「ミライトワ」受注先(サン・アロー)が800万円送金 組織委元理事側に渡った疑いに関連した、商標法上の重大な問題点については先のブログ記事(この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?)にて触れた通りである。
さらに、「サン・アロー」はスポンサーではなく、オリンピックのライセンス商品を販売していた会社であるとの報道までされている。
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公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の「大会ブランド保護基準」では以下の記載がある。
3. オリンピック関連スポンサー
オリンピック関連スポンサーには、IOC のスポンサーであるワールドワイドオリンピックパートナー(いわゆる TOP パートナー)と組織委員会のスポンサーであるローカルパートナーがあり、IOC または組織委員会と合意したカテゴリー(業種)において、オリンピックに関する知的財産の排他的な商業的利用権が与えられています。(下線は筆者)
要するにオリンピック関連スポンサー企業にのみ「知的財産の排他的商業的利用権が与えられて」いるということだ。
「利用権」とは知的財産のうち、著作物(キャラクターなど)の利用許諾に関する用語であって、商標では「使用権」であり、知的財産をオリンピック関連商標とすると正しくは「オリンピック関連商標の商標的使用を許諾している」となる。許諾しているのは商標権者(大会組織委員会)自身も使用可能な「通常使用権」であるから、独占排他権ではない。ゆえに、「排他的」の意味は、オリンピック・パラリンピック関連スポンサーの合法的なマーケティング活動を妨害する「アンブッシュ・マーケティング」を排除する権利=禁止権、の意味である。
平たく言えば、スポンサー企業でない者がオリンピック関連商標の商標的使用を行った場合は商標権侵害となり、商標権者である大会組織委員会は使用差止請求等、法的措置を採るということだ(アンブッシュ・マーケティング対策)。
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アンブッシュ・マーケティング対策がいかに重要であるかは大会ブランド保護基準に以下の記載がある。
アンブッシュ・マーケティングとは、故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者である IOC や IPC、組織委員会の許諾無しにオリンピック・パラリンピックに関する知的財産を使用したり、オリンピック・パラリンピックのイメージを流用することを指します。オリンピック・パラリンピックムーブメントに公式に関与するように見せかけ、そのことによりマーケティングパートナーの合法的なマーケティング活動を妨害し、かつオリンピック・パラリンピックのブランドを損なわせることになります。オリンピック・パラリンピックマーケティングの根本は、オリンピック・ パラリンピックに関する「知的財産」をスポンサーシップ、ライセンシング等の権利として、カテゴリーごとに独占的に企業等に対し販売するものです。したがって、「知的財産」の保護が確立されなくてはマーケティングそのものが成立しません。大会の運営経費の大部分をマーケティングによる財源調達に依存している状況で、「アンチ・アンブッシュ」はオリンピック・パラリンピックの知的財産を守るだけではなく、マーケティング活動の一部として「絶対に不可欠」な要素となってきました。言い換えるなら、万全な「アンチ・アンブッシュ」のための方策が実施されなくては、オリンピック・パラリンピックマーケティングは成立しないのです。
スポンサーシップについてはさらに、大会組織委員会等が作成した「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」に以下記述がある。
もし、パートナー以外の企業や組織がその権利を侵害することになると、このスポンサーシッププログラム構造が崩壊し、東京2020大会の運営やアスリートの育成・強化が困難になる可能性があります。
スポンサーでない企業のオリンピック・パラリンピックの知的財産の使用は侵害である、とはっきり述べている。ゆえに、侵害行為に対しては上述の通り、大会組織委員会は排除する権利=禁止権を行使するとなる。
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「サン・アロー」がスポンサー企業でないことは「大会ブランド保護基準」の「3. オリンピック関連スポンサー」一覧を見れば一目瞭然であり、大会組織委員会自身が認知しているにも関わらず、「サン・アロー」の製造販売した「ミライトワ」等のぬいぐるみ商品には、公式ライセンス商品である旨の大会組織委員会の下げ札が付いている。

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マスコット(著作物)に係るキャラクタービジネス(商品化)では「商品化権」というそのキャラクターに関する著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法、民法などの権利を一括りに総称した業界概念が存在する。しかし「商品化権」という名の権利が法律上存在するわけではない。
