2024年01月12日

知財高裁判決の法理の欠陥(IOC登録商標「五輪」)


国際オリンピック委員会(IOC)を相手取ってその登録商標『五輪』の無効を求めた知財高裁訴訟(令和4年(行ケ)第10065号)は原告敗訴となった。

さらに原告側は最高裁に上告受理申立を行ったものの、民訴法第318条1項により受理すべきものとは認められない旨の最高裁の決定(門前払い)で、知財高裁判決が確定した。

この経緯については原告の一人である柴大介弁理士の「特許の無名塾:五輪知財を考える」ブログ記事を参照されたい。

----

さて知財高裁訴訟で原告の申し立てた取消事由1について、私なりに法理の欠陥を指摘したい。

取消事由1と知財高裁の判示は以下の通りである(同上ブログの「IOC登録商標『五輪』上告受理申立:取消事由1に対する判決の論理破綻」記事から抜粋引用)。

〔原告の主張〕
原告らは、
➀被告(IOC)は、外国会社ではなく、法律又は条約の規定により認許されていないから、我国において認許された外国法人(民法35条1項)とはいえない。
➁パリ条約2条は、同盟国に属する外国法人がパリ条約の他の同盟国で認許されることを定めたものではなく、パリ条約には、他にこれを定めた規定は存在せず、パリ条約の規定を根拠として、被告が、「条約の規定により認許された外国法人」(民法35条1項ただし書)に該当するということもできないとして、
➂被告は、日本国において、商標権者となるための権利能力を有しないから、本件審判における被請求人適格を有さず、本件審判手続きには、この点を看過したまま審理を行った、重大な手続違背がある旨を主張する。

〔判示〕
そこで検討するに、民法3条2項は、「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」と規定し、同項の「法令の規定により禁止される場合」として、

特許法25条は、「日本国内に住所又は居所(法人にあっては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することができない」と、同条3号は「条約に別段の定があるとき」と規定し、商標法77条3項は、特許法25条を準用している。

そして、特許法25条柱書きの「外国人」には、外国法人が含まれ、また、同条には、外国法人について民法35条の認許された外国法人に限定する文言はないから、認許されていない外国法人も、特許法25条柱書きの「外国人」に該当するものと解される。

しかるところ、パリ条約2条1項は、「各同盟国の国民は、工業所有権の保護に関し,この条約で特に定める権利を害されることなく、他のすべての同盟国において、当該他の同盟国の法令が内国民に対し現在与えており又は将来与えることがある利益を享受する。すなわち、同盟国の国民は,内国民に課される条件及び手続に従う限り、内国民と同一の保護を受け、かつ、自己の権利の侵害に対し内国民と同一の法律上の救済を与えられる。」と規定しており、・・・特許法25条3号の「条約に格段の定があるとき」に該当するものと解される。

そして、被告は、スイスの法律に従って組織されて存続する法人であり、日本国およびスイスは、いずれもパリ条約に加盟しており、「同盟国の国民」であること(乙4)からすると、被告については、上記「条約に別段の定があるとき」該当し、同条による権利の享有の禁止は適用されないと解すべきである。

以上によれば、被告は、商標権その他商標に関する権利を享有するものと認められるから、原告らの上記主張は、その前提において採用することができない。

知財高裁は、原告の上記主張に対して、民法3条2項を前提に、特許法25条を持ち出し、そこにパリ条約2条(内国民待遇原則)を適用して、IOCは商標権を享有できるとの結論を導き、原告の主張は前提において採用できない、という、前代未聞のアクロバティックな論理展開を繰り広げたのでした。(「IOC登録商標『五輪』審決取消訴訟:判決(審決維持)右矢印1 舞台は最高裁へ」から)


----

以下は私見である。

民法3条2項「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」


特許法25条「日本国内に住所又は居所(法人にあつては、営業所)を有しない外国人は、次の各号の一に該当する場合を除き、特許権その他特許に関する権利を享有することができない。
三 条約に別段の定があるとき。」
(商標法77条3項が準用)


