”東京高検の黒川弘務検事長が22日、辞職した問題で、安倍晋三首相は黒川氏の定年延長を決めたことに対する野党の批判をかわし続けた。自らの「最終的な責任」を認める一方、野党が問題の核心と捉える定年延長については「何ら問題ない」として撤回を拒否。野党からは「内閣全体の責任が全く感じられない」(立憲民主党の枝野幸男代表)と憤りの声が上がった。「違法、違憲の疑いのある閣議決定まで強行し、勤務延長した人が賭博行為をしていた。信じられない不祥事だ」。野党共同会派の小川淳也氏は22日の衆院厚生労働委員会で、首相の任命責任を追及。「責任を痛感する」として進退伺を出した森雅子法相に続投を指示したことに対しても、「潔く受理した方が適切だった」と批判した。2月7日付で定年退官する予定だった黒川氏は、1月31日の閣議で半年間の定年延長が決定された。検察官の定年延長は前例がなく、過去の国会答弁とも矛盾することが明らかになると、首相は法解釈を変更したと説明。政府は定年を延長した理由について、黒川氏の経験や知識が「高検管内で遂行している重大かつ複雑困難な事件の捜査・公判に対応するため必要不可欠だ」としてきた。その黒川氏が、不祥事により定年延長からわずか4カ月足らずで辞職に追い込まれた。野党は、法解釈を変更してまで定年を延長した閣議決定の責任は首相自身にあると見定める。黒川氏を「首相官邸の番人」になぞらえ、政権に都合のいい人物を検事総長に据えるため「禁じ手」を使った、というのが野党の批判の核心だ。これに対し、首相は「最終的に内閣として認めた責任は私にある」と低姿勢で答えたものの、定年延長そのものについては「検察庁を所管する法相からの請議により閣議決定された」と官邸の介入を否定。「脱法的でもなければ、検事総長にするためでもない」とかわした。”(”定年延長批判、かわす安倍首相 「違法、違憲の疑い」認めず” 時事通信社2020年5月23日記事引用)
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先の定年延長閣議決定について安倍首相が「何ら問題ない」と答弁。
ならば、閣議決定をしてまで適用した国家公務員法枠内の法的身分で黒川氏は賭け麻雀を行ったことになる。しかもその定年延長した身分については法的に疑義がある。つまり、定年延長について国家公務員法の規定を検察庁法に法解釈変更によって適用するとなれば、国家公務員法第81条の3第2項にある「人事院の承認を得て」が定年延長の要件となるが、その人事院が法務省、内閣法制局と行った筈の協議について一切記録書面が存在せず口頭決済のみとされている。しかも「国家公務員法の定年延長規定は検察官には適用されない」旨の1981年の政府見解は「現在まで引き継いでいる」と人事院局長は今国会で答弁していた(適用される旨の見解は過去一度として人事院から示されていない)。
いずれにせよ閣議決定で適用した国家公務員法の枠内での定年延長は任命権者である内閣総理大臣が判断したことになる。同法の枠内では任命権者が懲戒権者=内閣総理大臣・各省大臣、本件の場合は法務大臣 / 国家公務員法第55条・84条)となる。ゆえに懲戒権者は(人事院の規定する国家公務員の服務規程違反の最高処分)である「懲戒(内訳・免職など)」を以って安倍内閣総理大臣・森法務相は黒川氏の処分を検討しなければならない。懲戒免職となれば退職金は支払われない。
ところが実際は法務省内規の「訓告」に留めた。訓告は「法務・検察で判断」したこととし、官邸が懲戒にはしないと結論付けたと報道される(”法務省は、国家公務員法に基づく懲戒が相当と判断していたが、官邸が懲戒にはしないと結論付け、法務省の内規に基づく「訓告」となった” が真相とも報道されている)。国家公務員法の枠内での懲戒権者としての処分判断が安倍内閣総理大臣にあったのか否かは明らかにされていない。このことはまさしく、安倍氏自身「(先の閣議決定に)問題があること(違法・違憲)」を自ら認めたことに等しい(国家公務員法の枠内の定年延長、および役職定年の例外の適用を受けた黒川氏の身分に法的な疑義があるということ)。
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さらに、現行の国家公務員法に規定されている定年延長と役職定年制(およびその例外)を高位の検察官に適用しようと検察庁法を国家公務員法と抱き合わせて改正しようとしても、法令不遡及の原則(法令の効力はその法の施行時以前には遡って適用されないという実体法の原則)に依って、新法の効力は法改正前の閣議決定に及ばず、その違法性は解消されない(合法化されない)。
合法化=遡及する、とすれば、件の閣議決定から法改正前(旧法下で)までの間に定年退官した(する)高位検察官にも新法の効力が及ぶことになり、検察官の身分に著しい混乱が生じるからだ。野党は安倍内閣の任命責任(「責任を痛感する」として進退伺を出した森雅子法相についての)よりも、検察庁法改正を以っても合法化されない先の閣議決定の違法性(違憲性も含めて)を徹底して主張しなければダメだ。
ここで注意しなくてはならないのが、世論に押されて「懲戒」処分を行うべきと野党も唱えることは、先の閣議決定それ自体合法、または、後付けの検察庁法改正を以って合法化される=ゆえに閣議決定自体「何ら問題ない」とする与党の目論見に与することである。したがって、野党はあくまでも違法性(違憲性も含めて)の論点を外すことなく、”その閣議決定に「何ら問題ない」と言う限り「懲戒」処分となるのではないか?”・・と相手の言質を取って迫るべきで、合法化を含む言い逃れを安倍首相に与えないよう慎重に対峙すべきであろう。
我々国民もこの点は押さえておかなければならない。
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黒川氏への「甘い処分」に国民は大反発し政権支持率は低下しているが、法秩序の連続性を政治解釈で断ち切った閣議決定がもたらす矛盾(懲戒処分を下せない)に安倍首相は自ら苦しむことになったわけである。
(おわり)
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