2020年02月28日

政令公布の遅滞に日本政府の責任がある(ダイヤモンド・プリンセス号検疫)



“クルーズ船ダイアモンドプリンセス号(以下クルーズ船)は、2020年1月20日、横浜港を出発し、鹿児島、香港、ベトナム、台湾、および沖縄に立ち寄り(検疫・下船・仮検疫済証発行)、2月3日に横浜港に帰港した。この航行中の1月25日に香港で下船した乗客が、1月19日から咳をみとめ、1月30日に発熱し、2月1日に新型コロナウイルス陽性であることが確認された。そのため、日本政府は2月3日横浜港に入港したクルーズ船に対し発行していた仮検疫済証の効力を無効にしその乗員乗客の下船を許可しなかった。2月3日からの2日間、全乗員乗客の健康診断が検疫官により行われ、症状のある人、およびその濃厚接触者から新型コロナウイルスの検査実施のために咽頭ぬぐい液が採取された。2月5日に検査結果よりCOVID-19陽性者が確認されたことから、クルーズ船に対して同日午前7時より14日間の検疫が開始された。この時点でクルーズ船には、乗客2,666人、乗員1,045人、合計3,711人が乗船していた。(中略)COVID-19陽性者は下船し、国内の病院に入院し治療、隔離された。陽性者の同室者は「濃厚接触者」として検査され、陽性であった場合は同様に下船し病院に入院し、陰性であった場合は、陽性患者との最終接触日から14日間船内での隔離となった。”(国立感染症研究所HPから引用の上補筆)。

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クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号については、陽性者を確定するための検疫を船内で行ったことによって(2月5日から開始)、その検疫期間内に於いて、船内に隔離された陰性者(多くは陰性かも判らない未検査者)に感染が及んだ可能性は排除できない(陽性者と共に停留したことになるゆえ)。なぜ汚染された環境にそれら乗客を留め置かなければならなかったのか。初動で船外の医療機関に隔離・停留(検疫法上)すべく下船させることはできなかったのか?

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新型コロナウィルスは検疫法上第2条第3号の検疫感染症に該当する為、検疫における質問、診察・検査、消毒等は可能だが隔離・停留はできない扱いとなっていたが、令和2年政令第28号(2月13日に政令公布・2月14日施行)によって、検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定し、検疫法上の隔離・停留が可能になった。

【検疫法】
新型コロナウィルスは検疫感染症(第2条第3号)。
検疫における質問、診察・検査、消毒等(隔離・停留はできない)
…→ 検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定し、検疫法上の隔離・停留を可能とする

【感染症法】
新型コロナウィルスは指定感染症(令和2年政令第28号)。
患者・疑似症患者には入院勧告・拒否すれば強制入院・公費負担(無症状病原体保有者には入院要請)
…→ 無症状病原体保有者にも入院勧告・拒否すれば強制入院・公費負担

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なぜ初動に於いて船外の医療機関で検疫法上の隔離・停留が行うことができなかったのか?については、確かに着岸検疫が開始された2月5日時点では、新型コロナウィルスは検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定されていない為、検疫法15条の隔離、16条の停留を適用することはできなかったのだろう。

検疫法上の隔離や停留ではなかったものの(少なくとも政令が施行される2月13日までの間)、実質は濃厚接触者が乗客に存在することを前提とした停留を船舶を使って行ったことになる。

新型コロナウィルスの特徴として陽性であっても無発症の場合があり、咽頭を拭っただけではウィルス検出はされないなど、陽性者の確定に困難なり手間が生じ、本来直ちに入院を勧告しなければならない陽性者(感染症法上)もそれと確定できず、陰性者と共に感染環境下の船内に実質隔離・停留させる結果となった(少なくとも政令が施行される2月13日までの間)。このことが船内感染を増大させるという大事故に発展した。

この大事故は元に立ち帰れば、検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定する政令公布が遅れたことに拠る。検疫法下の隔離・停留ではなかったから(少なくとも政令が施行される2月13日までの間)、それら法律上対応できないことを日本政府が善意(人道上)で行ったに過ぎず、国際社会から責任を問われる筋合いではないと主張する者が多いが、そもそも、検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定する政令があれば当然発生した責任であり、政令公布の遅滞懈怠(後手)に日本政府の責任が問われることでもある

なお、検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定する政令に伴って、停留を船舶内で行う場合は検疫所長は検疫官をして船舶の長の同意を得て行うことができるとされている(検疫法第16条)。係る同意を求めたのに運航会社や船長が拒否したり協力しなかった場合ならば(少なくとも政令が施行された2月14日からの期間)日本政府の責任ではなかったと言えるかもしれないが、以下の記事に拠るとどうも話が逆のようである。

