<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案が一両日中に参院本会議で成立する運びとなった。国の在り方が根底から変わる法案を国民に諮ること(選挙で問うこと)なくまともな説明一つなく横暴に強行採決しようとしている与党(自公維)に対して、君たちの仕業こそ<共謀罪>と言うがふさわしい。一体何を企んでいるのか。

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<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案成立を政府が必要とする理由は二つあると私は考える。
今以て政府が根拠もなく繰り返す<テロ対策>の理由などではなく、オリンピック開催都市契約上のアンブッシュ・マーケティングの実行には至らない準備行為に対する措置への法的整備が第一の理由。<テロ対策>は理由として早晩説明がつかなくなるだろう。従って、政府はこの第一の理由を拠り所とするかもしれない(以下に述べるように時限立法化しない点でなおも政府は説明がつかないだろうが・・・)。
そして本当の理由は、オリンピック開催都市契約を利用した、2020年後の国家による監視社会の恒久的具体化へ向けた法整備に他ならない。それに合わせたかの如く、政権与党は憲法改正も2020年を目標にしている。
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先ず、第一の理由については、拙稿『オリンピック開催都市契約にそっと蒔かれた「共謀罪のタネ」』と『<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案と知的財産権侵害』で凡そ述べたが、以下に要約する。
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開催都市契約 (第32回オリンピック競技大会・2020/東京)の中で登場する、「(無許諾使用が)が発生した、または発生しそうであることを知った場合、」“In the event that OCOG learns that any such unauthorized use has occurred or is about to occur,”の”learns” と”is about to occur”に着目。
上述の「(無許諾使用が)発生しそうであること」と、特定の犯罪が実行される危険性のある合意が成立した場合をテロ等準備罪(共謀罪)の成立用件としている点が重なり合う。「発生しそうであること」なる文言は、契約41項d)の<無許諾使用に対する措置>だけでなく、46項<入場チケット、流通システム>と53項c)の<放送契約・法的行為>にも含まれている。
安倍首相は、「テロ等準備罪(共謀罪)を成立させなければ、テロ対策で各国と連携する『国際組織犯罪防止条約』が締結されず、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催できない」と主張しているが、テロ対策であれば現行法で対応可能であることは明白であることから、「オリンピックが開催できない」という理由は、開催都市契約上のアンブッシュ・マーケティングの実行には至らない準備行為に対する措置への法的整備にあると言える。首相の主張する「テロ等準備罪(共謀罪)を成立させなければ、2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催できない」はその限りに於いては正しいことになる。
アンブッシュ・マーケティング対策であれば、2012年ロンドン大会から開催都市国ではその目的に特化した<アンブッシュ・マーケティング規制法>が時限立法化されているが、我が国は既存の法体系(商標法・著作権法・不正競争防止法)で対応可能であることを理由に2020大会に向けて<アンブッシュ・マーケティング規制法>立法化の必要性はないという立場を取っている。
しかし、未遂以前の予備行為を処罰の対象とする点において、商標法・著作権法・不正競争防止法など現行の知的財産権法上では未遂罪を罰する旨の規定はなく、これを処罰することはできない(刑法第44条)(ただし、間接侵害は刑法的に眺めると直接侵害の予備罪ないしは未遂罪に該当し、これらを処罰するため特許法第101条では予備罪ないしは未遂罪的な間接侵害行為を侵害行為とみなす犯罪構成要件を定めたものと解されている)。
知的財産権の侵害等に関する刑罰は行政罰(行政法上の義務違反行為への制裁として科される罰)であり、これは刑法第8条の、「この編の規定は、他の法令の罪についても、適用する。ただし、その法令に特別の規定があるときは、この限りでない。」と規定されており、知的財産法に規定されている刑罰は、「法令に特別の規定があるとき」に該当する。
従って、未遂以前の予備行為を処罰の対象とするには、既存の法体系(商標法・著作権法・不正競争防止法)で対応は不可能で、その代わりが<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法ということなのだろうか。実際に<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案において、処罰対象となる犯罪類型277の中には以下の知的財産権に係る罪が含まれている。
四十四 特許法(昭和三十四年法律第百二十一号)第百九十六条又は第百九十六条の二(特許権等の侵害)の罪
