2018年06月08日

サイアノタイプ - その32(引き伸ばし機)



小穴式ピーク・引伸用ピント・ルーぺI型(No. 2000)の中古をヤフオクで購入した。市販の(もう製造販売されていないが)この手のピント・ルーペでは世界一の性能を誇っていると名高い製品でもあり中古でもそれなりの値段だった("まことの価値のある物"とは中古となろうとも生き延び続ける良い例だ)。出品者は夕張の写真館の主人らしい。店をたたむので出したとのこと。長年、銀塩写真の焼き付けで活躍したのだろうが、主人に大切に扱ってもらったようで美品だった。

小穴式とはこのピント・ルーペの生みの親たる、小穴純(1907年-1985年)博士の名前に由来する。この小穴博士は光学・応用光学の研究で知られる物理学者であり、東京(帝国)大学、上智大学で教授を務めた。暗室に籠もったことのある者なら誰もこの人の名前を一度は耳にしたことだろう。小穴博士の学究心は日本光学に共にどこまで微細に対象物をレンズで捉えられるかチャレンジさせ、東京オリンピックの年(1964)、遂に世界最高の1,250本/mmの解像力を叩き出す、超弩級のモンスターレンズを誕生させた。2020東京オリンピックを控えて、このような途方も無いチャレンジをする知能も気力も今の産業界にはないのかもしれない。カジノだ土建だ観光だとアナクロな経済政策ばかりの安倍政権であればなおさらである。

この解像度を世に知らしめるため、小穴博士は切手大の面積(12.5mm四方)に英文小説(330頁)を縮小複写してみせたという。選んだ小説は「チャタレー夫人の恋人」というから何とも奮っている。こっそり読むには最適な技術だとおそらく本人はニヤリとしたに違いない。実のところは産業用光学レンズとして高度成長期の我が国の産業の根幹に多大な貢献をした。

この小穴博士が拙宅にやってきたわけだ。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from an analog negative film without using a conventional contact printer and digital processing


本来、銀塩写真の印画紙上でのピント合わせに用いるデバイスだが、本稿のUV 光源下のサイアノタイプ印画紙にも使うことができる。可視光が少ないUV光(395nm)だが、ネガフィルムの銀塩粒子をこのルーペで拡大し捉えることは十分可能だった。粒子が見える位置まで引き伸ばし機のピント合わせを行えば、勘に頼ったピント合わせがいかに杜撰であるか判るほど、焼き付けた結果は違う。UV光だが可視光域に近く、印画紙面上に映るフィルムの銀塩粒子を間接的に見るので(光源を見るわけではない)、手早くピント合わせを行えば目への負担は少ないと思う(私はUVカットのメガネで作業を行っているが)。

さて、その小穴博士にピント合わせを手伝ってもらって焼いた一枚。修行が足らないと叱られそうだ。

Cyanotype print made on an old photographic enlarger directly from 120 negative film without using a conventional contact printer and digital processing

(1950年代・120フィルム・ハーフ版 / 六時間焼き付け、水洗後オキシドール浴・NIKON EL-NIKKOR 50mm F2.8を一段絞って焼いた)

(おわり)

posted by ihagee at 04:01| サイアノタイプ