自民党の下村博文政調会長は15日、岩手県北上市で講演し、菅義偉首相による会員候補任命拒否が問題となった日本学術会議について、内閣府の「特別の機関」という現在の位置付けを見直し、民間組織に改組するのも選択肢だとの考えを示した。(2020年11月15日付時事通信報)
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2002年に、小柴昌俊先生(東京大学特別栄誉教授)がノーベル物理学賞を受賞した際、多くのメディアが「その成果は将来、何かの役にたつのでしょうか」と聞きました。
小柴先生は、大きな星が最後に爆発するとき(超新星爆発)に放出されるニュートリノという素粒子をとらえることに成功しました。(中略)この素粒子は1秒間に私たちの体を何兆個も通り抜けるほど大量に存在しますが、その存在を感じることはほぼありません。なぜなら、物質とほとんど反応しないからです。そのような物質が、将来、通信か何かの「役に立つ」とは考えにくい。そこで小柴先生は「まったく役立たない」と、明快に説明していました。(東洋経済ONLINE・2014年8月19日付記事引用)
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「民間」=経済原理が働く。民間組織に改組すれば「経営しなければ」存立し得なくなる。「役に立たない」研究は到底できない。「まったく役立たない」素粒子物理学の基礎研究など論外となる。
すなわち「役に立つか否か(損得の銭勘定)」の問答と本源的に関係しない真理の探究・知の蓄積=「科学」は所詮「民間」ではできないのである。
科学を担うアカデミーが国立であり(国が研究費用を出す)且つ学問の自由は組織の自立と共に約束されていなければならない理由がここにある。
その真逆を公然と唱えることは「科学」など捨ててしまえ、と下村氏は言っているに等しい。下村氏は被推薦者の任命拒否で菅首相に問われる説明責任をこの際一掃してしまおうと、元を断つ=日本学術会議の存立そのものを潰しにかかっているのかもしれないかもしれないが、科学(学術)と産業技術の別さえこの人はそもそも判っていない。
こんな人が文教族の大物を気取っていれば、若者の科学離れは当然。これでは「科学の樹」は枯れ、国は滅びる。
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”発想の原点が自己にないこと、時定数が小さいことは、ゲインの増幅の程度を国民一人一人が認識・判断できず、他者(為政者・集団意識・他国)にその度合いを渡してしまうことになる。まさに長いものに巻かれる・付和雷同である。・・・この「なにかスパートしない限りは反応が思わしくない」微分回路的思考、そしてゲイン(出力にかける増幅度)を大きくしあえて不安定性を最大限にし、その先の「最大発散」が「太平洋戦争」(原因)でその結果は、敗戦と「経済成長」(結果)であると佐貫氏は言う。”(拙稿 佐貫亦男氏『発想のモザイク』から)
戦争なる国民の最大不幸を介しない限り経済成長できないこの国の「微分回路的発想パターンの宿命」を再び科学に課してはならない。明治来変わらないこの発想のパターンそのものに根本的な問題があると認識すべきであろう。
(おわり)
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