2022年09月26日

大会ブランド保護基準は「定型約款」たり得るのか?




権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。(民法第1条第2項・信義則)


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大会組織委員会は、オリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムならびにライセンシングプログラムで、それらプログラムに参加する企業との間で契約を取り交わしている。

それら契約書の内容がいかなるものか、契約書の事例は公開されていないが、契約企業のプレスリリース(日本語・英語)で契約の概要を知ることはできる。

株式会社 AOKIホールディングスの例(東京2020オフィシャルサポーター Tier 3):
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(同社ウエブサイトより)

スクリーンショット 2022-09-26 7.30.20.png

(同社英文ウエブサイトより)

契約内容として「呼称やマークなどを使用し、/ using official designations, trademarks and services」となっている。AOKI以外のスポンサー企業のプレスリリース(日本語・英語)でも概ね同じ内容である(大会組織委員会側の用意したテンプレートを用いているのであろう)。日本語の「呼称やマーク」にせよ英文での「official designations, trademarks and services」にせよそのままでは意味の上で多義的且つ拡張性がある言葉である。尚、trademarks and servicesは、商品に使用するtrademarksとサービス(役務)に使用するservice marksを意味するものと思われる。designationsは「識別表示」と訳すべきかもしれないが、その言葉の定義なり具体的な「マーク」などはおそらく契約書に記載されていないものと思われる。

スポーツ関係者間で、約款による契約が行われている。このような約款については民法548条の2第1項において定型約款として定義され、民法548条の2から548条の4までで規制されている。(「標準テキスト スポーツ法学 第3版」日本スポーツ法学会 (監修)から)


公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下「組織委員会」という。)は、平成28年4月25日付けで大会エンブレムを公表しました(別紙参照)。これに伴い、大会エンブレムの使用については、組織委員会が作成した「BrandProtection 大会ブランド保護基準」に基づき、次のとおり取り扱うこととなっています。(東京都中央区「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会エンブレムの取扱いについて・資料3」から)


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1. 定型約款


大会組織委員会は、定型約款(民法第548条の2)を契約相手と「みなし合意」の上、契約の内容に代えている可能性がある。

定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の 者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。 )があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。(民法第548条の2)


「大会ブランド保護基準」および「東京 2020 参画プログラムマーク等取扱い基準」が定型約款(民法第548条の2)と目される。

大会ブランド保護基準.pdf
東京 2020 参画プログラムマーク等取扱い基準.pdf

ちなみに「東京 2020 参画プログラムマーク等取扱い基準」では、東京 2020 公認マーク及び東京 2020 公認プログラムでの名称「マーク」および「名称=正式名称・略称・呼称」の使用が認められる組織/団体として、開催都市(東京都・都内区市町村)、地方自治体、公益法人、大会放送権者などが記載されている。これらはオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムならびにライセンシングプログラムの枠外での包括的な使用許諾である。

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2. 大会ブランド保護基準を定型約款とした場合の問題点


2-1. 他人の商標

「大会ブランド保護基準」には「4. オリンピック・パラリンピックに関する主な知的財産」に具体的な例示がある。

例示1.png

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さらに、「5. 法的保護」として以下記載がある。
オリンピック・パラリンピックに関する知的財産とイメージは、日本国内では、「商標法」、「不正競争防止法」、「著作権法」等により保護されています。


「4. オリンピック・パラリンピックに関する主な知的財産」の具体的な例示(上掲)にあるように、IOCのオリンピック・シンボル、JOCのオリンピック・エンブレム、IPCのパラリンピック・シンボル、JPCのパラリンピック・エンブレムなど、大会組織委員会とは他人(=IOC, JOC, IPC, JPC)の商標まで記載されている。

2-2. 契約は信義則違反(民法第1条第2項)

公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク(・・・)契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)


東京2020マーケティングでは、日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会を「東京2020」という)に移管し、東京2020が東京2020オリンピック大会の権利と共に販売することになります。(「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」より)


などと記載しようと、IOC、JOC、IPC, JPCの所有する商標権の通常使用権許諾を、それら商標権者とは他人の大会組織委員会が行うことはできない。つまり、それらの商標はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムならびにライセンシングプログラムで、「商品に使用して製造及び販売する」契約の客体となり得ないのである。

オリンピック・パラリンピックに関する知的財産とイメージは、日本国内では、「商標法」、「不正競争防止法」、「著作権法」等により保護されています。

と、ブランド保護基準の「5. 法的保護」で言いながら、その商標法に違反して他人の商標の使用許諾を大会組織委員会が行っているということである。

つまり、これらの点に於いて、先のブログ記事(東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点)でも縷々述べたように、もし、「大会ブランド保護基準」の記載を民法第548条の2に定める定型約款とし、個別契約の内容に代えているとするのであれば、そのような契約は信義則違反(民法第1条第2項)に該当する可能性がある。

