2019年04月15日

東京新聞・特報記事「IOC商標登録・過剰規制の恐れ/商店街「五輪」使えない?」



4月12日(金)朝刊第一面記事(「五輪」商標取り消しを 東京の弁理士、IOC登録に異議)に引き続き、4月14日(日)朝刊「こちら特報部(見開き一面記事)」内に関連記事が掲載された。

先に私も触れたように(拙稿『IOCの登録商標「五輪」についに異議申立』)、IOC自身が過去何の管理も行わず自らも俗称として使うこともせず「誰でも自由に使える公有のもの(パブリック・ドメイン)」にしてきた「五輪」(文字)に商標権付与を以って独占させることは、商標法の対象の拡大解釈・商標法の公序良俗違反に当たるとして、特許庁に「五輪」の商標登録取消を求める異議申立を東京在の弁理士が行った。

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IOCの登録商標「五輪」(文字)の他、JOC、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(組織委員会)もそれぞれいくつものオリンピック関連商標を持っている。この三者はいずれも非営利公益組織である。

IOC, JOCは、特許庁商標審査基準(商標法第4条1項6号)「公益に関する団体であつて営利を目的としないもの」の例示として挙げられており、その例示にないものの、公益財団法人たる組織委員会も同様に「公益に関する団体であつて営利を目的としないもの」に該当する。

「公益に関する団体であつて営利を目的としないもの」ゆえに、その商標を第三者が使用することはできない。つまり、商標法(商標法第30条1項但書き=専用使用権 / 商標法第31条1項但書き=通常使用権)では、商標の使用権の第三者への設定・許諾は認められていない。

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しかし、現実はIOCはその所有する登録商標をパートナーシップ契約を以って世界の名だたる企業(トヨタ含む)に使用をさせ、JOC、組織委員会の各々所有する登録商標については組織委員会が窓口となってスポンサーシップ契約を以って同様に企業に使用を認めている。それら企業は商標の使用を含むライセンス活動を当たり前のように行っているが、商標法で認められていない「違法状態」での活動に他ならない(拙稿「大問題:スポンサーに対するオリンピック関連商標使用許諾は商標法違反(続き)」)。

ライセンス活動が商標法違反に当たるとの弁理士の指摘について、東京新聞が組織委員会に問い合わせたところ、「オリンピック・パラリンピックに関する商標を、関係当事者との合意などに基づいて適切に活用している」とだけ組織委員会から回答が届いたそうだ(10日付)。

3月20日参議院法務委員会で小川敏夫議員が同様の指摘を行ったが、その際の政府参考人の答弁とこの回答は全く同じである。(法務委員会議事録「平成31年 3月20日 第4号」)

「組織委員会の方からは、組織委員会とスポンサー企業の間におきまして現行法に沿って適切に契約されているという報告を受けているところでございます。(内閣官房内閣審議官 十時憲司氏)」

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「現行法に沿って」の「現行法」とは何を指すのかと小川議員がさらに質したが、政府側は最後まで「商標法に沿って」と答弁できなかった。

東京新聞の問い合わせに対する組織委員会の回答も「商標を活用している」としながらも、「合意に基づき適切に契約されている」と契約の上では(当事者間の合意の上では)適切である、とだけしか答えていない。「商標法に沿って」と答えることができない。

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今国会では商標法第31条1項但書きを削除する旨の商標法改正法案が提出されている。ライセンス活動におけるオリンピック関連商標の「使用」は通常使用権の許諾に該当し、その許諾を認めていない同法を改正し、許諾を合法化しようとするものである。

しかし「法令不遡及の原則」に拠って、たとえ法改正されようと既にライセンスされた商標に適用されることはなく、違法状態が続くことになる。

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「これまでのオリンピック関連の登録商標を無効にしないと、商標法上の違法状態を解消できない」との件の記事での弁理士のコメントにある通り、そうなればオリンピック関連商標を使用したライセンス活動は一切できない。収益源の柱を失うだけの違法状態であることを、IOCをはじめとするオリンピック関係者およびスポンサー企業はどれだけ認識しているのだろうか?そして、オリンピック競技の主役たるアスリート達はそっちのけで、スポーツ外で違法行為が公然と罷り通る状況は異常としか言いようがない。

参議院法務委員会での質疑答弁、東京新聞の報道・取材によって、この「違法性」が公の知るところとなった以上、IOCをはじめとするオリンピック関係者およびスポンサー企業は商標法に違反していることを知りつつも、違法なライセンス活動を続けていることになる。これは違法と知りつつ行うこと=犯罪である。

「つまり、使用許諾をしているんじゃないと。ただ、使っているのを見て、こっちで差止めしないよと。差止めしないよと言って使うのを黙認していれば、それ使用許諾じゃないの。もしそれが使用の許諾じゃないといったら、じゃ、使っているのは許諾を受けないで使っていることになるわけですよ。許諾を受けないで他人の商標を使えば、これ商標権侵害で懲役十年以下の刑罰ですよ。つまり、商標を使わせておいて、使用許諾ではありません、ただ使用を禁止しない、そういう約束ですというのは、これは通らない話じゃないですか。使うのを止めないよというのなら、それは通常の理解じゃ使用を許諾しているわけですよ。それが使用の許諾じゃないというんだったら、使っているのは許諾を受けないで商標を使っているんだから、商標侵害で懲役十年以下の刑事事件なんですよ。おかしい理屈を言っているわけですよ。結局、この法律の明文の規定に明らかに違反して、何か当たり前のごとく違法か合法かの認識もないままこの協賛金をもらって、協賛企業には登録商標を使わせてやるよというのが実際行われている。だけど、役所の立場上、それ違法だって言えないから四の五の言っているだけじゃないですか。(3月20日参議院法務委員会/小川敏夫議員発言)」

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オリンピックの公益性と商業主義の間の矛盾が、その商業主義の収益の最大の要ともなっている商標の使用によって炙り出されている。「五輪」なる日本語すら外国人たるIOCが奪い取って、公益性ゆえにその使用に制限を課す法を公然と破ってでも使用させようとする商業主義。この問題は枯野に放たれた火のように国際社会にまで広まり、いずれ日本政府に責任が及ぶだろう。政治解釈で法を捻じ曲げてきた政府も今度ばかりは曲がりようもない手続法たる商標法相手である。ゆえに「たかが商標法、何するものぞ」などと甘くみてはならない。商業活動の信用が化体する商標、その法根拠が揺るげば国の信用にも及ぶ。それ程の重大な問題が目の前に立ち現れているのである。

(おわり)


posted by ihagee at 03:28| 東京オリンピック