2022年10月23日

生活の危機・ヨーロッパは混乱している


生活の危機があり、ヨーロッパは混乱している


(2022 年 10 月 18 日、南フランスのマルセイユでのデモ参加者。写真: Denis Thaust / SOPA Images / LightRocket via Getty Images)

ルーマニア、フランス全土、チェコ共和国の街路にデモ参加者が集結し、イギリス、ドイツ、フランスでは、生計を確保するためにより良い賃金を要求するデモに発展している。ルーマニアでは、抗議者たちが太鼓を打ち鳴らしながら生活費の上昇に抗議の声を上げた。フランス全土で、インフレに合わせた賃上げを求める人々が街頭に繰り出している。

フランスの石油精製業者の大半が発表した賃上げを要求するストライキは 10 月 13 日にすでに始まっており、これはガソリンスタンドの 3 分の 1 で燃料供給が中断されたことによる。フランスの労働組合は火曜日に全国的なストライキを開始し、高インフレのためにより高い給与を要求した.

1 週間前の日曜日には、フランスの左派も政府と物価の値上げに抗議し、主催者によると、14 万人がデモに参加した。チェコ共和国の抗議者たちは、エネルギー危機に対する政府の対応に反対してデモを行った。英国の鉄道労働者とドイツのパイロットは、物価の上昇による賃金の引き上げを求めてストライキを行った。

原因はインフレ

AP ニュースは、物価上昇に対する不満と政治不安の脅威を反映して、ヨーロッパ全土で抗議活動やストライキが相次いでいる背景にはインフレの上昇があると報じている。

英国のリズ・トラス首相が辞任を余儀なくされた後、経済の低迷をさらに弱体化させる金融市場での一連の措置の中、人々の抗議の高まりとともに政治指導者への不満の声が高まっている。

ウクライナでのロシアの戦争によって悪化したコロナウイルスによって引き起こされた世界的なインフレにより、ヨーロッパ人のエネルギー料金と食料価格は急騰。ブリュッセルのブリューゲルシンクタンクによると、天然ガス価格は夏に記録的な高値から下落し、政府は2021年9月以降、家庭や企業に5,760億ユーロという莫大なエネルギー価格の救済を与えていますが、抗議者にとっては十分ではない。

ドイツ6都市にデモが波及

ロイター通信によると、土曜日にドイツの6つの都市(ベルリン、デュッセルドルフ、ハノーバー、シュトゥットガルト、ドレスデン、フランクフルト)に数万人の抗議者が集まり、エネルギー価格と生活費の上昇に対処するための政府資金のより公平な分配と、化石燃料からのより迅速な移行を要求した。抗議者の垂れ幕には、インフレの抑制から原子力発電の停止、貧困層へのエネルギー補助金の引き上げまで、あらゆることを求める声が含まれていた。主催者の 1 人であるグリーンピースによると約 24,000 人がデモに参加した。警察によると約1,800人の抗議者がベルリンに集まったとされる。

路上に出る以外に選択肢がない

ユーロ通貨を使用する 19 か国のインフレ率は過去最高の 9.9% に上昇し、人々が必要なものを購入するのが難しくなった。路上に出る以外に選択肢がないと考える人もいる。

「今、人々は賃上げを迫られています」と、今週フランスのいくつかの都市で街頭デモに参加した10万人以上の人々の中にいた医師のRachid Ouchemは言う。


「EUとNATOの対ロシア制裁による生活費の高騰に、パリでは数千人が抗議しています。マクロン大統領の温情主義は、パリで大きな問題を引き起こし始めている。」

リスクコンサルティング会社の Verisk Maplecroft によると、ウクライナでの戦争の影響により、ヨーロッパでの市民不安のリスクが大幅に増加している。ヨーロッパの指導者たちはウクライナを強く支持しており、同国に武器を送り、安価なロシアの石油とガスからヨーロッパの経済を引き離すことを誓ったが、ロシアからのエネルギー離脱は容易ではなく、世論は国の政策立案者の考えを変える恐れがある。

国民を貧困に追い込んでいる指導者の辞任を要求:

