艶やかな紅葉も良いが、落ち葉や木の実などで敷き詰められた足元に目を凝らすと、秋色の名残を見つけることもできる。自然界の彩は生物の代謝によってもたらされるようである。冬に備えて身構えようと木々が葉っぱとの水分などのやり取りを止めると、光合成によって葉が得た糖分が行き場を失って葉の中で化学変化を起して赤い色素のアントシアニンを合成してそれに光が映えて紅葉と見えるといった具合である。

(Exakta RTL 1000 / filmed by Carl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35, Fujicolor100)

(Exakta RTL 1000 / filmed by Carl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35, Fujicolor100)

(Exakta RTL 1000 / filmed by Carl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35, Fujicolor100)

(Exakta RTL 1000 / filmed by Carl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35, Fujicolor100)
蝶もその翅の鱗粉は一つが一つの色素でできていて、数種類の鱗粉を纏うことで鮮やかで多様な色彩と模様を獲得しているようである。鱗粉の中には特殊な構造によって特定の光の色だけをラメのように反射させるものもある。
生物の体表面の色(体色)はそれ自身の色素(化学合成・変化)と光の反射の織りなす妙なのかもしれない。
フィルムも生物の体色と似ている。それ自体色素を持っている。光に感応して化学的に変化する。つまり、撮影対象物に応じて自らも化けるのである(写真化学)。相手が化粧をするならこちらもレンズ越しに相手と同じ化粧をしてみるといった具合である。そしてその化粧は一回だけしか許されていない。この勝負のような化け合いがフィルムの面白さであろう。
「美とは化けることである。」
女性の化粧然り、紅葉然り、蝶の翅然り、そしてそれを再現しようと思えば、こちらも懸命に化けることである、筆と絵具を使って紙やカンバスに向かえば絵画となり、レンズとフィルムを使って、現像し印画紙に焼き付ければフォトグラフになるのである。絵画やフォトグラフが単なる模写と同義ではなく、作品と言われるには、美に昇華するだけの創造的な化け方をしているからだろう。
先日亡くなられた漫画家・水木しげるさんの「化け物」たちも、人間ではない動物や無生物が人の姿になってふと現れる。死んだことを納得できずこの世を彷徨う戦友たちの念も水木さんをして「化け物」となって現れるのだそうだ。フィルムはある意味この「化け物」かもしれない。対象物にそっくりに化けているようにみえてフィルムには様々な人の念や情が入り込むのである。フィルムだからこそアルバムという心の想い出に一枚ずつ詰まっていくのである。超能力者の念写も心霊写真もそれがフィルムだと納得してしまう何かである。
デジタル写真はどうだろうか?デジタルカメラの撮像素子は、撮影対象物から反射された光を電子的に電荷に変換する。相手が化粧をしようとも、こちらは化けないのである。ゴソゴソと筆を動かして「こう写しました」(写真化学)ではなく、液晶ファインダーに前もって「こう映ります」となる(電気電子工学)。レンズすら不要でアルゴリズムを駆使してバーチャルに撮像を作り上げる技術まであるそうだ。こうなったら、人の念も情も入りようがない単なる電子基板上の計算処理である。私はそれを「魚拓」と呼んでいるがとりあえず何でも撮っておこうという「記録」に近い。ハードディスクやメモリーカードはその0と1のディジットの集積でしかない。透かせば見えるようなネガ・ポジの一つも入っていないのである。そして所詮、電気的記録であるからクリック一つで跡形もなく消えてしまう。
デジタル的要素のどこかに人間の意思を介在させなければ、「記録」が美になるのは難しい。逆に、化けることが前提のフィルムであれば、それで撮った「写真」はトイカメラであっても「美」となり得る。<チェキ>や<LOMO>が若者に支持されているのも、フィルムに宿る「化け物」たちに若者たちの感性が惹きつけられているからだろう。

(Exakta RTL 1000 / filmed by Carl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35, Fujicolor100)
(おわり)
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