない。

知的財産の排他的な商業的利用権も、マスコットなどキャラクター(著作物)について商品化することに於いては「商品化権」と言い換えられている。

拙稿(「商品化権」ですから・・!?)でも触れたが、事業者に商品化権を許諾するとは、表向きマスコット(著作物)の商品化を事業者に認めることであっても、その商品化に於いては知的財産権(例えば、オリンピック・エンブレム=商標権)の使用を前提としているスポンサー企業以外のオリンピック資産(知的財産)の商業的利用(使用)は侵害行為であるとしたアンブッシュ・マーケティングも、商標法では禁じられている通常使用権の再許諾も「商品化権を許諾する」と言うことで、スポンサー企業以外の者に対しても実質可能にしてしまう脱法的トリックと言えるサン・アローの件はまさにこれに該当する。(訂正:サン・アローはライセンシングプログラムで大会組織委員会から商品化権の許諾を受けたライセンシーである。)

スポンサー企業以外の者によるオリンピック資産(知的財産)の商業的利用(商標法の意味では商標的使用)は侵害行為であると大会組織委員会が自身のブランド保護基準で定義したアンブッシュ・マーケティングに拠れば、明らかにサン・アローによるマスコットの商品化はオリンピック・エンブレム(商標)の使用を伴い侵害行為に該当するのに、「商品化権」であればアンブッシュ(侵害)に当たらないと脱法的抜け道を大会組織委員会自身が作っているのである。(商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

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日本オリンピック委員会(JOC)は「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」のライセンス契約の項目には以下記載がある。

契約の可否については、商品化権使用申請書をご提出頂いた後、東京2020ライセンシング事務局と組織委員会において検討し、最終判断を組織委員会が行ないます。


ここに応募し大会組織委員会によって「商品化権」を認められた者であっても、商標法に照らせば商標の使用許諾を受けた者ではないので(その旨の申請ではないため)、商品化(オリンピック・エンブレムなどオリンピック関連商標を付した商品の製造・販売)に於いてその者は商標権侵害を行うことになる。つまり、大会組織委員会は「商品化権」を以って事業者にアンブッシュ(=侵害)を行わせていることになる。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

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大会組織委員会元理事(高橋氏)の個人的な裁量で公式ライセンス商品である旨の大会組織委員会によるお墨付きの下げ札が付く筈はなく、大会組織委員会は「サン・アロー」がスポンサー企業でないことを知っていながら、「サン・アロー」に対して「ミライトワ」等、著作物の「商品化権」許諾を行い、オリンピック・エンブレムなどオリンピック関連商標を「商品化権」として使わせ、商標法に照らせば「サン・アロー」を商標権侵害状態に置いたことに他ならない。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

侵害行為(アンブッシュ)に対して禁止権を行使すべき大会組織委員会が自らその侵害をサン・アローなどスポンサー企業でない特定の事業者に唆していたとも言える

大会組織委員会はアンブッシュ・マーケティングを自ら行い、オリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラム構造を自ら破壊したということである。

「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」などでは到底なく、理事への贈賄を伴う口利きがあろうとなかろうと、大会組織委員会は組織ぐるみで刑法上の犯罪行為(=商標権侵害)をスポンサー以外の者に唆していたと言うのが正しい(法秩序を破壊した意味で口利き=贈収賄よりも重大である)。「サン・アロー」以外にもスポンサーとして名前がない者の商品が堂々と公式ライセンス商品として販売されている。スポンサーでもない者に大会組織委員会が公式なるお墨付きを与えるには、それなりの口利きがあったと考えるのが当然である。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)


(松本徽章工業株式会社「東京2020オリンピック競技大会公式ライセンス商品」)

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上述の「商品化権」と合わせて、著作物に係る開発・販売に関するライセンスを与えることで、商標法に照らせば商標権の使用許諾を受けた者ではないのに、オリンピック・エンブレム(商標)を使用可能にする脱法的手段も存在する。


(SEGA「マリオ&ソニック AT 東京2020オリンピック」)

著作権表記:
TM IOC/TOKYO2020/USOC 36USC220506. コピーライトマーク 2019 IOC. All Rights Reserved. コピーライトマーク NINTENDO. コピーライトマークSEGA.