インフレ率が 6.2% であり、ユーロ圏 19 か国の中で最も低いフランスでは、石油労働組合による賃金引き上げの要求と抗議の呼びかけに続き、火曜日、鉄道および運輸労働者、高校の教師、公立病院の労働者がストライキに対する政府の介入に反対の声を上げた。

数日後、何千人ものルーマニア人がブカレストで集会に参加し、エネルギー、食料、その他の基本的な商品の価格上昇に抗議した。主催者は、何百万人もの労働者を貧困に追い込んでいると述べている。

チェコ共和国では先月、プラハで旗を振った大群衆がロシアに対する制裁に対する欧州連合の支持を批判した。また、政府がエネルギーコストに圧迫されている家庭や企業を支援するために十分なことをしていないと不満を漏らした。来週プラハで別のデモが予定されているが、これまでのところ、行動は政治的変化につながっていない。


「数万人のチェコ人が今日、プラハ で政府に対して抗議し、エネルギー料金の上昇に対する国の支援強化を要求し、欧州連合とNATO に反対する声を上げた。」

英国の鉄道労働者、看護師、港湾労働者、弁護士などは、過去 40 年間で最高の 10.1% に達したインフレに見合った賃上げを要求するために、ここ数か月で一連のストライキを行っている。

以上、ハンガリー Index.hu 2022年10月22日付記事引用

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食糧・エネルギー資源について輸入に依存する我が国ゆえ、上述の欧州の危機は他人事ではない。特に昨今の対ドル円安急進は生活財の高騰をもたらし、経済成長戦略の明確な見通しがなく(アベノミクスは第3の矢を番えることができなかった)労働給与が下がり続ける我が国はインフレよりも悪質なスタグフレーションの傾向をより鮮明に示している。

特に食糧について我が国の事情は極めて深刻だが、多くの国民にはその危機意識がない。「輸入途絶という危機の時に、どれだけの食料が必要なのか?」今から考えておいた方が良いだろう。

参照:日本で起きる食料危機とその備え(キャノングローバル戦略研究所・研究主幹 山下一仁氏)
─今世界で起きている食料危機─月刊誌「改革者」(2022年10月号)掲載記事

関連記事:ゼレンスキーの「盾」は高くつく

(おわり)

posted by ihagee at 09:53| 日記

2022年10月13日

今の西側諸国が戦っている相手は、自分自身だ(ハンガリー・オルバン首相)



ハンガリーのヴィクトル・オルバン首相は、火曜日(10月11日)にベルリンで開催された政治雑誌キケロと日刊紙ベルリナー・ツァイトゥンクとのパネルディスカッションで、 「EUの対ロシア制裁政策は、その実施において原始的であり、その効果において悲惨である。ヨーロッパは制裁で死につつある」と述べた。

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オルバンによると、現在、ヨーロッパには戦争賛成派と平和派の2つの陣営があり、オルバンは明らかに後者に自分自身を分類している。ロシアが侵略者であることは明らかであり、ハンガリー政府は戦争の初日から今に至るまでロシアを非難している。しかし、オルバンは戦争でロシアやウクライナの立場ではなく、自国(ハンガリー)の立場を選んだ。これが、例えば、戦争に対するハンガリーの立場がドイツとは異なる理由である。平和を願って戦争について同様の方法で考えているのは、世界でほんの一握りの人だけだとオルバンは言う。

必要なのはロシア-ウクライナ人ではなく、ロシア-アメリカの平和であり、ロシア-ウクライナ交渉は無意味である。なぜなら、ウクライナはアメリカによって際限なく支援されており、ウクライナ人への同情は、アメリカを中心に西側のマスコミによって熱く維持されている。大量殺人者や戦争犯罪人という言葉をロシアに浴びせる(バイデン米大統領)ことで却ってロシアを孤立化させ停戦への道を閉ざしている。

プーチン大統領に誰も話しかけず、彼が孤立したままでいることを示すことは、今やヨーロッパ全体の仕事である。(独ZDFとの2022 年10 月12 日付インタビューでのゼレンスキー氏の発言)