民法上、権利主体となり得る「人」には自然人と法人が含まれるが、民法3条は「私権の享有は、出生に始まる」自然人であり、同条2項は私権=私法上の権利が誰でも生まれた時点から持っている内国自然人と同様の自然人である外国人の権利能力の範囲について定めた規定である(一般権利能力者としての自然人)。但し、法令または条約の規定によってはその私権の享有が禁止される場合がある。

一般権利能力とは、人が私法上の権利・義務の主体となりうるための法律上の資格を指す。人は生まれながらにして、このような権利能力を有することを民法第3条は定める。どの国の法律による場合であれ、生命のある人間には一般権利能力が与えられるべきであるため、その有無について準拠法を選択する必要はない(但し、始期や終期については準拠法に従う場合がある)。

民法3条2項に拠れば、外国人の私権の享有の有無については準拠法を選択する必要はない。「(但し)法令又は条約の規定により禁止される場合を除き」はあくまでも一般権利能力に係る個別的権利能力の制限であるから、準拠法の決定が重要になる場面とは自然人についての個別的権利能力の制限の場面である。
例:胎児の父親が交通事故で死亡した場合、胎児にも相続権や損害賠償請求権が与えられるかどうかという問題(権利能力の始期)

他方、権利享有主体間の区分上では個別的権利能力の表題の下に外国人・法人が含まれる。

個別的権利の帰属が否定されたり制限される例外的事例を権利享有主体の側から表現するための言辞が「特別権利能力」の概念であるが、「特別権利能力」の主体には自然人のみならず法人も含まれる(特許法25条)。しかし民法3条2項がその前提にあるということは、一般権利能力者 (内国自然人)の概念である民法3条2項「外国人」に「外国法人」が含まれることになる。特許法のうちの権利法の部分は民法の特別法とし、一般法(民法3条)に対して特別法(特許法25条)が優先する「特別法は一般法を破る」法諺に従ってこのように適用関係が決定されたと理解されるが、係る適用関係では一般権利能力と特別権利能力とを等置しており、その妥当性を容易に説明することが疑わしい状況が生じると考えられる。その状況とはまさしく原告が取消事由1で述べた「被告(IOC)は、外国会社ではなく、法律又は条約の規定により認許されていないから、我国において認許された外国法人(民法35条1項)とはいえない。」ということである。

登録商標「五輪」は特許庁が「五輪」異議申立事件で自ら明らかにした通り、商標法4条1項6号に基づく公益著名商標であり、であればその商標を有するIOCは外国の公益法人である筈だから、外国の公益法人は認許することは日本の公益に反するおそれがあるという理由から承認なくしては認許されない(cf. 外国会社は特別の承認なくして認許される)。外国法人を認許することは、新たに権利能力を与えるのでなく、外国法人として権利主体であることを承認することであり、その認許は民法35条(外国法人)の規定に拠る。認許なき外国法人はわが国の法律では権利主体となり得ない。不認許法人の活動は権利能力なき社団・財団の名において活動することになり、その法人の名で行った契約に基づく権利義務はその社団・法人の代表者の名において行使され履行されるという規律を受ける。商標法で言えば、権利能力なき社団は権利・義務の主体にはならないためそもそも商標権者にはなれない(IOCは商標権者となり得ない)。つまり、権利主体として承認されていないIOCのわが国での活動はこのような規律を受けることになるところ、知財高裁はそうではないとまで結果として判示したことになる。百歩譲って知財高裁の論理を認めたとしても、工業所有権の保護を目的とするパリ条約上の内国民待遇の原則をもとにIOCの権利能力を認める限り、それは商標法の法益に限定された権利能力でしかない。つまり、商標法上のみIOCに権利能力を認めたことになる。登録商標「五輪」の無効を原告は求めたのであるから、知財高裁は商標法の法益にのみIOCに権利能力を認める論理に徹すれば良いわけである。

ところが、この論理の前提は民法3条2項「外国人は、法令又は条約の規定により禁止される場合を除き、私権を享有する。」であり、同項の「法令の規定により禁止される場合」として、商標法77条3項が準用する特許法25条3号を持ち出している。これは一般法である民法3条をその権利法の部分において特許法25条で破ったことになるわけだから、民法上の権利能力まで認定する判示でもある。

