ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、火曜日(10月11日)にベルリンで開催された政治雑誌キケロと日刊紙ベルリナー・ツァイトゥンクとのパネルディスカッションで、 「EUの対ロシア制裁政策は、その実施において原始的であり、その効果において悲惨である。ヨーロッパは制裁で死につつある」と述べた。

オルバンによると、現在、ヨーロッパには戦争賛成派と平和派の2つの陣営があり、オルバンは明らかに後者に自分自身を分類している。ロシアが侵略者であることは明らかであり、ハンガリー政府は戦争の初日から今に至るまでロシアを非難している。しかし、オルバンは戦争でロシアやウクライナの立場ではなく、自国(ハンガリー)の立場を選んだ。これが、例えば、戦争に対するハンガリーの立場がドイツとは異なる理由である。平和を願って戦争について同様の方法で考えているのは、世界でほんの一握りの人だけだとオルバンは言う。
必要なのはロシア-ウクライナ人ではなく、ロシア-アメリカの平和であり、ロシア-ウクライナ交渉は無意味である。なぜなら、ウクライナはアメリカによって際限なく支援されており、ウクライナ人への同情は、アメリカを中心に西側のマスコミによって熱く維持されている。大量殺人者や戦争犯罪人という言葉をロシアに浴びせる(バイデン米大統領)ことで却ってロシアを孤立化させ停戦への道を閉ざしている。
プーチン大統領に誰も話しかけず、彼が孤立したままでいることを示すことは、今やヨーロッパ全体の仕事である。(独ZDFとの2022 年10 月12 日付インタビューでのゼレンスキー氏の発言)
オルバンは2014年のクリミア危機の時、当時のメルケル独首相がこれを地域紛争に抑え込み戦争を勃発することを防いだことを指摘した。
なぜ戦争にならなかったのか。それは、メルケル首相が直ちにキエフに行き、モスクワに行き、ブリュッセルに働きかけ、紛争を孤立させたからだ。だから、クリミア紛争はウクライナとロシアの紛争のままであり、爆発することは許されず、これは偉大な外交的成果だった。
しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻では、EU諸国でクリミア危機と同様にそれを紛争として孤立させようとさえした人は誰もいなかった。すべてが瞬時に爆発し、我々は皆それに引き込まれた。そして、EUでは皆、ウクライナ人について話し、その視点から何をすべきかだけを話していている。もし経済制裁がエネルギー、特にロシアの石油に課せられたら、ハンガリー経済は翌日までに止まるが、ブリュッセルからは「何とか解決する」という返事しか受け取らなかった、とオルバンは述べた。
私はハンガリーを破壊しながらウクライナ人を助けることを拒否する。ハンガリー人が死にかけている間、私はウクライナ人を助けることを拒否する。
「1956年のブッツァ」と「イムレ・ナジ」をそれぞれ、「キエフ」と「ゼレンスキー」に重ね、1956年のブッツァことブダペストが経験した当時のソ連との地政学的危機を知るからこそ、停戦と欧州連合加盟の可能性以上に、ウクライナに今、より良い贈り物を与えることはできないと、オルバンは付け加えた。
民主主義を掲げる西側諸国は20世紀に、全体主義に抵抗して団結し、ナチスドイツとソビエト連邦を打ち負かした。だが今の西側諸国が戦っている相手は、自分自身だ。
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戦争が起きないようにすることだけがあなたの仕事だ
「世界戦争や核戦争の脅威のない 30 年間の平和を私たちに与えてくれた(ドミトリー・ムラトフ=ノーベル平和賞受賞歴のある独立系ノバヤ・ガゼータの元編集長)」そのミハイル・ゴルバチョフ(ソ連大統領)の葬儀に西側で唯一参列したのはハンガリーのヴィクトル・オルバン首相だった。
戦争に戦うのであって、戦争で戦うのではない
戦争に戦うことは、戦争で戦うよりも難しく往々に蔑まれる。
「われわれは決して屈しない。海で、空で、畑や道の上で、どんな犠牲を払っても、われわれの土地を守るために最後まで戦う」とハムレットの一節まで引用するゼレンスキーは英雄だが、自国を西側諸国の無力な衛星に変えてしまったゴルバチョフは卑怯者の烙印を押される。しかし、そのゴルバチョフの贈り物は「世界戦争や核戦争の脅威のない 30 年間の平和」だった。
プーチンの大国主義(旧ソ連邦)への回帰とアメリカ(=ウクライナ)との間の覇権主義の鬩ぎ合いに平和はない。その先にあるのは1955年の<ラッセル=アインシュタイン宣言>で予見されていた脅威、即ち、勝者なき終わり、人類に絶滅をもたらす最悪の結果だけだ(「'ヒト'という'種'の一員として」の戦争放棄(憲法第9条))。
その脅威の狭間で過酷な歴史を経験したハンガリーであるからこそ、そのハンガリー首相が卑怯者と呼ばれながらもEU諸国の中で一人即時停戦を呼びかけているのだろう。世界で唯一核兵器を落とされ未曾有の犠牲者の上に戦争放棄を憲法で誓った(憲法第9条)日本国ならば、戦争に対する立場はハンガリーと同調すべきであって(本来ならば、オルバンの役割を岸田首相が担うべきである)、最終戦争へのエスカレーションを予定則とするような西側諸国の立場と合わせてはならない。
(おわり)
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