河野行政改革相の推し進める行政手続きにおける押印廃止が囂しい。
”民間から行政機関に対して行う申請などの手続きのうち、押印を求めているものが全部で11,049種類あります。このうち印鑑証明が必要なもの、銀行印が必要なもの、契約書などを除き、原則廃止するように各省に求めています。どうしても押印が必要だというものについては、各省庁からその旨を申し出ていただき、それ以外のものについては速やかに廃止するようにお願いしています。”(河野行政改革相)
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「あらかじめ地方自治団体や銀行その他取引先などに提出しておく特定の印影(出典: 三省堂大辞林 第三版)」が印鑑の意味で、印章をあらかじめ登録し(印影をあらかじめ提出し)事後の照合に使うのが台帳(鑑=かがみ)である。すなわち「印影と印章(所謂ハンコ)の所有者(押印した者)を一致させるために、印章を登録させた。この印影の登録簿を指して「印鑑」と呼んだ。転じて、日本では印鑑登録に用いた印章(実印)を特に印鑑と呼ぶこともあり、更には銀行印などの登録印や、印章全般もそのように呼ぶ場合もある。(wikipediaより)」
印章をあらかじめ登録した鑑(かがみ)に照らして、文書の成立が真正であるとする(=推定する)証拠(印影)が本来の「印」と「鑑」の関係であり「印鑑」の意味である。民事訴訟法第228条では「文書の真正性(成立の真正)」が法律上推定される方式および趣旨が定義されているが、「成立の真正」を推定する上で、押印(捺印)という行為は印章を所有する者の意思表示を意味する(登録した印章=実印は他人に貸すことは有り得ず、その押印の証拠力は非常に強い)。公文書・私文書に付帯する義務や責任の有無を示す重要な証拠が押印ということになる。
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「文書の真正性(成立の真正)」は押印でなくとも別の方式、つまり電子署名・電子認証で担保されるから(電子署名なら電子署名法3条により「本人が作成した文書」と推定)、押印は廃止という流れらしい(押印についてのQ&A/2020年6月19日付政府見解)。総枠には文書の流通や申請・届出の電子化を推進するデジタル庁・電子政府構想がある。
他方、その電子化推進の手段であるマイナンバーカードの取得が進まない。
”なぜ国民はマイナンバーカードの取得に消極的なのか。国は改めてその理由を認識すべきだ。多くの国民は個人情報を行政に把握されることに大きな抵抗を感じている。国が目指す銀行口座とマイナンバーカードのひも付けが実現すれば、所得や購入履歴など詳細な情報が一元的に把握される可能性がある。”(東京新聞 2020年9月26日付記事)
公文書を改竄・隠匿・廃棄し続けてきた国に、情報漏洩や個人情報の恣意的運用を疑わざるを得ず、それが国に対する国民の不信に繋がっている。公文書管理に関するコンプライアンスこそ問うべきことであって「押印廃止」などと枝葉末節に国民の耳目を集め、自らへの矛先をかわそうとする政府の意図さえ垣間見える。
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”印鑑証明が必要なもの、銀行印が必要なもの、契約書などを(押印廃止から)除き” と「印鑑」の証拠力を河野行政改革相は言っておきながら、自身の笑顔と「押印廃止」というはんこの画像をツイッターに投稿し、「鑑」と何の関係もない「印=はんこ」を「印鑑」と国民に錯誤させる軽忽を晒した。

河野氏の好きだと言う「はんこ文化」は「印鑑」とは全く別物。本人は「消しゴムはんこ」の乗りなのだろう。

「鏡ありて鑑むべし」、その鑑む鏡(鑑)に、自身の似顔絵(一政治家の野心)を照らした。その程度のものと印象操作された印章業界が怒り心頭に発するは当然である。
河野大臣がツイッターに投稿した「押印廃止」というはんこの画像はツイッター上もネット上も次々と削除されている。「押印」は紙に残るが、「押印廃止」というはんこの画像は電子媒体では元からなかったことにすらできる。公人としての発信(発言)すらこうだから、電子化推進に伴う電子情報の国や政治家の都合に任せた恣意的運用を疑うわけである。その不信を今般の「削除」という行為が一層増幅させている。
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「押印廃止」の次は、行政府の紙を廃止するそうだ。
”電子情報には勝手にはえる足や動き回る性質がある。つまり、政治的判断を伴えば、無限定に収集・蓄積・利用・提供に最も適した情報である。紙媒体の情報では物理的にできないことも、電子情報なら何なくできるのである。<漏えい>を悪意(犯罪)で語るなら、<無限定>は意図的な<漏えい>であり、この国や為政者がその意図を最初からマイナンバーに期待しているとすれば、由々しきことである。”(拙稿「紙は最強なり」)
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不信の根源は印鑑でも紙でもない。拠りて鑑む鏡(鑑)を持たない政権にある。
「鏡ありて鑑むべし」に関連:「水戸黄門って先の中納言と先の副将軍とどっちなんですか?」
(おわり)
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