2017年03月19日

Voigtländer Superb 顛末記 - その3


Voigtländer Superbのミラーとスクリーン(グラウンド・グラス)を交換した甲斐があって、視認性が高まった。が、遠望側でピンが合っていないことに気づく。センタープリズムの厚みでわずかにビューレンズの焦点距離が変わったためだろう。ピントリングのヘリコイドも固着気味なのでここはテイクレンズごと外してみようと思い立った。これが間違いの元だった(前回掲載記事)。

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Voigtländer Superbの分解修理については情報が少ない中、貴重なブログ記事を参考にしておきながらその記事の中にあった「これらの再組み立ては想像するのもおぞましい手順でありました。何度も失敗を繰り返しながらやっと悪夢から覚めた感じで何とか再組み立てに成功。」とのコメントその通りの悪夢を経験することになったのである。

ビューレンズがテイクレンズと連動して回転しながら近接距離になるにつれてアタマを下げてパララックス補正するという点がVoigtländer Superbの最大の特徴。ビューレンズはテイクレンズとギヤを介して機械的に接続されている。テイクレンズはヘリコイドを介してカメラ本体側の距離リングと接続し、ビューレンズ自体もヘリコイドでパララックス補正機構のあるプリズム部(プリズム部もブロックごと前傾する)と接続するといった具合で、パララックス補正機構を担保する機械的接続ゆえ、再組み立ては正確さを要するものである。

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ネジさえ外せば分解は簡単。ビューレンズのバレルも取り外して分解しレンズ(前玉・後玉)に簡単にアクセスできた。レンズ表面をアルコールで清掃し、またバレルをもとの位置に戻そうとしたが、ビューレンズの距離表示とテイクレンズの距離リングを同期させることが難しい。何度もバレルを抜き差ししているうちにヘリコイドのバレル側の溝をナメてしまった。

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(溝をナメてしまったテイクレンズ・バレル)

つまりプリズム部にビューレンズを戻すことができなくなった。ビューレンズが戻せなければ、当然、テイクレンズの再組み立てもできない。ここでわがVoigtländer Superbはオブジェと化してしまった。

1933年オーストリア製で、ベルリン・オリンピックよりも前、まさに歴史的カメラを何としたことかと後悔しきり。諦め半分でいたところ、ヤフオクでVoigtländer Superb後期モデルが出品されているのに気づいた。スクリーンにダメージ、テイクレンズのヘリコイドも固着気味と説明があり幸い私以外誰も入札の気配がなく、開始価格のまま私が落札することができた。件のオブジェと化したものは前期モデルだが後期とビューレンズ自体は違いはないので、この後期モデルのビューレンズをバレルごとドナーとして、前期モデルを復活させることにした。

落札した後期モデルが届いた。なぜか押入れ(樟脳)の匂いがする。長い間使われずに納戸かどこかに放っておかれたのかもしれない。ビューレンズは曇って少しカビがあった。背面赤窓に遮光板が後付けされていたり、カメラ底部の三脚穴も細工があった。

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(左がオブジェとなっていた前期モデル・右が落札した後期モデル)

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(後期モデル背面の後付けされた遮光板)

さっそく、分解(ギヤの噛み合わせはケガキしておく)し、ビューレンズ・バレルを取り外し清掃・バレル溝にはグリスアップして、前期モデルに移植を試みる。

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(ドナーのビューレンズ・バレル)

