2019年10月26日

理念なき狂騒



開催まで一年を切って、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会が混迷を深めている。そのオリンピック競技のマラソンと競歩について、国際オリンピック委員会(IOC)がコースを東京から札幌に移すことを提案(事実上、決定)した問題である。

オリンピック憲章ではアスリートファーストを謳っておきながら、そのファーストに考えておかなければならなかったことがこの期に及んで問題化した。誰にとっても到底ベストシーズンとは考えられない真夏の東京、焼けたアスファルトの上でベストタイムを競うなど言うも及ばず、選手ばかりか沿道の観客・ボランティアの命まで危険に晒すこと位、ファーストに想起すべきことであった。マラソンや競歩に限らず、屋外のスポーツ全般について言えることでもある(パラリンピックも同じ)。遮熱性の高い舗装の導入に300億円に近い(都費・実質税金)を投入したのは無駄になり(駆け比べではなく、市民の防災対策に投じるべきであろう)、打ち水・朝顔・日除け傘など、効果不明のB29に竹槍ばりの精神主義が欧米の物笑いの種になっている。

「晴れる日が多く温暖でアスリートに最適な気候」(立候補ファイル)がいかに東京招致ありきのセールストークであったか、この言葉に誰が責任を負うのか?言い出した者(招致委員会・当時)それを受けた者(IOC)の間で責任をなすり合う事態は見苦しい。

開催都市である東京都は件の提案・決定がIOCと東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会)の間でなされ、事後に報告を受けたことに抗議している。しかし、その組織委員会は、そもそも日本オリンピック委員会(JOC)と東京都によって一般財団法人として設立され、そのJOCはIOCの日本支部である(IOCに承認された日本の国内オリンピック委員会(National Olympic Committee, NOC))。

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東京(猪瀬前知事)が2020大会の開催都市に決定した際に、東京都、JOC、IOCの3者で締結した契約が「開催都市契約(契約原本は英語・HOST CITY CONTRACT)。当事者間に生じる権利義務の関係はそれら3者ということならば、甲(IOC)、乙(東京都)、丙(JOC)と関係を開催都市契約に記載すべきであろう。しかし実際は甲(IOC)、乙(東京都、JOC=NOC)で契約が結ばれている。

HostCityContract


”IOC は大会運営を東京都・JOC に委任し,東京都・JOC はさらに組織委員会を共同設立して大会の実施を代行させているので(開催都市契約 1 条),組織委員会は大会を行う者(主催者)ではなく,単なるエージェンシーに過ぎない。”(「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策」パテント 2019 Vol. 72 No. 10)から引用)

その単なるエージェンシーの組織委員会及びIOCの日本支部であるJOCがIOCの決定に従うことは自明である。契約上、JOCと同じ側の東京都が結果として従わざるを得ない、そうなるべき開催都市契約とも言える。東京都は場所とカネを提供するだけで口を出してはならないということである。

オリンピック関連登録商標のライセンス関係が契約関係に反映しているとも言える。



(「論文『オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策』 弁理士会誌『パテント』2019年9月号掲載のお知らせ」より引用)

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アスリートファーストなどは名ばかり、その実態はスポーツやアスリートを道具にした世界を股にかけたドサ回り興行、さらにオリンピック関連登録商標については商標法違反とあって(商標法は改正されたが違法状態は継続している)、オリンピック憲章の高貴な理念などとうに喪失した営利事業としてのオリンピックの実態があからさまになっている。

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オリンピックのファイナルイベントはマラソン競技であり、そのゴールは開催都市に与えられる栄誉なのかもしれない。その日の丸を掲揚すべく作り直した国立競技場。IOCはマラソン競技のメダル授与式のみ国立競技場で行うことを東京都に提案しているが、実(経済的)を伴わない栄誉に被災地復興ならぬ東京復興の思惑が見事に外れてしまった。



アスリートに栄誉が与えられた1964年東京オリンピックで終わりにしておけば良かった。アスリートを国家の威信の犠牲にするオリンピックは円谷幸吉で最後にすべきであるのに、そう思わない連中がさらなる犠牲も厭わぬとばかりに真夏の東京にオリンピックを招致し、「おもてなし」やら「復興五輪」などとシルクのスーツを身にまとったビジネスマンや政治家たちが美辞を連ねる。理念なき狂騒に命を晒すアスリート。全くもって本末転倒ではないか?

(おわり)

追記:マラソン・競歩競技の札幌移転。政治的な実を失うのはその直前に都知事選挙を控えた小池百合子氏であろう。暑さよりも自身の政治生命が脅かされたことが(自身ファースト)IOCへの抗議として現れているとも側からは見える。他方、札幌移転で実を取るのは北海道出身の参議院議員(比例区)橋本聖子氏となる。夏冬のオリンピック・アスリートとしてのキャリア且つ東京オリンピック・パラリンピック競技大会担当国務大臣とあれば尚のこと。IOCとの親和性は言わずもがな他のいかなる政治家よりも高い。バッハ会長とはメダリストとして個人的共通項がある。さらに組織委員会会長・森喜朗元首相が「父みたいな存在」の橋本氏とあって、その森氏とそもそもケミストリーが合わずIOCからも袖にされた小池氏は今や四面楚歌である。橋本氏を五輪相に任命した安倍首相にとってはオリンピックを自身の政権求心力として利用し、安倍マリオとなって札幌ドームから新国立競技場にワープし「ふたたびお会いしましょう」と4選(総裁選挙)又は橋本氏など安倍チルドレンを後継首班とする院政への弾みともなる。森氏からも大いに感謝されるに違いない。

”前大阪市長で弁護士、橋下徹氏が26日、関西テレビ「胸いっぱいサミット!」(土曜正午)に出演。2020年東京五輪のマラソンと競歩の札幌移転案をめぐり、国際オリンピック委員会(IOC)に反発している小池百合子都知事に「オリンピック、中止にするよって言えばいい」と“助言”した。”(2019年10月26日 21時9分 サンケイスポーツ報)

札幌移転案に反発したちゃぶ台返しをIOCにチラつかせたところで、先の北方領土でのマラソン競技開催提案?発言がロシアから「対立的な皮肉の口実(ロシア大使館)」と一蹴されたように、国際社会では無責任な発言だとしか受け取られかねない。

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オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題こそオリンピック開催是非に関わる問題の本源である。すなわち、権力を縛るべき「法の支配」がオリンピックを介することによって逆に権力(政治・経済上の支配層)に利し、その為には法さえ身勝手に解釈したり無視しても構わないとすることであるからだ。商標法および商標制度を権力(政治・経済上の支配層)が自家薬籠中にすることにとどまらず、「これがなければオリンピックを開催できない(安倍首相)」の共謀罪(改正組織犯罪処罰法・拙稿『開催都市契約に蒔かれた「共謀罪のタネ」は本当か?』)や自由民主党「日本国憲法改正草案」の緊急事態条項に広げ(拙稿『「れいわ・澪和」と書く』)「法の支配」の支配される対象が権力者から市民になることを意図する。

オリンピックに問う本源的な意味は暑さや政治家の一身などではなく、「法の支配」なるこの国のあり方そのものに係っていると考えるべきである。
posted by ihagee at 04:25| 東京オリンピック