「ファイザーから各国選手へのワクチンの無償の提供が実現し、さらに選手や大会関係者と一般の国民が交わらないようにするなど、厳格な感染対策を検討しております。こうした対策を徹底することによって、国民の命や健康を守り、安全・安心の大会を実現することは可能と考えており、しっかり準備をしていきたい、このように思います。(菅首相・2021年5月14日官邸記者会見から)」
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菅首相ばかりでなく開催を主張する者たちが二言目には「安全・安心」と言う。
「安全」とは科学的見地から客観的にリスクを確率分析し数値化しリスク評価を行い、生活環境や経済活動と照らし社会全体で尚も許容可能なリスクと判断すること(一定の安全措置・防護措置を講じてもなくすことができない残余リスク=ゼロリスクはあり得ない、を社会全体で尚も許容可能なリスクなのか判断すること)。
「安心」とは心理的要素。安全への不安を金銭的に贖うことで心が落ち着き安んじることである。不慮の事故や病気といったリスクに備え保険を(カネで)買って得る(補償)「安心」と言ったらわかりやすい。
似ているようで全く異なる概念の「安全」と「安心」をあたかも同義に政治家は使い、我々も政治家の常套句か美辞麗句であるかに「安全・安心」に慣れきっている。
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「安全・安心の大会」と言うからには、数値的に可視化した残余リスクを示し、それが社会全体で尚も許容可能な範囲か否か(「否」=危険)客観化して初めて「安全」という言葉を使うことができる。尚且つ、「安心」と言うのならば、残余リスクについてそのリスクが顕在化した場合(特に公衆衛生上)、補償を行うことを予め事業を行う者は契約的に明示し我々の不安な心を安寧にしなければならない。
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新型コロナウイルスは変異し続け科学的知見は日々更新されている。知見に基づいて科学的評価も同様に更新され、その状況下で行われる事業について公衆衛生上「安全」か「危険」かの判断も刻々変えざるを得ないが、その判断にはタイムリミットが存在する。
補償の明示は、国なり東京都と事業者(IOC、またはIOCの事業委託先の大会組織委員会)との間で、過失・無過失を問わない賠償責任(瑕疵の予見可能性に基づく)、賠償の範囲、賠償額の算定基準/方式を事前に取り決め、国民・都民に契約的に明示することで初めて「安心」と言える。その明示があってこそ事業者(IOCまたは大会組織委員会)との間でリスクの定量化、安全/防護措置などを強化することができる。瑕疵の予見可能性(通常予想される危険)も蓋然的に認められることになる。
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損害賠償(違約金含め)はもっぱら開催中止の場合のIOCの逸失利益(事業損失)について語られているが、とんでもない。その事業の公衆衛生への残余リスクを評価し、なおも「開催」とするのなら予想する危険に応じた「補償」を事業者(IOCまたは大会組織委員会)に求めるべき立場にあるのは我々の側である。それすらも(事業に場所を提供する)開催都市側に請求権がない(開催中止の場合)開催都市契約の内容であれば、都民の「安心」すらもないIOCまたは大会組織委員会の事業ということである。
科学的知見を政治的に都合良く解釈利用してきた安倍=菅政権の「開催」の二言目には「安全」は「必要」だから「安全(に決まっている)」と言っているに等しく、さらに開催都市・国家の都民・国民の不安すら補償を以って事業者側(IOCまたは大会組織委員会)が「安心」で担保しない開催都市契約では、そもそも「安全」でも「安心」でもない。
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エネルギー政策上「原発は必要なものだ。だから安全だ・・・(と聞かされた)(前福島県知事の佐藤栄左久氏)」が結果としてもたらした未曾有の原発事故はかかる「安全」が「神話」でしかなく「安心」は「空気」でしかなく、その事故責任はおろか実害も補償もその通り雲散霧消・等閑のまま今に至っている。
科学の原理原則に基づくマネージメントがなく、さらに残余リスクから被害を想定することもなく、ゆえに想定被害への補償の明示もない、ただひたすら念仏のように「必要なものだ」と唱える人々は儲けの算段はするが誰一人そのリスク責任を負わない。
そのような事業が果たして事業と呼べるのだろうか?科学も補償もない事業に、オリンピズムなる普遍的価値を認めようとすることはオリンピックへの信仰とも呼べる「絶対視」であり、「ありがたさ/めずらしさ」=心情につけこむ事業は高額な壺を売りつける霊感商法に近い。
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「さ候へばこそ、世にありがたき物には侍りけれ」とて、いよいよ秘蔵(ひそう)しけり(第八十八段 或者、小野道風の書ける和漢朗詠集とて持ちたりけるを・・徒然草)。
根拠が全くないものであっても、だからこそ、めずらしくありがたい(滅多にない・本来あることがむずかしい)ものだと大事にする。
「頼朝公おん十四歳のみぎりのしゃれこうべ」(落語)も同じ。
「中止っていうことを言ったら世界から笑われる」(高橋洋一内閣参与)とばかりに、そんなしゃれこうべを買う者こそ笑われる。
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だからこそ(さ候へばこそ)、開催。
菅首相の昨今の国会答弁。唯虚しい。
(おわり)
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