SEGAはIOCのライセンシーであるInternational Sports Multimediaからオリンピック公式ゲームソフトの開発・販売に関するライセンスを取得。大会組織委員会とスポンサー契約関係になく又、大会組織委員会から大会組織委員会のオリンピック・エンブレム(商標)の使用を許諾されていないのに、大会組織委員会のオリンピック・エンブレムをなぜかその「著作物」に使用している。(訂正:株式会社セガはライセンシングプログラムで大会組織委員会から「商品化権」許諾を受けたライセンシーである。)

スポンサー企業でもないNintendoは、そのキャラクター「マリオ」をSEGAの取得したライセンスにフリーライドさせるというオマケまで付いている。

ちなみに、リオ・オリンピック閉会式におけるリオから東京への引き継ぎセレモニーで安倍首相=当時、がスポンサー企業でもないNintendoのマスコット=マリオのコスプレで現れることができたのも、IOCのサブライセンシーであるSEGAのゲームソフトの一コマの実演と考えれば腑に落ちる。

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アンブッシュ・マーケティングを厳しく取り締まる立場にある大会組織委員会が、著作物に係る「商品化権」なる実定法に基づかない概念で脱法的にスポンサー企業以外の者に実質的にその知的財産を使用させていた。商標法では明らかに商標権侵害に該当する行為をそれらの者に行わせ、商標権侵害状態に置いたことは看過すべきことではない。繰り返すが、理事への贈賄を伴う口利きがあろうとなかろうと、大会組織委員会は組織ぐるみで刑法上の犯罪行為(=商標権侵害)をスポンサー以外の者に唆していたと言うのが正しい(法秩序を破壊した意味で口利き=贈収賄よりも重大である)。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

スポンサー企業以外の者のオリンピック資産の使用はアンブッシュであり侵害行為であると、大会組織委員会自身が定めているのだから、大会組織委員会が主導したスポンサー企業以外の者に対する商品化権の使用許諾は、商標権および商標(=大会組織委員会のオリンピック・エンブレム)の使用許諾の観点からすれば、大会組織委員会が自らの商標権を悪意に行使していると言える。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

(おわり)

追記:
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「ライセンシー」という項目があり、多くの企業名と共にサン・アローが
記載されている。ちなみに高橋元組織委理事の収賄容疑で名前の上がった「コモンズ2」も「ライセンシー」となっている。また、上掲の「松本徽章工業株式会社」も「ライセンシー」である。
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商品化権許諾上の「ライセンシー」は、商標法に照らすと重大な法令違反がある。(次回記事:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、にて詳述)

posted by ihagee at 08:01| 東京オリンピック

2022年09月23日

この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?



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東京2020オリンピック・エンブレム
商標登録番号: 6008759(図形)
商標権者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
区分: 1-45 計45区分

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2022年9月22日付朝日新聞 DIGITALに「ミライトワ」受注先が800万円送金 組織委元理事側に渡った疑いなる記事が掲載されている。

東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、公式マスコットの「ミライトワ」や「ソメイティ」のぬいぐるみを製造・販売した「サン・アロー」(東京都千代田区)が、大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者(78)=受託収賄容疑で逮捕=側に約800万円を支出した疑いがあることが、関係者への取材で分かった。関係者によると、同社幹部らは、東京五輪でも公式マスコットのぬいぐるみを製造できるよう、2018年ごろに高橋元理事に「今回もお願いします」と依頼したという。マスコットは「ミライトワ」と「ソメイティ」に決まり、組織委は、価格帯を分けてサン・アローと別の会社の2社を承認した。その後、サン・アローは高橋元理事のゴルフ仲間の知人が経営する会社に資金を送金。さらに知人の会社側から高橋元理事に、現金で約800万円が渡った疑いがあるという。

(記事抜粋ここまで)

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高橋元理事の受託収賄容疑に係る記事内容であるが、商標法に照らすと以下の重大な問題が浮かび上がる。

先ず第一に、公式マスコットのぬいぐるみの製造販売は大会組織委員会の所有する商標権の使用ということ、サン・アローは大会組織委員会との契約で使用許諾を受けたライセンシーであることである。

使用されている商標権:

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(大会マスコット 商標登録番号 6076124)


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(東京2020オリンピック・エンブレム 商標登録番号 6008759)


使用態様(オリンピック・エンブレムに着目):

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(大会マスコットおよび商品の下げ札に付されたオリンピック・エンブレム)

商標の使用区分:第28類(おもちゃ、遊戯・運動用具)

先ず、オリンピック・エンブレムは公益著名商標として登録されている。そして記事内容の時系列に従うと、大会組織委員会がサン・アローとの間で係る商標の使用許諾を含むライセンス契約を行ったのは商標法第31条第1項の改正前(2019年5月27日に施行以前)であるから、改正前の商標法第31条第1項が該当し、同項で認められていなかった公益著名商標の使用許諾且つ違法ライセンス契約ということになる。この違法状態は商標法改正(改正によって公益著名商標の通常使用権は許諾可能となった)によって遡及的に解消されるものではない(商標法は強行法規であるゆえ)。

