2020年06月01日

「閣議決定」「解釈変更」を正当化する方向へのミスリードとなる



”「公務の運営への著しい支障」による勤務延長の必要性について、当初の判断は誤っていなかった・・黒川検事長については、「退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」として閣議決定によって「勤務延長」を行ったことによって、その検事長職が根拠づけられているのであって・・”
(黒川検事長辞職なら「定年後勤務延長」閣議決定は取消しか / 郷原信郎弁護士2020年5月21日付記事

記事内容に目を通しておや?と思った。

「退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」理由の在処と賭博行為との整合性が閣議決定取消の要点であると同記事では論じるが、その論旨では国家公務員法第81条の2第1項が検察庁法第22条を超えて適用することがすでに前提となっている(その適用自体が違法ではないのか?)。

その上で、国家公務員法第81条の3「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において」に続く役職定年の例外と定年延長("定年後延長勤務"・後述)、すなわち「その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」を論じると、解釈変更と閣議決定を正当化する方向へのミスリードとなるおそれがある

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「退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」が、国家公務員法第81条の3の「勤務延長制度(当該職員を定年退職日以降も当該日に従事している当該職務に従事させるため引き続いて勤務させる制度)の要件となっており、同法の検察庁法への適用に当たってその要件を満たす事情なり理由について、森法相は国会で明確な答弁ができなかった(郷原弁護士の記事にもある通り)。

この定年後の勤務延長を「定年後勤務延長」と呼ぶ。

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しかし、一般職の国家公務員の定年退職について定める国家公務員法第81条の2第1項は、「法律に別段の定めのある場合を除き」と規定している。検察官も一般職の国家公務員ではあるが、その定年については検察庁法第22条が定めている。従って、検察官の場合、検察庁法第22条が国家公務員法第81条の2第1項の「別段の定め」にあたるので、同法81条の2第1項ではなく、検察庁法第22条が適用される。そして、国家公務員の定年延長(定年後勤務延長)を認める国家公務員法第81条の3は「前条第1項の規定により退職すべきこととなる場合において」との限定を付している。つまり、同条によって認められる定年後勤務延長は、「国家公務員法第81条の2第1項規定により退職すべきこととなる場合」に限定されているから、同条項によることなく検察庁法第22条によって定年退官する検察官については、国家公務員法第81条の3の適用による定年後勤務延長はないと解釈すべきことになる。(福岡県弁護士会・「検察官の定年後に勤務を延長する旨の閣議決定の撤回を求める会長声明」より要点を抜粋引用)

上述の法理に従えば(特に国家公務員法第81条の2第1項が検察庁法第22条を超えて適用されることはない点)、検察官の定年後勤務延長は不可能であると解釈すべきで、よって、黒川氏の定年後勤務延長に法的根拠はない。すなわち、黒川氏は63歳になった本年2月7日を以って定年退官したことになる。黒川氏の勤務延長を決めたという1月31日の閣議決定は違法無効であり、黒川氏に交付された「8月7日まで勤務延長する」という2月7日付けの内閣辞令書も同じく違法無効となり、黒川氏の今月1、13日頃に行ったとする賭け麻雀は退官後の行為であって、賭博容疑で刑事告発の対象にこそなれ、人事院の定める公務員の倫理規定の対象でも、法務省内規処分(「訓告」など)や国家公務員法による処分(「懲戒」など)の対象でもない。

与党は、検察庁法を国家公務員法と抱き合わせて改正を行って、かかる不安定な地位を後付けで合法化しようとしたが(閣議決定の違法性は法令不遡及の原則によって後から合法化できない・先の拙稿に記載の通り)、その改正法案が今国会で廃案となって、尚更黒川氏の定年後勤務延長の法的地位は不安定な状態のまま、本人は「辞職」した。

国家公務員法第81条の3の適用による定年後勤務延長はない。ゆえに定年後勤務延長を前提とした(閣議決定を合法または脱法と前提とした)、「退職により公務の運営に著しい支障が生ずる」要件の有無や内閣は懲戒処分をすべきなど、その前提でそれらを論じることは肯綮ではない

解釈変更・閣議決定の違法性(違憲性)が肯綮だからこそ、安倍内閣は法務省の内規処分(訓告)に留め、懲戒権者として然るべく処分(懲戒処分など)を検討したか否か言を左右にして確答を避けている

閣議決定の違法性が要点であり、その違法性を認め、先の閣議決定を安倍内閣は素直に取り消すことこそ、法秩序の回復であろう(違法な閣議決定の非を認め、以って法秩序を乱した責を負って安倍内閣は総辞職すべきである)。それを行わず、閣議決定に「何ら問題ない」と強弁することはさらなる法秩序の壊乱であり、賭け麻雀に関して信頼回復の施策を議論する「法務・検察行政刷新会議(仮称)」の設置などは、閣議決定の違法性から論点をはぐらかすことに他ならない。

「閣議決定」「解釈変更」を正当化する方向へミスリードしてはならない。

(おわり)


posted by ihagee at 01:43| 政治