「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。ただ今やるべき事を全うし、応援していただいてる方達の期待に応えたい一心で日々の練習をしています。オリンピックについて、良いメッセージもあれば、正直、今日は非常に心を痛めたメッセージもありました。この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです」(競泳の東京五輪代表に内定した池江璃花子さんのtwitterから)
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「オリンピック競技大会は、 個人種目または団体種目での選手間の競争であり、 国家間の競争ではない(オリンピック憲章)」。しかし実際は個人参加ではなく(ロシア除く)、国家の威信をその個人が背負いトップアスリートはそれぞれの競技団体(連盟)から強化選手として指定されさらにスポンサー企業の看板も担ぐことになる。
個人ではなく代表という立場だから、その背後にある団体や多数の人に代わってその意思を他に表示するしかないのだろう。 選手としての個人は意思表示も含めその行動規範はオリンピック憲章の定めに従わなくてはならない。スポンサー企業との契約にも縛られるだろう。
「OCOG、 すべての競技者、 チーム役員、 その他のチームスタッフ、 およびその他すべてのオリンピック競技大会参加者は、 規則 50 および本付属細則の対象となるすべての問題について、 マニュアル、 手引き、 規則、 ガイドライン、 さらに IOC 理事会によるその他すべての指示に従うものとする。 (オリンピック憲章 規則 50 付属細則から)」
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コロナ禍にあって、オリンピック開催中止世論の背景には少なからず大衆の被害者意識が存在する。オリンピック開催とは関係のない個人的な被害経験を当て開催中止論を借りて、自分の苦しみの理解を他人に求め共感を得ようとする意識(承認願望)や、中止世論が大勢となれば善人感(道徳的エリート意識=リベラルに歴史的に共通する)を充足させる為にその余勢をかりる者も多いかもしれない。単に日頃の不満や鬱憤をぶつける対象としてオリンピック開催中止を唱える者もいよう。
しかし、開催至上主義は様々な形で社会生活に影響を及ぼし新型コロナウイルスに於いては命や暮らしを脅かす現実の且つ新たな感染リスクとして科学的に認知されているのだから、上述の「意識上の被害」に留まらない現実の被害を想定する危機意識が開催中止論の基調となっている。IOC会長を筆頭に開催する側の団体や組織、そして開催を政治利用しようとする政権が危機意識に立った行動規範の必要性を様々な社会活動に求めているにも関わらず、オリンピック開催自体に適用しようとしない(開催中止案を敢えて思考しない)のだから、我々にとって彼らが公衆衛生上、加害行為に加担する者(加害者)に見えるのもむべなるかな、と言うしかない。
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「意識上の被害」に留まらない現実の被害を想定する危機意識であれば、その意識をアスリートも共有するのか?と選手個人に対して世間が見解を求めること(矛先を向けるのではない)は理解できる。危機意識上の行動規範を選手も我々と共有するのなら個人的に開催中止を表明しても良いのではないかと(お前に責任があるとばかり、矛先を向ければそれは「非常に心を痛めたメッセージ」にしかならない)。
「この暗い世の中をいち早く変えたい、そんな気持ちは皆さんと同じように強く持っています。ですが、それを選手個人に当てるのはとても苦しいです・・・私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。」は、コロナ禍にあって危機意識を社会全体の行動規範とすることは理解するが(開催中止もその行動の一つ)、他方、大会出場予定の選手にとっての行動規範はオリンピック憲章の定める範囲であり、選手個人では「変えることができません」としか言いようがないのだろう。
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「私に反対の声を求めても、私は何も変えることができません。」
選手個人を鬱屈した大衆の被害者意識の生贄にしたところで(被害者意識は選手個人も持つことになる)、我々国民およびそれら選手を支配する形態に存在する無責任のシステムはノウノウと生き延びる。それは、あたかも戦禍の塗炭の苦しみを一億総懺悔と国民が互いに舐め合ううちに、戦前の軍部の支配形態にあった「無責任のシステム(丸山真男)」がそのまま今の社会の支配形態に引き継がれていることと通じている。
被害者意識に捕らわれるばかりに(選手も含め)、無責任のシステムを見逃せばコロナ感染の終息は遠いだろう。選手個人の責任?を云々するのではなく、危機意識の観点からオリンピックなる祭儀の裏に隠れた無責任のシステム(IOC・大会組織委員会・JOC・東京都・日本政府間の責任の擦り合い)にこそ直言し、そのシステムに拠るオリンピックの存在そのものの是非を問うべきではないか?
(おわり)
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