2022年03月23日

ゼレンスキーの「盾」は高くつく



「ロシア軍は我々を殲滅させ、殺害するためにやって来た。そして我々は国民と軍の威厳を見せつけることができている。我々は大きな打撃を与えることができ、反撃することができるのだと。だが残念ながら、我々の威厳で命を守ることはできない。従って我々はどんな形であれ、いかなる機会をも利用して交渉の可能性をつかみ、プーチン(大統領)との対話の可能性をつかまなければならない。だがもしその試みが失敗すれば、それは第3次世界大戦を意味する」(ゼレンスキー大統領・2022年3月20日CNNの単独インタビュー

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「もしその試みが失敗すれば、それは第3次世界大戦を意味する」なる発言。2国間の戦闘は「第3次世界大戦」に繋がるとゼレンスキーは警告している(CNN記事に拠ると)。

ウクライナ戦争がなぜ第3次世界大戦に発展するのか、その因果関係に十分な証拠はない(非因果的誤謬 Non Causa Pro Causa)。昨年あたりからNATO加盟を目論見「ウクライナはヨーロッパの盾」と言っていたその主張者(ゼレンスキー大統領)がNATO加盟の見込みがなくなるや、今度は世界をウクライナ戦争の「盾」にしている点にこの誤謬のドミノ倒し的な怖さ(すべり坂論法 Slippery slope)がある。

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ゼレンスキー大統領は21日、ロシアとの停戦交渉で、すでに占領された地域の帰属など重要な項目の決定については、国民投票を実施する必要があるとの考えを明らかにした。「殲滅(させられる)」と表現するような戦争の下であたかも平時の如く国民投票が実施可能と言うのはいささか腑に落ちないが、ゼレンスキー大統領は対露交渉の内容は国民に問う(国民投票)と言いながら、交渉失敗の責は戦争当事国(ウクライナ・ロシア)ばかりではなく、世界に帰す(戦火が及ぶ)と言うに等しい(「第3次世界大戦」がその結果と言うのであれば)。

ウクライナ国民の総意は世界市民の総意と同じだと考え(偽の合意効果False consensus effect)、自分の考え方を世界に投影し、失敗と否定的な行動の重荷を世界全体に負わせることである(自己中心性バイアス Egocentric bias)。ゆえに「第3次世界大戦」と言って世界を「盾」に取る。

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歴史上初めて、日本は軍隊を支援した(コルスンスキー・ウクライナ駐日大使)

”本日、ウクライナ政府に防弾チョッキ、ヘルメット、テント、防寒着、医薬品、発電機、カメラなどの軍用の無料の保護兵器を提供することについて、ウクライナと日本の間の意見交換の形で政府間協定が調印されました。防衛省はまた、保護兵器を組み立ててウクライナに送る方法を示しました。” 「このような行為が行われたのは、日本史上初めてのことです」とコルサンスキー大使は語った。

(Ukranews.com/ ウクライナ 2022年3月9日付記事

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コルサンスキー大使に言わせれば、保護兵器の提供を以って「日本は軍隊を支援した」ことにいつの間にかなっている。軍隊を支援しているのだからと、ウクライナは軍事目的での人工衛星データの提供を日本に求めている。

”ウクライナが日本に人工衛星データの提供を求めていることが分かった。高精度の画像を集め、ロシア軍の動向の把握に活用する狙いがあるとみられる。日本は悪天候でも地表の鮮明な情報を取得できる「合成開口レーダー(SAR)」を搭載した衛星を官民それぞれで運用している。提供の可否はウクライナの情勢を見極めた上で政治判断する。”(日本経済新聞2022年3月17日記事

「衛星データの提供というものは、単に情報を提供するだけではなく、所要の分析力及び他情報との融合、すなわち軍事能力の一部提供を含むものであることは世界の常識である。紛争に関与する覚悟を持って実施すべきものなのである。アメリカが衛星情報を含め、情報支援を行っていることを表沙汰にしない理由はそこにある。」

しかし、ウクライナ政府も日本政府もそれをすでに表沙汰にしている。もし日本がデータ提供に応じれば、日本は紛争に関与することとなり、「戦争への明らかな加担と捉えられ、ロシアから何らかの報復を受ける可能性もゼロではない。」(サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄氏 / 2022年3月22日付フィスコ記事

ゼレンスキー大統領と同じく、コルサンスキー大使も、ウクライナ国民の総意は日本国民の総意と同じだと考え(偽の合意効果 False consensus effect)、自分の考え方を日本国民に投影し、失敗と否定的な行動の重荷を日本に負わせるようとしている(自己中心性バイアス Egocentric bias)。それが「絶えず戦争をする国」の常套なのか?

