今、twitterでは「#本物の国葬」がトレンドとなっている。自虐史観だ、そもそも他国の元首の国葬と比較すること自体、安倍元首相を貶めようとする魂胆がある、と噛み付くスレッドもあるがそれは見当違いだ。
8月30日に死去したミハイル・ゴルバチョフは旧ソ連邦の元首であり東西冷戦を終結に導いた偉業(西側の評価)にもかかわらず労働組合会館「円柱の間」での告別式となった。ロシア大統領府儀典局は儀仗兵を充てるなど国葬に準じた形を取ったものの国葬ではなかった。その功罪に対するロシア国民の大方の評価(総意)が良くも悪くも正しくその葬儀に反映されたとも言える。唯一その告別式に参列した高位の外国政治家はハンガリーのオルバン・ヴィクトル首相だけで、そのオルバンもプーチン大統領との会談もなく、弔問外交すら予定されなかった。そのような葬い方が大多数のロシア国民にとって相応しいのであればそれも正当なのである。
イギリスでは国葬は国会に諮られて行われる。また、国葬までの準備は周到に計画される。議会制民主主義の手続を踏むことが即ち、その国葬の正当性である。君主(エリザベス女王)と雖もこの例に漏れない。
ゆえに「#本物の国葬」とは、その国葬に正当性(国民の総意)があるか否かというだ。
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翻って、安倍晋三元首相の「国葬儀」にはその正当性がない。第一にそれを「国葬」と呼ばない。なぜなら、根拠となる法律が存在しないからだ(「国葬儀であって国葬ではない(岸田)?!」)。根拠法であった「国葬令」は失効した上、そもそも「国葬令」は勅令(天皇が直接発する命令)であり統治権が天皇にあった旧憲法の法形式であるから、内閣府設置法を旧憲法の法形式でしか存在し得ない「国葬」に当て嵌めることはできない。内閣府だけで決定する儀礼(葬儀)は実質「内閣葬」であって「国葬」足り得ない(「国葬の場合には立法、行政、司法三権に及ぶ」吉國一郎内閣法制局長官見解)。閣議決定による「国葬」の先例とされる吉田茂国葬は、法律的にも制度上にも国葬についての規定がないので「国葬儀」であった。

儀式の執行規定に過ぎない内閣府設置法を儀式を創出する規定と無理やり解釈し、岸田内閣は内閣葬ではなく「国葬儀」とそれを称している。法律上「国葬」と言えないのである。すなわち、国葬ではない紛い物なのである。
第二にその決定は議会制民主主義の手続を踏んでおらず違憲である。すなわち、国会に諮らず内閣府で挙行が決定され、議会制民主主義の手続を踏まずゆえに国民の意見を何一つ聞いていない。ゆえに、その国葬に正当性はない。
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国葬紛いの正当性のない儀礼(国葬儀)に各国首脳が馳せ参じるわけにはいかないのは当然のことだ。
また、安倍元首相が反社会的団体(旧統一教会)と少なからぬ関係を持ち、その団体への怨恨を持つ者によって殺害されたことは世界中のメディアが伝えている。反社会的団体と接点のある政治家というだけで欧米首脳の足がその葬儀から遠ざかるのは当然な上、8日の閉会中審査で、安倍元首相と教団の関係を調査すべきだと指摘された岸田首相は「お亡くなりになった今、確認するには限界がある」と繰り返し曖昧なままにすることは、反社会的団体に対する法律が存在する国々からすれば、むしろ公権力への反社会的団体の浸透ぶりと受け取られることである。

(世界平和統一家庭連合(旧・世界基督教統一神霊協会)の関連団体・国際勝共連合の月刊誌「世界思想」の表紙を飾る安倍晋三首相=当時。画像出典:山崎 雅弘氏 Twitter 国際勝共連合なる政教一致の政治団体の思想に少なくとも共鳴し広告塔となるような行為をしていたことなどは容易に確認できる。)
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国葬儀は法律的に全くの無理筋であるばかりか、反社会的団体と公権力との関係をむしろ象徴する儀式ということだ。それでも敢えて挙行することは、日本を貶めることに他ならない。自虐を言うのであれば、国葬儀を挙行することが自虐なのである。議会制民主主義の否定に発した国葬儀を強行しようとしている岸田内閣および政権与党たる自由民主党は自ら反社会的勢力たるを明らかにしている。まさに語るに落ちるということだ。
ゴルバチョフ財団は長きにわたり統一教会の資金で運営され、ロシア国内での同教会の活動を手助けしていたことは知られている。ゴルバチョフ自身も漢南洞の文鮮明の家を訪ねている。プーチン政権は、ネオナチ勢力(セクト勢力)への新たな対テロ法として、新興宗教勢力に対する布教活動や私的な参拝を禁ずるとしロシア国内における統一教会の活動は事実上不可能となった。また、そのゴルバチョフ財団の資金を元に発刊されていたロシアの独立系新聞「ノーバヤ・ガゼータ」について、モスクワの裁判所は軍事機密をNATO=北大西洋条約機構側に漏らしたとして、新聞発行の認可を取り消す判断を示した。ゴルバチョフ氏に対するロシア国内での「反逆者、自国民への裏切り者」なる評価の一部にこの統一教会との繋がりが関係していることは否めない。あのロシアですら、統一教会と政治の関係を精査しているのである。ゴルバチョフを国葬としなかった理由の一つでもある。
(おわり)
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