斯様に外国法人の認許(承認)は民法(一般法)に拠るところを、特別法(特許法25条)が優先する法理の妥当性を取消事由1に即して知財高裁は詳にせず、アクロバティックな「論点先取(証明すべき命題が暗黙または明示的に前提の1つとして使われるという誤謬の一種)」を行ない、パリ条約2条1項の内国民待遇の原則を適用し特許法25条3号の「条約に格段の定があるとき」との論理は、結果として「法律又は条約の規定により認許された外国法人は、この限りでない。(民法35条1項)」が特別権利能力の権利享有主体に専ら係る特許法25条3号の「条約に別段の定があるとき」と等置することになりその法理の妥当性も知財高裁は詳にしていない。

妥当であるどころか、商標法の法益上の権利能力の認定を超えて民法上の権利能力まで認定する判示となった。これは明らかに法律解釈の違反であり最高裁で争われるべき場合に該当する。

「特別権利能力」の表題の下に外国法人を取り扱うことは、一般権利能力者 (内国自然人)・特別権利能力者 (外国人・法人)を区分するに等しいものであり、民法における「人」の把握としては適切でないからである。

「特別権利能力が権利能力として考えられるのは個別的権利能力の問題としてである。自然人の権利能力を一般的に剥奪しない近代法においても、個々の権利は剥奪される。特別能力が外国人の権利享有問題として問題となるのはこの意味においてであり、それは個別的権利能力の問題」(西賢「国際私法における能力」神戸法学雑誌七卷四号 (一九五八年)七一六頁=同・国際私法の基礎 (晃洋書房 一九八三年)四八頁)との指摘が明言するように、およそいっさいの自然人に権利能力が承認される構成のもとにあって、個別具体的な権利の帰属が否定されたり制限される例外的事例を権利享有主体の側から表現するための言辞が「特別権利能力」概念なのであった。ここでは、一般・個別の関係があるのみである。もともと、一般権利能力と特別権利能力とを等置するのは権利享有主体間の区分そのものと誤解させかねないのであるが、四宮・前掲書のように「特別権利能力」の表題の下に外国人 (そして法人)を取り扱うにいたっては、一般権利能力者 (内国自然人)・特別権利能力者 (外国人・法人)を区分するに等しいものであり、民法における「人」の把握としては適切ではないだろう。(立命館法学 一九九七年三号(二五三号)四七四頁(二六頁)


----

原告は被告(IOC)の権利能力の認定に手続違背があったとして争ったが、そのような審理不尽ではなく、法律解釈の違反があったと争うべきであったのかもしれない。いずれにせよ最高裁は上告申立を不受理としたわけであるから、手続違背については判決が確定し一事不再理の原則が働くが、法律解釈の違反については尚、上告理由となり得る。

追記:内容一部改訂(2024/1/13)

(おわり)



posted by ihagee at 16:25| 東京オリンピック

2022年10月04日

オリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)




東京2020オリンピック競技大会に関する知的財産保護・日本代表選手等の肖像使用について―マーケティングガイドライン―更新版(2021年6月10日付)に基づく図示

----

東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定を巡る汚職事件で、東京地検特捜部は5日、大阪市の博報堂DYホールディングス傘下の広告代理店「大広(だいこう)」に家宅捜索に入った。スポンサー集めを請け負った大手広告会社「電通」(東京)の下請けに入ったことに対する謝礼として、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)=受託収賄容疑で逮捕=に資金提供した疑いがある。(毎日新聞2022年9月5日付記事より)


----



(2019年3月20日 参議院法務委員会 小川敏夫議員質疑 / この答弁でオリンピックマーケティングの脱法性を十時内閣官房内閣審議官は否定できなかった。つまり、商標を使用しておきながら民法が著作権が・・と四の五の言うばかりで肝心の商標法で説明することが一切できなかった。)

(2) 商品化権


(2-1)
小川議員による国会質疑で,十時内閣官房内閣審議官が「内閣官房…は…著作権法あるいは民法に基づいて適切に契約を行っているということで…特段の問題はないものと…考えている」という,商標法違反行為が,何故著作権法・民法の契約によって問題にならないことになるか全く理解できない答弁をしている。この答弁の内容は,以下の組織委員会のマーケティング戦略に対応すると考えられる。

