2022年10月04日

オリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)




東京2020オリンピック競技大会に関する知的財産保護・日本代表選手等の肖像使用について―マーケティングガイドライン―更新版(2021年6月10日付)に基づく図示

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東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定を巡る汚職事件で、東京地検特捜部は5日、大阪市の博報堂DYホールディングス傘下の広告代理店「大広(だいこう)」に家宅捜索に入った。スポンサー集めを請け負った大手広告会社「電通」(東京)の下請けに入ったことに対する謝礼として、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)=受託収賄容疑で逮捕=に資金提供した疑いがある。(毎日新聞2022年9月5日付記事より)


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(2019年3月20日 参議院法務委員会 小川敏夫議員質疑 / この答弁でオリンピックマーケティングの脱法性を十時内閣官房内閣審議官は否定できなかった。つまり、商標を使用しておきながら民法が著作権が・・と四の五の言うばかりで肝心の商標法で説明することが一切できなかった。)

(2) 商品化権


(2-1)
小川議員による国会質疑で,十時内閣官房内閣審議官が「内閣官房…は…著作権法あるいは民法に基づいて適切に契約を行っているということで…特段の問題はないものと…考えている」という,商標法違反行為が,何故著作権法・民法の契約によって問題にならないことになるか全く理解できない答弁をしている。この答弁の内容は,以下の組織委員会のマーケティング戦略に対応すると考えられる。

(2-2)組織委員会は「東京 2020 マーケティングでは,日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京 2020 (注:東京 2020=組織員会)に移管し,2020 年東京大会の権利と共に販売します」と説明し,主な権利内容として,呼称の使用権;マーク類の使用権;商品/サービスのサプライ権;大会関連グッズ等のプレミアム利用権;大会会場におけるプロモーション;関連素材(映像・写真等)の使用権を挙げている。

(2-3)「使用」「使用権」は商標法で定義された法律用語であるが,サプライ権,プレミアム利用権,プロモーション,関連素材の使用権まで包含しておらず,「使用権を販売」という言い方もしない(ちなみに著作権法では「使用」ではなく「利用」が使われる)。知的財産制度の観点からは理解し難い政府答弁の「適切に契約」や組織委員会の「使用権を販売」の説明は,いわゆる「商品化権」に基づきマーケティング資産の「使用権」を「適切に契約」していることを意味すると考えれば理解し易い

(2-4)商品化権」とはもともとキャラクターを活用したマーケティングに対して概念され,「商品の販売やサービスの提供の促進のためにキャラクターを媒体として利用する権利」(31)と定義され,その後,「キャラクター」がスポーツイベント等における様々なイメージ要素を包含するように概念拡張されてきた。

(2-5)オリンピック資産のうち,視覚的要素(キャラクター・映像・写真等)及び記号的要素(マーク・ロゴ等)は,著作権法・商標法・意匠法・不競法等の知的財産権に関連して保護されると理解できるが,実在的要素(商品・サービス・グッズ等)は民法(名称や肖像の権利を侵害する不法行為に関する規定)と関連して保護されうることになる。
一方,IOC ファミリーは,サプライ権,プレミアム権,プロモーションのような実定法に根拠を有しない,契約の当事者間でしか通用しない権利概念の下で,これらのイメージ要素の使用・譲渡等の権利関係を主張している。しかし,当該権利概念を商標権等の当事者間の合意ではで律しきれない実定法概念と区別しないまま運用するため,登録商標のライセンスの法的根拠を問われると「著作権法・民法に基づく」「関係者の合意に基づく」等の第三者には理解し難い説明をせざるをえないということになる。

(2-6)筆者は,アンブッシュ・マーケティング対策について,我国の知的財産権を根拠に正当性が肯定できる場合と他の根拠によると考えられ正当性がよく理解できない場合があると指摘してきたが,後者の「他の根拠」が「商品化権」であると考えると理解し易く,組織委員会による契約当事者間でしか通用しない「商品化権」に基づき第三者に対する差止警告の正当性がよく理解できないのは当然であるということになる。(柴大介弁理士「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策」パテント2019 Vol.72, No.10より抜粋 / 朱記は筆者)


