(撮影日:2016年1月10日)

(TLLファイダーを搭載したRolleiflex SL66)
先にIlford XP2 Super 400での撮影例を掲載したが、銀塩のDelta 400の方がモノクロームに期待するイメージに忠実である。喩えれば、アステルパームと砂糖の違いかもしれない。アステルパームはどうか知らないが砂糖は煮詰めるとカラメルとなる。そして香味が変わるのと同じく銀粒子には工夫に応じて表現の幅がある。試に双方にYフィルターを適用してみたが、当然ながらSuper 400では効果は感じられなかったが、Delta 400ではある程度コントラストが上がることが確認できた。
ところで、RolleiのレンズフィルターはBay VIというRollei独自のバヨネット形式ゆえ、その形式のフィルターやレンズフードは希少且つ高価である。そこで、私は67mm径のねじ込み式に変換するリングを介して汎用フィルターやフードを用いている。
さて、以下は撮影記である。
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先ずは白糸の滝。氷結した滝の神秘にはめぐり合えなかった。日本人の観光客はちらほらで残りは中国や韓国からの人々。滝を背にして自撮棒の先にスマホを掲げて撮影しまくっていた。そんな中、三脚を立てて撮影する気も起きず、滝の入り口に観光協会が本物に見立てて作った氷の瀑布を代わりに撮影したが、フィルムの無駄遣いとなった。


滝を後にし、冬期閉鎖中の鬼押し出園の入り口に車をおいて、眼前に迫る浅間山の威容を撮影してみた。山頂からはもくもくと噴気が立ち上り、人気の無さも手伝っていささか不気味な感じがする。

そこから、先般スキーバスの死傷事故があった入山峠を下り、長野と群馬の県境の国道脇で、頭上を跨ぐ上信越自動車道の巨大な高架橋も撮影した。撮影のベストポジションは進入禁止の札の向こう側にありそうだが、ここは法令順守と諦める。


世界遺産の富岡製糸場のお膝元の下仁田で名産の葱を買い込み、南牧(なんもく)村に向かった。山一つ越えた長野県側には同名の村があるがそちらは「みなみまきむら」で混同しやすい。
南牧村はその佇まいにどことなく魅かれるところがあって何度も訪れている。民宿も何軒かあり、「おかしら」はその中でもレトロ感が充満した宿である。
この村の繭玉からも富岡で糸を繰られ、輸出用繭糸として、また横浜でシルクのハンカチーフやスカーフになって外貨を稼いでいたのだろう。シルクが日本の代名詞であり、山下埠頭に係留されている氷川丸が「シルクライナー」と呼ばれていた時代の話である。ゆえに、その当時の交易上の主力産業の一翼を担っていたのがこの南牧村だったのかもしれない。
私と同じくこの村に魅かれるよそ者の来訪が増えたのか、道の駅は来るたびに建物が立派になってこの日も賑わっていた。入口近くに吊り下げられて売られているのは、バードコール(鳥の呼子)。都会からこの村に一家で移住し木工房を営んでいるかたじ屋さんの手によるもの。そして、村の隠れた特産品に木炭がある。イシコーさんの工場には国内屈指の巨大なキルンがあり、スギやヒノキの間伐材から様々な用途の木炭を生産している。その一つが食用微粉炭で、この炭の粉を練り込んだ麺・餃子(千歳屋)、ピザ(ビアカフェBB)、饅頭(菓子処 信濃屋嘉助のお炭付き饅頭)、こんにゃく(田村靖一商店の腹黒代官)を目当てで訪れる人も多い。炭を練り込んだ食品は見た目が真っ黒でインパクトがあるだけなく、もっちりとした食感がある(特にピザ)と人気である。腹黒どころか腹の中をきれいにするデトックスの効果もあるそうだ。我が家ではセキセイインコを飼っているが、糞が詰まって弱る時がある。その際はいつもこの食用微粉炭を餌や飲み水に小量混ぜて与える。たちまち元気になるのでこの効果は私なりに実証済みである。微粉炭はペット用の炭入り麩とともに村の森林組合でパック販売されているので、ペットの体調にお悩みの方は試されたら良いかもしれない。驚くなかれ、微粉炭はカメラを元気にする効果もある(過去のブログ記事を参照)。
さて、道の駅の周辺はそれなりに人が集まるが、その先の山間の集落にまで足を運ぶよそ者は少ない。
昼飯にピザをペロリと平らげるつもりでビアカフェBBに赴いたが本日休業のよう。村の幼稚園だった建物を利用したカフェのどこもかしこも子ども目線の懐かしい雰囲気をついでに撮影するつもりでいたが残念だった。
(前回訪れた際のビアカフェBBの様子・デジタルカメラで撮影)
代わりに、大日向の井上うどんでいつもの鍋焼きうどんを食す。昭和レトロの店内で待つこと暫し、しっかりと火をかけて鍋底のうどんは焼き目がうっすらつき、芯までしっかりと味がしみ込んでいて実に美味い。視線を上げると店の壁にはデカデカと中山秀征と井森美幸のフルムーン風の英語入りのポスターが飾られていた。群馬出身の二人は観光大使だそうである。腹も満ちたので砥沢に向かう。
砥沢地区は訪れる人も少ない集落である。土地の名の通り、その昔は幕府御用達の砥石を産出し栄えていたようだ。ひときわ大きな蔵屋敷があるので通り越しに撮影してみた。ここは甘楽酒造という造り酒屋で、荒船という酒を造っていたそうだ。今は廃業してその名残がこの屋敷である。屋敷の木戸に酒樽の蓋が無造作に立てかけてあった。どんな風味の酒だったのだろうか。


昭和初期まで全盛であった養蚕の名残か出梁造りの古民家が軒を連ねる。主を失って打ち棄てられた廃屋も見受けられる。破れたままの障子が寒風にカサカサと音を立てていた。住んでいる人たちにとっては外から言われたくないことだろうが、時間が止まったままの集落である。それが都会のよそ者をそっと引き寄せるのである。

そしてさらに歩を進めて、人家が途絶えた辺りに、景勝「蝉の渓谷」がある。あの誰もが知っている「閑けさや岩にしみ入る蝉の声」の碑文が石に刻まれている。芭蕉に由縁のある所なのだろう。川の流れによって深く穿たれた谷底に光が差し込む瞬間を待ったが、雲行きが怪しくなるばかりだったので、シャッタースピードを遅くして手短に撮影した。谷底まで降りて撮ればもっと絵になるだろうが禁止されているようだ。なるほど足元がおっかない。


石堤の畑と集落のある勧能を経て村の最奥の熊倉から急峻な九十九折の田口峠を経れば長野県側(佐久)に出る。バイクなら難のないダート混じりの県道だが乗用車だとすれ違いさえ厄介な狭い道である。そして分水嶺の向こうに雨川ダムがある。緑色のペンキのような水を湛え底の知れない不気味さがある。その先には「日本で海岸線から一番遠い地点」と龍岡城五稜郭。幕末に築かれた西洋式城郭として函館の五稜郭と並ぶ史跡である。函館のそれとは異なり、なぜ海から最も遠い場所に外夷用の要塞を構えたのか首を傾げたくなるような不思議な遺構である。夏場は何度か訪れたコースだが、今回これらはパスした。
(旧軽井沢の撮影記に続く)
(おわり)
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