2017年07月28日

「リニア中央新幹線」が「オンカロ」になる日



経済産業省は28日、原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)について、最終処分場の候補地となり得る地域を示した「科学的特性マップ」を公表した。日本の基礎自治体約1750のうち、約900が安全に処分できる可能性が高い地域にあたる。日本の陸域の約3割を占める。経産省はマップをもとに9月から自治体への説明を始め、候補地の選定作業に入る。

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ゴミ屋敷にはゴミが投げ込まれるのが世の常。杜撰に捨てようものなら杜撰に世界中から投げ込まれることになる。「食べて応援」とか「痛みを分かつ」とか「笑っていれば放射能は取り憑かない」とか政府や御用学者達が言えば、核のゴミに寛容な国民性であるかのごとく国際社会にも発信していることになる。フランスの企業が世界の核のゴミの捨て場を日本に見つけたようだ(日本が「世界の核のゴミ捨て場」になる?〜仏ヴェオリア、日本で低レベル放射性廃棄物処理開始へ!〜

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「世界の核のゴミ捨て場」が日本という国土の相場になるかもしれない。

大深度法案が参議院を通過したのは原発問題など一般に語られることもなかった2000年5月19日。特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律案の通過は同年5月31日とほぼ同時だった。当時議員をしていた俳優の中村敦夫氏は高レベル放射性廃棄物の地層処分に反対する集会で「とんでもねえよ。俺が反対したのは、この二つの法律がセットになったらやばいと考えたからなんだ」「このままでは、私たち住民は核に怯えて暮らすことになります」と言ったとされる。

中村氏の懸念は今や現実化しつつあるのではないか?以下、再録する。

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「リニア中央新幹線」。計画そのものへの懸念や批判・反対意見が巷にはあふれている。ネットでも多くの識者が批判的に見識を述べている。ところが、不思議なことに、それらについてマスメディアで報じられることはほとんどない。事業主体(所有者・運営者)は民間企業=JR東海旅客鉄道(JR東海)である。

全国新幹線鉄道整備法に事業をのせることによって、2027年に開業を目指している首都圏 - 中部圏間の総事業費は約9兆円とも試算される資金面での全面的な支援(財政投融資や税制上の優遇など)をJR東海は国に取り付けることができ<国策民営プロジェクト>とも言われている(最終的には30兆円の税金がこの<国策民営プロジェクト>に投じられることになるという見方もある)。

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高齢化率で世界一の我が国において鉄道旅客の伸び代は将来減る事はあっても決して増えるようなことはないだろう。既存の東海道新幹線の輸送力が限界に近づいており、その補完・代替手段として「リニア中央新幹線」が必要だとされてきたが、新幹線の利用者は近年、高速バスや航空路にシフトし続けておりその輸送力に於いて将来の限界を想定する状況にない。建設後半世紀を経た東海道新幹線の老朽化や近い将来必ず起こるとされている巨大地震の影響へのリスク対策として「リニア中央新幹線」が必要とする説明もあるが、日本列島を左右に分断する大活断層「糸魚川静岡構造線」に抗って建設すること自体がリスクであると指摘する声もある。僅かの断層のズレであっても構造物に影響が及んだり、悪くすれば大事故になる可能性もある。そんなことは判り切っているのに、発展途上国並みの右肩上がりの経済効果があたかも旅客事業によって創出されるかの如くかくも巨大なプロジェクトが現れる。イノベーションの創出というもっと大きな枠で捉えるべきとの意見もあるが、リニアの先に何が生まれるのか何も予見されていない。投資したところでその先の見えにくい話ゆえに、「リニア中央新幹線」は日本ではいまだ専売特許であっても、欧米ではすでに見切りをつけた「過去の先端技術」でもある(日本とかつてその技術を競ったドイツはすでに撤退している)。

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「リニア中央新幹線」と「原発」との社会・経済システム上の構図の類似を指摘する声もある。その構図とは共に<国策民営プロジェクト>であり、多分に政治的且つ闇雲な必要性から始り、後から様々と理由を付け加える点にある。それら理由が理由になっていない点も共通している。

