
東京2020オリンピック・エンブレム
商標登録番号: 6008759(図形)
商標権者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会
区分: 1-45 計45区分
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2022年9月22日付朝日新聞 DIGITALに「ミライトワ」受注先が800万円送金 組織委元理事側に渡った疑いなる記事が掲載されている。
東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件で、公式マスコットの「ミライトワ」や「ソメイティ」のぬいぐるみを製造・販売した「サン・アロー」(東京都千代田区)が、大会組織委員会の元理事・高橋治之容疑者(78)=受託収賄容疑で逮捕=側に約800万円を支出した疑いがあることが、関係者への取材で分かった。関係者によると、同社幹部らは、東京五輪でも公式マスコットのぬいぐるみを製造できるよう、2018年ごろに高橋元理事に「今回もお願いします」と依頼したという。マスコットは「ミライトワ」と「ソメイティ」に決まり、組織委は、価格帯を分けてサン・アローと別の会社の2社を承認した。その後、サン・アローは高橋元理事のゴルフ仲間の知人が経営する会社に資金を送金。さらに知人の会社側から高橋元理事に、現金で約800万円が渡った疑いがあるという。
(記事抜粋ここまで)
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高橋元理事の受託収賄容疑に係る記事内容であるが、商標法に照らすと以下の重大な問題が浮かび上がる。
先ず第一に、公式マスコットのぬいぐるみの製造販売は大会組織委員会の所有する商標権の使用ということ、サン・アローは大会組織委員会との契約で使用許諾を受けたライセンシーであることである。
使用されている商標権:

(大会マスコット 商標登録番号 6076124)

(東京2020オリンピック・エンブレム 商標登録番号 6008759)
使用態様(オリンピック・エンブレムに着目):

(大会マスコットおよび商品の下げ札に付されたオリンピック・エンブレム)
商標の使用区分:第28類(おもちゃ、遊戯・運動用具)
先ず、オリンピック・エンブレムは公益著名商標として登録されている。そして記事内容の時系列に従うと、大会組織委員会がサン・アローとの間で係る商標の使用許諾を含むライセンス契約を行ったのは商標法第31条第1項の改正前(2019年5月27日に施行以前)であるから、改正前の商標法第31条第1項が該当し、同項で認められていなかった公益著名商標の使用許諾且つ違法ライセンス契約ということになる。この違法状態は商標法改正(改正によって公益著名商標の通常使用権は許諾可能となった)によって遡及的に解消されるものではない(商標法は強行法規であるゆえ)。
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第二に、オリンピック・エンブレムは、2 以上の文字,図形,又は記号の組み合わせからなる「結合商標」であり、結合商標はその構成要素が各々単独で商標として自他識別機能を有するということ、その構成要素が各々単独で出所表示機能を有するということ(権利の帰属および使用主体)、である。
組市松紋の図形要素

は、単独で商標として商標登録番号: 6008751(図形) 商標権者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 区分: 1-45 計 45 区分、
TOKYO 2020の文字要素

は、単独で商標として商標登録番号: 5626678(標準文字) 商標権者:公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 区分: 1-45 計 45 区分
オリンピック・シンボルの図形要素

は、単独で商標として商標登録番号: 1026242(図形) 商標権者:コミテ アンテルナショナル オリンピック(IOC) 区分: 2,8,13,15,20-24,26,27,31,33,34,45 以外の計 30 区分
従って、自他識別機能および出所表示機能が組市松紋およびTOKYO 2020とオリンピック・シンボルとの間では一致していない。オリンピック・エンブレムは大会組織委員会が商標権者であるから(出所:大会組織委員会)、オリンピック・シンボルの図形要素は他人(=IOC)の商標であり、それらの結合商標たるオリンピック・エンブレムについての類比判断に於いて明らかに他人(=IOC)の商標が分離観察される。また、需要者が通常有する注意力を以て全体を見た場合、オリンピック・シンボルを先ず認識するのであれば、出所表示機能に於いて混同を生じるものとなる(大会組織委員会の商標であるのに、IOCの商標であるかに誤認する)。
このように構成要素間で、自他識別機能および出所表示機能に於いて不一致・混同を生じる結合商標は、そもそも登録し得ない。オリンピック・エンブレム以外にそのような登録事例は存在しないのである。たとえ、その他人(=IOC)が大会組織委員会と同様に非営利公益団体でありその目的事業が非営利公益事業でありその事業目的に於いてオリンピック競技大会が共通しているのだから不一致・混同は生じ得ず、ゆえに問わないというのであれば、IOCの公益性は日本の法律(公益法人制度関連三法)によって認定されていなければならない。スイス民法典第60条でIOCは非営利法人格を有する協会(Vereine)だからといって、その公益性はそのまま日本で認められることはないのである。さらにその公益性の認定の前提としてIOCはそもそも一般社団(財団)法人として国内登記されていなければならないのである(大会組織委員会、JOCはその然るべき手続を踏んでいる)。
IOCについては、さらにスイス連邦政府の「特権、免責あるいは地位において合意が交わされたその他の国際機関(the agreements on privileges, immunities and facilities concluded with the international organisations)」となっており、「専門機関の特権及び免除に関する条約」に日本国は批准しているが、日本国に於いてその機関を特定する「附属書」にIOCは未だ記載されていない(附属書に記載されている機関:WHOなど)。従って、条約に照らしても、IOCは依然日本に於いては「権利能力なき社団」であり非営利公益法人として認許されていない単なる任意団体に過ぎないということになる。
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また、構成要素間で商標の使用区分も一致していない。
例えば、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標では第15類の楽器は指定区分から除外されているが、その他の構成要素に係る商標(組市松紋およびTOKYO 2020)およびオリンピック・エンブレム自体の使用区分は全区分(45区分)が指定され登録されている。
ところが、東京大会公式ライセンス商品「伝統工芸コレクション」として販売されていた