IOCのオリンピック・シンボル、JOCのオリンピック・エンブレム、IPCのパラリンピック・シンボル、JPCのパラリンピック・エンブレムなど、大会組織委員会の所有する以外の商標まで「その内容の全部又は一部が画一的である」かに記載することは、その内容を約款として大会組織委員会と契約したライセンシーは、他人の商標までも使用することになり(権利侵害状態に置かれ)、公序良俗や信義則、権利濫用の法理に照らすと、契約自体が無効となる可能性がある。

2-3. 暗黙の使用許諾(禁止権の不行使)の問題点

そのような権利侵害に対してIOC, JOC, IPC, JPCが禁止権の不行使を認めたとしても、アンブッシュ・マーケティング対策での強力な禁止権の行使と比較すると、保護法益に於いて著しく不均衡が生じることであり、身内(スポンサー企業)の侵害行為を黙認することは到底許されることではない。

当事者同士が了解しているのだから・納得づくだから」と思う向きは多いだろう。しかし、もしそのような「みなし合意」があるのであれば、尚更のこと大会組織委員会とその使用許諾に関して契約した者が大会組織委員会の商標を使用する際、IOC, JOC, IPC, JPCがそれぞれが所有するオリンピック・パラリンピック関連商標について併せて商標的使用を行ったとしても、IOC, JOC, IPC, JPCは禁止権は行使しない旨を、定型約款に記載しなければならない

5. 法的保護
商標法
商標権侵害の禁止(第 25 条、第 37 条、第 36 条参照)
商標法上、指定商品もしくは指定役務と同一または類似の商品もしくは役務について、登録商標と同一または類似の商標を使用する行為は、商標権の侵害行為に該当し、侵害の差止請求および損害賠償請求の対象となります。なお、オリンピックシンボル、パラリンピックシンボル、大会エンブレム、JOC 第 2 エンブレム、JOC スローガン等の商標は、IOC 、IPC、 JOC、JPC または組織委員会 により、広汎な指定商品もしくは指定役務において商標登録されております。(大会ブランド保護基準より)


このようにいかなる場合も禁止権を行使すると言明している。

冨澤美加氏(商標制度企画室長)の重要発言:
「権利化後は制限がございまして、公益著名商標につきましては、移転と専用使用権の設定及び通常使用権の許諾につきまして制限を設けられてございます。[…] 公益著名商標を第三者にライセンスしても商標法上の効力は発生いたしませんが、やむを得ず当事者間で差止請求権の不行使契約等を結ぶことにより、実質的に使用権を許諾したかのような状態とするケースがございますが、これには問題があるのではないかと懸念する声がございます。このような懸念がありますことから、公益団体等が商標登録出願自体を躊躇する。」 (産業構造審議会知的財産分科会第4回商標制度小委員会議事録から


このような問題点を払拭するために、公益著名商標であっても従来商標法が認めていなかった第三者への通常使用権許諾が可能に法改正(商標法第31条第1項但書削除)をしたのであるから、IOC 、IPC、 JOC、JPCのそれぞれが所有するオリンピック・パラリンピック関連商標(公益著名商標)については、各々が契約を以て、通常使用権を許諾すれば良い話なのである。尤も、法改正前にほぼ全てのライセンシング契約は成されており、その時点での通常使用権許諾契約はゆえに全て違法である(法改正を以て契約時に遡及して合法とはならない=商標法第31条第1項但書は強行規定ゆえ)。その意味で、違法な契約に基づきライセンシーに商標を使用させたことは、ライセンシーを商標権侵害状態に置いたことにもなる。

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3. ジョイント・マーケティングと商標権


3-1. 「使用権の移管」の意味

日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会を「東京2020」という)に移管し(「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」より)


オリンピックマーケティングのスポンサーシップ構造は国際オリンピック委員会(IOC)が管理するワールドワイドオリンピックパートナーを頂点とし、その下に各国・地域のオリンピック委員会(NOC)のスポンサーや大会組織委員会(OCOG)のスポンサーが位置付けられます。また、大会の開催国では、オリンピック競技大会を成功に導くために、NOCとOCOGが統合した1つのマーケティング、すなわち「ジョイント・マーケティング」と呼ばれるOCOGによるスポンサーシッププログラムを構築することが義務付けられています。そのため、東京2020マーケティングでは、日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(=公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)に移管し、東京2020大会の権利と共に販売します。(「スポンサーシップについて」東京都オリンピック・パラリンピック準備局サイトから)


ジョイント・マーケティングが大会組織委員会およびJOCならびに東京都が共同事業体(それ自体は任意団体)となって、その事業体の代表として大会組織委員会が、オリンピック資産(商標権など知的財産権)を一元管理し、JOCの所有する商標の使用権許諾契約に於いて契約当事者たり得る、ということなのだろうか?