東京電力福島第一原子力発電所の事故がきっかけで殆どの原発が止まっても懸念されていた「江戸時代に戻る」が如くの事態になっていない。原発の電力がなければ、凍え死んだり熱中症で倒れたりするという理由も理由にならなかった。それどころか原発を動かさなくても、火力・水力などの既存のインフラからの電力供給で足りていたということが判ってしまった。我が国に於いて省エネルギー社会に向かって電力需要においても将来減る事はあっても決して伸びるようなことはない。発展途上国並みの右肩上がりの電力需要と供給の限界を想定する社会・経済状況にない。いやいや、地球温暖化防止の為には火力発電よりもクリーンな原発、と相変わらず言う人もいるだろう。原子力=クリーンを以て、核兵器=クリーンとならないことからも明らかなように、同じnuclearを都合に合わせて言い換えただけである。原子力は多重の防護壁によって制御可能だから核兵器とはそもそも違うという言い訳も、原発事故が起きれば詭弁でしかない。環境にnuclearが暴露されてしまえば核兵器と何の変わりもない。「アンダーコントロール」は政治的願望であって現実ではない。そして原子力の実態とは、一瞬の灯の為に百万年のオーダーで残り火を管理し続けなくてはならない、一時の利益の為に将来を質に入れ、未来永劫(人類の時間軸を超えて)害毒を生み出すシステムであり、クリーンさを導き出す官僚の計算式からは、その将来へのコストや環境負荷は都合良く省かれている。不都合な理由は理由とされない。彼らの得意とする無謬の象徴である。

石油・ガスなどエネルギー資源を諸外国から調達せざるを得ない我が国に於いて、国際情勢の変化によって、それらの供給が不安定化しても、安定した電力需給を行うには原発をベースロードにする必要があると国は言う。しかし、その事故は人も含めて生態系を破壊し国土を毀損するというリスクを伴っており、社会が許容可能な一般の産業事故でのリスク規模を遥かに超える地球規模のクライシスと天秤にかけて、電力を得るアンバランスぶりである。「戦車で茶を沸かすこと」と揶揄されるように、目的に不釣り合い過ぎる手段である。原発事故にみるように、外因を心配する以前に内因によって原発そのものが稼働を停止せざるを得ない状況になったことは何とも皮肉である。オイルショック(外因)の頻度よりも巨大地震など(内因)による原発事故の頻度の方が大きいことが図らずも証明されてしまったわけである。

また、原発による電力の恩恵を受ける世代がその後始末の責任を負わず、その恩恵を受けない将来世代に責任を転嫁する点、社会倫理的な問題(罪悪)も孕んでいる。ドイツはこの社会倫理に照らして脱原発に踵を返した。恩恵を受けた世代から責任を以って片付けに入ると決めたのである。

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冷静に考えれば「リニア中央新幹線」も「原発」も要らないのに、なぜ、現政権はそれらをゴリ押しするのか?

この二つに共通項を指摘する声があり、「リニア中央新幹線」が消費する電力に原発が必要との関連付けが多い。事実、山梨県のリニア実験線の主な電力供給先は東京電力・柏崎刈羽原発(新潟県)だった。原発再稼働に正当性があると主張する経済界の代表格がそのJR東海の名誉会長であることからも、この点が強調されがちである。しかし、試算によっても、「リニア中央新幹線」に必要な電力はせいぜい原発一基分程度しかなく、それを以て、停止中の原発全ての再稼働の必要を説くには無理がある。

そして、そのJR東海の社長からして「リニアはどこまでいっても赤字です」と言っている(2013年9月)。<国策民営プロジェクト>と呼ばれていながら、その事業主体となる民間企業の社長が「ペイしない」と公言する。旅客鉄道を業とするJR東海がその本業でペイしないとなれば、何を以てペイするのであろうか?それをJR東海に問い質すマスメディアは一つとしてない。

世界で「リニア中央新幹線」を必要とする国は殆どない。費用対効果・環境問題・健康への影響(電磁波)などに加えて、テロの恰好の標的となるなど、治安面での懸念は欧米で特に多い。専用軌条で在来線と接続できず且つ設計上の制約も多い為、輸送力も劣る。そんな「速い」だけが取り柄の輸送手段でもある。従って、「リニア中央新幹線」をショールームとして海外にその技術を売り込むのも「ない需要」を想定するかの如くの話である。

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「リニア中央新幹線」からその売り物たる「リニア」と「新幹線」を取って残るは、長大な大深度トンネルだけである。2001年(平成13年)に施行された「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(通称:大深度法)では、地下40m以深又は基礎杭の支持地盤上面から10m以深は、その上に地権者がいても公共の用に利用できるようになったが、JR東海が建設を計画している中央新幹線(東京都 - 名古屋市間)でも同法律の認可申請に向けた手続きが進められている。