「何度も失敗を繰り返しながらやっと悪夢から覚めた感じで何とか再組み立てに成功(前掲のコメント)」その通りに、試行錯誤を数時間繰り返し再組み立てに成功した。

一番の難所はビューレンズ・バレルの組み込みだった。バレルのクロー(爪)をヘリコイド側の突起に噛ませてヘリコイドのどれかの山の切欠から螺入する作業だが、カメラ本体側のテイクレンズ側の距離リングのネジを外した穴の位置を11時辺りにした状態にすると、ビューレンズのカメラ側ヘリコイドにある突起が1時近くに来るので、ビューレンズのクローをその1時辺りに置いて、ヘリコイドのネジ山を指先の感覚で探る。当たりがあったら時計回りにビューレンズ側の距離リングを回すとビューレンズ・バレルが引き込まれていく。バレルが貫入して止まる位置でビューレンズの距離表示がきっちり無限大の表示と一致するようにヘリコイドを噛む山を幾つか探ってビューレンズ・バレルの組み込みを試行錯誤しなくてはならない。この段階で前回はバレルがわずかばかり傾いた状態で無理に螺入したためにバレルの溝をナメてしまった。正しくヘリコイドの山を捕らえていれば、すんなりとバレルは引き込まれていくものだ。決して指先に力を入れないことと当たりを探ったら軽く指先をバレルに添えて引き込まれる手前までヘリコイド側の突起と爪が噛み合う状態を保ちつつビューレンズ側の距離リングを時計方向に静かに回す作業。この作業に数時間要した。

ビューレンズ・バレルの組み込みが終わった状態で、テイクレンズの絞りを開放にして(開放位置は多少遊びがあるので絞りが効き始める手前の状態にする)、カメラ本体の絞り調整ノブを開放位置にしておく。この状態で再びテイクレンズ側の距離リングのネジを外した穴を11時のほんのわずか手前に来る位置まで回して止めておいて(この際に11時よりも時計方向に回しすぎるとせっかく組み込みに成功したビューレンズ・バレルがボコッと外れてしまうので要注意・全てやり直しとなる)、テイクレンズのVoigtländerのロゴのäが10時位置に来る当たりからヘリコイドの山を探って時計方向に螺入しVoigtländerのロゴのäが真上を向く位置で止めて、テイクレンズ側の距離リングを11時から反時計方向に回すと、ある位置でテイクレンズが引き込まれていく。この場合もテイクレンズが貫入して止まる位置でビューレンズの距離表示がきっちり無限大の表示と一致していなければならない(ちなみに、テイクレンズ側の距離リングのネジを外した穴は4時の位置にある筈)。もし一致していなければ、ヘリコイドの山が前後どちらか一山程度ずれているので再び同じ作業を行う。テイクレンズの組み込みが成功したら、すぐにカメラ本体側のテイクレンズ側の距離リングの外したネジを元に戻して、無限大と0.8mの両端でテイクレンズ側の距離リングを回して、同様にビューレンズ側の距離表示が同じ位置に来ることを確認する。僅かでもビューレンズ側の指針が距離表示とズレていれば、テイクレンズの組み込みをし直す必要がある。

組み込みが適切であったかは無限大のピン位置で確認する。まずはスクリーンで前ピン・後ピンになっていないか視認。その後、テイクレンズをTにしてシャッターノブを下げるとシャッターが開いたままの状態になるので、フィルム室を開けてレンズと対向するフィルム面が来る位置にリアプロジェクション用のフィルムを貼って投影される景色が前ピン・後ピンになっていないか視認する(拙稿「スキャナ・カメラという試み」でリアプロジェクション用フィルムの用法について説明済)。その後、今度は0.8m位置で同じ作業を繰り返す。もし、ピンずれがあれば、交換したスクリーンの厚みを調整しなくてはならない(スカイライトフードごとデッキ部分を取り外す作業など・詳しくは前回ブログ記事参照)。作業手順としてスクリーンやミラーの交換はレンズ類の組み込みの後の方が合理的だろう(私の場合は先にしてしまった)。

幸い、ピン位置は適正であった。

CIMG4284.JPG
(左が復活した前期モデル・右が落札しオブジェとなった後期モデル)

落札した後期モデルには大変済まないことをしたが、以前の持ち主が色々と手を入れた跡が面白いこの前期モデル(「Voigtländer Superb 顛末記 - その1」に説明の通り)のために犠牲になってもらった。後期モデルにはこのまましばらくオブジェになってもらうことにして(いずれ復活させたい)、前期モデルで撮影を試してみたい。純正のYフィルター、フードでクナのようなゲルマン族特有の魁偉な容貌となった。

knappertsbusch.jpg
(クナこと、ハンス・クナッパーツブッシュ)

写す前から「オーラ」が漂う(拙稿「功芳さん」)。

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(おわり)

posted by ihagee at 23:49| Voigtländer Superb