2020(2021)東京オリンピック・パラリンピック競技大会に関連し、高橋治之組織委元理事絡みの汚職が連日メディアで取り沙汰されている。
検察の捜査も今のところ「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」の範囲である。大会組織委員会やIOCはそのつもりでいるらしい。「疑惑(闇)」の解明は、その闇にどれだけ検察のメスが入るかにかかっている。贈収賄事件とはそういうものなのだろう。
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他方、検察が懸命に調べなければ白か黒かも当座のうちはわからない「疑惑(闇)」ではなく、法律に抵触すれば、直ちに違法とみなされる行為もある。登録手続きに関する手続法であるとともに、権利の内容や効力を定める実体法でもあり、なおかつ権利侵害の罰則も規定されている商標法の下の法律行為がそれである。以下、具体的に主な「違法行為」を列挙してみたい。
@ 違法ライセンスおよび商標権侵害
大会組織委員会はその所有するオリンピック関連登録商標(公益著名商標)の使用を違法にスポンサー企業に許諾し(通常使用権許諾)、その商標を使用したスポンサー企業を商標権侵害状態に置いた。
従来商標法が認めていなかった公益著名商標の第三者への通常使用権許諾は法改正によって可能となったが(商標法第31条第1項但書削除)、法改正前に大会組織委員会の所有する全てのオリンピック関連商標は出願登録され、且つ、その商標の使用許諾を旨とするほぼ全てのライセンス契約は成立していた。その時点での通常使用権許諾契約はゆえに全て違法であり(商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえに強行規定に違反する契約それ自体は不適法であり無効・また契約上の信義則にも反している)、違法な契約の下の商標の第三者使用は権利侵害である。商標権侵害状態は、法改正を以て契約時に遡及して解消(合法)とはならない(商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえに「法律の不遡及原則」)。
A 侵害行為の幇助および加功
JOCの所有するオリンピック関連登録商標(公益著名商標)の使用を(その商標権者ではない)他人である大会組織委員会が、不法にスポンサー企業に許諾し(通常使用権許諾)、スポンサー企業が権利侵害することを幇助し加功した(故意)。従って、スポンサー企業と共に共同不法行為者たる地位に大会組織委員会は立つことになる(民法第719条)。
商標権者は、その商標権について他人に通常使用権を許諾することができる。(商標法第31条1項)
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@ 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。
A 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。(民法第719条【共同不法行為者の責任】)
商標法上、JOCが禁止権をあえて行使せず(JOCはその商標権が侵害されても侵害者に対して禁止権を行使しない旨、大会組織委員会と事前に取り決める等して)係る侵害状態を解消しようとしても、それはできない(理由はオリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)に記載の通り)。
侵害状態にある使用態様:

(ライセンシングプログラムで大会組織委員会との契約上「ライセンシー」である株式会社丸眞は、その製造販売した商品(オリンピック公式グッズ:ウォッシュタオル)にJOCの登録商標「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレムを使用している。)
B 違法ライセンス(サブライセンス)
商標法は(公益著名)商標の使用権(通常使用権)の再許諾(サブライセンス)を認めない。大会組織委員会はリテイル役務について公益著名商標の使用権を電通に許諾し(電通は「ライセンシー」)、大会組織委員会はさらに電通にその業務を電通の下請け(大広)に再委託することを認めている。オリンピック関連商標(公益著名商標)を業務上当然使用する電通がその業務を大広に再委託するということは、電通が「ライセンシー」として許諾された通常使用権をさらに大広に再許諾(サブライセンス)したことに他ならない。
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「ライセンシー」として記載のない者がオリンピック関連商標をその業務に使用している場合は再許諾先であることが疑われる。
通常使用権者は独占排他的な権利を有するものではなく、商標権者等に対する不作為請求権を有するにとどまることから、通常使用権者が第三者に使用を許諾する権利を独自に有するものとは解されない。(特許権の通常実施権再許諾解釈の適用 / 中山信弘編著『注解特許法 第三版 上巻』829頁〔中山信弘〕(青林書院,平成 12年)参照)
「大会エンブレムを使用できるのは、大会スポンサー、大会放送権者、開催都市、政府、会場関連自治体、JOC、JPC、組織委員会です。」(東京2020応援プログラムより / 東京都下の都内区市町村および会場関連自治体ならびに団体(町内会など)までは大会組織委員会は使用を直接許諾している。
C 「ミライトワ」「ソメイティ」などオリンピック関連商標のIOCへの特定承継(違法)
都スポーツレガシー活用促進課に聞くと、確かにマスコットの知的財産権は昨年12月末に大会組織委員会からIOCと国際パラリンピック委員会(IPC)に無償譲渡されていた。13年に締結した開催都市契約に基づいているという。(東京新聞web 2022年9月6日付記事から引用)
商標法24条の2第2及び3項に照らすと、公益著名商標(オリンピック関連商標)に係る商標権の特定承継である場合、法は特定承継を認めていない。ゆえに、IOCへのそれら公益著名商標に係る商標権の特定承継は違法の可能性が極めて高い。例:大会組織委員会が所有するオリンピック・エンブレム商標(登録6008759)のIOCへの「特定承継」(「特定承継」を示す登録原簿の記載)。かかる違法な承継を商標原簿に登録した特許庁の責任も問われる。
公益に関する事業であつて営利を目的としないものを行つている者の商標登録出願であつて、第四条第二項に規定するものに係る商標権は、その事業とともにする場合を除き、移転することができない。(商標法第24条の2第3項 / 「事業とともにする場合」は移転可能(一般承継)だが、大会組織委員会の公益事業とともにその公益著名商標をIOCに移転する筈がなく、またその事実もない。)
(おわり)
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