オルバンは2014年のクリミア危機の時、当時のメルケル独首相がこれを地域紛争に抑え込み戦争を勃発することを防いだことを指摘した。

なぜ戦争にならなかったのか。それは、メルケル首相が直ちにキエフに行き、モスクワに行き、ブリュッセルに働きかけ、紛争を孤立させたからだ。だから、クリミア紛争はウクライナとロシアの紛争のままであり、爆発することは許されず、これは偉大な外交的成果だった。


しかし、ロシアのウクライナへの軍事侵攻では、EU諸国でクリミア危機と同様にそれを紛争として孤立させようとさえした人は誰もいなかった。すべてが瞬時に爆発し、我々は皆それに引き込まれた。そして、EUでは皆、ウクライナ人について話し、その視点から何をすべきかだけを話していている。もし経済制裁がエネルギー、特にロシアの石油に課せられたら、ハンガリー経済は翌日までに止まるが、ブリュッセルからは「何とか解決する」という返事しか受け取らなかった、とオルバンは述べた。

私はハンガリーを破壊しながらウクライナ人を助けることを拒否する。ハンガリー人が死にかけている間、私はウクライナ人を助けることを拒否する。


1956年のブッツァ」と「イムレ・ナジ」をそれぞれ、「キエフ」と「ゼレンスキー」に重ね、1956年のブッツァことブダペストが経験した当時のソ連との地政学的危機を知るからこそ、停戦と欧州連合加盟の可能性以上に、ウクライナに今、より良い贈り物を与えることはできないと、オルバンは付け加えた。

民主主義を掲げる西側諸国は20世紀に、全体主義に抵抗して団結し、ナチスドイツとソビエト連邦を打ち負かした。だが今の西側諸国が戦っている相手は、自分自身だ。


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戦争が起きないようにすることだけがあなたの仕事だ

「世界戦争や核戦争の脅威のない 30 年間の平和を私たちに与えてくれた(ドミトリー・ムラトフ=ノーベル平和賞受賞歴のある独立系ノバヤ・ガゼータの元編集長)」そのミハイル・ゴルバチョフ(ソ連大統領)の葬儀に西側で唯一参列したのはハンガリーのヴィクトル・オルバン首相だった。



戦争に戦うのであって、戦争で戦うのではない

戦争に戦うことは、戦争で戦うよりも難しく往々に蔑まれる。

「われわれは決して屈しない。海で、空で、畑や道の上で、どんな犠牲を払っても、われわれの土地を守るために最後まで戦う」とハムレットの一節まで引用するゼレンスキーは英雄だが、自国を西側諸国の無力な衛星に変えてしまったゴルバチョフは卑怯者の烙印を押される。しかし、そのゴルバチョフの贈り物は「世界戦争や核戦争の脅威のない 30 年間の平和」だった。

プーチンの大国主義(旧ソ連邦)への回帰とアメリカ(=ウクライナ)との間の覇権主義の鬩ぎ合いに平和はない。その先にあるのは1955年の<ラッセル=アインシュタイン宣言>で予見されていた脅威、即ち、勝者なき終わり、人類に絶滅をもたらす最悪の結果だけだ(「'ヒト'という'種'の一員として」の戦争放棄(憲法第9条))。

その脅威の狭間で過酷な歴史を経験したハンガリーであるからこそ、そのハンガリー首相が卑怯者と呼ばれながらもEU諸国の中で一人即時停戦を呼びかけているのだろう。世界で唯一核兵器を落とされ未曾有の犠牲者の上に戦争放棄を憲法で誓った(憲法第9条)日本国ならば、戦争に対する立場はハンガリーと同調すべきであって(本来ならば、オルバンの役割を岸田首相が担うべきである)、最終戦争へのエスカレーションを予定則とするような西側諸国の立場と合わせてはならない。

(おわり)

関連記事:
西側に責任がある(ハンガリー・オルバン首相)
ほぼ全ての戦争がメディアの嘘の結果である(続き)
二つのウイッシュ・カード
アマンとマハトマ(平和と偉大な魂)
アマンとマハトマ(平和と偉大な魂)/ 続き(ペシャワール会中村哲医師)



posted by ihagee at 07:33| 日記

2022年10月04日

オリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)




