「精度95%のAI自動翻訳 T-4OO・プロ翻訳者レベルのAI 自動翻訳 - AIによる外国語業務の効率化・働き方改革-」なるキャッチワードでAI自動翻訳サービスを提供する株式会社ロゼッタ(以下「R社」)。マザーズ市場の有望銘柄(6182)としてその事業が脚光を浴びている。
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そのR社が2019年12月13日付で「自動翻訳サービス(T-400)の機密保持体制について」と題する書面をネット上に公開した。
8項目に亘る説明の内、F 外部パブリッククラウドの利用については、以下記載がある。
F 外部パブリッククラウドの利⽤
⽇英・英⽇翻訳、⽇中・中⽇翻訳の⼀部
本サービスから、外部パブリッククラウドサービスの利⽤は⾏われません。弊社が調達したハードウェア、ソフトウェア上で動作し、全てのデータは国内で管理されます。多⾔語翻訳(⽇英・英⽇、⽇中・中⽇の⼀部を除く)本サービスから、外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳APIを利⽤します。外部パブリッククラウドサービスでのデータ取り扱いについては、外部パブリッククラウドサービスの プライバシーポリシーに依存しますので、弊社SLA対象外となります。
※⽇中・中⽇翻訳を外部パブリッククラウドサービスを利⽤しない設定にすることもできます。
(下線拙者)
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R社のT-400翻訳エンジンは、同社の説明によると「人工知能とインターネットを融合させるという世界で初めての翻訳ロジックを採用(自社開発)」ということらしい。「インターネットを融合させる」が「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳APIを利⽤します」ということであれば、英語以外の言語と日本語との間の翻訳で「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳APIを利⽤します」ということになる。
さて、「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳APIを利⽤します」については、情報セキュリティの視点(『クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン〜利用者との接点と事業者間連携における実務のポイント〜』(総務省)に照らす必要があると考えられる。すなわち「情報の公開・二次利用関連」が情報セキュリティの視点上のポイントとなる。
「パブリッククラウドサービス」とは、「任意の組織で利用可能なクラウドサービスであり、リソースは事業者(クラウドサービス提供者)によって、制御される。・・・特定秘密(特定秘密の保護に関する法律(平成 25 年法律第 108 号)第3 条第 1 項に規定する特定秘密をいう。)及び行政文書の管理に関するガイドライン(内閣総理大臣決定。初版平成 23 年 4 月 1 日。)に掲げる秘密文書中極秘文書に該当する情報をパブリック・クラウド上で扱わないものとする。」(各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)
要するに、外部の「パブリッククラウドサービス」を利用するということは、そのサービスを提供する外部の事業者(R社ではない)が、そのサービスから収集した情報をある目的のために使用することを認めることを意味する(データの二次利用)。
「外部パブリッククラウドサービスでのデータ取り扱いについては、外部パブリッククラウドサービスの プライバシーポリシーに依存しますので、弊社SLA対象外となります。(「自動翻訳サービス(T-400)の機密保持体制について」)。
その利用するとしている「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳API」が所謂「Google翻訳(無償)」なのか、それとも有償のTranslation APIなのか、R社は明らかにしていない。有償のTranslation APIを利用すれば、Google翻訳の機能向上や機械学習の為に送信されたデータ・コンテンツをGoogleは利用しない(二時利用しない)ことになっている(Google「AIと機械学習プロダクト」より)。
もし、日英・英日翻訳以外の言語と日本語との間の翻訳に於いて、「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳API」が所謂「Google翻訳(無償)」を利用していることを意味するのなら、Googleに「Googleのすべてのサービスが収集した情報を以下の目的に使用します(「Google ポリシーと規約」」を許すことになる。
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”機密情報を含む重要な企業内文書の翻訳に際し、セキュアな環境でお使いいただけるよう、サーバーは全て日本国内に存在し、ISMS認証取得の設備にて外部の不正なアクセスから保護されています。また、データ通信には暗号化システム(SSL)を採用しています。また、セキュリティに厳しい企業・部門からの、セキュリティチェックシートにもご回答させて頂いており、要求仕様を満たし、安心してご利用いただいております”(R社・T-400「セキュアな環境で利用可能」説明文より・下線拙者)
サーバーは全て日本国内に存在し。しかし、外部の「パブリッククラウドサービス」の外部については、データセンターの場所が国内ではなく国外にあることを意味しているのではないか?「外部パブリッククラウドサービスの プライバシーポリシーに依存します」とある通り、情報情報セキュリティの要素である完全性、障害耐性、機密性に照らして、国内に比して国外のデータセンターには不可知なリスクがある。また、プライバシーポリシーの運用に於いてそもそもR社は事業者としてその取り扱いを定める側ではない「=制御できない」リスクがある。
ストレージ用のサーバーが外国にありクラウドコンピューティングサービスに関する場合で且つ「日本から外国に向けての技術提供」に該当すると解釈される場合、経済産業大臣の許可(輸出許可)を受ける必要がある(外為法第25条第1項)。保管することのみを目的としたストレージサービスは役務取引に該当せず、SaaSはインターネットを介してプログラムを利用者が利用可能な状態に置くことを目的とする取引として役務取引に該当すると解釈されているようだ。
「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳APIを利⽤します」のT-400については、未公開の機密性の高い情報(特許発明の類)について英語以外の言語と日本語との間の翻訳は注意した方が良いかもしれない。その言語間の翻訳にデータの二次利用を許すGoogle翻訳を利用している可能性があるからである。さらに、英語以外の言語と日本語との間の翻訳が間に英語をブリッジさせて翻訳している可能性があれば、それら言語間の翻訳の品質が低い場合も考えられる。
技術情報が出願特許公開と本質的に変わりが無くとも、役務取引である以上、外為法の規制が適用されると考えるべきであるという考えもある(外為法第48条第1項「輸出規制」)。
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安全保障輸出管理において技術の機微度が比較的低い言語データについて「外部パブリッククラウドサービスの提供する翻訳APIを利⽤します」のT-400を使用し外国語業務の効率化を図ることに何の問題はないだろうが、技術の機微度が高いデータに関しては注意すべき点があるということだろう。
(おわり)
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