2021年09月20日

遂に「IOCを相手取った」登録商標『五輪』無効審判が請求された!



IOCの登録商標『五輪』(商標登録第6118624号)に対する無効審判請求書を、2021年9月13日付で特許庁に提出された(柴大介氏ブログ記事「IOC登録商標『五輪』無効審判:2021年9月13日に請求書を提出しました」参照)。

すなわち、IOCの登録商標『五輪』が商標登録される前の審査段階で登録要件を満たしていなかったことを指摘し、係る商標の登録は無効にされるべき旨、IOCに対して主張する(「IOCを相手取った」)特許庁の手続の一つである。請求人と被請求人が直接対峙する当事者系審判である。これら当事者が直接対峙する場となる口頭審理は誰でも傍聴可。

請求人:柴大介(弁理士)、三木義一(弁護士、前青山学院大学学長)、伊神一(税理士)
請求人代理人:柴大介(弁理士)、三木義一(弁護士)
被請求人:コミテ アンテルナショナル オリンピック =IOC

請求の趣旨:登録第6118624号商標の第41類の全指定商品・役務の登録
を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。

無効理由:
理由1:商標法第3条第1項柱書違反
理由2:商標法第3条第1項第2号
理由3:商標法第4条第1項第6号
理由4:商標法第4条第1項第7号
理由5:商標法第4条第1項第10号

無効理由の中での主なポイント(柴大介氏ブログ記事「IOC登録商標『五輪』無効審判:審判請求書を受け取ったIOCが何を思うか」から引用:
 A.商標法第3条1項柱書違反(IOCは商標として『五輪』を使用していない
 B.IOCが非営利公益団体でないことを理由とする商標法第4条1項6号該当
 C.IOCが違法ライセンスをしていたことを理由とする商標法第4条1項7号該当(公序良俗違反
注:下線筆者

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登録第6118624号商標: 「五輪」

無効審判請求書(受領印有):二頁以降全文PDF

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” IOCのバッハ会長がこの無効理由を読んだら卒倒するのではないでしょうか。

 「おいおい、話が全然違うじゃないか、
  IOCが『五輪』を使用していない???
  IOCが非営利公益団体ではない???
  IOCが公序良俗に反する???
  いったい何ですかこの破廉恥な無効理由は!」”
(柴大介氏ブログ記事「IOC登録商標『五輪』無効審判:審判請求書を受け取ったIOCが何を思うか」)

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そもそも、日本語文化圏にないIOCがその文化に深く根付いた『五輪』なる文字を知っている筈がなく、また使える筈もない。逆に言えば、日本語文化圏にある我々の同胞がIOCが知りもしない『五輪』に熨斗をつけて恭しく献上したということである。

実質、無審査で登録査定できるようにお膳立てをしたのは他ならぬ特許庁であって、そのようにあずかり知らぬ所で勝手に膳立て忖度されたIOCにとっては、まさに寝耳に水の話であろう。寝耳に水であろうとも、登録商標『五輪』の商標権者はIOCに他ならず、膳立て・忖度した特許庁に代わってIOCが「請求人の主張は成立しないと反論」しなくてはならない。

IOCにとっては面汚しになり兼ねないこの無効審判請求も、その面汚しの遠因に日本政府の保証がある。すなわち、オリンピック・パラリンピックに関する主な知的財産の法的側面についてIOCに対し以下の通り現行法制下で「(IOCは)万全の保護を受ける」旨の政府保証を行っている。

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オリンピック・マークの保護:

4.3 立候補都市とそのNOCは、オリンピック・シンボルと「オリンピック」「オリンピアード」の2語、オリンピック・モットーがIOCの名のもとで保護されていること、及び/又はIOCの要求通りにIOCの名のもとで政府及び/又は所轄官庁から適切かつ継続的な法的保護を取得済み又は取得予定であることを保証しなければなりません。オリンピック・シンボル、エンブレム、ロゴ、マークその他のオリンピック関連マーク及び名称を保護する貴国の現行の法的措置について説明してください。上記の課題に関して貴国の政府から既に提供された協力について述べてください。IOCの名のもとに上記のオリンピック関連マークや名称を保護するため、必要なすべての法的措置が講じられていること、又は講じられる予定であることを示す貴国の政府による宣言書を提出してください。パラリンピック・マークと「パラリンピック」の用語についても、IPC及びIOCの要求通りに等しく保護されることが保証されなければなりません。開催候補都市は,Undertaking にて IOC に誓約したことについて政府保証も提出しなければならない

