2022年10月13日

今の西側諸国が戦っている相手は、自分自身だ(ハンガリー・オルバン首相)



ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、火曜日(10月11日)にベルリンで開催された政治雑誌キケロと日刊紙ベルリナー・ツァイトゥンクとのパネルディスカッションで、 「EUの対ロシア制裁政策は、その実施において原始的であり、その効果において悲惨である。ヨーロッパは制裁で死につつある」と述べた。

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オルバンによると、現在、ヨーロッパには戦争賛成派と平和派の2つの陣営があり、オルバンは明らかに後者に自分自身を分類している。ロシアが侵略者であることは明らかであり、ハンガリー政府は戦争の初日から今に至るまでロシアを非難している。しかし、オルバンは戦争でロシアやウクライナの立場ではなく、自国(ハンガリー)の立場を選んだ。これが、例えば、戦争に対するハンガリーの立場がドイツとは異なる理由である。平和を願って戦争について同様の方法で考えているのは、世界でほんの一握りの人だけだとオルバンは言う。

必要なのはロシア-ウクライナ人ではなく、ロシア-アメリカの平和であり、ロシア-ウクライナ交渉は無意味である。なぜなら、ウクライナはアメリカによって際限なく支援されており、ウクライナ人への同情は、アメリカを中心に西側のマスコミによって熱く維持されている。大量殺人者や戦争犯罪人という言葉をロシアに浴びせる(バイデン米大統領)ことで却ってロシアを孤立化させ停戦への道を閉ざしている。

プーチン大統領に誰も話しかけず、彼が孤立したままでいることを示すことは、今やヨーロッパ全体の仕事である。(独ZDFとの2022 年10 月12 日付インタビューでのゼレンスキー氏の発言)


オルバンは2014年のクリミア危機の時、当時のメルケル独首相がこれを地域紛争に抑え込み戦争を勃発することを防いだことを指摘した。

なぜ戦争にならなかったのか。それは、メルケル首相が直ちにキエフに行き、モスクワに行き、ブリュッセルに働きかけ、紛争を孤立させたからだ。だから、クリミア紛争はウクライナとロシアの紛争のままであり、爆発することは許されず、これは偉大な外交的成果だった。


しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻では、EU諸国でクリミア危機と同様にそれを紛争として孤立させようとさえした人は誰もいなかった。すべてが瞬時に爆発し、我々は皆それに引き込まれた。そして、EUでは皆、ウクライナ人について話し、その視点から何をすべきかだけを話していている。もし経済制裁がエネルギー、特にロシアの石油に課せられたら、ハンガリー経済は翌日までに止まるが、ブリュッセルからは「何とか解決する」という返事しか受け取らなかった、とオルバンは述べた。

私はハンガリーを破壊しながらウクライナ人を助けることを拒否する。ハンガリー人が死にかけている間、私はウクライナ人を助けることを拒否する。


1956年のブッツァ」と「イムレ・ナジ」をそれぞれ、「キエフ」と「ゼレンスキー」に重ね、1956年のブッツァことブダペストが経験した当時のソ連との地政学的危機を知るからこそ、停戦と欧州連合加盟の可能性以上に、ウクライナに今、より良い贈り物を与えることはできないと、オルバンは付け加えた。

民主主義を掲げる西側諸国は20世紀に、全体主義に抵抗して団結し、ナチスドイツとソビエト連邦を打ち負かした。だが今の西側諸国が戦っている相手は、自分自身だ。


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戦争が起きないようにすることだけがあなたの仕事だ

「世界戦争や核戦争の脅威のない 30 年間の平和を私たちに与えてくれた(ドミトリー・ムラトフ=ノーベル平和賞受賞歴のある独立系ノバヤ・ガゼータの元編集長)」そのミハイル・ゴルバチョフ(ソ連大統領)の葬儀に西側で唯一参列したのはハンガリーのヴィクトル・オルバン首相だった。



戦争に戦うのであって、戦争で戦うのではない

戦争に戦うことは、戦争で戦うよりも難しく往々に蔑まれる。

「われわれは決して屈しない。海で、空で、畑や道の上で、どんな犠牲を払っても、われわれの土地を守るために最後まで戦う」とハムレットの一節まで引用するゼレンスキーは英雄だが、自国を西側諸国の無力な衛星に変えてしまったゴルバチョフは卑怯者の烙印を押される。しかし、そのゴルバチョフの贈り物は「世界戦争や核戦争の脅威のない 30 年間の平和」だった。

プーチンの大国主義(旧ソ連邦)への回帰とアメリカ(=ウクライナ)との間の覇権主義の鬩ぎ合いに平和はない。その先にあるのは1955年の<ラッセル=アインシュタイン宣言>で予見されていた脅威、即ち、勝者なき終わり、人類に絶滅をもたらす最悪の結果だけだ(「'ヒト'という'種'の一員として」の戦争放棄(憲法第9条))。

