古映像の続き(Kodachrome Super 8フィルム / 撮影者氏名不明のオーファンワーク)。ただし今回はフィルム映像ではなくテープ録音について。
テープ録音といっても一時代前のカセットテープではなく、オープンリール式のテープでの録音のこと。件のオーファンワークの8mmフィルムにこの茶色いテープが数本混ざっていた
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オープンリール式のテープについては、父の遺品にも数本あったが再生するテープレコーダ(SONY TC-357)は遥か前に父が処分してしまったので、池袋の<ダビングスタジオ東京池袋本店>に持ち込みCD(MP3)に変換してもらった。「マグマ大使」、「パーマン」、「お化けのQ太郎」等々、半世紀以上前の幼かりし頃の私と弟の歌声が入っていた。今から数年前のことである。

(TC-357をいじる私と弟・当時の8mmフィルムから)
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業者に変換してもらうとそれなりに千円単位の費用がかかる。そこで件のテープについては中古の小型テープレコーダをヤフオクで買うことにした。「ノークレームノーリターン」は当然、「通電確認のみ」との最初からダメ元と誰もが思う品だけに開始価格の800円でそのまま落札に至る。


(ヤフオクの商品説明に掲載されていた写真)
800円のダメ元は父が使っていたSONY製のものではなくNATIONALのRQ-402である。ネット情報によると1968年製造のSolid State(当時は真空管が現役だったので、トランジスタを "石" に喩えてこう呼んでいた)で、海外で普及した4号リールを採用した少し変わった機種のようである(3号リールも当然使用可能)。

(ビデオ工房トパーズ 記事引用)
乾電池でも駆動する可搬型は場所を選ばず音を録ることを容易にした。「デンスケ」がそのプロ機材の代名詞なら、NATIONALのRQシリーズは背伸びすれば一般庶民でも手が届く普及品ということなのだろう。後のカセットテープレコーダの出現によってオープンリール式テープレコーダはオーディオファイルへと別方向に進化していくことになる(PCMデジタル録音装置・オフコン記録装置等々)。
(NATIONAL RQ-114・基本操作はRQ-402に継承)
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届いたダメ元にはテープが巻きついたままの4号リールが2本それぞれサプライとテイクアップに付けっ放してあった。ダメさ振りをさらに念押しするかにテープはテイクアップ側で切れており、その端っぽがだらしなく垂れている。空のリールはないものの、8mmフィルムのリールを代用することが可能なのでテイクアップ側に付いていたリールをテープごと外し、手元にあった100ftの小径の空リールを装着し先ずはサプライ側に巻かれている正体不明のテープを再生することにした。
コンセントを電源に挿し恐る恐るスイッチをPLAYに捻ると「このテープは5秒後に消滅する(スパイ大作戦)」のように白い煙が上がったりせず、アカペラで口ずさむ女性の声が流れてきた。その誰ともわからぬ遠い昔の歌声にすっかり聴き入ったばかりか亡き母の姿が重なり目頭がキュッと熱くなった(そのあたりは次回記事にしたい)。
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持ち主が外国人と推測される今はオーファンのテープは3号と5号で、5号を再生するにはテープを途中で裁断してリールを分けなくてはならない。そこで先ずは3号のテープを再生してみた。このテープの面にはFour Seasons in Japan (Recorded by National Tape Recorder)と印刷されたラベルが貼ってある。ダブルトラック(モノーラルのAB面)の録音は英語で日本の四季折々の催事を音の風物詩に仕立て格調高く紹介しているが、NATIONAL製品の輸出販促用のテープであることが判った。件の外国人もNATIONALのテープレコーダを使っていたと思われる。
RQ-402のパンフレットから「4号標準テープ(録音済)」が付属品であったことが判る。"Four Seasons in Japan (Recorded by National Tape Recorder)" も輸出向けRQシリーズの付属品に違いなく、「ようこそ日本へ」と襷をかけて海の向こうの国々に工業製品を送り出していたということだ。"Made in Japan" の海外での評価やイメージはその物自体だけではなく、このような粋でありながら実にしたたかな計らいによって創出されていったということが理解できる。
再生できない場合、ダウンロードは🎥こちら
("明るいナショナル"をバックに NATIONAL製品を宣伝)
「尾羽うち枯れてもNATIONALぞ、ダメ元などと思うなかれ」とレコーダはテープを介して私に諭しているようだ。NATIONALのコーポレートブランドは消滅した。しかし、半世紀以上前のその製品は今も丈夫に生きている。過ぎし日のものづくりの確かさやしたたかさ(販促用テープ)をあらためて実感した。
(おわり)