(2-2)組織委員会は「東京 2020 マーケティングでは,日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京 2020 (注:東京 2020=組織員会)に移管し,2020 年東京大会の権利と共に販売します」と説明し,主な権利内容として,呼称の使用権;マーク類の使用権;商品/サービスのサプライ権;大会関連グッズ等のプレミアム利用権;大会会場におけるプロモーション;関連素材(映像・写真等)の使用権を挙げている。

(2-3)「使用」「使用権」は商標法で定義された法律用語であるが,サプライ権,プレミアム利用権,プロモーション,関連素材の使用権まで包含しておらず,「使用権を販売」という言い方もしない(ちなみに著作権法では「使用」ではなく「利用」が使われる)。知的財産制度の観点からは理解し難い政府答弁の「適切に契約」や組織委員会の「使用権を販売」の説明は,いわゆる「商品化権」に基づきマーケティング資産の「使用権」を「適切に契約」していることを意味すると考えれば理解し易い

(2-4)商品化権」とはもともとキャラクターを活用したマーケティングに対して概念され,「商品の販売やサービスの提供の促進のためにキャラクターを媒体として利用する権利」(31)と定義され,その後,「キャラクター」がスポーツイベント等における様々なイメージ要素を包含するように概念拡張されてきた。

(2-5)オリンピック資産のうち,視覚的要素(キャラクター・映像・写真等)及び記号的要素(マーク・ロゴ等)は,著作権法・商標法・意匠法・不競法等の知的財産権に関連して保護されると理解できるが,実在的要素(商品・サービス・グッズ等)は民法(名称や肖像の権利を侵害する不法行為に関する規定)と関連して保護されうることになる。
一方,IOC ファミリーは,サプライ権,プレミアム権,プロモーションのような実定法に根拠を有しない,契約の当事者間でしか通用しない権利概念の下で,これらのイメージ要素の使用・譲渡等の権利関係を主張している。しかし,当該権利概念を商標権等の当事者間の合意ではで律しきれない実定法概念と区別しないまま運用するため,登録商標のライセンスの法的根拠を問われると「著作権法・民法に基づく」「関係者の合意に基づく」等の第三者には理解し難い説明をせざるをえないということになる。

(2-6)筆者は,アンブッシュ・マーケティング対策について,我国の知的財産権を根拠に正当性が肯定できる場合と他の根拠によると考えられ正当性がよく理解できない場合があると指摘してきたが,後者の「他の根拠」が「商品化権」であると考えると理解し易く,組織委員会による契約当事者間でしか通用しない「商品化権」に基づき第三者に対する差止警告の正当性がよく理解できないのは当然であるということになる。(柴大介弁理士「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策」パテント2019 Vol.72, No.10より抜粋 / 朱記は筆者)


----

小川議員の国会質疑内容および柴弁理士の論文内容で説明はし尽くされている。オリンピックマーケティングの脱法化の手順を以下に示したい(上掲の図参照)。

@ 物語の登場人物や漫画の主人公などの人気や性格(キャラクター)を実在的要素(商品・サービス・グッズ等)の上で商業的に使用(利用)する商習慣上の権利が「商品化権」である。

A 著作権法・商標法・意匠法・不競法等の知的財産権によって保護される視覚的要素(キャラクター・映像・写真等)及び記号的要素(マーク・ロゴ等)にまで、キャラクターの概念を拡張した。

B 「日本国内のオリンピックに関する知的財産権の商業的な使用権」すなわち「商品化権」は、本来第一に商標法で保護される登録商標を、あたかも著作権法、不正競争防止法、民法で保護するかの権利の付け替えである。「商品化権」が発生する資産を大会組織委員会は「マーケティング資産」と称する。JOCの登録商標は商標権としてではなく「マーケティング資産」として大会組織委員会に「移管」集約される。結果、大会組織委員会は他人(JOC)の登録商標を自己資産化する。

C 「マーケティング資産」の「使用権」の「契約・販売」を大会組織委員会は電通に委託(専任代理店=独占販売代理店)。大会組織委員会との間でのライセンシングプログラムでは電通自身が「ライセンシー(リテイル=小売)」である(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料参照)。