その脅威の狭間で過酷な歴史を経験したハンガリーであるからこそ、そのハンガリー首相が卑怯者と呼ばれながらもEU諸国の中で一人即時停戦を呼びかけているのだろう。世界で唯一核兵器を落とされ未曾有の犠牲者の上に戦争放棄を憲法で誓った(憲法第9条)日本国ならば、戦争に対する立場はハンガリーと同調すべきであって(本来ならば、オルバンの役割を岸田首相が担うべきである)、最終戦争へのエスカレーションを予定則とするような西側諸国の立場と合わせてはならない。

(おわり)

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posted by ihagee at 07:33| 日記

2022年09月22日

第3の矢なき評価



安倍元首相の国葬「法的根拠なく国費で開催」専門家が問題視 実施理由「功績」に疑問も(AERA dot. 2022年9月22日付記事

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記事では、到底看過すべきではない様々な問題点が安倍国葬儀について識者から指摘されている。

その中で、国葬に「賛成」の意見で目立っているとされる安倍氏の国への貢献の代表的なコメントが非常に私には気になった。

インバウンド政策、大胆な金融緩和で、どん底の日本経済を立て直した」(48歳、投資家・コラムニスト、男性)

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安倍氏の国への貢献は、そのアベノミクスの成果、つまり、アベノミクスの本丸となる「成長戦略」と謳っていた「第3の矢」で語るべきことだ。

「インバウンド政策」は観光需要創出であって「第2の矢」、「大胆な金融緩和」は言うまでもなく「第1の矢」であり、日本経済の立て直しに不可欠な「第3の矢」は結局飛ばなかったのに、「どん底の日本経済を立て直した」と評価し国葬への「賛成」理由としてしまうことへの疑問である。

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アベノミクスの本丸となる「成長戦略」と謳う「第3の矢」の成果は以下とされている。
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GDP、株価、企業の経常利益等は「第一の矢」の副産物である。また、GDPおよび企業の経常利益は、数値統計化する上で基準や算出方法を恣意的に変更することで創り出された好適な数字である(拙稿:国家ぐるみの壮大な「粉飾決算」(続き))。また、株価も日銀がETF(上場投資信託)を購入し、株価を下支えした官製相場で経済の実態を表すものではない(拙稿:公文書が書き換えられてしまう国(日本独自の問題))。カジノを含む統合型リゾート(英称:Integrated Resort、略称:IR)、いわゆる「IR整備法」が(我が国の)経済成長の柱 / 経済活性化の “起爆剤” (安倍首相=当時)はまさに窮すれば鈍するの典例で、「人の不幸を前提に成り立つカジノ」は健全な国家の経済成長の柱であり得る筈はない(拙稿:犯罪が経済成長の柱)。

企業倒産件数に至っては「廃業」を選択した中小企業の数は全く含まれていない。「痛くない注射針」を製造し町工場の「ものづくり」の力を世界的に知らしめていた岡野工業(後継者が見つからず廃業)はその数に入っていないのである。

外国人訪問客数が躍っているが、”オリンピックや国際観光(インバウンド)が我が国の経済政策の主柱(・・・)、そんな危なっかしい水物に賭けなくてはならないほどこの国の製造業を中心とする産業力は凋落し国民の大半は貧しくなったということでもある。事実、コロナ禍はそれらインバンド需要を直撃した。経済構造の根本的な問題や課題に取り組もうとせず” (拙稿:「科学の樹」のないこの国の暗愚・続き4)のままである。”外的環境の変化の影響を受けやすく中長期的な先の見通しが立ちにくく、収入が不確定な業種”に依存することは到底、「第3の矢」に言う成長戦略ではない。

国内景気の判断を「緩やかに回復している」といった業況・景況判断は、現実はあまりに違うと大多数の国民はあらためて肌身で実感したままである(拙稿:「アンダーコントロール」なる日本国の基礎疾患)。

つまり、この大言壮語する「成果」なるものは、「資本流出規制や金融鎖国をして財政と金融を一体運営し、統制経済下に置く」(浜矩子氏)上で、その時々に望まれる数字を与えるための統計(統計改竄)を並べただけの代物だと言える。「統制経済」と「統計改竄」が表裏となって結局、国家が崩壊したソ連邦の経済体制と相応する点が多い(拙稿:ソ連邦崩壊に学ぶこと・統制経済と統計改竄)。

アベノミクスの経済原理とは「ストック」の反対の「ストックのフロー(流動)」の極大化にあると言われている(岸田政権もこの基調である)。前者をミクロとすれば後者はマクロである。社会資本(農地やコミュニティ)や金融資本(預貯金)の壁を取り払ってため込まずに使い続け、燃やせるものはどんどん燃やして経済活動の糧にしようという考えである。経済の基礎代謝増大=経済活性ということ。本来は虎の子(ストック)の国民年金の原資まで取り崩して「運用」なる官製相場の焚き木にしている(拙稿:立ち位置を知ること)。

