
この包装紙にあるように「越後屋」といえば、テレビ時代劇に登場する悪人の代名詞だと思っていた。
しかし実際はこういうことらしい(「越後屋、御主も悪よのぉ。」)
週刊文春が2005年に「大岡越前」、「銭形平次」、「世直し順庵!」、「水戸黄門」(これのみ2002〜2005年)の悪商人と善商人の屋号をチェックした結果は以下の通り。
(悪商人)
1位 西海屋(6回)
2位 湊屋(3回)
3位 潮屋/河津屋/川本屋/真砂屋/三崎屋(2回)
(善商人)
1位 加賀屋(4回)
2位 和泉屋(3回)
3位 井筒屋/近江屋/淀屋(2回)
「越後屋」は悪商人にランクインされていない。海・湊・潮・河・川・真砂・三崎などからして、回船や海運を業としている者が悪商人の代名詞になっているようだ。なかなか興味深い。
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テレビ時代劇が消えて久しい。2011年の大震災を境にして日本の景色(政治・経済)が一変したが、それにまさに軌を一にするかの如くテレビから定番の時代劇が消えた。印籠を掲げるなどして権力が権力を制する「お上」登場のものは最後まで命脈を保ったが、市井の庶民や町人や股旅者といった大衆や世捨て人が主役のドラマなどは、とうの昔に消えてしまった感がある。落語の噺でしかお目にかかれなくなった。
何の支えもしがらみもなく一人社会の不条理に立ち向かう木枯らし紋次郎を無用とする世の中になったのかもしれない。ましてや勧善懲悪などまともにドラマで演じられては現実政治への当てつけになるとその筋から手仕舞いを要求されたのかもしれない。
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「越後屋、御主も悪よのぉ。」のセリフを聞けば、相手が金品で歓心を買おうとしていることその恭順に応じようとしていること、と理解できる世代は限られてきた。
さて、トランプ氏。大統領になる身。こんなセリフを想像される場面を作ればアウトである。あの「会談」の席に家族を同伴させたのも、後々証人となるよう立ち会わせた(自宅ならば密かにその席の会話を録音することもできる)と読む向きもある。
あたかも喜んで受け取ったかの様子が「信頼できる」云々など数々の褒詞とともに安倍総理側から漏れ伝わってくる。しかし、トランプ氏はあの「会談」を終えて同じ程度の褒詞を返すこともせず、受け取ったのか否かも含め、注意深く対応しているのがわかる。すなわち、安倍総理に「越後屋」を一方的に演じさせただけ、トランプ氏が役者が上だとも言える。
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テレビで時代劇が全盛だった頃、一般庶民が、たとえそれが総理大臣だろうが悪代官に擬って批判に晒すのは当たり前だった。怏々、庶民の不満の吐け口にもされたが、汚職や腐敗に対する怒りが曲がりなりにも総理大臣に届く時代であった。選挙にも反映した。
ところが、時代劇がなくなってから、「お上」に楯突くことすらタブーとする空気となってきた。直訴上訴すればバッサリと返り討ちである。「越後屋」的振る舞いを批判的に照らす時代劇もなければニュースもない。それどころかマスコミがこぞって喝采称揚する。「我が総理大臣は他の先進国の指導者が誰一人できなかったことを行なった。」とか、「トランプ・カード(切り札)を唯一人握った安倍総理はAPECに参加した各国首脳からもてもてだった。」等々。

(トランプ氏と会談後の記者会見。黒づくめの日本人記者団。ちょっと異様。誰も同じように同じことをメモしているのだろう。)
しかし、それはあくまでも日本国内のこと(拙稿「立ち位置を知ること」)。
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「越後屋、御主も悪よのぉ。」も英語で以下表現すれば「悪商人」。そのように右手の外国人記者たちに英語で紹介されていないことを願うばかりである。
「それで首尾よく始末したか?」
Did you get him ?
「へへ、そうれはもうぬかりなく」
Clean as ice.
「ならば、残りは一人か」
Good job. One down,one to go.
「それでこれは手前どものほんの気持ちで、ゆめゆめ口外なさらぬよう」
Here's your cut. Take this and keep quiet.
「越後やそちも悪よのう」
You're a dirty son of a bitch.
「へへ、旦那ほどじゃありませんよ」
I'm not match for you.
(別冊 宝島122 「道具としての英語 英語の発想/日本語の発想」から)
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甘党でない向きには群馬南牧村の「腹黒代官」がお勧め。食用微粉炭でデトックス。辛し酢みそ付で旨い。人間的には「酢でもコンニャクでも食えない善人が一番いい」とのコメントがあった。

(おわり)
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