D 販売代理店であり且つライセンシーである電通が、株式会社大広にリテイル業務(スポンサー契約業務)を再委託した。その行為自体は、組織委や電通が必要性を認めれば「販売協力代理店」として他の広告会社への再委託が認められていた。また再委託自体は民法上の自由契約の範疇である。

E 商標法に照らせば、公益著名商標の使用権(通常使用権)は再許諾(サブライセンス)が認められていない。「ライセンシー」としてリテイル(小売)業務上、オリンピック関連商標(公益著名商標)を当然使用する電通がその業務を大広に再委託するということは、「ライセンシー」として許諾された通常使用権をさらに大広に再許諾(サブライセンス)したことに他ならない(商標法違反)。

F 同じく商標法に照らせば、「ライセンシー」は大会組織委員会(ライセンサー)とは他人(JOC)の商標をも使用することになり、商標権侵害の状態に置かれ(実定法に根拠を有しない「商品化権」では対向できない)、不利益を享受することなる。

G 実定法に依拠しない「商品化権」上で「マーケティング資産」の使用・譲渡等の権利関係を主張し、その権利は著作権法あるいは民法で保護されると言うのであるから、その使用は商標法で保護されていないということになる(上述の国会質疑にあるように、内閣官房は「商標法」で保護されると言うことができなかった)。ライセンシーに実質商標権を使用させておきながら、係る不利益事実を告知しない脱法的契約は詐欺であり、信義則に反し無効である。

H 大会組織委員会は、業務の再委託を電通に認め、結果として商標法上、通常使用権の再許諾が認められていないにもかかわらず「ライセンシー」たる電通をして大広を「サブライセンシー」とするなど、商標権者として商標管理上コンプライアンスに著しく欠けるばかりか、「ライセンシー」を商標権侵害状態に置く(他人=JOCの商標を使用させる)など、権原もないのに(JOCのオリンピック関連の登録商標が大会組織委員会に「移転」された事実はない)他人の商標権を不法に占有し悪意に使用している。

I 公益著名商標であっても従来商標法が認めていなかった第三者への通常使用権許諾が可能に法改正(商標法第31条第1項但書削除)があったが、法改正前にほぼ全てのライセンス契約は成されており、その時点での通常使用権許諾契約はゆえに全て違法である(法改正を以て契約時に遡及して合法とはならない=商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえ)。「商品化権」上の契約であっても登録商標の使用であるのだからその契約の違法性が問われ、違法な契約に基づきライセンシーに商標を使用させたことは、「すべてのライセンシー」を商標権侵害状態に置いたことにもなる(犯罪行為)。

上述の通り、大会組織委員会がその他人であるJOCのオリンピック関連商標を「ライセンシー」に使用させることは「ライセンシー」を商標権侵害状態に置くことになるが、商標法上、JOCが禁止権の不行使を「ライセンシー」に許諾すること(または定型約款でその旨を記載し契約者と事前に合意する)を以て係る侵害状態を解消しようとしても、それはできない。

なぜなら、「五輪(登録6118624)」無効審判事件(無効2021-890047)審決でIOCファミリーの有する商標法第4条第2項に基づく登録商標(オリンピック関連商標)は、商標法のライセンス禁止条項(法改正前)によりライセンスできないとした請求人の主張を「そのような事実はない」と特許庁は退け、法改正後の効果が改正前に出願登録された「五輪」に及ぶ(遡及効)と特許庁は示している。また、法改正の趣旨は禁止権不行使による使用許諾は一切予定していない(公益著名商標の禁止権不行使型使用許諾が法律的に問題であったから法改正をした筈)。

よって、同様に法改正前に出願登録されたJOCのエンブレムを含むオリンピック関連商標について法改正後の効果が及ぶとすれば(特許庁の判断)、禁止権不行使による実質使用許諾は法改正の趣旨と反するので認められないとなる。

公益著名商標の使用許諾を禁じた商標法第31条第1項但書は強行法規ゆえ、法改正を以て許諾を可能としても、その効果が過去の使用許諾契約に遡及してその行為が合法とはならないと上述の無効審判請求人は主張するが(筆者もこの主張が正しいと考える)、このような不遡及効を特許庁が認めれば違法ライセンスが明確に認定されなおさら「ライセンシー」は侵害状態にあることになる。