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安倍長期政権の失敗(罪科)は、技術のトレンドに於いて発展系にあり且つ経済発展の基礎をなす重要産業を全く生み出さなかったことになる。気付けばそれら重要産業のキープレーヤーは韓国・中国等、周辺諸国となっていた。その意味でアベノミクスの本丸となる「成長戦略=第3の矢」は全く飛ばなかった。

それどころか、その場ばかりの経済的な果実を求めるばかりで、その果実をつける根や幹となる「(基礎)科学」を軽視した安倍長期政権は結局、科学の樹全体を枯らせてしまったのである(拙稿:「科学の樹」のないこの国の暗愚

「どん底の日本経済を立て直した」どころか「どん底」に向けてしまったのが安倍氏の国への「貢献」である。法律的な問題を除いても、安倍氏の「貢献(功績)」を客観的に評価すれば国葬(儀)に全く値しないことは明白である。

(おわり)




posted by ihagee at 11:06| 日記

2022年09月20日

西側に責任がある(ハンガリー・オルバン首相)



ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、ロシアとの武力衝突により、ウクライナは領土の最大半分を失う可能性があると考えている。バラトン湖近くのケチェのリゾート地に集まったFIDES党の活動家 - ハンガリー市民同盟 - との会合でこの見解を表明した(現地ネプサヴァ紙)。

この戦争は2030年まで続く可能性があり、ウクライナは領土の3分の1から半分を失う可能性がある。局地的な戦争に西側が介入して世界的なものにし、今、ヨーロッパはロシアに制裁を課すことで、自分自身を傷つけている。制裁によって引き起こされたエネルギー危機により、ヨーロッパの産業の最大 40% がこの冬に停止する可能性がある、とオルバンは警告した。

EU首脳は秋に再会し、ロシアに対する制裁をさらに6カ月延長する予定だが、そのような動きは阻止されなければならない。しかし、EU でそのような地位にあるのは自分だけであるが、イタリアで行われる選挙の結果、この考え方を支持する政府が形成されることを望んでいる、とオルバンは述べた。

オルバンはまた、2030 年までに、金融ショック、移民の増加、およびその他の多くの要因の影響を受け、EU の状況が大きく変化する可能性があり、「肯定的な答えが見つからない場合は、結論を出さなければならない」と述べた。

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欧州委員会は9月18日、「民主主義の後退とEU通貨の管理における腐敗の可能性に関する懸念のため」、ハンガリー向けの約75億ユーロの補助金の交付を一時停止することを勧告した。この制裁は法の支配の侵害に関するとし、ハンガリーの公的調達法を巡る問題や不十分な利益相反対策など不正防止措置の不備を指摘した。加盟国は3カ月以内にこの勧告の可否を判断する見込み。75億ユーロは、ハンガリーの2022年の国内総生産(GDP)見込みの5%に相当する。

AP通信によると、欧州委員会はヴィクトル・オルバン首相を「民主制度を崩壊させ、メディアを支配し、少数派の権利を侵害している」と非難しているが、オルバン首相はEUのその非難を否定している。

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ウクライナ大統領府の首席補佐官であるミハイル・ポドリャクは、ウクライナがその領土の一部を失い、欧州連合が崩壊するだろうというオルバンの声明に以下、ツイッターでコメントした。

「オルバンは、ロシアに対する制裁解除のために戦うと言っている。スペードをスペードと呼ぼう。ハンガリーは、ヨーロッパの納税者を犠牲にして、欧州連合の崩壊を求めているトロイの木馬だ。オルバンはウクライナを憎み、ヨーロッパにロシア世界を夢見ている。EU はこれらの妨害行為に資金を提供すべきなのか?」

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Transparency Internationalが調査・公表している2021年度腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index – CPI)によると、ハンガリーは73位(43.00 pts)、ウクライナは122位(32.00 pts)である。

12〜13種類の調査報告に基づいてスコア化し評価し、スコアは0ptsから100ptsで評価され点数が高い方が汚職が少ない。上位3カ国はニュージーランド、フィンランド、デンマーク(共に88.00 pts)で、日本は18位(73.00 pts)。政治民主化度では、ハンガリーは86位、ウクライナは101位、日本は43位となっている。

「国境なき記者団(Reporters Without Borders・以下RSF)」によって調査・発表される報道の自由に関する最新(2022年)国際ランキングでは、ハンガリーは85位 (59.8 pts)、ウクライナは106位(55.76 pts)、日本は71位(64.37 pts)である。

(おわり)


posted by ihagee at 01:30| 日記