「日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(=公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会)に移管し」の「使用権の移管」について定義が示されておらず、その言葉のままでは商標法に照らしても意味を成さない。ちなみに「移管」は管轄ごとに管理されているものの他の管轄に移すことを言う。他人の財産や施設を管理する権利または権限が管理権であるから、大会組織委員会が他人であるJOCのライセンシングを管理する権利または権限を有する意味であっても、大会組織委員会が他人であるJOCの商標権のライセンシングを契約主体となって自ら行うことはできない。

また、「使用権の移管」が商標権の移転を意味するものであっても、公益著名商標に係る権利の移転は事業ごとの一般承継以外は認められておらず、JOCの公益事業を丸ごとその商標と共に大会組織委員会に移管する筈もなく、またその事実もない。

3-2. ジョイント・マーケティングで用いる商標とは

したがって、ジョイント・マーケティングで用いる商標であれば、その目的で然るべく登録出願されていなければならないという理屈になる。拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?、で述べたように、その目的であれば団体商標であったり、大会組織委員会およびJOCならびにIOCが各々権利持分を記載して共同出願するなり、といったことだが、それはそれとして現実的に不可能である(理由は拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?で詳述)。

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4. ライセンシーを商標権侵害状態に置くこと


4-1. 大会組織委員会の契約行為は詐欺に当たる

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に記載のライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である株式会社丸眞は、その製造販売した商品(オリンピック公式グッズ:ウォッシュタオル)にJOCの「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレムを使用しているが、使用許諾に係る大会組織委員会との直接契約で上述の「その内容の全部又は一部が画一的である」約款が用いられているのであれば、丸眞は他人(JOC)の商標を不法に使用していることになる(商標権侵害状態に置かれている)。このような状態に置いた大会組織委員会の契約行為は詐欺を問われることである。

使用態様:
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(おわり)
posted by ihagee at 07:14| 東京オリンピック

2022年09月25日

東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点


東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会では、今後さまざまなライセンシーパートナーと提携し、大会エンブレムやJOC/JPCのエンブレムを使用した公式ライセンス商品を展開する。東京2020ライセンシング事務局では、公式ライセンス商品の製造・販売を希望し、大会を共に盛り上げてくれる一般企業のライセンシーを募集中だ。(2016年5月26日付電通報から)


東京2020ライセンシングプログラムとは、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)が保有する東京2020大会に関するマーク公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク、並びに、公益財団法人日本障がい者スポーツ協会日本パラリンピック委員会(以下、JPCという)が保有するJPC及びパラリンピック日本代表選手団に関するマークを契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から・下線:筆者以下同じ)


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通常のオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラム(それら自体もライセンシングプログラム)の枠外にさらにライセンシングプログラムを設け、大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾(「商品化権」の使用許諾と言い換え)に係るライセンス契約を大会組織委員会が行っていたということである。その契約にはJOCの保有するマーク(商標)の使用許諾も含まれている。

東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料にそのライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」たる一般企業の一覧がある。「ライセンシー」として高橋元組織委理事の収賄容疑で名前の上がった「コモンズ2」や「サン・アロー」が記載されている。

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ライセンシーである「コモンズ2」は株式会社コモンズの関連会社である疑いがあり、高橋治之組織委理事が株式会社コモンズの代表取締役会長である旨が東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に記載されている。

大会組織委員会の理事を含む役員職は令和三年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会特別措置法で「みなし公務員」と定められている。みなし公務員とは、公務員ではないが当該法人の設立根拠法において、「刑法、その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」旨の規定(みなし公務員規定)を持ち、罰則について刑法が適用されるものをいう。

つまり、大会組織委員会の理事職は「みなし公務員」であり、公務員法が適用される(ただし、みなし公務員なので服務義務等、公務員法違反行為があっても服務・懲戒制度=人事院勧告制度の適用外)。

職員は、営利を目的とする私企業(以下「営利企業」という。)を営むことを目的とする会社その他の団体の役員等の職を兼ね、又は自ら営利企業を営んではならない。(私企業からの隔離・国家公務員法第103条)


高橋元理事は「自分はみなし公務員だとは思わなかった」と言っている。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「スポンサー」と記載のある「コモンズ2」が代表取締役会長として高橋治之組織委理事の名のある株式会社コモンズと関連しているか否かは、大会組織委員会が事前に精査すべきことであり(「コモンズ」と共通する社名だけでも関連性を疑うべきである)、大会組織委員会のコンプライアンス欠如の指摘は免れない。

また、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に東京 2020 ゴールドパートナーとして記載のある「アシックス」はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムの下、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品として大会組織委員会の保有する商標(オリンピック・エンブレム)を付したマスクを製造販売していた。

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(アシックス・東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品)

ライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である「コモンズ2」もマスクを製造販売している。

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(コモンズ2・東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会公式ライセンス商品)

東京2020スポンサーのカテゴリーの商品は、東京2020スポンサーにライセンシングの優先権があります。このため、同カテゴリーの商品、スポンサーシップセールスに関連したカテゴリーに関しては、許諾が制限される場合があります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)


ライセンシングの優先権はアシックスにあり、アシックスと同様のマスクの製造販売をコモンズ2に認めたことは、上位であるべきスポンサーシッププログラムを大会組織委員会自身があからさまに侵したことになる。

公務員が、その職務に関し、賄賂を収受し、又はその要求若しくは約束をしたときは、五年以下の懲役に処する。 この場合において、請託を受けたときは、七年以下の懲役に処する。(刑法197条1項前段 収賄)


収賄容疑以前に、国家公務員法第103条に違反し且つ東京2020ライセンシングプログラムの内規に反したカテゴリー設定であると指摘できる。

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商標法の観点から「ライセンシー」の問題点は以下指摘できる。

1. 大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾 、およびその旨の契約を、「商品化権」の許諾およびその旨の契約として行うことによる信義則違反(民法第1条第2項)

「商品化権」がキャラクタービジネス(商品化)から派生した業界概念であり、実定法に基づく権利ではないのでそれ自体に保護法益が存在しない。キャラクターが商品化される場合、そのキャラクターの著作物性に著作権法上の保護法益があり、キャラクターに付された商標に商標法上の保護法益があり、さらにキャラクターが商品等表示としての機能を有し、それが著名である場合は不正競争防止法上の保護法益がある。

「商品化権」の許諾およびその旨の契約に基づき、キャラクターをライセンシーが商品化した場合、著作権法や商標法の法理を示さない限り、保護法益はないということになる。したがって、大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用を許諾するのであれば、契約上、商標法上の保護法益を明示しなければならない。

大会組織委員会が保有するマーク(商標)に即して言えば、その通常使用権許諾契約は、
登録商標・使用商標の表示:大会組織委員会が所有する商標登録番号6008759(オリンピック・エンブレム)
使用権の許諾内容および範囲:通常使用権(どの地域 /どのような商品・サービスに商標を使用してよいか)
商標使用料(ロイヤリティ)に関する事項:計算方法(出来高払方式・固定額払方式・それらを組み合わせた方式の別)、他に商標使用に当たっての遵守事項、使用許諾期間など、によって構成されていなければならない。

それらを表示した通常使用権許諾契約の体裁でなければ、少なくとも大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼす情報が提供されていないことになり、大会組織委員会は提供すべき信義則上の説明義務の違反に当たる。

権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。(民法第1条第2項・信義則)


さらに、そのロイヤリティの計算方式に於いて、大会組織委員会は公式ライセンス商品の製造数をロイヤリティの対象とし、事前に事業者に製造数に応じた正規品の証明となる証紙(シール)の買取(メーカー希望小売価格の5%または7%を掛けた額)を以てロイヤリティを得ている。このロイヤリティの計算方法は、商標使用料(ロイヤリティ)として一般的な商品の総売上高に所定の比率を乗じた売上高形式や、契約で取り決めた一定の金額を毎月のロイヤリティとする固定額形式と異なり、売れ残りの商品を事業者に買い取らせることであり(事業者にとって不測の不利益が発生する)、事業者が商品を抱える限りバーゲンセールを行うか、使用許諾期間を超過すれば契約上廃棄せざるを得ないという事業者にとって不利益となる計算方式である(事業者がさらに小売店に商品を卸した場合はその小売店での再販は認められる)。相手方に対し不測の不利益を与えてはならない信義則上の義務を大会組織委員会はロイヤリティの計算方式に於いて放棄した契約内容であり、民法第1条第2項の信義則に問われることである。

事程左様に商品化権という大雑把な括りで大会組織委員会はライセンシングを行っている。したがって、契約の内容を事細かに記述した膨大な書類を契約相手ごと取捨選択して示すようなことはせず、定型約款(民法第548条の2)を契約の内容に代えている可能性がある。

定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の 者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。
(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。 )があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。
2 前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。(民法第548条の2)


使用態様ごとに、個別具体的に内容をその契約に於いて表示しなくてはならない商標の使用許諾契約に、「その内容の全部又は一部が画一的である」ことを要件とする定型約款をその内容に代えることはできない。かと言って、所詮大雑把な商品化権の許諾契約であるから契約案件ごとに個別具体的に必要な内容を記載することはあり得ない。要するに、「商品化権」の許諾およびその旨の契約は、その契約の内実たる商標権にみれば、信義則に反し無効とみなされる契約である可能性が高い。

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2. 「ライセンシー」は商標法が禁じる「サブライセンシー」となる点。

拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?でも詳述した通り、大会組織委員会の所有する商標=オリンピック・エンブレムは自他識別機能および出所表示機能に於いて問題のある結合商標であり、その構成要素の一つであるオリンピック・シンボルに着目すると、オリンピック・シンボルの図形要素に係る商標はそれ自体単独で商標として自他識別機能を有するわけだから、オリンピック・エンブレムの通常使用権を許諾すると、そのオリンピック・シンボルの図形要素に係る商標(IOCが商標権者)は再許諾=サブライセンス(IOC→大会組織委員会→ライセンシー)したと同じことになる。

適法な通常使用権者であっても、その通常使用権について他人に通常使用権を許諾(サブライセンス)することことは認められていない。このサブライセンス問題は市区町村でもオリンピック・エンブレムが使用されている実態にも指摘可能である。

大会エンブレムは組織委員会から東京都に使用許諾され,その使用許諾に基づき東京都が各区市町村に使用許諾しており,東京都は大会エンブレムを各区市町村にサブライセンスしているように見える(実際,大会エンブレムが描かれた新宿区の広報誌が定期的に新宿区民たる筆者に届いている)。(「オリンピック関連登録商標の違法ライセンス問題の解決」パテント 2019 Vol.72 No.10より)


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3. JOCの商標権の使用許諾に係る契約を大会組織委員会が行ったこと

公益財団法人日本オリンピック委員会(以下、JOCという)が保有するJOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク(・・・)契約した商品に使用して製造及び販売するプログラムです。東京2020ライセンシング事務局が契約業務の窓口を行ない、契約はライセンシーと公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下、組織委員会という)との直接契約となります。(大会組織委員会「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」から)


著作権、商標権などをたとえ包括する商品化権の使用許諾契約であっても、JOC及びオリンピック日本代表選手団に関するマーク、つまりそのマークに係る商標権の通常使用権許諾を、その商標権者(JOC)とは他人の大会組織委員会が行うことはできない。

東京2020マーケティングでは、日本オリンピック委員会(JOC)のマーケティング資産(ロゴや呼称等)の使用権を東京2020(公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会を「東京2020」という)に移管し、東京2020が東京2020オリンピック大会の権利と共に販売することになります。(「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」より)


要するに、大会組織委員会に移管したJOCの商標(たとえば、JOC第二エンブレムやがんばれ!ニッポン!)の使用権を、大会組織委員会は第三者に使用許諾するということである。

商標法に照らすと「使用権の移管」が何を意味するのか理解できない。たとえ、JOCの商標の通常使用権を大会組織委員会が有し、さらに第三者に大会組織委員会が許諾するという意味であれば、上述の2. 「ライセンシー」は商標法が禁じる「サブライセンシー」となる。また、商標権をJOCから大会組織委員会に移転することを意味するのであっても、商標法では公益著名商標については、事業ごとの移転(一般承継)しか認められず、JOCの公益事業を丸ごとその商標と共に大会組織委員会に移転することは考えられない。事実、JOC第二エンブレムについて特許情報プラットフォーム J-Plat Pat上で該当する登録情報(経過記録)を見る限り、そのような移転の記録は存在しない。

また、JOC第二エンブレムは、区分ごとに商標登録(42の商標登録)されている。

JOC 第二エンブレム(図形)(登録例:JOC第二エンブレム.pdf
JOC がんばれ!ニッポン!(文字)登録例:JOCがんばれ!ニッポン!.pdf

その使用許諾にあたっては、使用区分とそれに相応する商標登録番号が登録商標・使用商標の表示として、使用許諾契約書に記載されていなければならない。おそらく契約書にそのような表示はないだろう。また、たとえ契約内容を別に定型約款に定め契約当事者同士が合意したことを前提にしても、定型約款が契約の内容として認められるのは全部又は一部が画一的な内容であることとされている(民法第548条の2)のだから、個別具体的な内容をその契約に於いて表示しなくてはならない商標の使用許諾契約に定型約款を当てることはできない。

上述の1. 大会組織委員会が保有するマーク(商標)の使用許諾 、およびその旨の契約を、「商品化権」の許諾およびその旨の契約として行うことによる信義則違反(民法第1条第2項)に当たる。

使用態様:
スクリーンショット 2022-09-25 8.42.18.png

ライセンシー:株式会社丸眞
オリンピック公式グッズ(ウォッシュタオル)
使用商標:JOCの「がんばれ!ニッポン!」および第二エンブレム

株式会社丸眞は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料にそのライセンシングプログラム枠での「ライセンシー」である。

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スポンサーシップの最上位から最底辺まで貫くオリンピック・シンボル(=IOC)という横串こそが違法性を象徴(シンボル)していると言え(拙稿:この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?)、商品化権の許諾という民法の契約上の信義則に反する商慣行が、本来ならば契約上、明示されるべき商標法などの権利法益を闇雲にし、商標法では明らかに違法・脱法な行為をあたかも合法かに洗浄化(ロンダリング)する仕組みと言えよう。

