エリザベス女王はその一生で約30匹の犬を育てた。ウィンザー城ではコーギーが14世代にかけて飼育され訓練されたが、女王自身、コーギーの繁殖プログラムを数十年にわたって監督した。女王が去ったあと、王宮にはウェルシーコーギー2匹、ダックスフントとコーギーの混血犬種であるドルギ1匹、コッカースパニエル1匹など4匹が残り、王家の人々がその世話を引き継ぐことになるだろう。
女王が育てたコーギーたちは2012年ロンドンオリンピック開幕式のフィルム映像で 、映画「007シリーズ」の主演俳優ダニエル・クレイグがバッキンガム宮殿で女王をエスコートする場面にも登場し人気を集め、2020年に英王室の物語で人気を集めたネットフリックスドラマ「The Crown」にも登場した。
エリザベス女王の演説顧問だったモンティ・ロバーツは、米国芸能メディア・ベニティフェアとのインタビューで、女王は2012年ロンドンオリンピック開幕式の映像に登場したコーギーの死を大きく悲しみ、「子犬を置いて去りたくない」と繁殖をあきらめたという話を明かしている。
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「それは2003年の謁見の場でした。大統領閣下は14分遅れて現れ、その時、私の盲導犬がとても大きな声で吠えたのです。その場は女王様がホストでしたから "陛下、犬の吠えをお赦しください" と謝りました。女王様は "犬には面白い本能がありますよね" と仰られたのです。」(全盲の内務大臣・デイヴィッド・ブランケットの回想)。

遅れてきたのは、公式訪英中のウラジーミル・プーチン・ロシア大統領だった。エリザベス女王は余程不快だったのだろう。政治問題において中立であるという王室の議定書に逆らうかに、無礼に対して皮肉で答えたのだった。
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2007 年、ソチにあるプーチン大統領の夏の邸宅でアンゲラ・メルケル独首相とエネルギー貿易問題について話し合っていたとき、プーチンは彼の黒い愛犬を部屋に引き入れた。コンニいう名のそのラブラドール犬がメルケルに近づき不機嫌そうに匂いを嗅ぐや、メルケルは椅子の下に足を入れ怯える表情を見せた。メルケルは気を落ち着けるかにロシア語で「それでもジャーナリストは食べやしないわ」とプーチンに返した。.
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(ドミトリー・アスタホフ/AFP/Getty)
彼女は以前二度犬に噛まれたことがある。犬に対する彼女の恐怖をプーチンは知っていたとされる。2006年、首相となって初めてメルケルがモスクワを訪問した際に、小さな白黒のぬいぐるみの犬をプーチンはメルケルにプレゼントしていた。それがいかなるメッセージかをメルケルはその時、知ることになったのである。
「彼がなぜこれをしなければならないのか、彼が男であることを証明するために、それは彼は自分の弱さを恐れているからです。ロシアには何もありません。政治も経済も成功していません。彼らが持っているのはこれだけです。」と、メルケルは後にこう述べている。
そのラブラドール犬のコンニは2014 年に死んだ。2010年にブルガリアの首相から与えられたバフィーと呼ばれる雄のブルガリアン・シェパードと、2012年に日本から贈られたユメと呼ばれるメスの秋田犬をプーチンは飼っていた。2011 年の東日本大震災後、ロシアの支援に対する感謝のしるしとして、2012 年に安倍首相からプーチン大統領に贈られた犬である。
2014年にプーチンをソチの夏の邸宅に訪ねた安倍晋三首相はユメと再会した。ゲストに顔を背け不機嫌そうなユメを撫でながら安倍首相はロシア語で「いい犬だ」と言った。「はい、でも彼女は時々噛むことができます」とプーチンが答えたと、ロシアのニュースサービスRia Novostiが報じている。

(画像出典:Dailymail online)
そのユメの相方として安倍晋三首相は2016年の訪日に合わせて、オスの秋田犬をプーチンに贈呈しようとしたが、プーチンに断られている。互いに愛犬家だからと、犬で外交が叶うと踏んだ安倍首相をプーチンは鼻で笑ったのかもしれない(噛まれたいのか?)。ちなみに、ドナルド・トランプ大統領は歴代大統領と異なり犬が好きではなく、ホワイトハウスに犬の居場所はなかった。犬がダメならゴルフで、ということになったわけである。
犬の所作はその飼い主を現す。君主なり政治家なりの身振りをするのである。同時にその飼い主は犬を介しても、時に権謀術数に長けていなくてはならない。単なる愛犬家では務まらないということだ。
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(おわり)