“マスコミを通して伝えられている感染者の数は発症した人の数で、(発症していない)感染者の数を把握しようとしていないか、しようがないと割り切っているのではないのか。”(「コロナウィルス感染と発症―素人の疑問 / 藤澤豊氏・ちきゅう座 2020年2月28日付記事から引用)
新型コロナウィルスの感染拡大が続く。その感染の母集団を我々は知らない。感染しているのに無症状の人、軽症で風邪だと思っている人、は検査対象にならず新型コロナウィルスに感染していると確定されない。それらの人々は感染法上隔離されることもなく、ウィルスを知らず知らずに他人に伝播している可能性がある(感染の母集団)。母集団が判らなかったがゆえに(判明するに時間がかかったゆえに)、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号は検疫期間中に船内大感染事故に至った。ダイヤモンド・プリンセス号を日本列島に置き換えてみれば、母集団を知らずして感染拡大は防げないということになるまいか。
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感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に拠れば、
検体の採取と検査:
「都道府県知事は、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止するため必要があると認めるときは、新型コロナウイルス感染症の患者若しくは無症状病原体保有者又は当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者に対し、検体(下気道由来検体(喀痰もしく䛿気管吸引液)または鼻咽頭ぬぐい液)を提出し、若しくは都道府県知事から指定を受けた病院若しくは診療所又は衛生検査所職員による当該検体の採取に応じるべきことを勧告し、又はその保護者に対し当該検体を提出し、若しくは都道府県知事から指定を受けた病院若しくは診療所又は衛生検査所職員による当該検体の採取に応じるべきことを勧告することができる。ただし、都道府県知事がその行おうとする勧告に係る当該検体(その行おうとする勧告に係る当該検体から分離された病原体を含む)を所持している者からその行おうとする勧告に係る当該検体を入手することができると認められる場合においては、この限りでない。都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、提出を受け、若しくは当該職員が採取した検体又は当該職員に採取させた検体について検査を実施しなければならない。都道府県知事は、厚生労働省令で定めるところにより、検査の結果その他厚生労働省令で定める事項を厚生労働大臣に報告しなければならない。」(尚、読みやすくする為、関連条文を適宜組み合わせた)(同法第16条の3、第15条第3項第(1)号、第14条の2)
都道府県知事から指定を受けた病院若しくは診療所又は衛生検査所職員によって採取された検体は国立感染症研究所に送られ検査される(国立感染症研究所に病原体検査を依頼する場合)。
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ここで、ウィルスを体内に保有していても未だ発症していない人を「新型コロナウイルス感染症の無症状病原体保有者」と定義している。すなわち、発熱など臨床的特徴を呈していないが、PCR 検査が陽性だった者となる。
武漢市からのチャーター便により帰国した邦人210人(第一便)に対して国立感染症研究所等において新型コロナウイルスに係る検査が実施され、2名が「無症状病原体保有者(陽性者)」であると、国立感染症研究所は厚労省に報告しているところからすると、この場合の「無症状病原体保有者」は「新型コロナウイルス感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」の内訳であることが判る(内訳には陰性者も含む)。これが「武漢市を含む中国湖北省・浙江省への渡航歴(過去14日以内)」又は「新型コロナウイルス感染症であることが確定したものと濃厚接触歴がある者」という検査対象の縛りとなっている。
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高齢者・基礎疾患保有者・免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている者・妊婦といった所謂感染弱者については、風邪の症状や37.5°C以上の発熱や強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)が2日以上続いている場合(自宅等で観察)、都道府県に設置されている「帰国者・接触者相談センター」に相談することになっている。「新型コロナウイルス感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」に該当するか、症状や行動歴等を確認の上、新型コロナウイルスに係る外来受診(医療機関内=非公表)を勧奨するという運び(その後、検査)。
それ以外の者については、風邪の症状や37.5°C以上の発熱や強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)が4日以上続いている場合(自宅等で観察)、都道府県に設置されている「帰国者・接触者相談センター」に相談することになっているが、感染弱者でなければ「新型コロナウイルス感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」とみなされず、新型コロナウイルスに係る外来受診(医療機関内=非公表)を勧奨されないということになっているのかもしれない。