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第二に、オリンピック・エンブレムは、2 以上の文字,図形,又は記号の組み合わせからなる「結合商標」であり、結合商標はその構成要素が各々単独で商標として自他識別機能を有するということ、その構成要素が各々単独で出所表示機能を有するということ(権利の帰属および使用主体)、である。



組市松紋の図形要素
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は、単独で商標として商標登録番号: 6008751(図形) 商標権者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 区分: 1-45 計 45 区分、

TOKYO 2020の文字要素
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は、単独で商標として商標登録番号: 5626678(標準文字) 商標権者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 区分: 1-45 計 45 区分

オリンピック・シンボルの図形要素
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は、単独で商標として商標登録番号: 1026242(図形) 商標権者:コミテ アンテルナショナル オリンピック(IOC) 区分: 2,8,13,15,20-24,26,27,31,33,34,45 以外の計 30 区分

従って、自他識別機能および出所表示機能が組市松紋およびTOKYO 2020とオリンピック・シンボルとの間では一致していない。オリンピック・エンブレムは大会組織委員会が商標権者であるから(出所:大会組織委員会)、オリンピック・シンボルの図形要素は他人(=IOC)の商標であり、それらの結合商標たるオリンピック・エンブレムについての類比判断に於いて明らかに他人(=IOC)の商標が分離観察される。また、需要者が通常有する注意力を以て全体を見た場合、オリンピック・シンボルを先ず認識するのであれば、出所表示機能に於いて混同を生じるものとなる(大会組織委員会の商標であるのに、IOCの商標であるかに誤認する)。

このように構成要素間で、自他識別機能および出所表示機能に於いて不一致・混同を生じる結合商標は、そもそも登録し得ない。オリンピック・エンブレム以外にそのような登録事例は存在しないのである。たとえ、その他人(=IOC)が大会組織委員会と同様に非営利公益団体でありその目的事業が非営利公益事業でありその事業目的に於いてオリンピック競技大会が共通しているのだから不一致・混同は生じ得ず、ゆえに問わないというのであれば、IOCの公益性は日本の法律(公益法人制度関連三法)によって認定されていなければならない。スイス民法典第60条でIOCは非営利法人格を有する協会(Vereine)だからといって、その公益性はそのまま日本で認められることはないのである。さらにその公益性の認定の前提としてIOCはそもそも一般社団(財団)法人として国内登記されていなければならないのである(大会組織委員会、JOCはその然るべき手続を踏んでいる)。

IOCについては、さらにスイス連邦政府の「特権、免責あるいは地位において合意が交わされたその他の国際機関(the agreements on privileges, immunities and facilities concluded with the international organisations)」となっており、「専門機関の特権及び免除に関する条約」に日本国は批准しているが、日本国に於いてその機関を特定する「附属書」にIOCは未だ記載されていない(附属書に記載されている機関:WHOなど)。従って、条約に照らしても、IOCは依然日本に於いては「権利能力なき社団」であり非営利公益法人として認許されていない単なる任意団体に過ぎないということになる。

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また、構成要素間で商標の使用区分も一致していない。
例えば、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標では第15類の楽器は指定区分から除外されているが、その他の構成要素に係る商標(組市松紋およびTOKYO 2020)およびオリンピック・エンブレム自体の使用区分は全区分(45区分)が指定され登録されている。

ところが、東京大会公式ライセンス商品「伝統工芸コレクション」として販売されていた
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「東京三味線 小じゃみせん」 <東京都伝統工芸品>は第15類の楽器でありオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標の指定区分には含まれていない。需要者が通常有する注意力を以て全体を見た場合、オリンピック・シンボルを先ず認識するのであれば、第15類の楽器が指定されていなくとも、オリンピック・シンボルが三味線に使用されているといった取引の実情を需要者の間に広く認識されていればともあれ、そうではないのであるからオリンピック・シンボルの要素は商標として機能し得ないということになるのではないか?