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小川議員の国会質疑内容および柴弁理士の論文内容で説明はし尽くされている。オリンピックマーケティングの脱法化の手順を以下に示したい(上掲の図参照)。

@ 物語の登場人物や漫画の主人公などの人気や性格(キャラクター)を実在的要素(商品・サービス・グッズ等)の上で商業的に使用(利用)する商習慣上の権利が「商品化権」である。

A 著作権法・商標法・意匠法・不競法等の知的財産権によって保護される視覚的要素(キャラクター・映像・写真等)及び記号的要素(マーク・ロゴ等)にまで、キャラクターの概念を拡張した。

B 「日本国内のオリンピックに関する知的財産権の商業的な使用権」すなわち「商品化権」は、本来第一に商標法で保護される登録商標を、あたかも著作権法、不正競争防止法、民法で保護するかの権利の付け替えである。「商品化権」が発生する資産を大会組織委員会は「マーケティング資産」と称する。JOCの登録商標は商標権としてではなく「マーケティング資産」として大会組織委員会に「移管」集約される。結果、大会組織委員会は他人(JOC)の登録商標を自己資産化する。

C 「マーケティング資産」の「使用権」の「契約・販売」を大会組織委員会は電通に委託(専任代理店=独占販売代理店)。大会組織委員会との間でのライセンシングプログラムでは電通自身が「ライセンシー(リテイル=小売)」である(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料参照)。

D 販売代理店であり且つライセンシーである電通が、株式会社大広にリテイル業務(スポンサー契約業務)を再委託した。その行為自体は、組織委や電通が必要性を認めれば「販売協力代理店」として他の広告会社への再委託が認められていた。また再委託自体は民法上の自由契約の範疇である。

E 商標法に照らせば、公益著名商標の使用権(通常使用権)は再許諾(サブライセンス)が認められていない。「ライセンシー」としてリテイル(小売)業務上、オリンピック関連商標(公益著名商標)を当然使用する電通がその業務を大広に再委託するということは、「ライセンシー」として許諾された通常使用権をさらに大広に再許諾(サブライセンス)したことに他ならない(商標法違反)。

F 同じく商標法に照らせば、「ライセンシー」は大会組織委員会(ライセンサー)とは他人(JOC)の商標をも使用することになり、商標権侵害の状態に置かれ(実定法に根拠を有しない「商品化権」では対向できない)、不利益を享受することなる。

G 実定法に依拠しない「商品化権」上で「マーケティング資産」の使用・譲渡等の権利関係を主張し、その権利は著作権法あるいは民法で保護されると言うのであるから、その使用は商標法で保護されていないということになる(上述の国会質疑にあるように、内閣官房は「商標法」で保護されると言うことができなかった)。ライセンシーに実質商標権を使用させておきながら、係る不利益事実を告知しない脱法的契約は詐欺であり、信義則に反し無効である。

H 大会組織委員会は、業務の再委託を電通に認め、結果として商標法上、通常使用権の再許諾が認められていないにもかかわらず「ライセンシー」たる電通をして大広を「サブライセンシー」とするなど、商標権者として商標管理上コンプライアンスに著しく欠けるばかりか、「ライセンシー」を商標権侵害状態に置く(他人=JOCの商標を使用させる)など、権原もないのに(JOCのオリンピック関連の登録商標が大会組織委員会に「移転」された事実はない)他人の商標権を不法に占有し悪意に使用している。

I 公益著名商標であっても従来商標法が認めていなかった第三者への通常使用権許諾が可能に法改正(商標法第31条第1項但書削除)があったが、法改正前にほぼ全てのライセンス契約は成されており、その時点での通常使用権許諾契約はゆえに全て違法である(法改正を以て契約時に遡及して合法とはならない=商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえ)。「商品化権」上の契約であっても登録商標の使用であるのだからその契約の違法性が問われ、違法な契約に基づきライセンシーに商標を使用させたことは、「すべてのライセンシー」を商標権侵害状態に置いたことにもなる(犯罪行為)。

