<8mmフィルム>のカテゴリーで父が撮りためた長尺で十数リール分の8mmフィルム(主にレギュラー・無声)について、主にエアリアル・テレシネ(空中結像)を用いたデジタルムービー化について触れてきた。
これらは家族を中心にした催事を1950年代〜1980年代初めにかけて撮ったものだが、その背景に今となっては現実社会から消え去った街並みや人々の装いといった時代性が写り込んでいる。
3年前に父が亡くなりその三月後に母が急逝した。空蝉となった実家の天袋に残されていた8mmフィルムカメラを遺品として私は貰い受けた。
このキャノン・レフレックス ズーム8-3は調べてみると私と同い年だった。当時の会社員(大卒)の初任給が2万円そこそこだった時代に48,800円(発売時価格)もするカメラを家族の映像記録を残すために父は買ったということになる。フィルムや編集機器、映写機まで揃えて大変な出費をしたことだろう。フィルム撮影が一般家庭に<ホームムービー>として広まったのはもっと後の時代である。
夜遅くまでフィルムを切ったりつなげたりして熱心に作品に仕上げようとしていた父の姿が思い出される。タイトルバックにも凝りだしてストップモーションで撮影していた。アニメーション仕立ての下絵や駒撮りで子供ながら父の手伝いをさせられたものだ。
----
ワインダーを巻き上げると今も動作するカメラを眺めながら、父と同じくフィルムでムービーを作りたくなった。
デジタル全盛の今でも8mmフィルムムービーは細々ながら作成されていると聞く。ドイツ辺りから生フィルムも市場に供給されているようだ。現像を引き受けてくれる国内のラボもある。しかし、その用途はかつての<ホームムービー>としてではなく、新たな芸術運動(カルチャー)の発展系に進化しつつあるようだ。
<ロモグラフィー>もその一つだが、ピュアな映像を求めるデジタルムービーとは逆のノイズだらけのキッチュさに若者が惹きつけられるようだ。だからか、8mmフィルムや半世紀以上前の撮影機材、編集機や映写機を再発見・再利用するよりも、その目的(ノイズ)に合ったフォーマットを新たに作り出している。8mmフィルムではなく一般的なスチル用の35mmフィルム(135フィルム)を使ったLomoKinoはその代表例だろう。

キャノン・レフレックス ズーム8-3とはモノとしては本来比較対象にもならないチープなトイカメラだ。手回しの撮影はリュミエール兄弟時代のプリミティブさだが、デジタル化においてiPhoneなどスマートフォンのカメラを利用するなど後処理においていまどきの技術が巧みにハイブリッド化されている(拙稿「<8ミリフィルム>から考えること」)。
(LomoKinoによるTOKYO LIGHTSという作品)
36枚撮りの35mmフィルム1本で144コマ約30秒の動画となるようだから(一コマを4分割)、1分程度の上掲の作品にはおそらく2本を用いていると思われる。LomoKinoは確かに面白い。
144コマにしかならない35mmフィルムであれば、ワンカットを短くして効果的に繋いだり、コマ撮り(ストップモーション・アニメーション)でパラパラ漫画のように大胆な動きを表現することも考えて良いはずだ。
LomoKinoだと、秒間約5コマなので意味のある最小単位のワンカット(3秒程度)を撮るには15コマ程度必要になる。15コマ程度のワンカットを36枚撮りの35mmフィルム1本であれば9セット作れるということだ。しかし、ワンカットの長さを15コマ程度で撮影するにはクランクを手回しするLomoKinoはいささか不向きかもしれない。
LomographyにはOktomatなる8コマ連写のスチルカメラがある。

35mmフィルムの通常の一コマを8分割して2.5秒で連写するカメラだ。36枚撮りの35mmフィルム1本で288コマになるのでLomoKinoよりは倍のコマ数が得られる。フィルムスキャナーでコマを別々に切り出し動画編集ソフトで繋げれば8コマ単位で一つのワンカットが得られる。36枚撮りの35mmフィルム1本でつまり36セットのワンカットを作ることができるわけだ。ただし、秒間3コマ程度のフレームレートだからパラパラ感が強い。このセットをシークエンスにムービーやgif(MacPCならフリーウェアのPicGIF liteが便利)を作成することが可能。

