2022年09月08日

国葬儀であって国葬ではない(岸田)?!



「内閣府設置法4条3項33号に、内閣府の所掌事務として国の儀式に関する事務に関することが明記され、国葬儀を含む国の儀式の執行は行政権に属することが法律上、明確となっており、閣議決定を根拠としてできる」(松野官房長・7月22日記者会見)

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国葬儀なる国葬の新たな類型を岸田内閣は編み出したようだ。根拠法は内閣府設置法4条3項33号ということらしい。

内閣府設置法4条3項33号:
内閣府は「国の儀式並びに内閣の行う儀式及び行事に関する事務に関すること」をつかさどる。

「つかさどる(​掌る)」とは職務として担当するの意。掌る国の儀式は皇室典範など別に法律で決まっていて、それらの事務の所掌が内閣府にあるというだけである。換言すれば、法律に基づかない国の儀式(そういう儀式自体あり得ないが)について内閣府に所掌はないということ。国葬令が失効し法的根拠がない「国葬」はゆえに内閣府は「つかさどる(​掌る)」ことはできない。内閣の行う儀式は内閣府は「つかさどる(​掌る)」ことはできるが、それならば内閣葬であって国葬儀ではない。

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安倍内閣直伝かの恣意的且つ無理筋の法解釈で編み出した国葬儀なる実質国葬について、さっそく憲法学者の小林節氏が「違憲」を唱えた。

「内閣府設置法4条3項33号は、皇室典範(法律)25条で決まっている国葬などの儀式を内閣が執行する規定であって、内閣が元首相の国葬という新しい儀式類型を創出して良いという規定ではありません。だから、今回の閣議決定は明らかに違憲です」

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内閣府だけで決めて、国民には事後説明で済ませるのであれば「内閣葬」だが、それでは外国から高位の人物の弔問を受けられないから国葬儀を編み出したものの、国葬の類型にすぎず、国会の承認議決を得ておらず内閣だけでは国費の支出をする権限はないのに(違憲)、勝手に国民の理解を求めたり費用の説明をしようとしているわけである。

丁寧な説明を行い国民に理解を求めたいと岸田首相は言う。しかし、根拠となる法律がなく、立法府の議決を経ない閣議決定は憲法違反であるのにその儀式を国民に理解せよと言うこと自体がナンセンスである。議会制民主主義の否定だ。

国民の大半が国葬儀ならぬ国葬挙行に反対するのは当然の理である。

他方、立憲民主党の泉党首は国葬儀への参列を否定しない。その愚行によって、岸田内閣同様、議会制民主主義を否定するのであれば、立憲民主という看板は降ろすべきだろう。

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東京オリンピックでは、アスリート以外の利害関係者たち(IOCファミリー)が違法・脱法行為を公然且つ大規模に行い(拙稿「IOC登録商標『五輪』無効審判関連動画(審決:請求不成立)」「IOCへ権利譲渡!?」、統一教会問題では長年に亘って政権与党が組織的に反社会的勢力と繋がりを持ち、そして安倍国葬にあっては公然と内閣が憲法違反を行う。その政権与党と相対する筈の立憲民主党は、国葬問題では「どうせやるのなら」と、いつの間にか「国民への丁寧な説明」を求めるとか岸田首相の話の穂を接ぐ体たらくぶりである。

第二次安倍政権以来、政官に於いて法秩序がガラガラと音を立てて崩れ去っている。果たしてこの国はどこに行こうとしているのだろうか?戦争世代が予感していた先がどうやら見えつつある(「私たちはどこまで階段を登っていますか?」)。

(おわり)


posted by ihagee at 11:19| 憲法

2022年09月07日

IOCへ権利譲渡!?


ミライトワ ソメイティ、もうすぐ見納め!? IOCへ権利譲渡 活用に壁 「マスコットだってレガシー」 ファン存続希望

都スポーツレガシー活用促進課に聞くと、確かにマスコットの知的財産権は昨年12月末に大会組織委員会からIOCと国際パラリンピック委員会(IPC)に無償譲渡されていた。13年に締結した開催都市契約に基づいているという。この契約には大会中止の決定権がIOCにあるとする条項もあり、コロナ禍で「不平等条約」と揶揄やゆされたほど強力なもの。市松模様のエンブレムや「TOKYO2020」の呼称も譲渡の対象だった。

東京新聞web 2022年9月6日付記事から引用

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ミライトワ ソメイティといったマスコットは著作物だが、「ミライトワ」「ソメイティ」といった文字はそれぞれ登録商標(登録No. 6127484、6127485)であり、市松模様のエンブレムや「TOKYO2020」も登録商標である。マスコット、つまり、ぬいぐるみなどキャラクター商品(著作物)であっても、商品自体にそれら登録商標が付されているのだから商標を使用していることでもある。

