2020年10月08日

「科学の樹」のないこの国の暗愚・続き3



日本学術会議が新会員に推薦した6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題。

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たとえ「虚妄」であっても戦後民主主義の「虚妄」に賭ける(丸山真男)ことが民主主義を日本社会に根づかせるための思想的営為であろう。一々学ぶのは時間がかかり難渋であり無益だと<哲学>に拠って立つ<科学=Science>の精神(「科学の樹」)を知ろうとしなかった、その思想的営為を軽んじたがゆえに科学が何たるかこの国に根づかなかったことは、民主主義とは逆向きに世の中が転回することと一脈通じるものがある。

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「税金が投入されているのだから、時の政権の意向に従え」という発想は学問の自由を根本から毀損し、ひいては亡国への道であることを先の敗戦から学び、その反省のもとに設立されたのがまさに日本学術会議でした。同会議が発足した昭和24年1月22日付の声明「日本学術会議の発足にあたって科学者としての決意表明」は以下のように始まります。

”われわれは、ここに人文科学および自然科学のあらゆる分野にわたる全国の科学者のうちから選ばれた会員をもって組織する日本学術会議の成立を公表することができるのをよろこぶ。そしてこの機会に、われわれは、これまでわが国の科学者がとりきたった態度について強く反省し、今後は、科学が文化国家ないし平和国家の基礎であるという確信の下に、わが国の平和的復興と人類の福祉増進のために貢献せんことを誓うものである。”

このとき科学者たちの胸中にあった「反省」と「確信」を、カビ臭い理想主義だと一笑に付すか、あるいは自分たちの歴史の一部として改めて引き受けていくか、いまその岐路に立たされているように思えてなりません。
(ハーバー・ビジネス・オンライン / 2020年10月7日付記事から引用)

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また、いくら声を上げても「核兵器廃絶」に向かわないから、それを口にするのはムダではないかという敗北的な考えに対して、「歴史は宿命ではない」として次のように批判している。「人間の歴史というものは、人間一人々々、あるいは人類全体が作り出してゆくもの」である。「目の前に効果があろうとなかろうと、絶望せずに、やはりわれわれ一人々々が参加することによって新しい歴史を作ってゆくのだという気持になって平和のために努力する」こと。「これが唯一の正しい生き方」である。「私たちにとって大事なことは、努力に努力を重ねて、なんとかしていい世界を作り出そうとすること自体の中にある」と。
(「人類の幸福めざす科学者の生き方 湯川秀樹の日記公表と関連して」長周新聞 2017年12月28日記事引用)

”軍事研究に一切協力しない方針こそ「研究の自由」の侵害。(中略)単純すぎる底の浅い平和主義をすべての研究者や国民に強要するのであれば、それは軍事に対する無知を生むことになる。強圧的な偏向思想組織である日本学術会議は解散すべきだ。” (「日本学術会議は解散したら?(清谷信一・軍事ジャーナリスト)」Japan In-depth 2020年10月7日付記事引用)

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たとえ「虚妄」であっても戦後民主主義の「虚妄」に賭ける、カビ臭い理想主義であろうと自分たちの歴史の一部として改めて引き受けていく、努力を諦めない。民主主義然り科学然り。先人たちが反省から学んだ覚悟や希求を我々は忘れたり諦めてはならない。ふがふがのパンケーキごときに籠絡されるような柔な歴史など民主主義も科学も背負ってはいない。「単純すぎる底の浅い平和主義(清谷信一)」などは軍事に憑かれた浅薄極まりない無知である。

「人間が自由にできる破壊的力が非常に大きくなったこと(核兵器)」「人類を恐怖と破壊に追いやってしまうような、そういう可能性」(湯川秀樹)、軍事研究はその先端であり、その破壊的力を自由にすることが学問の自由(「研究の自由」)ではない。清谷氏はその点を全く履き違えている。もし、それも「研究の自由」と肯定するのであれば「マンハッタン計画」も「研究の自由」であり、広島・長崎への原爆投下はそれを落とした側にとっては平和主義の究極の発露ということになる。端緒を肯定するのに結論を否定するが ”軍事研究に一切協力しない方針こそ「研究の自由」の侵害” と言い立てる者の無責任さである。結論を想定するからこそ、その端緒は安直に受け入れてはならない。日本学術会議が強く反省するところの「これまでわが国の科学者がとりきたった態度」はその端緒を受け入れた科学者の態度を意味する。

科学者の学問的良心は学問の自由(軍事研究の自由)を自ずと律する。それが自律であろう。その自律が脅かされている。AI(人工知能)と同様、軍事研究は自律を容易に超えてしまう危険性がある。自律を蔑ろにし、機械の奴隷、軍事の奴隷に人類を導くことが人類の幸福である筈がない。そのような策動に乗ってはならない。

(おわり)


posted by ihagee at 00:00| 日記