2016年10月07日

Abe Mario・アンブッシュ・マーケティングで銀メダル

2020東京オリンピック・パラリンピック(以下、東京五輪)をひかえて、
アンブッシュ・マーケティング(ambush marketing)という言葉を耳にする機会が増えてきた。

「オリンピック・パラリンピックマーク等の無断使用、不正使用ないし流用はアンブッシュ・マーケティングと呼ばれ、IOC、IPC等の知的財産権を侵害するばかりでなく、スポンサーからの協賛金等の減収を招き、ひいては大会の運営や選手強化等にも重大な支障をきたす可能性があります。(大会組織委員会HP)」

オリンピック大会期間中に、大会会場や五輪旗などのオリンピック資産を背景に、大会の公式スポンサーでない企業の宣伝を行う行為はアンブッシュ・マーケティングということになる。

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当ブログでも2016リオ五輪のフラッグ・ハンドオーバー・セレモニーでの東京(日本国)の演出(いわゆる、Abe-Mario)がアンブッシュ・マーケティングに該当するのではないかと問題提起した(拙稿「Abe Mario 安倍マリオ」)。

そして、POC(ポルトガル・オリンピック委員会)の法務部長の役職にある人の ネット記事(英文)が目に入った。

Rio 2016 Top 10 Ambush Marketing Cases(リオ2016 アンブッシュ・マーケティング・ケース、トップ10)と題する、ランキング発表である。「スタント(stunts)=ギリギリ」と副題があるところからケースはどれも今のところグレーゾーンだが、アンブッシュ・マーケティング・ケースと判断できるとしてリストアップされている(あくまでも個人の主観であると断っているが)。

その第2位(銀メダル)に「オリンピック会場を侵略したNintendo」がランクアップされた。

「やはり」と膝を叩いた。

「元気すぎてマリオになった(安倍総理大臣談)」などとマスコミ共々、笑って済む話ではない。拙稿「説教泥棒・憲法泥棒」でも述べたが、法に縛られるべき者でありながら、その法を自分たちで勝手に解釈して止まない現政権であれば、Abe-Marioも解釈の内なのかもしれないが、その外にまわれば彼らの「立ち位置を知らない」お花畑ぶりを改めて認識することができる。

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以下ランキング(元記事をベースに説明を加えた)。

第10位 Fordの妙案

2016リオ五輪のIOC, USOCの公式スポンサーでないFord(米自動車メーカー)は、Snapchatなる手法のビデオクリップのシリーズをソーシャル・メディアに繰出した。(Snapchatとは、「写真や動画(スナップと呼ばれる)を個人かグループに送信することができ、テキストや、パレットからの色を任意で追加したり、1秒から10秒の間で閲覧時間を設定したりすることができる。閲覧している間、受信者は端末のタッチスクリーンを触り続けなければならない。スクリーンショットの保存もできず行おうとすると送信者に通知されてしまう。閲覧時間の終了後、写真はアプリ上から見ることが出来なくなる。(wikipedia)」)

Fordは動画と、幾つかのテキストやスタンプをSnapchatでソーシャル・メディア上に送信し、受信者は動画にプリクラ的に任意のテキストやスタンプを組み合わせて、10秒程度閲覧できるが、タッチスクリーンから指を離した瞬間にそれらは見られなくなる。保存もできないので痕を残さず消える(受信者の端末からもFordのサーバーからも完全に削除されるとされている)。受信者が任意で選んで動画に貼りつけるテキストの中に、Life Is a Sport(人生はスポーツ)なるオリンピックをテーマとしたアンブッシュ(待ち伏せ)を惹起するフレーズがあった。しかし、動画と組み合わせるのは受信者でありすぐに痕を残さず消えるので、IOCの知的財産権を侵害することにはならないと、厳格なUSOCの規定をクリアするためにFordが捻り出した宣伝広告である。

リオ五輪の放映権を持っていたNBC、USOC(米オリンピック委員会)とSnapchat間の公式パートナーシップではかかる伝達手段がUSOCの規定をクリアしていることが確認されているようである。しかし、Snapchatに関しては、送信側のサーバーからは消えないという指摘もあり、受信者の情報も残っている可能性がある。連邦取引委員会(FTC)によって個人情報管理に関して監査を受けることになっている。規則40のブラック・アウト期間が終わった後、当のFordはSnapchatでの広告宣伝を ビデオ化して公開している。

第9位 XXL社の社会的共同アンブッシュ性

ノルウェーのスポーツ用品メーカーXXL社の Sport Unites All (スポーツは全てを結びつける)キャンペーンの ビデオは、企業の社会責任(CSR)を匂わせながらも、「(アンチ・アンブッシュ規則だって?)お前のモノかよ!Anti-ambush rules? ≪It’s not yours!≫」と挑発的である。