東京2020オリンピック競技大会に関する知的財産保護・日本代表選手等の肖像使用について―マーケティングガイドライン―更新版(2021年6月10日付)に基づく図示

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東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー選定を巡る汚職事件で、東京地検特捜部は5日、大阪市の博報堂DYホールディングス傘下の広告代理店「大広(だいこう)」に家宅捜索に入った。スポンサー集めを請け負った大手広告会社「電通」(東京)の下請けに入ったことに対する謝礼として、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者(78)=受託収賄容疑で逮捕=に資金提供した疑いがある。(毎日新聞2022年9月5日付記事より)


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(2019年3月20日 参議院法務委員会 小川敏夫議員質疑 / この答弁でオリンピックマーケティングの脱法性を十時内閣官房内閣審議官は否定できなかった。つまり、商標を使用しておきながら民法が著作権が・・と四の五の言うばかりで肝心の商標法で説明することが一切できなかった。)

(2) 商品化権


(2-1)
小川議員による国会質疑で,十時内閣官房内閣審議官が「内閣官房…は…著作権法あるいは民法に基づいて適切に契約を行っているということで…特段の問題はないものと…考えている」という,商標法違反行為が,何故著作権法・民法の契約によって問題にならないことになるか全く理解できない答弁をしている。この答弁の内容は,以下の組織委員会のマーケティング戦略に対応すると考えられる。

(2-2)組織委員会は「東京 2020 マーケティングでは,日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京 2020 (注:東京 2020=組織員会)に移管し,2020 年東京大会の権利と共に販売します」と説明し,主な権利内容として,呼称の使用権;マーク類の使用権;商品/サービスのサプライ権;大会関連グッズ等のプレミアム利用権;大会会場におけるプロモーション;関連素材(映像・写真等)の使用権を挙げている。

(2-3)「使用」「使用権」は商標法で定義された法律用語であるが,サプライ権,プレミアム利用権,プロモーション,関連素材の使用権まで包含しておらず,「使用権を販売」という言い方もしない(ちなみに著作権法では「使用」ではなく「利用」が使われる)。知的財産制度の観点からは理解し難い政府答弁の「適切に契約」や組織委員会の「使用権を販売」の説明は,いわゆる「商品化権」に基づきマーケティング資産の「使用権」を「適切に契約」していることを意味すると考えれば理解し易い

(2-4)商品化権」とはもともとキャラクターを活用したマーケティングに対して概念され,「商品の販売やサービスの提供の促進のためにキャラクターを媒体として利用する権利」(31)と定義され,その後,「キャラクター」がスポーツイベント等における様々なイメージ要素を包含するように概念拡張されてきた。

(2-5)オリンピック資産のうち,視覚的要素(キャラクター・映像・写真等)及び記号的要素(マーク・ロゴ等)は,著作権法・商標法・意匠法・不競法等の知的財産権に関連して保護されると理解できるが,実在的要素(商品・サービス・グッズ等)は民法(名称や肖像の権利を侵害する不法行為に関する規定)と関連して保護されうることになる。
一方,IOC ファミリーは,サプライ権,プレミアム権,プロモーションのような実定法に根拠を有しない,契約の当事者間でしか通用しない権利概念の下で,これらのイメージ要素の使用・譲渡等の権利関係を主張している。しかし,当該権利概念を商標権等の当事者間の合意ではで律しきれない実定法概念と区別しないまま運用するため,登録商標のライセンスの法的根拠を問われると「著作権法・民法に基づく」「関係者の合意に基づく」等の第三者には理解し難い説明をせざるをえないということになる。

(2-6)筆者は,アンブッシュ・マーケティング対策について,我国の知的財産権を根拠に正当性が肯定できる場合と他の根拠によると考えられ正当性がよく理解できない場合があると指摘してきたが,後者の「他の根拠」が「商品化権」であると考えると理解し易く,組織委員会による契約当事者間でしか通用しない「商品化権」に基づき第三者に対する差止警告の正当性がよく理解できないのは当然であるということになる。(柴大介弁理士「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決策」パテント2019 Vol.72, No.10より抜粋 / 朱記は筆者)


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小川議員の国会質疑内容および柴弁理士の論文内容で説明はし尽くされている。オリンピックマーケティングの脱法化の手順を以下に示したい(上掲の図参照)。