侵害状態にある使用態様(上掲図中の「⇦中断⇨」がまさにこの状態が続く期間を意味している):
スクリーンショット 2022-09-25 8.42.18.png

(ライセンシングプログラムで大会組織委員会との契約上「ライセンシー」である株式会社丸眞は、その製造販売した商品(オリンピック公式グッズ:ウォッシュタオル)にJOCの登録商標「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレムを使用している。)

----

IOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないのであれば、そもそも、開催都市契約にはじまり、IOCのパートナーシップ契約からヒエラルキー的に発展しているスポンサー契約まで、法律行為ではなく全て無効ということになる。オリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)以前の問題だ。

IOCとは一体何者なのか?それは、知的財産高等裁判所(知財高裁)に提起されたIOCを相手取った審決不服訴訟(事件番号:令和4年(行ケ)第10065号:「五輪(商標登録6118624)」)で明らかになることだろう。

スイス民法典第60条でIOCは非営利法人格を有する協会(Vereine)だからといって、その公益性はそのまま日本で認められることはないのである。さらにその公益性の認定の前提としてIOCはそもそも一般社団(財団)法人として国内登記されていなければならないのである(大会組織委員会、JOCはその然るべき手続を踏んでいる)。IOCについては、さらにスイス連邦政府の「特権、免責あるいは地位において合意が交わされたその他の国際機関(the agreements on privileges, immunities and facilities concluded with the international organisations)」となっており、「専門機関の特権及び免除に関する条約」に日本国は批准しているが、日本国に於いてその機関を特定する「附属書」にIOCは未だ記載されていない(附属書に記載されている機関:WHOなど)。従って、条約に照らしても、IOCは依然日本に於いては「権利能力なき社団」であり非営利公益法人として認許されていない単なる任意団体に過ぎないということになる。(拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?


87. 準拠法と争議の解決:免除特権の放棄 本契約はスイス法に準拠する。開催都市契約


商標「五輪(商標登録6118624)」はIOC自身が出願人となって日本で登録出願した。

その商標権の争議に於いて裁判管轄権はスイスではなく日本国ということになり、係る「五輪」商標の審決取消訴訟(知財高裁)で初めてIOCはその日本での法的身分(権利能力の有無・非営利公益法人であるのか否か)を問われることになる

万事スイス法で通してきたのに(開催都市・国家にとっては治外法権)、開催都市・国家の法律が当てられる初めてのケースにIOCはさぞ驚いているだろう。誰がIOCに勧めたのか知らないが、「五輪」は迂闊な権利取得であったとIOCはひどく後悔することになるかもしれない。

(おわり)



posted by ihagee at 16:29| 東京オリンピック

2022年09月30日

大会組織委員会の犯罪・要点整理



2020(2021)東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関連し、高橋治之組織委元理事絡みの汚職が連日メディアで取り沙汰されている。

検察の捜査も今のところ「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」の範囲である。大会組織委員会やIOCはそのつもりでいるらしい。「疑惑(闇)」の解明は、その闇にどれだけ検察のメスが入るかにかかっている。贈収賄事件とはそういうものなのだろう。

----

他方、検察が懸命に調べなければ白か黒かも当座のうちはわからない「疑惑(闇)」ではなく、法律に抵触すれば、直ちに違法とみなされる行為もある。登録手続きに関する手続法であるとともに、権利の内容や効力を定める実体法でもあり、なおかつ権利侵害の罰則も規定されている商標法の下の法律行為がそれである。以下、具体的に主な「違法行為」を列挙してみたい。

@ 違法ライセンスおよび商標権侵害
大会組織委員会はその所有するオリンピック関連登録商標(公益著名商標)の使用を違法にスポンサー企業に許諾し(通常使用権許諾)、その商標を使用したスポンサー企業を商標権侵害状態に置いた。
従来商標法が認めていなかった公益著名商標の第三者への通常使用権許諾は法改正によって可能となったが(商標法第31条第1項但書削除)、法改正前に大会組織委員会の所有する全てのオリンピック関連商標は出願登録され、且つ、その商標の使用許諾を旨とするほぼ全てのライセンス契約は成立していた。その時点での通常使用権許諾契約はゆえに全て違法であり(商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえに強行規定に違反する契約それ自体は不適法であり無効・また契約上の信義則にも反している)、違法な契約の下の商標の第三者使用は権利侵害である。商標権侵害状態は、法改正を以て契約時に遡及して解消(合法)とはならない(商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえに「法律の不遡及原則」)。