「大深度地下の公共的使用」と「原発」には因果関係がある。言うまでもなく、使用済核燃料・放射性廃棄物の捨て場としての「大深度地下」である(フィンランドの「オンカロ」の例)。特に、日本列島を左右に分断する大活断層「糸魚川静岡構造線」を横切るには、地表からトンネル天井までの土被りは1100mとなると言われている。さらに、日本屈指のウラン鉱床「月吉鉱床(東濃)」などがルート上に近接する。僅かな地殻変動も高放射線も「リニア中央新幹線」にとってはマイナス要因だが、ドラム缶に詰めたりガラスで固化した使用済核燃料・放射性廃棄物にとっては、トンネルが崩落しない限りは置場として用いることができると考えても不思議でない。人目にも付かず、トンネル故に保安管理もし易い。放射性廃棄物を運ぶトンネル内がウラン鉱床由来のラドンガスで充満しようが旅客を想定しなければこれも問題がないと考えるだろう。福島の原発事故でメルトアウトした核燃料の在処さえ不問とするこの国である。たとえ、トンネルが地殻変動で崩落しても「直ちに影響はない」とこれまた不問にすることだろう。

原発技術を安倍総理大臣自らトップセールスする我が国。JR東海の名誉会長は総理大臣のブレーンであり且つ経済界きっての原発推進者である。「リスクを覚悟して原発推進」と唱える。原発売り込み先の国々へは、放射性廃棄物の引き取りまで密約しているとも噂されている。リスクが放射性廃棄物と覚悟するのなら、何をそのギャベージ(ゴミ置き場)にするか当然念頭に置いてのことだろう。また、収束の目途が立たない原発事故では日々膨大な放射性廃棄物(汚染水・瓦礫)が発生し、除染作業で集積した汚染土の処分も行き場が迷走している。

即ち、その目的でのトンネルが「リニア中央新幹線」のトンネルであれば、原発輸出事業と組み合わせれば十分に「ペイ」する話となる。不要家電引き取り前提の量販店のセールスと同じで、最初からプレファレンスな立場でセールスができるだろう。

そして「リニア中央新幹線」なる<国策民営プロジェクト>であれば始めるのは易い。そして、完成間近、又は運用開始をして程なくして地殻変動など「止むを得ない事情」を持ち出して、目的の事業を断念せざるを得ないと言い、国民の税金をムダにしない為にも、使用済核燃料・放射性廃棄物の置場に転用すると政府は言い出すだろう。もし反対するのなら、汚染土などは全国自治体の公共事業で使わざるを得ないと脅すかもしれない。

世界中で嫌われる放射能のゴミを一手に集め、処分場として国土を供する。そのバーターとして原発技術を国策化して諸外国に売り込むという図式である。安倍総理大臣の「法衣の下の鎧」に騙されないようにと巨泉さんは遺言した。法衣が「リニア中央新幹線」で、その下の鎧が原発技術であり、原子力に名を借りた核拡散であってはならない。「ペイしない」と事業主体が公言する「リニア中央新幹線」に、国策としてペイする鎧は隠れていまいか?と疑う目が必要である。

原発事故はこの国の宿痾(不治の病)となりつつある。この国が亡びるとすればそれは外因などではなく原発事故なる内因だと思う。金融政策の禁じ手を平然と用い「毒を食らわば皿まで」がアベノミクスの基調であれば、原発事故についても同じ基調の最終章が待ち構えている気がしてならない。チェルノブイリの森に帰る「サマショール」と呼ばれる老人達さながら、我が国に於いても同じような人達(私も含め一般庶民)が近い将来、放射性廃棄物の墓守となり、富裕層のみがモーゼの出エジプト記のように、TPPの大海原の向こうに生き場所を求める。そんな「美しくない国」もあながちナンセンスとは言えまい。

ソ連邦崩壊の原因こそ、チェルノブイリ原発事故であり(ゴルバチョフの証言)、その余波はウクライナの内戦で今も続く。一基の事故で大国が脆くも崩れ去ったこの歴史の事実を鑑みれば、我が国は尚のことであろう。

高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)が廃炉になる可能性が出てきた。「もんじゅ」に代表される実現の見通しが立たない核燃料サイクルに、12兆円以上の税金が費やされてきた事実。これも闇雲な必要性で始めておいて、何も生み出さないプロジェクトの典型である。ただ維持するだけで今後も毎年1600億円ずつ消えていく。核燃料サイクルの頓挫は、トイレがない限り原発がこれ以上続けられないことを意味している。換言すれば、原発がエネルギー政策のベースロードであり続けるのであれば、トイレを安倍政権は探すだろう。そのトイレをモンゴルに断られ、使用済み核燃料の再処理目的でのフランスへの輸送もテロの脅威を考えれば将来難しくなるだろう。それどころか、原発輸出の条件として輸出先の放射性廃棄物の引き受けまで約束してしまえば、「あの場所しかない」と考えも不思議ではない。

(おわり)
posted by ihagee at 22:48| 原発