四十五 実用新案法(昭和三十四年法律第百二十三号)第五十六条(実用新案権等の侵害)の罪
四十六 意匠法(昭和三十四年法律第百二十五号)第六十九条又は第六十九条の二(意匠権等の侵害)の罪
四十七 商標法(昭和三十四年法律第百二十七号)第七十八条又は第七十八条の二(商標権等の侵害)の罪
五十五 著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第百十九条第一項又は第二項(著作権の侵害等)の罪
七十六 種苗法(平成十年法律第八十三号)第六十七条(育成者権等の侵害)の罪
上述の「(無許諾使用が)発生しそうであること」旨の文言は2020年開催都市契約で初めて盛り込まれており(それ以前の開催都市契約には存在していない)、『オリンピック開催都市契約にそっと蒔かれた「共謀罪のタネ」』と私は考えている。
(要約終わり)
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しかし、その第一の理由であれば、過去の競技大会で開催都市国家が選択してきた<アンブッシュ・マーケティング規制法>などの時限立法で済ませることもできる筈だ。
2012年ロンドン・オリンピックでは、London Olympic Games and Paralympic Games Act 2006という特別法を2016年リオ・オリンピックでも同様の特別法をIOCからの要請によって各々開催国では時限立法化しており、そこでは五輪マークの無断使用禁止やチケットのダフ行為の禁止が盛り込まれていた。これらは組織的に行われるので<共謀罪の趣旨を含む>立法であっても説明がつく。事実、2016リオ・オリンピックに際しては、IOCの現役理事(当時)がリオ・オリンピックのチケットを不正に転売したとして、ブラジル当局に逮捕された。イギリスのチケット会社幹部らと共謀してリオ・オリンピックの開会式やサッカーなどのチケットを不正に転売した容疑である。外電では共謀(conspiracy)の文字が躍っている。
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ところが、わが国では、このような時限立法を選択せず<組織犯罪処罰法>なる恒久法を<共謀罪の趣旨を含む>内容に改正しようとしている。即ち、オリンピック開催都市契約を利用した、国家による監視社会の恒久的具体化へ向けた法整備に他ならない。これが本当の理由だろう。オリンピックの為なら本来仮設でよい筈の法整備を、オリンピックとは別の都合に利用しようと恒久的に整備しようとするものである。
2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会に開催都市(東京)よりも国(安倍政権)が異常なほどの期待を寄せるのも、そのスポーツイベントや特需(経済効果)の為などではなく、2020年以降のわが国の社会の在り方を根本から変えるための法整備のためのスケジュールに利用しようとするから違いない。憲法改正も2020年を目標にしている。天皇の在り方までも変えよう(象徴から元首へ)としている。内閣総理大臣という行政府の長にも拘わらず、その肩書きでベタベタと憲法を触りまくり、「みっともない憲法」と言い放ち、ビデオメッセージで「触られたくなければ改憲しなさい」と国民に講釈を垂れるに至っては、盗みに入ったこと(三権分立の原則を侵し更に憲法第99条に定めた憲法尊重擁護の義務違反)は一切棚に上げて「盗みに入られたくなければ戸締りを厳重にしなさい」と言う説教強盗ならぬ憲法泥棒に等しい(拙稿「説教泥棒・憲法泥棒」)。この御仁にとって嘘つきは生まれながらの性分のようなので、「嘘つきは泥棒の始まり」は至極正しい。そんな嘘つきを支持する国民は泥棒に全財産の名寄せをしたマイナンバーとともに「どうぞこれで縛って下さい」と縄を差し出すようなもの。ナンセンス!ベルリン・オリンピック(1936年)に向けて、ワイマール憲法を全権委任法(1933年)で無効化したナチス政権が重なって見える。
組織犯罪処罰法改正案(正式名称「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」)は、「共謀罪の趣旨を含む」や「テロ等準備罪」を冠して呼ばれたりしているが、「テロ等」とあるように、その処罰対象となる犯罪類型には「テロ」とは全く関係のない罪が数多く含まれている(拙稿「<共謀罪の趣旨を含む>組織犯罪処罰法改正案と知的財産権侵害」で述べた通り)。テロ行為に限らず、社会一般の行為にまで網を張り、「政府と一般人との力関係を、支配者と家臣のような関係に近づける(スノーデンCIA元職員)」監視社会をもたらすことになる。これが安倍首相の唱える「日本を取り戻す」ことであり「美しい国」なのだろう。個人のプライバシーの保護が法律で守られないまま<共謀罪>を成立させれば、人権でわが国は世界から孤立することになると、国連人権理事会が任命した特別報告者たちは警告している。その警告に冷静に耳を貸さないばかりか感情的に激しく反論するばかりの日本政府に対して、国際社会は懸念を深めている(拙稿『「自由に反する恥ずべき考え方」=「美しい国(安倍首相)」』)。
このまま<共謀罪の趣旨を含む>改正組織犯罪処罰法を成立させてしまえば、オリンピック招致決定を掴み取った「アンダーコントロール」なる公約の主語は国家であり、その対象は原発事故による放射能などではなく、人権そのものであったと後々我々は知ることになる。
それではまったく手遅れだろう。
(おわり)
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