@ 物語の登場人物や漫画の主人公などの人気や性格(キャラクター)を実在的要素(商品・サービス・グッズ等)の上で商業的に使用(利用)する商習慣上の権利が「商品化権」である。

A 著作権法・商標法・意匠法・不競法等の知的財産権によって保護される視覚的要素(キャラクター・映像・写真等)及び記号的要素(マーク・ロゴ等)にまで、キャラクターの概念を拡張した。

B 「日本国内のオリンピックに関する知的財産権の商業的な使用権」すなわち「商品化権」は、本来第一に商標法で保護される登録商標を、あたかも著作権法、不正競争防止法、民法で保護するかの権利の付け替えである。「商品化権」が発生する資産を大会組織委員会は「マーケティング資産」と称する。JOCの登録商標は商標権としてではなく「マーケティング資産」として大会組織委員会に「移管」集約される。結果、大会組織委員会は他人(JOC)の登録商標を自己資産化する。

C 「マーケティング資産」の「使用権」の「契約・販売」を大会組織委員会は電通に委託(専任代理店=独占販売代理店)。大会組織委員会との間でのライセンシングプログラムでは電通自身が「ライセンシー(リテイル=小売)」である(東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料参照)。

D 販売代理店であり且つライセンシーである電通が、株式会社大広にリテイル業務(スポンサー契約業務)を再委託した。その行為自体は、組織委や電通が必要性を認めれば「販売協力代理店」として他の広告会社への再委託が認められていた。また再委託自体は民法上の自由契約の範疇である。

E 商標法に照らせば、公益著名商標の使用権(通常使用権)は再許諾(サブライセンス)が認められていない。「ライセンシー」としてリテイル(小売)業務上、オリンピック関連商標(公益著名商標)を当然使用する電通がその業務を大広に再委託するということは、「ライセンシー」として許諾された通常使用権をさらに大広に再許諾(サブライセンス)したことに他ならない(商標法違反)。

F 同じく商標法に照らせば、「ライセンシー」は大会組織委員会(ライセンサー)とは他人(JOC)の商標をも使用することになり、商標権侵害の状態に置かれ(実定法に根拠を有しない「商品化権」では対向できない)、不利益を享受することなる。

G 実定法に依拠しない「商品化権」上で「マーケティング資産」の使用・譲渡等の権利関係を主張し、その権利は著作権法あるいは民法で保護されると言うのであるから、その使用は商標法で保護されていないということになる(上述の国会質疑にあるように、内閣官房は「商標法」で保護されると言うことができなかった)。ライセンシーに実質商標権を使用させておきながら、係る不利益事実を告知しない脱法的契約は詐欺であり、信義則に反し無効である。

H 大会組織委員会は、業務の再委託を電通に認め、結果として商標法上、通常使用権の再許諾が認められていないにもかかわらず「ライセンシー」たる電通をして大広を「サブライセンシー」とするなど、商標権者として商標管理上コンプライアンスに著しく欠けるばかりか、「ライセンシー」を商標権侵害状態に置く(他人=JOCの商標を使用させる)など、権原もないのに(JOCのオリンピック関連の登録商標が大会組織委員会に「移転」された事実はない)他人の商標権を不法に占有し悪意に使用している。

I 公益著名商標であっても従来商標法が認めていなかった第三者への通常使用権許諾が可能に法改正(商標法第31条第1項但書削除)があったが、法改正前にほぼ全てのライセンス契約は成されており、その時点での通常使用権許諾契約はゆえに全て違法である(法改正を以て契約時に遡及して合法とはならない=商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえ)。「商品化権」上の契約であっても登録商標の使用であるのだからその契約の違法性が問われ、違法な契約に基づきライセンシーに商標を使用させたことは、「すべてのライセンシー」を商標権侵害状態に置いたことにもなる(犯罪行為)。

上述の通り、大会組織委員会がその他人であるJOCのオリンピック関連商標を「ライセンシー」に使用させることは「ライセンシー」を商標権侵害状態に置くことになるが、商標法上、JOCが禁止権の不行使を「ライセンシー」に許諾すること(または定型約款でその旨を記載し契約者と事前に合意する)を以て係る侵害状態を解消しようとしても、それはできない。

