2021年05月13日

高橋洋一氏の笑い



内閣官房参与で経済学者の高橋洋一氏=嘉悦大教授のツイッター(2021年5月9日から投稿順):

・日本はこの程度の『さざ波』。これで五輪中止とかいうと笑笑
・誰が笑笑っていうことなんだけど、こういうふうな感染のない状態で仮に日本が中止っていうことを言ったら世界から笑われるだろう、と意味です
・オリンピックの開催権はIOCにしかない。日本は会場を提供しているだけ。仮に日本の理由によって会場提供している人が中止って言ったら、主催者のIOCから巨額の賠償金が請求されるっていうことです。たぶん数千億円
・IOCと日本が今、どういう風にやり方を協議しているかっていうと最低ラインを無観客でやる。だから今のオプションは無観客でやるか中止するかのどちらか。中止すると数千億払うでしょ。常識的に考えれば無観客でやるっていうことなんです
・IOCは無観客でも放映権が取れるから、IOCから中止を言うことはない。日本政府だってこういうこと知っているから言わないだけ。日本が中止って言ったら数千億円の賠償金が派生する

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・『さざ波』=感染のない状態

札幌医大フロンティア研ゲノム医科学 - 札幌医科大学が「人口あたりの新型コロナウイルス死者数の推移【世界・国別】」を公表している。ここから日本が『さざ波』=感染のない状態である、という感染推移はどう説明がつくのだろうか。『さざ波』や「感染のない状態」なる表現は比較の基準若しくは程度が不明確。少なくとも学者が使う表現ではない。

・日本が中止っていうことを言ったら世界から笑われる

現下の国際信義とは、日本がCOVID-19禍(公衆衛生上の最大課題)およびそれに連鎖する世界的経済恐慌に各国と連携しながら専念対応することであり、一民間団体のスポーツ興行=オリンピック開催という国際公約よりも遥かに重大且つ喫緊な信義則である。公約を反故(開催都市契約義務不履行)にしてでもこの国際信義に立つことは開催都市・国家以前の国際社会での日本国にとっての大義である。

『さざ波』同様、「軽い風邪にすぎない(蔓延し始めた2020年3月下旬)」と州政府による商業活動の制限を厳しく批判し新型コロナウイルス(COVID-19)感染対策に悉く消極的な態度を示したボルソナーロ大統領のブラジル国は、その後の感染急拡大によってコロナ対策重視(商業活動の制限・ワクチン接種体制強化)に転換している(インド国も同様)。転換前の同国の姿勢こそ高橋氏の言う「笑われる(負のイメージ)」の「世界」であろう。

・日本が中止っていうことを言ったら、
・日本の理由によって会場提供している人が中止って言ったら
・中止すると数千億払うでしょ。

開催都市契約(6.契約の解除)からは「日本が中止っていうことを言ったら」が解釈できない。IOCが契約を解除しない限り、日本側には開催義務がある。「会場提供している人が中止って言ったら」も当事者(会場提供している人=東京都)に責任がない理由(違約以外)で契約を実現できなくこと(開催都市契約義務不履行)、の意味であるとすればIOCに対する開催権返上であって(その後、中止又は代替都市開催=後述にするかはIOCが判断)「会場提供している人が中止って言ったら」直ちに中止となるのではない。また開催都市が中止と言えるその前提となる不可抗力条項は開催都市契約に存在しない。これら充足不能な前提(中止っていうことを言ったら)に基づく帰結(「中止すると」)は単なるトートロジー(文学)である。

なお、開催権返上の場合、IOCは開催都市契約を解除した上で、中止(没大会) or 代替都市での開催の選択肢がある。後者の例として1940年東京大会=開催権返上→ヘルシンキ(フィンランド)=第二次大戦勃発で結局中止 / 1976年デンバー(アメリカ)大会(開催権返上)→インスブルック(オーストリア)大会=開催が挙げられる。

IOCがさらに2022年まで再延期を考えるのならその期間内で開催確実な都市(ロンドンなど)での代替開催も選択肢となる(東京大会の開催都市契約は解除)。その場合でも東京大会について「数千億円の賠償金が派生する」となるのか?

・主催者のIOCから巨額の賠償金が請求されるっていうことです。たぶん数千億円

IOCが開催都市契約をもとに日本側に損害賠償を求めた場合、スイス法を準拠法として、スポーツ仲裁裁判所(CAS)に判断を委ねることになるが、IOCは当該金額を留保する権利を行使する資格を有するとしているだけで(51. 一般留保資金、約定損害賠償金、違反の際 IOC が留保および相殺を行う権利)、「必ず行使する」意ではない。また、その金額も明らかではない。「されるっていうことです」「たぶん」「でしょ」と、憶測を並べているだけである。

・IOCから中止を言うことはない
・日本政府だってこういうこと知っているから言わないだけ。

「IOC がその単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合・・IOC は本契約を解除して、開催都市における本大会を中止する権利を有する。(66. 契約の解除 )」。「中止を言う」という文言は開催都市契約にない。正しくは「(IOCは)中止をする権利を有する。」、ゆえに言葉自体に誤謬がある。

「IOC がその単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合。(6.契約の解除)」はIOCは開催都市契約を解除する(その後のIOCにとっての選択肢は上述の通り)。「IOCから中止を言うことはない」は開催都市契約からは導出不能な単なる政治的憶測である。

・最低ラインを無観客でやる

「IOC がその単独の裁量で、本大会参加者の安全が理由の如何を問わず深刻に脅かされると信じるに足る合理的な根拠がある場合。(6.契約の解除)」ゆえ、IOCが契約を解除しない限り、日本側には開催義務がある。「最低ラインを無観客でやる」は開催義務に照らせば正しい。開催都市のIOCに対する開催権返上は開催都市契約義務不履行になるが、新型コロナウイルス感染拡大状況に照らして「合理的な根拠がある場合」はIOC側の契約の解除ゆえ、JOCはIOCにとって開催都市契約を解除するに足る「合理的根拠」をIOCに示し、東京都、大会組織委員会と共にIOCと話し合いを行うべきである(開催都市にとって大義ある返上とする為)。

・笑笑

LOLと同じtwitter上のスラング。使う意図(というか意識)が不明。

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菅首相は10日の参院予算委員会で「個人の主張についての答弁は控える」と述べた。高橋氏は経済・財政政策を担当する参与として、菅義偉首相に助言を行う。その内閣官房参与の立場にありながら、ツイッターでため口紛いに「思う」程度の憶測を並べて良いのだろうか?学者ならば客観的な言葉と論理を以って論議可能な場で発信すべきだ。同氏の見識を疑う。

(おわり)

posted by ihagee at 03:53| 東京オリンピック