2021年03月10日

7本打てるは弥縫策ではないのか?



「ファイザー社ワクチンの入手が、なかなかペースが上がってこない中、5本しか打てないんじゃなくて、こういうやり方で7本打てると、皆さんのためになると思って発表した」

インスリン用注射器を用いることで7本打てるとの宇治徳洲会病院・末吉敦院長の「発見」は接種人数の増加に繋がると期待が高まっている。

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ファイザー社ワクチンの契約上の単位はバイアル中の用量の接種回数となっている。勘違いし易いが、バイアルの数量(本数)ではない。ファイザー社とBioNTechSEのCovid-19ワクチンの一部のバイアルには使用可能な追加用量(バッファー)が含まれているが「5回接種分」とバイアルには表示されていた。

しかし、医療提供者によって追加用量を使い切ることで6回接種が可能であることが判明し、米FDAとの話し合いでファイザー社は「6回接種分」である旨の表示に変えている。従って、「5回接種分」表示のバイアルを6回接種に使っても5回から6回に増えた回数分はファイザー社はチャージしない。

なお、正しい用量を投与するのに十分な量がバイアルに残っていない場合はそのワクチンを廃棄する必要がある。つまり、医療提供者は各バイアルのすべての液体を使用できるが、別々のバイアルからの液体を採って使用することは認められていない。防腐剤が入っておらずまた温度管理が厳格なバイアルの底に液体が残っていてもそれを別のバイアルの用量と調整して使用することは契約上(および投与設計上)許されていないからだ。接種回数が5回から6回に増やすだけでも厳密に用量を6等分にシリンジに分けて時間をおかずに次々と接種しなくてはならないが、さらにそれを7回として皮下注射用(インスリン注射用)の注射器を筋肉注射に使うとなれば医療提供者には荷重な負担がかかることになる。女性は男性に比べて上腕部に筋肉が少なく針長が短いインスリン用注射器で部位を探して接種するのは困難を伴うかもしれない(針を長くするようだが)。

7回となれば表示された回数(6回)を超える分となる。また、5回乃至は6回接種前提の契約であるから、それらの表示のバイアルを使って7回接種した場合は契約上ファイザー社側に免責事項が働く可能性もある。チャージされないとも限らない。少なくとも5回の接種に十分なワクチンが含まれるようにバイアルの液量は調整されている。それを6回にするまでは米国FDAとファイザー社との間では合意されているが、さらに7回とした場合は有効であるのか判っていない。インスリン用注射器など特殊な注射器を使用して回数を増やすことは可能であっても、その注射器の調達にさらに費用がかかる。医療提供者にすれば、通常の注射器で5回接種/バイアルが最も扱い易い筈だ。

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「ファイザー社ワクチンの入手が、なかなかペースが上がってこない」のは明らかに契約交渉及び入手後のロジスティックスに於いて問題がある。一人1回接種でも有効(厚労省は2回を主張)、7回分取れれば接種人数を増やせる(厚労省は是非を確認中)、と河野ワクチン担当相。就任当初の「ロジ面」が何たらとの意気込みはどこへやら。ファイザー社ワクチンの入手・接種に於いて先進諸国中最も遅れている状況からするとどれもがイクスキュースに聞こえる。

米国を含め先進諸国では余裕をみて5〜6回/バイアル。WHOはワクチン開発に各国が共同出資・購入する枠組み「COVAX(コバックス)」を主導し医療資源の乏しい諸国への供給を図っているが、ファイザー社ワクチンについて7回/バイアルという話は聞かない(その用途での注射器を用意する必要があるので当然)。5〜6回/バイアルでの供給を目指している。

然るに、なぜかわが国だけは乾いたタオルを絞るが如くに7回接種とせざるを得ないのは、本来の用量(5〜6回/バイアル)でのワクチン入手をファイザー社に対して交渉できなかったがための弥縫策と言わざるを得ない。その交渉の非力を自覚できず、創意工夫とばかりに「さすが日本人」と自賛するのはどうかと思う。

(おわり)

posted by ihagee at 18:40| 日記