東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は公益財団法人。ゆえに同委員会の取得した商標権は公益著名商標に係るものである。

商標法の公益著名商標の譲渡・移転禁止条項(商標法24条の2第2及び3項)に照らすと、これら公益著名商標に係る商標権の「無償譲渡」が特定承継である場合、法は特定承継を認めていない。ゆえに、IOCへのそれら公益著名商標に係る商標権の「無償譲渡」は違法の可能性が極めて高い大会組織委員会からIOCと国際パラリンピック委員会(IPC)に「無償譲渡」はできないのである。

法が認めるのは移転であって(一般承継)、その場合は事業ごとであり、大会組織委員会の事業をIOCがそっくり引き継ぐ筈もなく、また、IOCは引き継ぐ法的身分もない(日本の法律での公益法人ではない)。

特許の無名塾:五輪知財を考える(弁理士:柴大介)「IOC登録商標『オリンピック・エンブレム』無効審判(番外編):ミライトワ・ソメイティ見納めに待った!」でこの違法性について記事があるので一読をお勧めする。

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東京新聞は、組織委員会のオリンピック関連商標の権利がIOCへ「無償譲渡」されたという事実関係を特許庁の記録に照らして確認し、それが商標法では認められていない特定承継であるのであれば、違法な譲渡の可能性がある旨を報道しなければならないだろう。もうすぐ見納め!?悲しいな、などと読者と共に言っている場合ではないのである。大会組織委員会からIOCと国際パラリンピック委員会(IPC)に「無償譲渡」はできない、と書くべきである。

連日報道されている大会組織委員会元理事とスポンサー企業との間での受託収賄・贈賄問題についても、スポンサー契約のうち、公益著名商標を客体とした第三者への使用許諾は商標法で禁じられており(商標法改正前)、法改正前の契約行為の基づくスポンサー企業の使用はゆえに商標権侵害行為となる(大会組織委員会はスポンサー企業に自らの商標権について侵害行為をさせていたことになる)。契約当事者間で、差止請求権等禁止権の不行使契約等を結ぶことにより実質的に使用権を許諾したかのような状態にもできるが、公序良俗の観点から問題がある。公益性を担保とするオリンピック関連商標ゆえ、このような私人間の私益に係る合意はなおさら相応しくない。況してや一般市民によるオリンピック関連商標の侵害行為に対しては、大会組織委員会は法的措置も含め厳しく対応するという(アンブッシュマーケティング対策)のだから、保護法益の均衡という視点からもこのような身内(スポンサー企業)の侵害行為を黙認することは到底許されることではない。

商品化権などと称して、実質サブライセンス(使用許諾を受けたライセンシーがさらに別の人に再許諾)まで行われていたようだが、商標法の保護範囲ではない。

また、IOCと東京都およびJOCとの間での開催都市契約ならびにIOCとトヨタなどとの間のパートナーシップ契約に至っては、IOCは日本の法律では権利能力なき社団であり(法人格を有していない)、その場合、IOCはそもそも契約当事者足り得ず、それら契約は無効である。

事程左様に、東京オリンピックでは、アスリート以外の利害関係者たち(IOCファミリー)は違法・脱法行為を公然且つ大規模に行っているのである。

(おわり)

関連記事:「IOC登録商標『五輪』無効審判関連動画(審決:請求不成立)

追伸:高橋元大会組織委員会理事が自ら利害関係のあるコモンズ2にオリンピック関連商標の使用権許諾を与え、見返りにリベートを受け取っていたと報じられている。コモンズ2は同商標を付したマスクをオリンピック公式グッズとして販売していた。オリンピック関連商標は公益著名商標であり、商標法改正後は第三者に商標権者(=公益法人)は使用許諾可能であるが、そのライセンス料(=協賛金)は公益目的事業に用いなければならない。高橋元理事はコモンズ2から裏金をコンサルタント料名目で振り込んでもらっていた(自らの懐に入れていた)ことになり、公益著名商標の使用許諾が私益に供していたということになる同理事個人ばかりではなく、その商標の管理義務がある大会組織委員会の責任(商標法上の公序良俗違反)が問われるのは当然である。商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ない。

記事(出典):
「オリ・パラ汚職」高橋容疑者の「五輪グッズ利権」逮捕された後輩にライセンスを与え「公式マスク」販売


posted by ihagee at 02:43| 東京オリンピック

2022年09月06日

IOC登録商標『五輪』無効審判関連動画(審決:請求不成立)



「IOCを相手取った」IOC登録商標『五輪』無効審判については、同無効審判の請求人でもある三木義一氏(弁護士、前青山学院大学学長)および柴大介弁理士によるビデオ講座(YouTubeチャンネル『MIKI 庶民大学』の動画)を本稿で紹介している。