「ウクライナ人は、サムライみたいに自分の国を守る意識が強い(コルサンスキー大使・ハフポスト日本版 2022年2月15日付記事

侍が守るのは国などではない。徳であり忠義であるが(それにしても「侍」?いつの時代なのか?!フジヤマゲイシャと同じこの欧米人の陳腐化した日本人観には辟易する)、甲冑を纏った「サムライ」なる薄っぺらなアイコンを以って「絶えず戦争をする国」と同じ価値観で日本人を観ている。駐日大使でありながら日本人を観ず、ウクライナ人を都合良く重ねて観てもらっては困る。

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”ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナはロシア国民と戦争をしておらず、ウクライナの領土に侵入したロシア軍とのみ戦争をしていると述べている。”(GORDON/ウクライナ 2022年3月22日付記事

しかし、ゼレンスキー大統領はそのロシア国民を標的とした対露経済・金融制裁など、あらゆる制裁をロシア国民に下すよう国際社会に呼びかけている。国際社会でのロシア人全般に向けたヘイトスクラム(スポーツ・芸能文化でのロシア人排斥)となることも構わないとするのなら、ウクライナも「正義」(戦争での正義)を捨て(拙稿「ほぼ全ての戦争がメディアの嘘の結果である(続き)」)、実質はロシア国民と戦争をしていると変わりがない。事実、ウクライナの生命や財産の防衛の意味=戦争での正義、をすでに超えて「盾」を世界中に売りまくっている。

ゼレンスキー大統領の日本向けビデオ演説では「北方領土返還で共闘」などと言って日本をロシアとの戦争の「盾」に取るかもしれない=ロシアへの言いがかりの材料にするかもしれない。ゼレンスキー大統領の売り込む「盾」は、私たちのポケットから支払う「盾」である...。すでに領土交渉も平和条約締結もその「盾」の代償として泡と消えた。国益と引き換えのゼレンスキーの「盾」はすでに酷く高くついているが、我々の血をもって支払う「盾」であってはならない。

「戦争をしない国と、絶えず戦争をする国の価値観が同じはずがない(日本経団連の元専務理事・品川正治氏:故人)」。ゆえに、後者の価値観をその世界に売り込んで止まない「盾」と共にゼレンスキー大統領に我が国に持ち込ませてはならないのである。

ゼレンスキー大統領は典型的なポピュリスト(=多数派論証者)に私の目には映る。多くの人々が信じている、支持している、属している等の理由だけで、事実(事象)がなくとも多くの「真実なるもの」が人々の心の中で形成されていく誤謬を彼は意図して利用している。針小棒大=話半分に聞く・眉に唾をつけるが、この誤謬では全く通用しない。

この誤謬に於いてメディアの利用の仕方(メディア・バイアスの用法)をゼレンスキー大統領(おそらくそのブレーン)は恐ろしいほど心得ている。旧ソ連時代からのある意味古めかしいイデオロギー主義政治の系譜にあるプーチンにとって、感情や個人的な信条によって表されたものの方が重視されて影響力を持つ(誤った等価関係 False equivalence)ポスト・トゥルース(post-truth)の寵児たるゼレンスキーは嘗てない強敵に違いない。大統領演説(2022年2月24日)の静的な論理、かたや、ゼレンスキー大統領のビデオ演説での動的な感情の違いでもある。

多数派論証誤謬は容易に「集団思考」を招き 「満場一致の幻影」という現象が現れて、「コンセンサスによる真実 Truth_by_consensus」となり、論点をすり替え、無関係な結論を導く危険性がある(燻製ニシンの虚偽 Red herring)。何の因果関係を立証することなく、ウクライナ戦争が第3次世界大戦に飛躍する(「第3次世界大戦」を軽々しく口にする)、その「祖国ばかりか、世界を戦争に巻き込む破壊的なポピュリスト」の側面である(「ゼレンスキーは英雄か、世界を大戦に巻き込むポピュリストか」Newsweek 2022年2月27日付記事)。

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参照:認知バイアスマップMindMeister

認知バイアスマップ Cognitive bias map(Re nomor 2022 コピーライトマーク️ ver.1.0):


(Re nomor 2022 コピーライトマーク️)


(おわり)








posted by ihagee at 03:27| 政治