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第三に、結合商標はその構成要素が各々単独で商標として機能し得るのであるから、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標はIOCにその権利が帰属する。結合商標としてオリンピック・エンブレム商標の権利は大会組織委員会に帰属しその使用を第三者に許諾すると、結果としてオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標は大会組織委員会を介してその第三者(サン・アロー)に再許諾(サブライセンス)したことになる。

つまり、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標に着目すれば、たとえIOCとの間で適法な通常使用権者であっても(大会組織委員会)、その通常使用権を他人(サン・アロー)にさらに許諾(サブライセンス)することは商標法上できないということである(商標法違反)。私契約上、禁止権の不行使をサン・アローとの間で大会組織委員会が定めたとしても、サン・アローをオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標について、IOCの商標権を侵害する状態に置くことになるに変わりがない。「東京三味線 小じゃみせん」の場合では東京都(または葛飾区伝統産業職人会)がそれに該当する。

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第四に、自他識別機能および出所表示機能に於いて不一致である結合商標であっても、その構成要素ごとの事業者の共同事業に用いる商標であれば不一致にならないとも考えられる。つまり、大会組織委員会およびIOCの共同事業(オリンピック競技大会)に用いる商標であるのだから、その共同事業体(それ自体は権利能力なき任意団体)の構成員として大会組織委員会が代表して商標登録出願を行うことは妥当であるということである。共同事業体ゆえに総有的に商標権は事業体の構成員全員(大会組織委員会およびIOC)に帰属し、共同事業体の内部関係においてまで「他人」とみなし、商標法上の自他識別性や不正競争防止法を適用することは同法の予定していないところである、という平成15年(ワ)第19435号 不当利得返還請求事件での判示に照らせば、自他識別機能および出所表示機能に於いて不一致である結合商標(オリンピック・エンブレム)であっても、その構成要素ごとの事業者の共同事業に用いる商標であれば不一致と見做さないということである。

しかし、共同事業体となると、「外国法人が共同事業に参加していると認められた場合には、当該外国法人は源泉地国内に恒久的施設を有することとなるとした課税当局の判断である」といった問題が発生する。この外国法人はすなわちIOCであり、「恒久的施設を有する」IOCはその事業所得について法人税が課されることになる。オリンピック憲章および開催都市契約ではIOCが「開催都市、NOC、および OCOG は、IOCは開催国における恒久的施設の創設義務、または何らかの種類の現地法人の設立義務から免除されることを表明および保証し、政府がこれを確実に実施するようにする。」旨定められており、そもそもIOCは共同事業体の構成員足り得ない。

共同事業体の構成員に総有的に権利が帰属する商標は団体商標制度が担っているのであるが、商標「五輪」の異議申立事件で特許庁は登録の根拠条項を商標法第4条1項6号(公益著名商標)および2項と明らかにしており、オリンピック・エンブレムも公益著名商標として登録したわけであるから、共同事業体を前提とし得ないわけである。

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オリンピック・エンブレムがその構成要素に係る商標権が異なる者(大会組織委員会およびIOC)にそれぞれ帰属するのだから、商標登録出願時に大会組織委員会およびIOCが各々権利持分を記載して共同出願すれば良かったのかもしれない。その場合でもIOCは権利主体となるために国内登記が必要となる。その要件を未だIOCは満たしていない。すなわち、日本の法律ではIOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないのである。

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IOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないという本源に立ち返ると、そもそも、IOCのパートナーシップ契約からヒエラルキー的に発展しているスポンサー契約まで、法律行為ではなく無効ということになる。そのヒエラルキーの最上位(IOCと直接パートナーシップ契約を結んだトヨタなどの企業だけがオリンピック・シンボルを使用することが可能)のみならず、その最下層(そこでは「商標権」とは言わず、「商品化権(実定法にない商取引上の概念)」の使用と言い換えられている)にまでなぜ結合商標なりにオリンピック・シンボルが使用可能であるのか疑問に思わなくてはならない(最下層のサン・アローは結合商標なりにオリンピック・シンボルをなぜその商品に使用できるのか?)


(IOCと直接パートナーシップ契約を結んだトヨタなどの企業だけがオリンピック・シンボルを使用することが可能)

契約当事者に本来なり得ないIOCと、東京都およびJOCとの間の開催都市契約自体が法律的に無効ということにもなる。

大会組織委員会とスポンサー企業との間の東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件(受託収賄・贈賄事件)ばかりが取り沙汰され、「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」とIOCは我関せずであるが、それでは「木を見て森を見ず」であり、商標法や一般法たる民法の観点から法律関係を精査すると、IOCファミリー全体の違法行為を容易に見出すことができるのである。スポンサーシップの最上位から最底辺まで貫くオリンピック・シンボル(=IOC)という横串こそが違法性を象徴(シンボル)していると言えよう。

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係るオリンピック・エンブレムについては特許庁に無効審判が請求されている。詳しくは以下動画を視聴願いたい。


(IOCファミリーの違法行為を直接問う! オリンピックエンブレムの無効審判)

(おわり)


posted by ihagee at 07:25| 東京オリンピック