(大内宿・2001年撮影)
「ちょっとお寄りなさいよ」と招き手は客商売では猫になって繁盛の象徴。
招き手でころりと客を参らせる猫はフィルムカメラの世界にもいる。人呼んで「招き猫型カメラ」 Tenax 1である。参るのは男性よりも女性の方が多いとも聞く。(『フィルムカメラのススメ「OLYMPUS PEN F編 & TAXONA編」』レポート)


この招き猫を作ったのは泣く子も黙る独ツァイス・イコンで且つ「ましかく写真(24mm x 24mm)」が撮れるとあってはこれは招かれないわけにはいかない。ましかく写真については拙稿「ましかくプリント」と『「チェキ」の横恋慕』でも触れた。中判(120)フィルムでは当たり前のフォーマットも、35mmフィルムでは当たり前ではない。
招き手に当たる部分はシャッターチャージ・フィルム送り・フィルムカウンターと連動している。その手の先もくるりと手の裏を返す芸当をするという。大きさはタバコの箱より少し大きい程度、かの35mmハーフ・フォーマットのオリンパス・ペンと勝負できる小ささという。
1930年台に製造を始め第二次大戦のドレスデン爆撃で工場が破壊されて製造中止、戦後は東独に別れたVEB ツァイス(ドレスデン)で製造が再開される経緯は、同じドレスデンのIhagee ExaktaのKine Exaktaと同じだろう。
「ましかく」は構図を決めやすいことは中判カメラで6x6フォーマットが主流であることからも明らかだろう。35mmフィルムにおいてはコマ数を稼げる。画質や構図を犠牲にしてまでコマ数を稼ぐハーフ版よりも合理的だと個人的には思うがなぜか35mmフィルムカメラではマイノリティのまま、インスタントのチェキのinstax SQUARE SQ10で息を吹き返したということだ。
さて、その招き手で「こっちこっち」と私を招いたのは以下の猫だった。

eBayでポーランドから出品されていた戦後生まれの東独(VEB)の猫で、写真にある通りフィルターと革ケースが付属している。招き手の決め手はレンズでテッサー37.5mmF3.5(標準はノバー35mmF3.5)。ツァイスにとってテッサーレンズは泣く子も黙らせる三つ葉葵の紋のようなもので、これにはころっとこないわけにはいかない。所有するKine Exacta(戦後モデル)もテッサー 50mmF3.5である。一説にはドレスデン爆撃で罹災を免れたストックにテッサー型のレンズがあって、戦後モデルに一時期利用されたそうだ。
なお、この猫には共通の欠点がある。それは巻き上げ側のフィルム・スプール。ポーランドの猫にはオリジナルのスプールが付いているそうだが写真では確認していない。スプールは固定されていないのでオリジナルのスプールを紛失すると適当にそこらへんのスプールを代用することになるが、これが大事故の元らしい。
兄弟猫であるTaxona(1953年製造開始)での大事故の模様は以下の通り。
スプールについては対処法がネットで様々報告されているのでどうにかなりそうである(「TAXONA のスプールを作ろう」「taxona到着」)。ちなみにTenax 1もTaxonaも構造は同じ。
したがって、ポーランドの猫に我が家に来てもらうことにした。
すでにモノクロームでは巷で「なんじゃこりゃ!? すげぇ!!!」と猫に歓声があがっているようだ。
到着次第、あらためて報告したい。
(おわり)
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