イタリア人は工業デザインに特異なセンスを発揮するようだ。デザイン上の勘所(おいしさ)をしっかり押さえているのである。喩えれば膝枕で女の人に耳掃除をしてもらうようなコソッとした痛痒い快感がそのおいしさなのである。その感覚は一度味わうと長らく忘れることがない。
ここにその痛痒さを備えたBenciniのKoroll 24 Sというカメラがある。

(Bencini Koroll 24 S)
1950年代のイタリア(ミラノ)製フィルムカメラだそうだ。アルミ鋳造120フィルムをハーフで撮る変わり者である。オリンパス・ペンのような大衆向けのお出かけカメラなんだろう。機能的なことをいうと単純そのもの、シャッタースピードは1/50で絞りはf9と16にしか切り替わらないが焦点深度があるので目測でもそれなりに写る。ピント合わせは前玉を繰り出して行うがフィート表示である。レンジファインダーなどないから目測である。フラッシュシンクロは申し訳程度に付いている。
しかし、デザインからするととても面白い。ボディは鏡筒までアルミの一体鋳造で至る所にアールがついており平板なところがない。且つ表面が鏡面仕上げなのでそのウネウネとねっとりした感じが増幅され、素肌にメタルのジャンプスーツを纏った女性のように艶かしい。レンズ周りのアイボリーのトリムは50'sの自動車のリボンホイールのようである。そのトリムにロゴと BECINI MILANOと銘があるが、こんなところはモードファッション的で洒落ている。

さて、このKoroll、レンズの前玉(といっても単玉であるが)を回転・繰り出してピントを調節するのであるが、私がこのカメラを初めて手にしたとき、この部分(ヘリコロイド)が固くどんなに力をこめても回転しなかった。幸い、単純な構造のカメラなので、暗室側の2本のネジを外せば鏡筒の前部が取り外せ、このピント機構に簡単にアクセスできた。ヘリコロイドのグリスの経年固化が原因であった。ベンジンで溶解すれば簡単であるが、レンズに近い箇所だったので、今回はKUREのパーツクリーナーを綿棒の先につけて螺旋部に染み込ませることで、簡単に固化したグリスを除去できた。新しいグリスを塗布してこの部分の不具合は解消した。

また、外観もくすんで見えたので、銀メッキ製品の磨きに普段使っている独GLANOLのペーストを綿棒につけて薄く塗布した後、ティッシュペーパーを使って軽く磨き上げた。見違えるほど輝きが戻った。パフやメッキで表面処理をしている金属製品のデリケートな磨きには独GLANOLは定番である。
このカメラにはもともとレザーのケースがついていたが経年劣化でボロボロで使い物にならなかった。120フィルムを使いながらカメラの大きさは35mmフィルムのものとほぼ同じだから、35mmフィルムカメラのケースを代用できそうだが、ケースに入れても120フィルムならではの赤窓が背面に現れていないと都合が悪い。そこで、オリンパス WIDE-Sのケースを代用した。WIDE-Sの背面にはLight Valueのダイヤルがあってケースもその部分が丸く穴が開いており、Korollの赤窓が出る。


あとはIlfordあたりの120フィルムを詰めて、ハーフで撮影するのみである。総メタル製だがアルミボディなので驚くほど軽い。20mm径の純正のレンズフード(これもラッパの表は鏡面仕上げ)も手に入れた。結果は追って投稿したい。
posted by ihagee at 18:20|
Bencini Koroll 24S