大会ブランド保護基準は「定型約款」たり得るのか?” は民法上の契約に係る問いである。大会組織委員会のライセンシングの本問はここにあるのかもしれない。

(おわり)

追記:
オリンピックのスポンサーシッププログラムの最上位はIOCと直接契約する世界的に名だたる大企業であり(トヨタなど)、その下の東京 2020オフィシャルサポーター(Tier 1-3)もブランドイメージが確立している誰もがその名を知る企業が連なっている。

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このピラミッドに位置する企業はそれぞれ商品やサービスで確固としたブランドイメージがあるから、大会組織委員会に贈賄などでスポンサーとなれるよう口利きをするといったイメージを毀損するようなリスクは負わないし、そもそもスポンサーとなるだけの協賛金の支出など資力に事欠くこともない。Tier 3のスポンサーシップを得るために高橋元理事に賄賂を以て口利きを図ったAOKIは結果として大きなリスクを負ったことになる。
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さて、このヒエラルキーにはない、まさにピラミッドの床下に世間ではあまり名前が知られていない会社がライセンシングプログラム枠でライセンシーとして存在している。サン・アローやコモンズ2がそれらである。公式ライセンス商品の製造・販売をこれらの会社が行ったとしても、パッケージに小さくその事業者名が記載されるだけで商品そのものに名はない。パーケージを捨ててしまえば、誰が製造・販売した商品なのかもわからなくなる。商品そのものに事業者なりのブランドイメージがない。また、ピラミッドに位置できるような資金もない。そういった床下のいくつかの事業者に組織委員会の利権の温床があるということだ。スポンサーではないがライセンシーという按配は世間に目立たずに懐に入る程度の札束でそっと口を利き合うには都合が良いのである。

再追記:
東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点と表題にしているが、この問題点はオリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラムの下での「TOKYO 2020 スポンサー(Tier 1-3)」にもそのまま当て嵌まる。
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要するに、オリンピック関連商標を使用することによるスポンサーおよびライセンシーのライセンス事業について、「知的財産の排他的商業的利用権が与えられて」いるとか、商品化権が許諾されている、といった契約は多義的な意味を含むゆえに、商標法を前提とした一義的な権利義務関係を明示しない契約である可能性が極めて高く、その契約に基づく事業には商標法の保護法益・権利性がなく、不法行為の効果をスポンサーおよびライセンシーに享受させる虞があるということだ(スポンサーおよびライセンシーのライセンス事業を商標権侵害状態に置くこと)。




posted by ihagee at 03:39| 東京オリンピック

2022年09月24日

組織委はアンブッシュ・マーケティングを自ら行った!



「ミライトワ」受注先(サン・アロー)が800万円送金 組織委元理事側に渡った疑いに関連した、商標法上の重大な問題点については先のブログ記事(この商標よ〜く考えると、おかしくないですか?)にて触れた通りである。

さらに、「サン・アロー」はスポンサーではなく、オリンピックのライセンス商品を販売していた会社であるとの報道までされている。

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公益財団法人 東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の「大会ブランド保護基準」では以下の記載がある。

3. オリンピック関連スポンサー
オリンピック関連スポンサーには、IOC のスポンサーであるワールドワイドオリンピックパートナー(いわゆる TOP パートナー)と組織委員会のスポンサーであるローカルパートナーがあり、IOC または組織委員会と合意したカテゴリー(業種)において、オリンピックに関する知的財産の排他的な商業的利用権が与えられています。(下線は筆者)


要するにオリンピック関連スポンサー企業にのみ「知的財産の排他的商業的利用権が与えられて」いるということだ。

「利用権」とは知的財産のうち、著作物(キャラクターなど)の利用許諾に関する用語であって、商標では「使用権」であり、知的財産をオリンピック関連商標とすると正しくは「オリンピック関連商標の商標的使用を許諾している」となる。許諾しているのは商標権者(大会組織委員会)自身も使用可能な「通常使用権」であるから、独占排他権ではない。ゆえに、「排他的」の意味は、オリンピック・パラリンピック関連スポンサーの合法的なマーケティング活動を妨害する「アンブッシュ・マーケティング」を排除する権利=禁止権、の意味である。

平たく言えば、スポンサー企業でない者がオリンピック関連商標の商標的使用を行った場合は商標権侵害となり、商標権者である大会組織委員会は使用差止請求等、法的措置を採るということだ(アンブッシュ・マーケティング対策)。

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アンブッシュ・マーケティング対策がいかに重要であるかは大会ブランド保護基準に以下の記載がある。

