2022年12月04日

サイアノタイプ・ヴァンダイクプリント(近況報告)


サイアノタイプヴァンダイクプリントについて記事が途絶えていたが、近況を以下報告したい。

本稿ではUV光源、引き伸ばし機、アナログネガ(フィルムレコーダを用いたデジ⇨アナ変換のネガ含む)の組み合わせで、サイアノタイプおよびヴァンダイク方式のプリントを扱っている。

----

1. 石膏板へのヴァンダイクプリント(レジンでコーティング)
ヴァンダイク感光剤は紙に塗布する際、塗布ムラが結果に影響する。水彩画用のジェッソ(リキテックス製)と混ぜることで、サイアノタイプ同様、刷毛でムラなく紙に塗布可能であることを発見した。また、米Bostick & Sullivanからゴールド=チオ尿素トナーキットとの相性はジェッソと混ぜた場合の方がなぜか良い。紙に代えて石膏板(焼石膏を型に入れて作成したもの)を用いたのは表面をUVレジンでコートできる点にある(コートすることでドライダウンを防ぐ)。もっとも、石膏は水に弱いので、感光剤を混ぜたジェッソを塗る面には予め防水処理を施した。

作例:
52215699244_a67da126f1_c.jpg

52191476207_4c0a18c9fd_c.jpg

52215904340_d22d71ebb8_c.jpg

(いずれもフィルムレコーダで作成したデジ⇨アナ変換アナログネガから引き伸ばした。名刺大で露光時間は驚くべきことに約10分である。)

----
大きな作品には石膏板ではなく、百均のスチレン板を用いた。
52162223608_85da5fc742_c.jpg

52163918777_9e7a34a8d8_c.jpg

(いずれも写真乾板から引き伸ばした作例・ゴールド=チオ尿素トナーが適切に働いている。)
----
捨てるつもりのCDを基材にした作例
52143032525_2cfa8767f5_c (1).jpg

(ジェッソゆえCDにも塗布できる)

----

2. サイアノタイプ
サイアノタイプはジャスミン茶などタンニン成分によるトーニングを種々試みていたが、トーニングをしないプルシャンブルー【Prussian blue】に回帰した。
52503962725_d10edc736b_c (2).jpg

52504692545_0eb3e510cf_c.jpg

(いずれも1970年代のアナログフィルムから引き伸ばした。B5水彩画紙・露光時間およそ3時間)

----

3. Virtual negative
さて、諸物価高騰の折、アナログフィルムも現像代もその例に洩れずますます高価な趣味となりつつある。フィルムレコーダによるデジ⇨アナ変換は失敗やムダなく、サイアノタイプやヴァンダイクプリントのアナログネガを作成する手段であり、一般的なコンタクトプリントのコスト(OHPフィルムやインクジェットプリンターのインク代)に比較すればコスパに優れるが、それでも一考の余地がある。引き伸ばし機の利便性(ネガがあればいかなるサイズにもプリント可能な点)は捨て難い。したがって、アナログフィルムや乾板に拠ってきたネガを液晶ディスプレイ(LCD)に代替できないか?と思案した。


プリント手段でアナログネガに拘ってきたわけであるから、これは完全なる宗旨替えである。フィルムレコーダによるデジ⇨アナ変換は、デジタル画像を元にする点ですでに半分宗旨替えであったが、アナログネガをデジタルそのものである液晶ディスプレイ(LCD)にすることで、本ブログのアナログ礼賛「Film photography」は看板倒れということになる。

UV光源の引き伸ばし機や印画紙(それらはアナログ)を引き続き使う点で、よく言えばいまどきのハイブリッド。これを私は以下の先例に倣って "Virtual negative"と呼ぶことにした。

LCDをネガとする引き伸ばし機にはDE VERE 504DS Digital Enlarger(銀塩プリント用)が過去存在した。これは商業用で且つ超高価な代物だった。このDE VERE 504DS Digital Enlargerが"Virtual negative"をそもそもキャッチワードにしていたのである。

銀塩プリントよりも格段に感光性の低いサイアノタイプやヴァンダイクプリントに、アナログネガに比べて透光性(開口率)が低いと思われるLCDを果たして代用可能なのか?物理的な銀粒子の隙間と電子的な液晶パネルの開口率の違いでもある。

モノは試しと、3Dプリンタ用の6.08インチ・モノクローム液晶(バックライト無し)をドライバーボードと共に、Aliexpressから購入した。解像度1620x2560で2K出力に対応している。ドライバーボードはUSB(電源)と入力ポート(HDMI)を備えている。6.08インチ(対角)という大きさは、小型の写真乾板と同じなので乾板まで使うことが可能な大型の引き伸ばし機なら扱える(LPL Model 7451を使用した)。

スクリーンショット 2022-12-04 13.42.32.png


早速、iMAC(5K, MacOS: Monterey)にThunderbolt=HDMI変換ケーブルにて接続するも全く機能せず(LCDにミラーリングを試みたが、iMACは認識せず)、Aliexpressの出品者にその旨を連絡すると、Windowsで動作するとのこと(「3Dプリンタ用」なので、PCでの接続はWindowsよりもRaspberry Pi 4を想定しているとのこと)。

Raspberry Pi 4は扱ったことがないので、Windows 10をプリインストールした中古のMiniPC(4K映像まで出力可能)を7インチの液晶モニターと共に購入した。"マッキントッシュ" 以外のPCを所有するのはPC9800以来である。ミラーリング(複製)は働くものの、アスペクト比がPCとLCDでは異なることに気付いた(PC: 9:16, LCD: 10:16、Raspberry Pi 4ならプログラミングでアスペクト比などどうにでもなるのだろう)。これでは、PCからの出力画像をLCDは正しく表示されない。Windowsの"Photo"アプリで画像を縦横ピクセル単位でリサイズしてこの問題はとりあえず解決。さっそく、サイアノタイプを試みた。

52538882923_340139964c_c.jpg


作例:
52536955029_35c9d77ceb_c.jpg

52539088566_149b9cbace_c.jpg

52541898763_102bebbfc0_c.jpg


いずれも、古いポストカードをスキャンしたデジタル画像をそのまま用いた。露光時間はおよそ8時間(B5の印画紙)。やはりアナログネガと比較して感光が十分でない場合のターコイズ色で、プルシャンブルー【Prussian blue】になっていない(二番目の作例はジャスミン茶でトーニング)。最大解像度1620x2560、2K相当だからか、液晶の網目も筋も一切プリントに現れない(引き伸ばし機を使わず、LCDを印画紙に密着させてプリントする(コンタクトプリント)とプリントに筋が現れるようだ。厳密にはLCDを覆うガラスと印画紙が密着しているのであって、そのガラスに背後のセルの影が映るのであろう。影を映す余地のない引き伸ばし機に理がある。報告例:Digital Picture to Analog Darkroom print)。

UV光源とコンデンサレンズの距離を調整し直して、さらにプリント(露光時間およそ2時間 / ポストカード大の印画紙)。

52540761315_1d87821b2f_c.jpg

(大宮「画家の小道」の壁絵 / iPhone 14で撮影)

iPhone 14の写真をそのまま使うことができる。プルシャンブルーに近くなってきた。それでも如何せん露光に時間がかかりすぎる。UVの透過性も良好とは言えない。開口率がもっと良いLCDを探す必要があるかもしれない(例:Duobond製LCD)。

そんなこんなで、これではアナログカメラの出番はない。ドライボックスのカメラたちが恨めしそうな顔をしていた。

(おわり)