まことに十二月八日、この日をかぎりとして、
「どうなるのか、どうするのか」が、ふきとんでしまひました。われわれの思考の中から、疑問符は最早全く消えてしまひました。今はただ、一切の人間思案をすてて、神命のままに、最後まで戦ひぬくことただ一つとなったのであります。(中略)神の御命なるがゆゑに、これを畏んだわれわれの態度は絶對信順であります。挺身奉公であります。これがもし人間の命令ならば、どうしても人間對等のことでありますから、なかなか、さうはまゐりません。今更、事新しく言ふまでもないことながら、わが國が世界のどこの國と戰つても、かならず勝つといふことは、その根本に、
「大日本は神國なり」
といふ事實が儼然として存在することを、何よりも先づ銘記すべきであります。
(「必勝日本」 中山爲信著・出版者: 天理時報社; 昭和17)
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「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く(神道政治連盟国会議員懇談会・森喜朗元首相発言)」
『「神の国」という表現については、特定の宗教について述べたものではなく、地域社会においてはその土地土地の山や川や海などの自然の中に人間を超えるものを見るという考えがあったとの趣旨で述べたものである。したがって、御指摘の森内閣総理大臣の発言の内容は、憲法の定める国民主権の原理と矛盾するものではない。(衆議院議員保坂展人君提出「神の国」発言と森内閣に関する質問に対する答弁書・2000年5月26日受領答弁第三一号)』
「新型コロナウイルスがどうであろうと、必ずやり抜く(自民党本部で開かれた党スポーツ立国調査会などの合同会議・森喜朗組織委会長(当時)/ 2021年2月2日)」
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1941年12月8日未明(現地時間7日朝)、日本海軍が米国ハワイ州オアフ島の真珠湾攻撃で戦い(太平洋戦争)の火蓋が切られた。その日を境として「われわれの思考の中から、疑問符は最早全く消え」「神の御命なるがゆゑに、これを畏んだわれわれの態度は絶對信順であります。挺身奉公」が始まったと「必勝日本」は記す。
2021年7月23日、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されれば、その日を境として「われわれの思考の中から、疑問符は最早全く消え」「神の御命なるがゆゑに、これを畏んだわれわれの態度は絶對信順であります。挺身奉公」が始まるのであろうか?憲法の定める国民主権の原理よりも、「人間を超えるもの」(=神命)に我々は畏むことになるのか。森氏の口癖たる「承知して戴く・わきまえて戴く・わきまえておられる」なる、原理(憲法)よりも道理(神の国)を心得よと、国民に忖度を促すことになるのか。
さすがにそう言ったカビの生えた復古主義(精神論)に与する程、我々も愚かではあるまい。そもそも、その精神論の単位となる家族が新自由主義経済下では崩壊している。いくら家族主義の美風を説こうが他方「自助」を要求するような現実社会で「家族の互助」など望むべくもないからだ。
そんな精神論よりも、むしろ、2021年7月23日が開催になろうと開催中止となろうと「コロナ制圧」をお為ごかしに国民主権に制約を加えようとする動きに「それも仕方ない」と我々が同調するか否かが、試されようとしている。
つまり「緊急事態宣言を行ったところで、私権に制約を加えることができず実効性が上がらなかったわけです。今の憲法が悪いのです。」と、国会での緊急事態条項創設の議論に拍車がかかるのではないかと懸念する。
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「どうなるのか、どうするのか」の声が渦巻く今。「どうなるのか、どうするのか」さえ国民にメッセージを出せない菅政権の無為無策ぶりをむしろ逆手に取り、その声に応えるかにコロナ制圧をお為ごかしに緊急事態条項を含む憲法改正を虎視眈々と狙っているのは安倍晋三前首相であろう。「内閣独裁条項(緊急事態条項)」さえ手に入れれば再び首相の座に返り咲くのも夢ではないと本人は思っているに相違ない。「雨降って地固まる」の喩えではないが、「どうなるのか、どうするのか」という声が、オリンピック開催・コロナ感染拡大なる雨降りから強権発動の基盤を望む声に転じることがないよう願うばかりである。なぜなら、その条項はコロナに対してではなく国民主権に対して発動されコロナ要件がなくなろうとそれはずっと続くからだ(オリンピック開催の為に必要とされた「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)」と同じ)。
「新型コロナウィルスは恐ろしいほどに差別をしない。差別をするのは人間だ。(ハーバー・ビジネス・オンライン 2020年4月13日付記事から引用)」、ゆえに差別し合う人間の性(さが)を今こそ利用してやろうと考えているに違いない「こんな人たち」と国民に指を突き立てた安倍氏を忘れてはならない。

火事場泥棒(IOCファミリー)にばかり目が行きがちだが、説教泥棒・憲法泥棒からも決して目を離してはならないということだ。
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「緊急事態に国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきか。そのことを憲法にどのように位置付けるかは、極めて重く大切な課題だ」と指摘。国会で緊急事態条項創設の是非を議論するよう求めた。(安倍晋三首相(当時)・憲法改正推進派の民間団体のオンライン集会発言/2020年5月2日付時事通信報)
「自民党の衛藤征士郎・憲法改正推進本部長は20日にあった同本部の会合で、同本部最高顧問に安倍晋三・前首相が就任したと明らかにした。衛藤氏が安倍氏と直接会って就任を要請し、安倍氏は「喜んで」と快諾したという。(朝日新聞デジタル・2021年4月20日付記事引用)
今年の5月3日(憲法記念日)に憲法改正推進本部最高顧問である安倍氏が何を発言するのだろうか?「どうなるのか、どうするのか」という我々の声はだからと言って、緊急事態条項創設の動機付けに利用されてはならない。(憲法)泥棒がせっせと縄を綯う前に、我々主権者たる国民は選挙を以ってそのような泥棒に(現行)憲法の縄をかけるしかない。「みっともない憲法」(安倍氏)などと憲法を悪しざまに云い、「私がそう思えば法」とばかりに法秩序の連続性を断ち切るような政治解釈を平然と行う嘘と泥棒ばかりの自公政権はもううんざりだ。
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(おわり)
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