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「危機意識の低さから初動の失敗を招いたのでは…新型コロナウイルスへの対応からみる日本危機管理の“弱点”(FNN.jpプライムオンライン:2020年2月25日記事」から以下引用。

“初動対応で乗員を下船させるという選択肢が考えられたときに、日本政府がその要求や交渉を行ったという経緯はあるんですか? したのであれば、なぜ下船させられなかった?(反町キャスター)”
“交渉はあったと思う。受け入れ施設の問題と、運営会社の反対があったという可能性がある。法的には、運営会社が下船させないと言えば下船させることはできない。(佐藤正久参院議員)

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検疫法第16条では、船内で停留させる場合について「船舶の長」の同意が必要なのであって、船外の施設に停留させることに(下船)に「船舶の長」の同意は必要とされない

この佐藤議員に代表される、日本政府が下船を要求・交渉したにも関わらず、運営会社(親会社は米企業)が反対した・・なる「可能性」が独り歩きしている。すなわち、日本政府は運営会社に要求や交渉をしたにもかかわらず、反対された、や、船の運営会社がアメリカ、船籍がイギリスだから・・、その上で行った着岸検疫について日本政府の責任を問うことは間違っているという、運営(運行)会社や船籍国(英国)の責任論の発端となっている。

感染者がいるかもしれない乗客を乗せたまま船を洋上漂流させようなどとクルーズ船の船長や運航会社が思う筈はない。むしろ船内の事態悪化を恐れ、乗客の緊急上陸を望んでいたことは想像に難くない。

ちなみに、入管法第 5 条第 1 項第 1 号では、指定感染症の所見がある外国人の上陸は認められないが、出入国管理及び難民認定法第17条では船舶長又は運営会社の申請に基づき、厚生労働大臣又は出入国在留管理庁長官の指定する医師の診断を経て、その事由がなくなるまでの間、当該外国人に対し緊急上陸を入国審査官は許可することができるとされている。

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今般の新型コロナウィルスに関しては、その特徴からウィルス潜伏期間中の感染者をそれと検疫で確定することは難しい点などは、初動の段階ですでにエピデミックとなっていた武漢からの情報で知り得た筈である。にもかかわらず、乗客乗員の個々の隔離が感染防護上では物理的に困難な船舶内で停留を敢えて行い、停留期間経過後、下船した者に感染者が含まれる可能性の大きさは感染症の専門家であれば十分想定し得た(ゆえに、検疫法の定める停留は船内で行わなかったことになり、下船後に船外の施設に移してあらためて期間を設けて停留を行うべきであったが、自由帰宅を認めた。これは重大な瑕疵である)。したがって、この点からも、検疫法第34条の政令で指定する感染症に指定する政令があれば、初動対応で乗員を下船させ船外の施設に移して停留を行うという選択肢を取り得たのであり、その政令交付の遅滞(政治の後手)がクルーズ船を培養シャーレにしてしまったとも言える。

下船させるという選択肢の先での、受け入れ施設の問題については武漢から旅客機で帰国した日本人には、民間のホテルや税務大学校(埼玉)など公的施設を当てたことからも、船舶の場合はその人数が多いことだけを理由に一切の可能性を排除してしまったことも問題である。

また、停留措置は国民の安全・健康を守るために重要である一方、個人の行動を数日間にわたって制限することになるため、人権を最大限尊重することは欠かせない。その観点で、船舶内の窓のない客室の乗客たちへの行動制限は過酷に過ぎたのではないか?それら乗客だけでも下船させるという選択肢を与えるべきであった(参考:「新型インフルエンザの流行初期における停留措置の意思決定のあり方の検討」(2011年4月15日 第58巻 日本公衛誌 第4号)。
(乗員の人権については、拙稿『「仕事を放棄しなかった乗員」(高山医師の反論)で良いのか?』で触れた通り。)

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その国防は政令一つでできたということ。緊急事態条項(憲法改正)とか自衛隊を中心とした指揮命令系統とかではない。実は小事が大事であるのかもしれない。大事であると気付かない暗愚な政治にこそ危機管理意識が欠如しているのではないか?

(おわり)

追記:
「旗国主義の穴」と報じる日経新聞の罪深きミスリーディング(日下部智海氏・ハーバー・ビジネス・オンライン 2020年2月29日付記事)に於いても、”旗国主義の問題と感染症拡大の責任問題とは無関係” であることが詳述されている。



posted by ihagee at 14:58| 日記