その最新動画(公序良俗違反「IOCには「主体に主体に着目した公序良俗違反」が適用されるべきである」)は以下マップから視聴可能:

スクリーンショット 2022-05-31 2.49.19.png


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IOCは自らが表示主体となる標章及び商標の管理及び権利行使を適切に行っておらず、請求人を含む我が国における公共性と公益性を損ない、請求人を含む我が国の需要者が不測の不利益を被ることになるため、IOCには「主体に着目した公序良俗違反」が適用されるべきである。無効理由4である商標法第4条第1項第7号(公序良俗)での争点は以下:

・ 『五輪』が公有の標章・商標である
・ IOCの4条2項登録商標の違法ライセンス活動
・ IOCの違法ライセンス活動による国際信義の毀損
・ IOCの非営利公益性の欠如
・ 悪意の商標登録出願

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『五輪』無効審判は審決が出された。審決は「原告の請求は成り立たない」とし、IOCの登録商標「五輪」は維持される結果となり、審決を不服とする訴訟が知的財産高等裁判所(知財高裁)に提起された。

事件番号:令和4年(行ケ)第10065号
担当部署:知的財産高等裁判所第1部

詳しくは『MIKI 庶民大学』の動画「IOC五輪登録商標・舞台は知財高裁へ」で視聴賜りたい。

・ 請求人の負け
・ 特許庁は法律論に噛み合った議論を一切せず原告の無効理由を全て退けた
・ 審決の内容は空疎(請求人は負けた気がしない)
・ 知財高裁に不服申立(審決取消訴訟提起)
・ 知財高裁は特許庁が退けた無効理由を全て再審理する
・ 審決取消訴訟の主たる争点は公序良俗違反
  (非営利公益性の欠如・違法ライセンスが認定される等で)
・ 訴訟に持ち込まれたことはIOCにとってリスクが高い

要するに、特許庁は法律論に噛み合った議論をせず(できず)上級審(知財高裁)に議論を丸投げしたことになる。その丸投げはむしろIOCとは何者であるのか?(権利能力および非営利公益性の法的根拠)、何者であるかが、権利能力なき社団に過ぎないと認定された場合、そのIOCを主体とする開催都市契約およびライセンス契約は無効(違法ライセンスの認定)といった問題が上級審にIOC共々引き摺り出されることになる。その審理には無効審決の内容からしてIOCに与していると疑われる特許庁は存在しない。

判決如何では国際信義が問われ、今後日本で今まで通りのビジネスモデルでオリンピックを開催することが不可能となるゆえに、IOCにとってリスクが高い訴訟となる。IOCおよびその事業を法的に保証している(政府保証)日本政府にとっても信義に関わる事件となる。

証拠の収集、違反事実の確定や争点整理が容易な行政庁(特許庁)下の商標法違反を理由とする無効審判を入り口に、その審決を不服とする審決取消訴訟(知財高裁)に持ち込むことは、国際信義や違法ライセンスといった民法など一般法での違反まで争うことになるから、原告からすればまさに瓢箪から駒ならぬ奇貨、被告=IOCからすれば、蟻の一穴天下の破れになりかねない。

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上述の審決取消訴訟とあたかも軌を一にするかに明るみに出た、大会組織委員会元理事とスポンサー企業との間の受託収賄事件は、審決取消訴訟での裁判官の心証形成に於いて被告に不利に働くことは想像に難くない。また、宗教法人として求められる公益活動が特定の政治家および政党の活動に専ら利し、また霊感商法など悪徳な搾取事業に於いて反社会性が浮彫りとなった旧統一教会問題については、その法人格すら持たず大々的に商標法に違反するライセンス事業を行ってきたIOCと、公序良俗に於いて相応する点がある。審決取消訴訟の主たる争点は公序良俗違反であるから、新聞など報道メディアにとって旧統一教会問題は一般大衆にIOCの問題を提起をし易い背景であるとも言える。

大手新聞各社は先般のオリンピックライセンス事業ではその名を連ねてスポンサーとなり、IOCファミリーの違法ライセンスの先棒を担いでいたわけである。換言すれば、社会の公器たる新聞が商標法の予定する秩序を乱す行為に加担したということだ。公序良俗違反を問う審決取消訴訟について、猛省と贖罪の意味から積極的に報道すべき立場にある。

また、「五輪」なる日本語文字文化をその文化圏にないIOCに収奪されたことについて、日本ペンクラブに意見を求めたが今に至っても何のリアクションもない。(拙稿「IOC登録商標『五輪』無効審判での無効理由を理解する」)。言論・表現の自由を掲げる資格が果たしてあるのか日本ペンクラブは自問すべきである。

(おわり)
posted by ihagee at 03:47| 東京オリンピック