なぜなら、「五輪(登録6118624)」無効審判事件(無効2021-890047)審決でIOCファミリーの有する商標法第4条第2項に基づく登録商標(オリンピック関連商標)は、商標法のライセンス禁止条項(法改正前)によりライセンスできないとした請求人の主張を「そのような事実はない」と特許庁は退け、法改正後の効果が改正前に出願登録された「五輪」に及ぶ(遡及効)と特許庁は示している。また、法改正の趣旨は禁止権不行使による使用許諾は一切予定していない(公益著名商標の禁止権不行使型使用許諾が法律的に問題であったから法改正をした筈)。

よって、同様に法改正前に出願登録されたJOCのエンブレムを含むオリンピック関連商標について法改正後の効果が及ぶとすれば(特許庁の判断)、禁止権不行使による実質使用許諾は法改正の趣旨と反するので認められないとなる。

公益著名商標の使用許諾を禁じた商標法第31条第1項但書は強行法規ゆえ、法改正を以て許諾を可能としても、その効果が過去の使用許諾契約に遡及してその行為が合法とはならないと上述の無効審判請求人は主張するが(筆者もこの主張が正しいと考える)、このような不遡及効を特許庁が認めれば違法ライセンスが明確に認定されなおさら「ライセンシー」は侵害状態にあることになる。

侵害状態にある使用態様(上掲図中の「⇦中断⇨」がまさにこの状態が続く期間を意味している):
スクリーンショット 2022-09-25 8.42.18.png

(ライセンシングプログラムで大会組織委員会との契約上「ライセンシー」である株式会社丸眞は、その製造販売した商品(オリンピック公式グッズ:ウォッシュタオル)にJOCの登録商標「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレムを使用している。)

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IOCは権利能力なき社団・任意団体に過ぎないのであれば、そもそも、開催都市契約にはじまり、IOCのパートナーシップ契約からヒエラルキー的に発展しているスポンサー契約まで、法律行為ではなく全て無効ということになる。オリンピックマーケティングの脱法性(商品化権)以前の問題だ。

IOCとは一体何者なのか?それは、知的財産高等裁判所(知財高裁)に提起されたIOCを相手取った審決不服訴訟(事件番号:令和4年(行ケ)第10065号:「五輪(商標登録6118624)」)で明らかになることだろう。

スイス民法典第60条でIOCは非営利法人格を有する協会(Vereine)だからといって、その公益性はそのまま日本で認められることはないのである。さらにその公益性の認定の前提としてIOCはそもそも一般社団(財団)法人として国内登記されていなければならないのである(大会組織委員会、JOCはその然るべき手続を踏んでいる)。IOCについては、さらにスイス連邦政府の「特権、免責あるいは地位において合意が交わされたその他の国際機関(the agreements on privileges, immunities and facilities concluded with the international organisations)」となっており、「専門機関の特権及び免除に関する条約」に日本国は批准しているが、日本国に於いてその機関を特定する「附属書」にIOCは未だ記載されていない(附属書に記載されている機関:WHOなど)。従って、条約に照らしても、IOCは依然日本に於いては「権利能力なき社団」であり非営利公益法人として認許されていない単なる任意団体に過ぎないということになる。(拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?


87. 準拠法と争議の解決:免除特権の放棄 本契約はスイス法に準拠する。開催都市契約


商標「五輪(商標登録6118624)」はIOC自身が出願人となって日本で登録出願した。

その商標権の争議に於いて裁判管轄権はスイスではなく日本国ということになり、係る「五輪」商標の審決取消訴訟(知財高裁)で初めてIOCはその日本での法的身分(権利能力の有無・非営利公益法人であるのか否か)を問われることになる

万事スイス法で通してきたのに(開催都市・国家にとっては治外法権)、開催都市・国家の法律が当てられる初めてのケースにIOCはさぞ驚いているだろう。誰がIOCに勧めたのか知らないが、「五輪」は迂闊な権利取得であったとIOCはひどく後悔することになるかもしれない。

(おわり)



posted by ihagee at 16:29| 東京オリンピック