内容は、コルコバードのキリスト像(リオだとわかる)、リオの街中で少年が仲間の背中に白いペンキで10の数字を描く(10はロナウド)、そこにバイクの青年が通りがかり財布を落とす、少年は財布を拾う、少年は財布を手に落とし主に返そうと走り出す、そこに警官が現れ、少年に財布をよこせと言う。「そこのバイクのアンちゃんが落としたんだよ」と言うが、警官は「そこに置け!」と命令する。「お前のモノかよ!」と少年が言って走り出す、スケボーの青年からボードをひったくって、平行棒などアスリートの練習場を潜り抜け、自転車に乗り換えて、サッカーボールを抱えたおじさんを跳ね飛ばし、バスケットに興じる女の子の横を通り過ぎ、パラグライダーに飛び乗って降りたビーチで落とし主を見つけ、財布を返す。そこに警官が現れるが落とし主(ロナウド)の顔を見るなり納得し、少年共々ビーチサッカーに興じる。そして「スポーツは全てを結びつける」とタイトルが出る。

第8位 360+ の紛れ込み

中国のインターネット企業 360+は、リオ国際空港の公式スポンサーのラゲージ・トローリー置き場で、公式スポンサーの広告の付いたトロリーの横に 360+の広告の付いたトローリーをぴったりと寄せて置くことで、あたかも公式スポンサーであるかの錯誤・混同を図っていた。

第7位 Uberのタダ乗り

民泊の世界最大手エアビーアンドビー(Airbnb)は大会スポンサーとなることで果敢に新天地を得たが、それとは別のシリコンバレーの一匹オオカミ、Uber(ライドシェアサービス)はリオ大会中、最も燃費を稼いだ。彼らの戦略の柱は以下の3つ。

1) あたかも他の誰からの「ベタな」支持がある(たとえば、この手のサービスを利用することを米国領事館は勧めているといった)又は、心温まる物語があるかのようにして(例えば、息子がオリンピックに出場するのだが私はUberの運転があるので見に行けないと、同乗者に話して同情を得るといった)、リオ大会に関連付けて利益を得る。

2) 大会公式スポンサーのVISAはそのRioPoolキャンペーンでUberと提携してリオ大会をテーマとした乗車サービスを提供した。UberでVISAを利用すると、スマートフォンなどのタブレットでリオ大会をテーマとしたフィルターやアニメーションを入れて写真を撮ることができるといったサービスである。

3) 大会施設周辺にUberのピックアップ箇所を設けて、ジオターゲティング技術を用いて、最適なルートを選択するなど、リオ大会会場への最適なアクセスとなるようなサービスを提供する。

第6位 Appleを身につける

大会を祝して国(旗)柄をアレンジしたiWatchバンドをアップルストアが提供した。

大会に参加するアスリートや観客にとって、ナショナルフラッグを身につけることは自然な行為なので、バンドの先のApple(非公式スポンサー)の製品・マークもチラチラと見えることになる。

2012年ロンドン大会で競泳のフェルプス(米国)が非公式スポンサーであったビーツのヘッドフォンを耳受けの部分のロゴを星条旗のシールで隠して、競技会場に持ち込んだが、うっかりヘッドバンドのロゴを隠し忘れてアンブッシュ・マーケティングと騒がれたことがあった( フェルプスの貼りつけ方)。

ヘッドバンドのロゴなら隠しても音は聞こえるが、文字盤を隠しては時計として機能しない。AppleはiWatchバンドでこのあたりを暗に意図している。

第5位 Nikeは限界を知らない

Nikeは米国代表チームの公式スポンサーだが、リオ大会公式スポンサーではない。しかし、あたかも大会公式スポンサーであるかの如く宣伝を行う。NikeのUnlimited YouなるビデオはYouTuneとFacebookにアップされた。スポンサーシップや大会放映権のかかる競技映像ではなく、YouTubeやFacebook上のセカンドスクリーンを利用して、著名なアスリートをジェネリックなイメージとして扱うことで、「いいね!」(エンゲージメント率)を獲得し、公式スポンサーよりも注目を集めようとする戦略である。

第4位 Puma ・常に(ボルトと)アンブッシャー

ウサイン・ボルトは自らの知的財産権に対するアンブッシュ・マーケティングには強硬な姿勢を取っている。

しかし個人的にスポンサー契約を結んでいるPuma(リオ大会の公式スポンサーではない)のアンブッシュ的な広告宣伝には手を貸している。五輪憲章規則40の適用緩和を受けて、ソーシャル・メディアにはボルトの伝説を称えながらシューズに自然と目がいくような写真が溢れている。他のスポンサーのために活動をする場合もボルトはPumaのロゴを身につけるなど、一体的な関係にある。