アンブッシュ・マーケティングとは、故意であるか否かを問わず、団体や個人が、権利者である IOC や IPC、組織委員会の許諾無しにオリンピック・パラリンピックに関する知的財産を使用したり、オリンピック・パラリンピックのイメージを流用することを指します。オリンピック・パラリンピックムーブメントに公式に関与するように見せかけ、そのことによりマーケティングパートナーの合法的なマーケティング活動を妨害し、かつオリンピック・パラリンピックのブランドを損なわせることになります。オリンピック・パラリンピックマーケティングの根本は、オリンピック・ パラリンピックに関する「知的財産」をスポンサーシップ、ライセンシング等の権利として、カテゴリーごとに独占的に企業等に対し販売するものです。したがって、「知的財産」の保護が確立されなくてはマーケティングそのものが成立しません。大会の運営経費の大部分をマーケティングによる財源調達に依存している状況で、「アンチ・アンブッシュ」はオリンピック・パラリンピックの知的財産を守るだけではなく、マーケティング活動の一部として「絶対に不可欠」な要素となってきました。言い換えるなら、万全な「アンチ・アンブッシュ」のための方策が実施されなくては、オリンピック・パラリンピックマーケティングは成立しないのです。


スポンサーシップについてはさらに、大会組織委員会等が作成した「オリンピック・パラリンピックマーケティングアンブッシュ防止ガイドライン」に以下記述がある。

もし、パートナー以外の企業や組織がその権利を侵害することになると、このスポンサーシッププログラム構造が崩壊し、東京2020大会の運営やアスリートの育成・強化が困難になる可能性があります。


スポンサーでない企業のオリンピック・パラリンピックの知的財産の使用は侵害である、とはっきり述べている。ゆえに、侵害行為に対しては上述の通り、大会組織委員会は排除する権利=禁止権を行使するとなる。

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「サン・アロー」がスポンサー企業でないことは「大会ブランド保護基準」の「3. オリンピック関連スポンサー」一覧を見れば一目瞭然であり、大会組織委員会自身が認知しているにも関わらず、「サン・アロー」の製造販売した「ミライトワ」等のぬいぐるみ商品には、公式ライセンス商品である旨の大会組織委員会の下げ札が付いている。

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マスコット(著作物)に係るキャラクタービジネス(商品化)では「商品化権」というそのキャラクターに関する著作権法、意匠法、商標法、不正競争防止法、民法などの権利を一括りに総称した業界概念が存在する。しかし「商品化権」という名の権利が法律上存在するわけではない。

知的財産の排他的な商業的利用権も、マスコットなどキャラクター(著作物)について商品化することに於いては「商品化権」と言い換えられている。

拙稿(「商品化権」ですから・・!?)でも触れたが、事業者に商品化権を許諾するとは、表向きマスコット(著作物)の商品化を事業者に認めることであっても、その商品化に於いては知的財産権(例えば、オリンピック・エンブレム=商標権)の使用を前提としているスポンサー企業以外のオリンピック資産(知的財産)の商業的利用(使用)は侵害行為であるとしたアンブッシュ・マーケティングも、商標法では禁じられている通常使用権の再許諾も「商品化権を許諾する」と言うことで、スポンサー企業以外の者に対しても実質可能にしてしまう脱法的トリックと言えるサン・アローの件はまさにこれに該当する。(訂正:サン・アローはライセンシングプログラムで大会組織委員会から商品化権の許諾を受けたライセンシーである。)

スポンサー企業以外の者によるオリンピック資産(知的財産)の商業的利用(商標法の意味では商標的使用)は侵害行為であると大会組織委員会が自身のブランド保護基準で定義したアンブッシュ・マーケティングに拠れば、明らかにサン・アローによるマスコットの商品化はオリンピック・エンブレム(商標)の使用を伴い侵害行為に該当するのに、「商品化権」であればアンブッシュ(侵害)に当たらないと脱法的抜け道を大会組織委員会自身が作っているのである。(商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

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日本オリンピック委員会(JOC)は「東京2020ライセンシングプログラムのご案内」のライセンス契約の項目には以下記載がある。

契約の可否については、商品化権使用申請書をご提出頂いた後、東京2020ライセンシング事務局と組織委員会において検討し、最終判断を組織委員会が行ないます。


ここに応募し大会組織委員会によって「商品化権」を認められた者であっても、商標法に照らせば商標の使用許諾を受けた者ではないので(その旨の申請ではないため)、商品化(オリンピック・エンブレムなどオリンピック関連商標を付した商品の製造・販売)に於いてその者は商標権侵害を行うことになる。つまり、大会組織委員会は「商品化権」を以って事業者にアンブッシュ(=侵害)を行わせていることになる。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

