銀塩プリントの代替手段としてサイアノタイプの可能性を本稿ではテーマとしている。
アナログのデータソース(アナログフィルム・乾板)に記録されている情報をそのまま紙に焼き付けること、一般的なコンタクトプリントでは難しい階調や細部の表現にチャレンジすること、その過程はシンプルで且つ費用がかからないこと、そして過去の資源(フィルムなど記録媒体・引き伸ばし機など暗室用品)を再利用できることに理があると勝手に思っている。
感光剤を紙に塗布する段階でいくつか工夫を施すことでプリントに深みと奥行きを与えることができるということも次第に判ってきた。
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1860年代に創業し英国ビクトリア朝時代、当時の王室や著名人(チャーチル、オスカー・ワイルドなど)を顧客にソーシャルフォトグラファーとして名を馳せたHills&SaundersのHarrow-on-the-Hillスタジオで撮影された希少な写真乾板(5x7インチ)を偶然手に入れた。
(タグのある乳剤面を上にスキャンしたもの)
No. 15783の被写体はMrs Williamsで撮影年度は1898年とある。同スタジオでは再注文(ダゲレオ又はアルビュメンプリント)に備えて被写体毎に番号で乾板を分類管理していたようである(番号簿はネットで公開されている)。
蒐集家 Tim Boswell氏の下にあった数万枚のアーカイブスは同氏の新たな事業の資金調達の為に2016年2月頃全て売りに出されたようである(ネット資料)。手に入れた乾板はその一部であろう。
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手に入れた乾板は横向きのポートレイトの顎に一部剥離がある以外は概ね状態が良い。またフィルムと比較して乾板は銀を多く含むので引き伸ばし機のプリントでは階調を整えやすい。
しかし、5x7インチ(13x18cm)の乾板は、私の昭和11年(1936)製乾板用ハンザ特許引き伸ばし機(Anastigmat F=125, 1:6.3)の手札判サイズ(8×10.5cm)原板枠に収まらない。
手札判以上のサイズでは枠を使わず直接乾板を枠穴に差し込めるが、その場合は全体をプリントすることはできない。バストアップのプリントを作製した。
Cotman Water Colour Paper (B5/ Smooth)に約五時間露光しジャスミン茶でトーニングを施した。乳剤面を下にしたので上掲の乾板とは鏡像となる。
(テクスチャーに変化を求めて、豆乳でプリコートしその上に感光剤を塗布した紙にプリントした例)
凛とした面差しはこの時代の人物写真に概ね共通する。Mrs Williamsもその一人だった。
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赤外線(熱線)や有害な紫外線(UV-B)を含む白熱球光源や太陽光と比較すれば、UV SMD光源(50W)の照射(露光)は長時間であっても乾板にダメージを与えない。乾板はコンタクトプリントが可能な大きさなので、太陽光を用いてプリントしたくなるがこれは乾板にダメージを与えるので止めた方が良い。
(おわり)
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