上述の通り、大会組織委員会がその他人であるJOCのオリンピック関連商標を「ライセンシー」に使用させることは「ライセンシー」を商標権侵害状態に置くことになるが、商標法上、JOCが禁止権の不行使を「ライセンシー」に許諾すること(または定型約款でその旨を記載し契約者と事前に合意する)を以て係る侵害状態を解消しようとしても、それはできない。

なぜなら、「五輪(登録6118624)」無効審判事件(無効2021-890047)審決でIOCファミリーの有する商標法第4条第2項に基づく登録商標(オリンピック関連商標)は、商標法のライセンス禁止条項(法改正前)によりライセンスできないとした請求人の主張を「そのような事実はない」と特許庁は退け、法改正後の効果が改正前に出願登録された「五輪」に及ぶ(遡及効)と特許庁は示している。また、法改正の趣旨は禁止権不行使による使用許諾は一切予定していない(公益著名商標の禁止権不行使型使用許諾が法律的に問題であったから法改正をした筈)。

よって、同様に法改正前に出願登録されたJOCのエンブレムを含むオリンピック関連商標について法改正後の効果が及ぶとすれば(特許庁の判断)、禁止権不行使による実質使用許諾は法改正の趣旨と反するので認められないとなる。

公益著名商標の使用許諾を禁じた商標法第31条第1項但書は強行法規ゆえ、法改正を以て許諾を可能としても、その効果が過去の使用許諾契約に遡及してその行為が合法とはならないと上述の無効審判請求人は主張するが(筆者もこの主張が正しいと考える)、このような不遡及効を特許庁が認めれば違法ライセンスが明確に認定されなおさら「ライセンシー」は侵害状態にあることになる。

侵害状態にある使用態様(上掲図中の「⇦中断⇨」がまさにこの状態が続く期間を意味している):
スクリーンショット 2022-09-25 8.42.18.png

(ライセンシングプログラムで大会組織委員会との契約上「ライセンシー」である株式会社丸眞は、その製造販売した商品(オリンピック公式グッズ:ウォッシュタオル)にJOCの登録商標「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレムを使用している。)

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IOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないのであれば、そもそも、開催都市契約にはじまり、IOCのパートナーシップ契約からヒエラルキー的に発展しているスポンサー契約まで、法律行為ではなく全て無効ということになる。オリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)以前の問題だ。

IOCとは一体何者なのか?それは、知的財産高等裁判所(知財高裁)に提起されたIOCを相手取った審決不服訴訟(事件番号:令和4年(行ケ)第10065号:「五輪(商標登録6118624)」)で明らかになることだろう。

スイス民法典第60条でIOCは非営利法人格を有する協会(Vereine)だからといって、その公益性はそのまま日本で認められることはないのである。さらにその公益性の認定の前提としてIOCはそもそも一般社団(財団)法人として国内登記されていなければならないのである(大会組織委員会、JOCはその然るべき手続を踏んでいる)。IOCについては、さらにスイス連邦政府の「特権、免責あるいは地位において合意が交わされたその他の国際機関(the agreements on privileges, immunities and facilities concluded with the international organisations)」となっており、「専門機関の特権及び免除に関する条約」に日本国は批准しているが、日本国に於いてその機関を特定する「附属書」にIOCは未だ記載されていない(附属書に記載されている機関:WHOなど)。従って、条約に照らしても、IOCは依然日本に於いては「権利能力なき社団」であり非営利公益法人として認許されていない単なる任意団体に過ぎないということになる。(拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?


87. 準拠法と争議の解決:免除特権の放棄 本契約はスイス法に準拠する。開催都市契約


商標「五輪(商標登録6118624)」はIOC自身が出願人となって日本で登録出願した。

その商標権の争議に於いて裁判管轄権はスイスではなく日本国ということになり、係る「五輪」商標の審決取消訴訟(知財高裁)で初めてIOCはその日本での法的身分(権利能力の有無・非営利公益法人であるのか否か)を問われることになる

万事スイス法で通してきたのに(開催都市・国家にとっては治外法権)、開催都市・国家の法律が当てられる初めてのケースにIOCはさぞ驚いているだろう。誰がIOCに勧めたのか知らないが、「五輪」は迂闊な権利取得であったとIOCはひどく後悔することになるかもしれない。

(おわり)



posted by ihagee at 16:29| 東京オリンピック