湖北省などの渡航歴がなく、高齢者など感染弱者でもない者が風邪同様の症状を呈し、「帰国者・接触者相談センター」に相談したところで、自宅療養を勧奨され「検査を断られ」る事態になっているものと思われる。若年層で風邪同様の症状を呈した場合も自宅療養を勧奨され「検査を断られ」るだろう。
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都道府県知事から指定を受けた病院若しくは診療所又は衛生検査所職員によって検体を採取、国立感染症研究所に送られ検査に付される。都道府県知事及び厚生労働大臣に以下報告を義務付けられている。
「厚生労働大臣及び都道府県知事は、新型コロナウイルス感染症の患者若しくは無症状病原体保有者又は当該感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者の検体から収集した感染症に関する情報について分析を行い、感染症の発生の状況、動向及び原因に関する情報並びに当該感染症の予防及び治療に必要な情報を新聞、放送、インターネットその他適切な方法によりを積極的に公表しなければならない。前項の情報を公表するに当たつては、個人情報の保護に留意しなければならない。」(尚、読みやすくする為、関連条文を適宜組み合わせた)(同法第16条1項2項)
厚労省からは公表に係る基本方針が示されている(2020年2月27日付事務連絡)
基本方針中「公表時期」について、
「原則として、疑似症患者(真性の急性感染症によく似ているが、はっきりそうであるとは断定できないもの)が発生した段階(国立感染症研究所に検体が到着した時点)で、速やかに厚生労働省ホームページへの掲載、記者会見等を通じて公表を行う。公表の際には、公表内容について事前に自治体や関係省庁等と情報共有を行う。ただし、疑似症患者のうち、他者に感染させる可能性がある時期の患者(疑似症患者を含む)の体液等及び患者が発生している地域において感染を媒介する生物等との接触歴がない者については、感染症にかかっている蓋然性が低いため、疑似症患者が発生した段階ではなく、国立感染症研究所の検査により当該感染症にかかっていることが確定した段階で公表を行うこととする。」
ここで、「国立感染症研究所に検体が到着した時点・国立感染症研究所の検査により当該感染症にかかっていることが確定した段階」という前提がある。つまり、国立感染症研究所で「確定」しなければ公表できない。「確定」とは症例に対して言うので、感染者の数は発症した人の数で、(発症していない)感染者の数ではないということになる。無症状で検査を実施され「無症状病原体保有者(臨床的特徴を呈していないが、検査により新型コロナウイルス感染症と診断された者)」とされた者とは、「新型コロナウイルス感染症にかかっていると疑うに足りる正当な理由のある者」の内訳であることに変わらず、その内訳にない無症状の者はそもそも検査対象にならないということである(無作為に検査しない限り)。
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この「国立感染症研究所の検査により当該感染症にかかっていることが確定した段階」なる前提に「検査をさせないようにしている」や「検査件数を抑えている」などという、ボトルネックを指摘する報道もある(以下)。
“「(PCRが公的医療保険の適用対象になるからといって)クリニックから直接(民間のPCR検査を依頼できるかどうか)ということはまだわかりません。ちょっと待ってくれと、中枢の先生方が言われたからです。私はうがった見方をして、オリンピックのために汚染国のイメージをつけたくないという大きな力が影響しているのかなと思って、先生方に聞いたのですが、『そんなことのために数字をごまかすほど、肝の据わった官僚はいない。これはテリトリー争いなんだ。このデータはすごく貴重で、地方衛生研究所からあがってきたデータは、全部、国立感染研究所が掌握しており、このデータは自分で持っていたいと言っている感染研OBがいる。そのへんがネックだった』とおっしゃっていました。ぜひ、そういうことはやめてほしい。人工呼吸器につながれながらも、確定診断してもらえない人がいるんです。数万人の命がかかっています」(国立感染症研究所ウイルス部元研究員の岡田晴恵・白鴎大教授)
“一部の報道では、北海道に派遣された職員がPCR検査について「入院を要する肺炎患者に限定すべき」と発言し、「検査をさせないようにしている」との疑念が指摘されています。
(中略)積極的疫学調査では、医療機関において感染の疑いがある患者さんへのPCR検査の実施の必要性について言及することは一切ありません。最近の各種報道では、上記の件以外でも、本所が「検査件数を抑えることで感染者数を少なく見せかけようとしている」、「実態を見えなくするために、検査拡大を拒んでいる」といった趣旨の、事実と異なる内容の記事が散見されます。こうした報道は、緊急事態において、昼夜を問わず粉骨砕身で対応にあたっている本所の職員や関係者を不当に取り扱うのみならず、本所の役割について国民に誤解を与え、迅速な対応が求められる新型コロナウイルス感染症対策への悪影響を及ぼしています。報道に携わる皆様におかれましては、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」とその運用、ならびに本所の役割をよくご理解いただき、新型コロナウイルス感染症の急速な感染拡大の防止にご協力くださるよう、お願いいたします。”(国立感染症研究所の反論「新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査に関する報道の事実誤認について」)。