第3位(銅メダル)TelstraのGo to Rio

オーストラリアのモバイルキャリア最大手TelstraのGo to Rioキャンペーンはアンチ・アンブッシュ規制の限界を知ってわざとアンブッシュを仕掛けている点で高みに達している。

Telstra(リオ大会の公式スポンサーではない)のアンブッシュ・マーケティングについてはオーストリア・オリンピック委員会(AOC)が裁判所に提訴した。裁判所はTelstraが来るリオ大会をマーケティング・センスで利用しようとしていることは間違いないと認めながら、Telstra宣伝広告がリオ大会に向けられたものであるとは認定しなかった。

AOCは裁判官の多数決による判断を求めたが、未だペンディングのままである。Telstraの宣伝広告ではオリンピック大会の公式スポンサーでも何でもないと断りを入れておきながら、リオ大会に間接的に結びつく数多くの引用(Peter Allenの楽曲’I go to Rio’を使用するなど)を行っている。Telstraは自らの宣伝キャンペーンをボーダーライン(セーフ)としているようだ。

第2位(銀メダル)オリンピック会場を侵略したNintendo

Nintendoはリオ大会の公式スポンサーではない(JOCや日本代表選手団のスポンサーでもない)。アンブッシュ・マーケティングの銀メダルはそのキャラクターであるMarioと彼の遠縁のいとこに当たるPokémonに与える。

リオ大会が開催され、Pokémon Goをアスリートも 遊べるようになった。大会施設でのPokémons探しにも彼らが熱したのは言うまでもない。

しかし、閉会式でのSuper Marioの登場は話題を総ざらいした。閉会式でのビデオには日本の他の著名なキャラクターも多く登場したが、日本のPM(総理大臣)がMarioのコスプレで土管から現れ、これは大受けした。

オリンピックの式典でのアンブッシュはこれが初めてではない。2008年北京オリンピックの開幕式典での演出には大会公式スポンサーのAdidasが200万ドルを拠出していたが、その演出(聖火のトーチを掲げたアスリートにライトを当てて壁にそのシルエットを投影する)では、 投影されたシルエットがライバルのLi Ning(中国の大手スポーツ用品メーカーで、北京大会の公式スポンサーではない)のロゴマークと極似していた。Li Ningの株価は直後に暴騰するなどこの演出は究極のアンブッシュ・マーケティングと見なされている。次回東京大会に向けて、東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会(TOCOG)はこのアンブッシュ・トレインから飛び降られるようにNintendo Family を徴用することを考えているに違いない。

第1位(金メダル)Under Armour

Under Armour(スポーツ用品・リオ大会の公式スポンサーではない)は今やNikeと世界の市場を競うライバルだが、オリンピック大会においてはアンブッシャーとしての地位をNikeから奪った。

Under Armourはソーシャル・メディア戦略を固め、規則40を回避する妙案があった。マイケル・フェルプスなど250名のアスリートとスポンサー契約を結び、彼らを登場させた Rule Yourselfというビデオはオリンピック資産を一切使用せず、規則40をクリアしていた。ビデオは多くの視聴者の目に留まりそれなりに宣伝効果を発揮した。

しかし、Under Armourが狙っていたのは、ソーシャール・メディアでの「 いいね!」(エンゲージメント率)であり、大会期間中、リオ市内の複数の野外ジムを借りてマーケティング拠点とし観戦客向けに毎日ワークアウト教室を開催したことで一挙に注目を集めた。

この野外でのマーケティングはアンブッシュ(待ち受け)とみなされる。リオ大会期間中、アンブッシュ・マーケティングで最も成果を収めた(ブランド力強化)企業こそ、Under Armourである。

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以上、ランキングを私なりに講評すると、アンブッシュ・マーケティングの主体は第1位、第3位〜10位は全て企業である。

第2位のアンブッシュ・マーケティングの主体も企業=Nintendoなのか?
否(元記事ではNintendoとなっている)。

主体はTokyo(東京都)、TOCOG(東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会)そしてPM(安倍総理大臣)である。引き合いに出されたLi Ningの一件もその主体は開会式を演出した北京オリンピック大会組織委員会である。つまり、Nintendoが主体ではなく(Nintedoがアンブッシュ・マーケティングを図った訳ではなく)、Nintendoのブランド力を借りたTokyo(東京都)、TOCOG(東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会)そしてPM(安倍総理大臣)の自己演出であった点、極めて特異なことだと理解しなくてはならない。

アンブッシュ・マーケティングを規制する側が、その手法を取り入れて自己宣伝するという特異性(異常性)。それが、第2位(銀メダル)と外では賞されている。とても笑える話ではない。

(おわり)
posted by ihagee at 20:20| 東京オリンピック