(Oktomat・8コマのgif)
(St Petersburg - Russia)
(Oktomat・ムービー)
----
しかし、もう少し鮮明さが欲しいところだ。そして、いかにもトイカメラ風のプラスチック感丸出しの外観は持ち歩くのに気恥ずかしい。
そう考えていたら、実に適切なカメラが見つかった。
この富士フィルム社製の連写カルディア ビュ〜ン16(米国Kalimer Inc.社にOEMとして輸出されKalimar Action Shot 16という商品名で海外では販売されていた)は「ゴルフのスイングのフォームを分解して見ることによってゴルフ上達の助けになる」為のカメラが必要だったアナログ時代(1995年)の産物である。その目的ゆえにフジノン F9.5/27mm 16眼(ただしプラスティック製単玉)を搭載した中身は至って真面目な作りのカメラとなっている(外観はプラスチックでチープさがあるが、それでもLomographyのトイのチープ感よりはマシ)。
(「見よう見まねでカメラ分解」より / まだ使える(生きている)カメラの分解はカエルの生体解剖のようで少し残酷な気がするが、分解→復元(→さらに実写)まで過程とすれば先人の技を実地に学ぶ方法としてメーカーのOBの技術者を指導者とするなどして小学校などで取り入れて良いと思う。)
連写モードで一押しすると35mmフィルムのパノラマサイズ(高さ24mm 、幅36mm)の2コマ分が16分割され(一コマを8分割だからOktomatと同じ)、結果として16コマの連写となる(連写モードでのワンカットは16コマとなる)。分割されたコマ(サブフレーム)の寸法は高さ9mm、幅9mm(中央部の4サブフレームは幅7mm)のようなので、8mmフィルム(レギュラー/スーパー/シングル)よりも撮像面積は広いことになる。ゴルファーのワンスイング(クラブの振り上げから振り下ろし)を丸々記録することを目的とすればその時間を16分割し連写できるように設計してあるのだから、初めからスイングなるアクションのワンカットを写す目的のカメラだとも言える。
(スケートボードでの 1/2分のワンカット)
(Normalの連写モードでのシャッターの様子 / シャッター音から判るようにスイングの挙動、いわゆる「ちゃあ,しゅう,めぇん」に合わせて?間隔が不均一に設計されている。)
(Fastの連写モードでのシャッターの様子 / カメラと被写体を固定すればレンティキュラーを利用した近距離でのステレオ写真にも利用できそうだ)
デジタルカメラにその目的を奪われた今となって本来使い道のないカメラであるが、フィルムムービーのカメラとして大いに使えそうだと直感した。この連写カルディア ビュ〜ン16は自動巻き上げ機能なので、連写用のシャッターボタンを連続して押せばLomoKino並の長いワンカットも得られる。連写モードではなく、一押しで一コマだけ撮影する機構(1コマシャッター)もあるので、コマ撮り(ストップモーション・アニメーション)も可能だ(この辺りの機構については(「16眼カメラ でとってみたら・・・」に詳しい)。途中まで1コマで撮り、途中から連写で残りを撮ることもできるようだ(ワンカットを16コマよりも少なくもできる)。
連写カルディア ビュ〜ン16に新たな可能性を発見した人がYouTubeに以下の動画をアップしている。8コマをワンカットにしてリピートさせているようだ(フィルムレートは早めなので通常のスピードにすればもう少し長いカットになる)。最後の作例は1コマシャッターを用いている。
----
ゆえあって、先日ヤフオクで新古の連写カルディア ビュ〜ン16を手に入れることができた。父の遺したキャノン・レフレックス ズーム8-3の代わりとなるか様々試してみたい(以後、<9mmフィルムムービー>のカテゴリーで連載したい)。
(おわり)
タグ:富士フィルム トイカメラ LOMOKINO ロモグラフィー 8mmフィルム キャノン・レフレックス ホームムービー 35mmフィルム Oktomat 連写カルディア ビュ〜ン16 9mmフィルムムービー
【9mmフィルムムービーの最新記事】