A 侵害行為の幇助および加功
JOCの所有するオリンピック関連登録商標(公益著名商標)の使用を(その商標権者ではない)他人である大会組織委員会が、不法にスポンサー企業に許諾し(通常使用権許諾)、スポンサー企業が権利侵害することを幇助し加功した(故意)。従って、スポンサー企業と共に共同不法行為者たる地位に大会組織委員会は立つことになる(民法第719条)。
商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。(商標法第31条1項)
----
@ 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
A 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。(民法第719条【共同不法行為者の責任】)

商標法上、JOCが禁止権をあえて行使せず(JOCはその商標権が侵害されても侵害者に対して禁止権を行使しない旨、大会組織委員会と事前に取り決める等して)係る侵害状態を解消しようとしても、それはできない(理由はオリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)に記載の通り)。


侵害状態にある使用態様:
スクリーンショット 2022-09-25 8.42.18.png

(ライセンシングプログラムで大会組織委員会との契約上「ライセンシー」である株式会社丸眞は、その製造販売した商品(オリンピック公式グッズ:ウォッシュタオル)にJOCの登録商標「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレムを使用している。)

B 違法ライセンス(サブライセンス)
商標法は(公益著名)商標の使用権(通常使用権)の再許諾(サブライセンス)を認めない。大会組織委員会はリテイル役務について公益著名商標の使用権を電通に許諾し(電通は「ライセンシー」)、大会組織委員会はさらに電通にその業務を電通の下請け(大広)に再委託することを認めている。オリンピック関連商標(公益著名商標)を業務上当然使用する電通がその業務を大広に再委託するということは、電通が「ライセンシー」として許諾された通常使用権をさらに大広に再許諾(サブライセンス)したことに他ならない。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「ライセンシー」として記載のない者がオリンピック関連商標をその業務に使用している場合は再許諾先であることが疑われる。
通常使用権者は独占排他的な権利を有するものではなく、商標権者等に対する不作為請求権を有するにとどまることから、通常使用権者が第三者に使用を許諾する権利を独自に有するものとは解されない。(特許権の通常実施権再許諾解釈の適用 / 中山信弘編著『注解特許法 第三版 上巻』829頁〔中山信弘〕(青林書院,平成 12年)参照)

「大会エンブレムを使用できるのは、大会スポンサー、大会放送権者、開催都市、政府、会場関連自治体、JOC、JPC、組織委員会です。」(東京2020応援プログラムより / 東京都下の都内区市町村および会場関連自治体ならびに団体(町内会など)までは大会組織委員会は使用を直接許諾している。


C 「ミライトワ」「ソメイティ」などオリンピック関連商標のIOCへの特定承継(違法)
都スポーツレガシー活用促進課に聞くと、確かにマスコットの知的財産権は昨年12月末に大会組織委員会からIOCと国際パラリンピック委員会(IPC)に無償譲渡されていた。13年に締結した開催都市契約に基づいているという。(東京新聞web 2022年9月6日付記事から引用)

商標法24条の2第2及び3項に照らすと、公益著名商標(オリンピック関連商標)に係る商標権の特定承継である場合、法は特定承継を認めていない。ゆえに、IOCへのそれら公益著名商標に係る商標権の特定承継は違法の可能性が極めて高い。例:大会組織委員会が所有するオリンピック・エンブレム商標(登録6008759)のIOCへの「特定承継」(「特定承継」を示す登録原簿の記載)。かかる違法な承継を商標原簿に登録した特許庁の責任も問われる。
公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者の商標登録出願であつて、第四条第二項に規定するものに係る商標権は、その事業とともにする場合を除き、移転することができない。(商標法第24条の2第3項 / 「事業とともにする場合」は移転可能(一般承継)だが、大会組織委員会の公益事業とともにその公益著名商標をIOCに移転する筈がなく、またその事実もない。)


(おわり)

posted by ihagee at 15:07| 東京オリンピック