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湖北省などの渡航歴がなく、新型コロナウイルス感染症であることが確定したものと濃厚接触歴もなく、高齢者など感染弱者でもない者が無症状である限り、その者に検査が実施されることはない(無作為に検査を行わない限り)。本当は無症状病原体保有者であるのに、そのことも知らず、日常生活でウィルスを伝播しているのかもしれない。若年層については風邪だとして検査対象とされず、軽症のまま日常生活でウィルスを伝播する者もいるかもしれない。中には風邪だと思って病院に行く者もあるかもしれない。
患者クラスター(集団)の母数に本当は軽症者や無症状病原体保有者の数も含めなければ母集団は判らず、そのクラスターの実態は把握できないのではないか?と考える。一律にBCGとツベルクリン反応検査を行って結核菌の抵抗力を調べるような規模で検査を行わない限りそれは無理かもしれない。
いずれにせよ、感染経路が不明なケースは軽症者及び無症状病原体保有者の挙動に関係していることは確かである。発症した人の数(風邪扱いにされ検査されない軽症者を除く)だけで今般のウィルス禍の規模を判断してはならないということだ。軽症者や無症状病原体保有者でもウィルスを伝播するという点、新型コロナウィルスはとても厄介な性格を持っている。
『よく考えたらコロナウイルスかかってる人あんまりいないよね笑 噂の力ってすごい』
— 吉田はな (@QT9hUiteBI3JBoz) February 24, 2020
っていう一言一句同じ文章を大量の人が一斉にツイートし始めてる!と聞いて、ちょっと検索してみたら確かに凄い;ドンドン増えてる。何の指令?コワ。 pic.twitter.com/IAA2NFwkMO
『よく考えたらコロナウイルスかかってる人あんまりいないよね』と、社会の8割の軽症者・無症状病原体保有者が笑ってウィルスを伝播する先に2割の感染弱者がいる。2割が死んでも笑って済ませる世の中が怖い。そういう空気を官邸が率先して作っているとすれば。
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”新型コロナウイルスの感染拡大を受け3月2日、政府の専門家会議が会見し、道内感染者は推計940人に上るとの考えを示しました。メンバーの一人、北大医学研究院(理論疫学)の西浦博教授が2月25日の時点の調査で940人に上る試算を示し、「(公表されている)道内感染者は77人だが、推計と10倍のひらきがあり、軽症で若年層に広がっているのでなければ整合性がつかない」と述べました。”(北海道ニュースUHB 2020年3月2日付記事引用)
なぜ公立小中高校などの一斉休校要請を安倍首相が声明したのか、その理由を安倍首相は明かさなかった。政治的に「子どもたち」をお為ごかしに使ったが(拙稿『「子どもたち」をお為ごかしに使う』)、後から「軽症で若年層に広がっている」という科学的認識が付け加わった感もある。
政府の専門家会議の試算(北海道内)での不整合は、若年層を中心とする軽症の新型コロナウィルス感染者を検査でそれと確定する必要性を示唆しているのではないか?それら検査されない軽症感染者から成る若年層がウィルス伝播の母体となり得るということならば、風邪の症状や37.5°C以上の発熱や強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)が4日以上続いている場合(自宅観察)は感染弱者(基礎疾患保有者・免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている者)でなくとも若年層は全て新型コロナウィルスの検査対象とすべきではないのか(現状は検査対象としない為、自宅療養なり通院を各自の判断で行っているのだろう)?
専門家会議の試算で「整合性がつかない」とされた上は、発症者(風邪扱いにされ検査されない軽症者を除く)の人数だけでは、今般のウィルス禍の規模を我々が過少判断することになり兼ねない。全ての年齢層で軽症感染者については縛りを設けず検査を行って母集団を明らかにし、その結果を公表すべきではないのかと思う(感染の母集団を知ろうとすれば、韓国のような感染者実数の公表となり、民心や経済がパニックとなるが・・)。
”この種の問題は、最初に断固として対処しないと、経済へのリスクが、かえって大幅に上昇してしまうことがあります。いま対策を打つほうが、あとで対策を打つよりも安くつくのです。私は「どうせパニックするなら、いまパニックしろ」という自作の警句で自分を戒めています。”(【新型コロナウイルス】「不確実なときはパニックせよ」リスクの専門家“知の巨人”が緊急提言 / COURIER JAPON 2020年3月1日記事より)
ひたすらパニックを恐れ「アンダーコントロール」などと実害を隠蔽し続けた結果、原発事故は収束の目処なき国家の宿痾(治らない病)となった(拙稿『いつまでも「うそつきロボット」で良いのか(原発事故なる国家の宿痾(治らない病)』)。
(おわり)
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