「東京三味線 小じゃみせん」 <東京都伝統工芸品>は第15類の楽器でありオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標の指定区分には含まれていない。需要者が通常有する注意力を以て全体を見た場合、オリンピック・シンボルを先ず認識するのであれば、第15類の楽器が指定されていなくとも、オリンピック・シンボルが三味線に使用されているといった取引の実情を需要者の間に広く認識されていればともあれ、そうではないのであるからオリンピック・シンボルの要素は商標として機能し得ないということになるのではないか?
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第三に、結合商標はその構成要素が各々単独で商標として機能し得るのであるから、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標はIOCにその権利が帰属する。結合商標としてオリンピック・エンブレム商標の権利は大会組織委員会に帰属しその使用を第三者に許諾すると、結果としてオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標は大会組織委員会を介してその第三者(サン・アロー)に再許諾(サブライセンス)したことになる。
つまり、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標に着目すれば、たとえIOCとの間で適法な通常使用権者であっても(大会組織委員会)、その通常使用権を他人(サン・アロー)にさらに許諾(サブライセンス)することは商標法上できないということである(商標法違反)。私契約上、禁止権の不行使をサン・アローとの間で大会組織委員会が定めたとしても、サン・アローをオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標について、IOCの商標権を侵害する状態に置くことになるに変わりがない。「東京三味線 小じゃみせん」の場合では東京都(または葛飾区伝統産業職人会)がそれに該当する。
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第四に、自他識別機能および出所表示機能に於いて不一致である結合商標であっても、その構成要素ごとの事業者の共同事業に用いる商標であれば不一致にならないとも考えられる。つまり、大会組織委員会およびIOCの共同事業(オリンピック競技大会)に用いる商標であるのだから、その共同事業体(それ自体は権利能力なき任意団体)の構成員として大会組織委員会が代表して商標登録出願を行うことは妥当であるということである。共同事業体ゆえに総有的に商標権は事業体の構成員全員(大会組織委員会およびIOC)に帰属し、共同事業体の内部関係においてまで「他人」とみなし、商標法上の自他識別性や不正競争防止法を適用することは同法の予定していないところである、という平成15年(ワ)第19435号 不当利得返還請求事件での判示に照らせば、自他識別機能および出所表示機能に於いて不一致である結合商標(オリンピック・エンブレム)であっても、その構成要素ごとの事業者の共同事業に用いる商標であれば不一致と見做さないということである。
しかし、共同事業体となると、「外国法人が共同事業に参加していると認められた場合には、当該外国法人は源泉地国内に恒久的施設を有することとなるとした課税当局の判断である」といった問題が発生する。この外国法人はすなわちIOCであり、「恒久的施設を有する」IOCはその事業所得について法人税が課されることになる。オリンピック憲章および開催都市契約ではIOCが「開催都市、NOC、および OCOG は、IOCは開催国における恒久的施設の創設義務、または何らかの種類の現地法人の設立義務から免除されることを表明および保証し、政府がこれを確実に実施するようにする。」旨定められており、そもそもIOCは共同事業体の構成員足り得ない。
共同事業体の構成員に総有的に権利が帰属する商標は団体商標制度が担っているのであるが、商標「五輪」の異議申立事件で特許庁は登録の根拠条項を商標法第4条1項6号(公益著名商標)および2項と明らかにしており、オリンピック・エンブレムも公益著名商標として登録したわけであるから、共同事業体を前提とし得ないわけである。
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オリンピック・エンブレムがその構成要素に係る商標権が異なる者(大会組織委員会およびIOC)にそれぞれ帰属するのだから、商標登録出願時に大会組織委員会およびIOCが各々権利持分を記載して共同出願すれば良かったのかもしれない。その場合でもIOCは権利主体となるために国内登記が必要となる。その要件を未だIOCは満たしていない。すなわち、日本の法律ではIOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないのである。
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IOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないという本源に立ち返ると、そもそも、IOCのパートナーシップ契約からヒエラルキー的に発展しているスポンサー契約まで、法律行為ではなく無効ということになる。そのヒエラルキーの最上位(IOCと直接パートナーシップ契約を結んだトヨタなどの企業だけがオリンピック・シンボルを使用することが可能)のみならず、その最下層(そこでは「商標権」とは言わず、「商品化権(実定法にない商取引上の概念)」の使用と言い換えられている)にまでなぜ結合商標なりにオリンピック・シンボルが使用可能であるのか疑問に思わなくてはならない(最下層のサン・アローは結合商標なりにオリンピック・シンボルをなぜその商品に使用できるのか?)。

(IOCと直接パートナーシップ契約を結んだトヨタなどの企業だけがオリンピック・シンボルを使用することが可能)
契約当事者に本来なり得ないIOCと、東京都およびJOCとの間の開催都市契約自体が法律的に無効ということにもなる。
大会組織委員会とスポンサー企業との間の東京五輪・パラリンピックをめぐる汚職事件(受託収賄・贈賄事件)ばかりが取り沙汰され、「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」とIOCは我関せずであるが、それでは「木を見て森を見ず」であり、商標法や一般法たる民法の観点から法律関係を精査すると、IOCファミリー全体の違法行為を容易に見出すことができるのである。スポンサーシップの最上位から最底辺まで貫くオリンピック・シンボル(=IOC)という横串こそが違法性を象徴(シンボル)していると言えよう。
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係るオリンピック・エンブレムについては特許庁に無効審判が請求されている。詳しくは以下動画を視聴願いたい。
(IOCファミリーの違法行為を直接問う! オリンピックエンブレムの無効審判)
(おわり)
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