参院環太平洋連携協定(TPP)特別委員会は24日午後、安倍総理大臣と関係閣僚が出席して集中審議を行った。
米国のトランプ次期大統領がTPP離脱を改めて表明したことに関し、安倍総理は「大変厳しい状況にある」との認識を示した。その上で「自由で公正な貿易圏をつくっていく意義を発信する意味でも、日本は世界に先駆けて批准すべきだという考えにいささかも変化はない」と強調した。自民党の山田修路氏への答弁。
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なぜ、この期に及んで尚もTPP批准にこだわるのか?外国メディアは一様に首を傾げている。
フランス「ル・モンド」紙の東京特派員、フィリップ・メスメール氏は、「それでもなお、TPP批准にこだわるのはなぜか?と問われれば、アベノミクスの「第3の矢」の重要な一部であったTPP戦略の失敗を「自分のせいではない」とアピールするため…くらいの理由しか思いつきません。つまり、第3の矢のための努力は精一杯したのだ、それでもうまくいかなかったのはアメリカの方針転換のせいだ…ということにしたいのではないでしょうか?」と述べている。
これが図星なのではないか。それとTPP批准・発効に備えた総額1兆1900億円もの予算の内、16年度予算(当初予算:1582億円・補正予算:5449億円)の執行を何が何でもしたいという思惑が透けてみえる。目的がなくなっても予算を執行するという本末転倒。その予算を当てにする者からすれば、ただ国内批准さえしてもらえれば良いということなのだろう。

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目標がなくなってもひたすら「この道」を進む。他の道を探ることすらしない。これはメスメール氏が指摘するように、責任を糊塗せんとする彌縫策(取り繕い)であろう。安倍総理大臣の言葉には糊塗と彌縫が多い。素直に失策を認めまずは立ち止まって「この道」を改めようと決してしない。「自分のせいではない」とひたすらアピールしている。勝算ゼロでも特攻を繰り返しては万の一つの「神風」の吹くのを待ったあの戦争と同じである。
「具体的な行動につながらないものは無意味」とするトランプ氏が依って立つ<プラグマティズム>からすれば、安倍総理大臣は「無意味」を続ける。トランプ氏に頭の中を見られるだけである。(拙稿「プラグマティズムとポピュリズム(トランプ氏考)」)
近衛文麿に日米戦争の場合の見込みを問われた山本五十六の言葉。
「それは是非やれと言われれば初め半年や1年の間は随分暴れてご覧に入れる。然しながら、2年3年となれば全く確信は持てぬ。三国条約が出来たのは致方ないが、かくなりし上は日米戦争を回避する様極力御努力願ひたい 。」確信がなければやめる。これがまともな判断というものである。米国がいかなる国か熟知していた山本五十六のまともな判断を無視し戦争回避の努力を怠った末の戦禍と敗戦である。
本日のTPP特別委員会で「日本が国内の批准手続きを得たら、トランプ氏が翻意をするとの確信を総理はお持ちですか」と蓮舫民進党代表が質問したのに「確信はない。だからこそ保護主義の台頭に歯止めをかける役割を担うべきだ。」とTPP国内批准が必要と安倍総理が答弁している。「だからこそ」は安倍総理特有の糊塗縦横な論理のすり替えである。「だからこそ」の前後の文脈に思考の論理的繋がりがないのである。
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こんな調子で来年1月の大統領就任式まで神風の吹くのを待つつもりなのか?その時間に中国は自国を中心とする広域経済協定に着実に布石を打ってくるだろう。TPP交渉参加国でありAPEC開催国であったペルーは早速、中国が主導を目指すアジア広域の域内包括的経済連携(RCEP)への参加準備を進めていると明らかにした。RCEPは日中韓や東南アジア諸国など16カ国が交渉を進める自由貿易協定であり、TPP不成立の場合のリスク管理をRCEPに求めるのは当然なことなのに、中国に主導権を取られないようにRCEPにも日本独自の戦略があるかの話は一切聞こえてこない。とにかく最初に描いたグランドデザイン(米国必須・中国を除いた経済協定)でしか物事を考えられないのである。
TPPをこのまま国内批准してしまうと、トランプ次期政権が「ではお望みの通り(米国必須・中国を除いた経済協定)」とまでに日米間FTAを働きかけてくる可能性が高い。そうなるとTPPの文言を日本側の前提とみなして、さらなる対日要求を突きつけることになろう。前提のないゼロベースからの交渉はできなくなる。
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君子はこれを己(おのれ)に求め、小人はこれを人に求む。
過ちを頑なに認めないのは人格にどこか問題があるのかもしれない。一人の人間の人格次第で政治をされてはたまらない・この国の命運が左右されてはたまらない。コンプレックスなのか自己愛なのか。
(おわり)
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