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大会組織委員会元理事(高橋氏)の個人的な裁量で公式ライセンス商品である旨の大会組織委員会によるお墨付きの下げ札が付く筈はなく、大会組織委員会は「サン・アロー」がスポンサー企業でないことを知っていながら、「サン・アロー」に対して「ミライトワ」等、著作物の「商品化権」許諾を行い、オリンピック・エンブレムなどオリンピック関連商標を「商品化権」として使わせ、商標法に照らせば「サン・アロー」を商標権侵害状態に置いたことに他ならない。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

侵害行為(アンブッシュ)に対して禁止権を行使すべき大会組織委員会が自らその侵害をサン・アローなどスポンサー企業でない特定の事業者に唆していたとも言える

大会組織委員会はアンブッシュ・マーケティングを自ら行い、オリンピック・パラリンピックマーケティングおよびスポンサーシッププログラム構造を自ら破壊したということである。

「一個人が関与したとみられる疑惑(アダムス IOC広報部長)」などでは到底なく、理事への贈賄を伴う口利きがあろうとなかろうと、大会組織委員会は組織ぐるみで刑法上の犯罪行為(=商標権侵害)をスポンサー以外の者に唆していたと言うのが正しい(法秩序を破壊した意味で口利き=贈収賄よりも重大である)。「サン・アロー」以外にもスポンサーとして名前がない者の商品が堂々と公式ライセンス商品として販売されている。スポンサーでもない者に大会組織委員会が公式なるお墨付きを与えるには、それなりの口利きがあったと考えるのが当然である。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)


(松本徽章工業株式会社「東京2020オリンピック競技大会公式ライセンス商品」)

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上述の「商品化権」と合わせて、著作物に係る開発・販売に関するライセンスを与えることで、商標法に照らせば商標権の使用許諾を受けた者ではないのに、オリンピック・エンブレム(商標)を使用可能にする脱法的手段も存在する。


(SEGA「マリオ&ソニック AT 東京2020オリンピック」)

著作権表記:
TM IOC/TOKYO2020/USOC 36USC220506. コピーライトマーク 2019 IOC. All Rights Reserved. コピーライトマーク NINTENDO. コピーライトマークSEGA.


SEGAはIOCのライセンシーであるInternational Sports Multimediaからオリンピック公式ゲームソフトの開発・販売に関するライセンスを取得。大会組織委員会とスポンサー契約関係になく又、大会組織委員会から大会組織委員会のオリンピック・エンブレム(商標)の使用を許諾されていないのに、大会組織委員会のオリンピック・エンブレムをなぜかその「著作物」に使用している。(訂正:株式会社セガはライセンシングプログラムで大会組織委員会から「商品化権」許諾を受けたライセンシーである。)

スポンサー企業でもないNintendoは、そのキャラクター「マリオ」をSEGAの取得したライセンスにフリーライドさせるというオマケまで付いている。

ちなみに、リオ・オリンピック閉会式におけるリオから東京への引き継ぎセレモニーで安倍首相=当時、がスポンサー企業でもないNintendoのマスコット=マリオのコスプレで現れることができたのも、IOCのサブライセンシーであるSEGAのゲームソフトの一コマの実演と考えれば腑に落ちる。

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アンブッシュ・マーケティングを厳しく取り締まる立場にある大会組織委員会が、著作物に係る「商品化権」なる実定法に基づかない概念で脱法的にスポンサー企業以外の者に実質的にその知的財産を使用させていた。商標法では明らかに商標権侵害に該当する行為をそれらの者に行わせ、商標権侵害状態に置いたことは看過すべきことではない。繰り返すが、理事への贈賄を伴う口利きがあろうとなかろうと、大会組織委員会は組織ぐるみで刑法上の犯罪行為(=商標権侵害)をスポンサー以外の者に唆していたと言うのが正しい(法秩序を破壊した意味で口利き=贈収賄よりも重大である)。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

スポンサー企業以外の者のオリンピック資産の使用はアンブッシュであり侵害行為であると、大会組織委員会自身が定めているのだから、大会組織委員会が主導したスポンサー企業以外の者に対する商品化権の使用許諾は、商標権および商標(=大会組織委員会のオリンピック・エンブレム)の使用許諾の観点からすれば、大会組織委員会が自らの商標権を悪意に行使していると言える。(注:商品化権許諾によるライセンシーについては、別稿:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、参照。)

(おわり)

追記:
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会輸送連絡調整会議付属資料に「ライセンシー」という項目があり、多くの企業名と共にサン・アローが
記載されている。ちなみに高橋元組織委理事の収賄容疑で名前の上がった「コモンズ2」も「ライセンシー」となっている。また、上掲の「松本徽章工業株式会社」も「ライセンシー」である。
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商品化権許諾上の「ライセンシー」は、商標法に照らすと重大な法令違反がある。(次回記事:東京2020ライセンシングプログラム「ライセンシー」の問題点、にて詳述)

posted by ihagee at 08:01| 東京オリンピック