2020 Candidature Procedure and Questionnaire(2020 年オリンピック開催候補都市になるための手続きが記載された書類)(May, 2012)



知的財産権保護制度の確立
日本は、世界有数の知的財産権保有国である。そのため、日本国政府は、知的財産権保護の重要性・必要性を強く認識し、これまで特許権、商標権、意匠権、著作権等の知的財産権の保護に積極的に取り組んできた。日本国政府は、パリ条約、商標法条約、マドリッド協定議定書等に加盟するとともに、これら国際条約を遵守し、知的財産権を適正に保護するため、特許法、商標法、意匠法、著作権法、不正競争防止法など、知的財産権の保護に極めて効果的な法令を既に整備している

オリンピック・マークの保護
オリンピック・マークは、商標法及び不正競争防止法によって法的保護を受ける。日本においては、オリンピック・シンボル、「オリンピック」「オリンピアード」の2語及びオリンピック・モットーは、現在、商標法により、オリンピック競技大会、IOC及びJOCを表示する著名な標章として、第三者がこれと同一又は類似の標章を商標登録することは認められない。IOCの尊厳と信用を保護するため、不正競争防止法により、IOCの許可を受けた場合を除き、第三者がこれらのオリンピック・マークを商業上使用することは禁止されている。2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のために制作されるエンブレム、マスコットなども、同様に、商標登録等の手続により、万全の保護を受ける
(東京2020オリンピック・パラリンピック招致委員会が2013年1月7日にIOC本部に提出した立候補ファイル中、「法的側面」について)

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文字標章『五輪』とオリンピック表示標章(オリンピック・シンボル)は互いに類似する。ゆえに、文字標章『五輪』の商標法及び不正競争防止法による万全の法的保護について、日本政府はIOCに誓約し保証したことになる。しかし、今般の無効審判請求での

 A.商標法第3条1項柱書違反(IOCは商標として『五輪』を使用していない
 B.IOCが非営利公益団体でないことを理由とする商標法第4条1項6号該当
 C.IOCが違法ライセンスをしていたことを理由とする商標法第4条1項7号該当(公序良俗違反

それらの点についての反論は一切合切、IOCが行わなくてはならず、反論ならず事理明白となれば「万全の法的保護」とは真逆の無効審決となる。その一部始終(口頭審理)は誰もが傍聴可能ゆえに、IOCにとってこれはまた「世間の口に戸は立てられぬ」ことになる。

そもそも寝耳に水の理由で無効審判を請求されること自体が、メンツや権威に拘るIOCなる貴族集団にとっては面汚しな上、その審理の一方の当事者になることはIOCにとって憤懣遣る方無いに違いない。

商標制度を知らぬ一般大衆にとっても、「IOCを相手取った」となれば「ぼったくり男爵」への積もり積もった恨みや不満について多少なりとも溜飲が下がるというものだ。また、日本語文化に熨斗をつけてIOCに献上した者が誰か(特許庁だけではなく)も詳らかになる(週刊誌ネタ)。ゆえに、早晩、この「IOCを相手取った」登録商標『五輪』無効審判は一般紙の社会面を飾り世間の話題となることだろう。いずれにせよ、我々が長年自由に使ってきた『五輪』なる文字を突然IOCが商標法上私有することについて、この無効審判の審決次第では再び公有(パブリックドメイン)となる可能性や意義は大きい。ぼったくった『五輪』なる文字を日本人に返せ!とIOCに面と向かって主張することだが、その審理の過程でIOCは自らの素性(特に上述のB)を明かさなくてはならないジレンマに陥る。非営利公益団体でないという素性が事理明白になれば、我々の税金をIOCなる営利私益団体に投入したことになる。そんな受益なき負担は許されようがない。

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「次回から、無効審判請求書の無効理由について、少しづつ解説していこうと思っています。」

無効審判審理の経過(口頭審理は誰でも傍聴可)と共に「特許の無名塾:五輪知財を考える(弁理士:柴大介)」の今後の解説を注視されたい。

(おわり)


posted by ihagee at 07:01| 東京オリンピック