知的財産の排他的な商業的利用権も、マスコットなどキャラクター(著作物)について商品化することに於いては「商品化権」と言い換えられている。
拙稿(「商品化権」ですから・・!?)でも触れたが、事業者に商品化権を許諾するとは、表向きマスコット(著作物)の商品化を事業者に認めることであっても、その商品化に於いては知的財産権(例えば、オリンピック・エンブレム=商標権)の使用を前提としている。スポンサー企業以外のオリンピック資産(知的財産)の商業的利用(使用)は侵害行為であるとしたアンブッシュ・マーケティングも、商標法では禁じられている通常使用権の再許諾も「商品化権を許諾する」と言うことで、スポンサー企業以外の者に対しても実質可能にしてしまう脱法的トリックと言える。
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日本オリンピック委員会(JOC)は「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」のライセンス契約の項目には以下記載がある。
契約の可否については、商品化権使用申請書をご提出頂いた後、東京2020ライセンシング事務局と組織委員会において検討し、最終判断を組織委員会が行ないます。
ここに応募し大会組織委員会によって「商品化権」を認められた者であっても、商標法に照らせば商標の使用許諾を受けた者ではないので(その旨の申請ではないため)、商品化(オリンピック・エンブレムなどオリンピック関連商標を付した商品の製造・販売)に於いてその者は商標権侵害を行うことになる。つまり、大会組織委員会は「商品化権」を以って事業者にアンブッシュ(=侵害)を行わせていることになる。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)
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大会組織委員会元理事(高橋氏)の個人的な裁量で公式ライセンス商品である旨の大会組織委員会によるお墨付きの下げ札が付く筈はなく、大会組織委員会は
侵害行為(アンブッシュ)に対して禁止権を行使すべき大会組織委員会が自らその侵害をサン・アローなどスポンサー企業でない特定の事業者に唆していたとも言える
大会組織委員会はアンブッシュ・マーケティングを自ら行い、オリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラム構造を自ら破壊したということである。
「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」などでは到底なく、理事への贈賄を伴う口利きがあろうとなかろうと、大会組織委員会は組織ぐるみで刑法上の犯罪行為(=商標権侵害)をスポンサー

(松本徽章工業株式会社「東京2020オリンピック競技大会公式ライセンス商品」)
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(SEGA「マリオ&ソニック AT 東京2020オリンピック」)
著作権表記:
TM IOC/TOKYO2020/USOC 36USC220506.2019 IOC. All Rights Reserved.
NINTENDO.
SEGA.
SEGAはIOCのライセンシーであるInternational Sports Multimediaからオリンピック公式ゲームソフトの開発・販売に関するライセンスを取得。
スポンサー企業でもないNintendoは、そのキャラクター「マリオ」をSEGAの取得したライセンスにフリーライドさせるというオマケまで付いている。
ちなみに、リオ・オリンピック閉会式におけるリオから東京への引き継ぎセレモニーで安倍首相=当時、がスポンサー企業でもないNintendoのマスコット=マリオのコスプレで現れることができたのも、IOCのサブライセンシーであるSEGAのゲームソフトの一コマの実演と考えれば腑に落ちる。
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アンブッシュ・マーケティングを厳しく取り締まる立場にある大会組織委員会が、著作物に係る「商品化権」なる実定法に基づかない概念で脱法的にスポンサー
(おわり)
追記:
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「ライセンシー」という項目があり、多くの企業名と共にサン・アローが
記載されている。ちなみに高橋元組織委理事の収賄容疑で名前の上がった「コモンズ2」も「ライセンシー」となっている。また、上掲の「松本徽章工業株式会社」も「ライセンシー」である。
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商品化権許諾上の「ライセンシー」は、商標法に照らすと重大な法令違反がある。(次回記事:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、にて詳述)
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