2021年04月30日

認識のゆがみを前提とする儀式(続き)



大相撲春場所13日目(2021年3月26日 東京・両国国技館)、三段目力士今福と響龍との取り組み。土俵際で今福が左からのすくい投げを放って勝利した。その際に響龍が頭から土俵に落ちうつぶせのまま動けなくなった。

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(スポーツニッポン新聞社記事引用)

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写真の通り、突っ伏して動かなくなった響龍を挟んで勝ち名乗りを行っている。直ちに救護すべき状況にもかかわらず何事もないかの如く取り組み進行を優先させた。

(以上、拙稿「認識のゆがみを前提とする儀式」から)

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「大相撲境川部屋の三段目力士、響龍(ひびきりゅう)の天野光稀(あまの・みつき)さんが28日午後6時20分、急性呼吸不全のため東京都内の病院で死去した。日本相撲協会が29日、発表した。28歳だった。響龍さんは、春場所13日目の取組で頭部を強打。救急搬送されて入院中だった。(日刊スポーツ 2021年4月29日付記事引用)

ある親方は、こう指摘する。「俵と土俵のちょうど間に頭から落ちた。だから頭がずれることなく、そこにはまるかたちで、相手と自分の体重がかかってしまい、首がごきっとなった。頭から落ちるケースは今までいっぱいある。土俵の真ん中なら、顔に擦り傷ができる程度で済んだかもしれない。不運が重なったのではないか(同上)」

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(記事下のトップコメント)

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「彼が土俵上で倒れているときに、行司が勝った力士への勝ち名乗りをやってた光景を思い出しただけで、非常に強い憤りを感じます。勝ち名乗りよりも救護が先じゃないの?」。

眼前に突っ伏したまま身動き一つしない人がいるのに、それを見て見ぬ振りをしてまでも勝ち名乗りを上げた。

相撲は神事だから救護措置よりも勝ち名乗りを優先せざるを得ないとか、命を落としても「因果関係はわからない(芝田山広報部長)」「不運が重なった」で済むことなのか?相撲はスポーツではなく神事なのだから、他のスポーツイベントのように(万一を想定した)一次救命措置専門の医療スタッフを土俵下に待機させる必要もないといった、「現実(リアル)を無視する心の動き=認識のゆがみ」が常に土俵上にあるのではないかと疑う。

「認識のゆがみ」はこの件に限ったことではない。

" 舞鶴での春巡業は2018年4月4日に行われ、多々見良三市長が土俵上であいさつしている最中に倒れた。まず男性スタッフ複数人が土俵にあがって市長を囲むと、その後で観客とみられる複数の女性が土俵にあがり、心臓マッサージを始めた。動画サイトにアップされた現場動画などによると、ざわつく場内に「皆様、お座りになりますようお願い致します。お座りください」というアナウンスが入った。そして、救助隊員が到着しかけると、「女性の方は土俵から降りてください。女性の方は土俵から降りてください。女性の方は土俵から降りてください。男性がお上がりください」と指示された。女性らは駆けつけた隊員らに何かを伝えて引き渡した。市長は担架で運ばれた。・・・大相撲では、「女人禁制」として土俵に女性があがることを禁じている。だが、人命がかかった状況で救命活動をした女性にこのルールを当てようとしたことには、各所で疑問の声があがっている。取材に応じた客も、「そんなこと言ってる場合じゃないだろ!」という声が客席からも聞こえたと明かす。"(JCAST ニュース 2018年4月5日付記事引用)



人命までも「女人禁制」と天秤にかけて然りとする「認識のゆがみ」が国技たる大相撲には存在する。

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現実(リアル)を無視する心の動き=認識のゆがみ」は新型コロナウイルス感染拡大下での聖火リレーにそして五輪開催にも当てはまる。「そんなこと言ってる(やってる)場合じゃないだろ!」という声が日本ばかりか世界中から沸き起こっている。

「神聖で力強く、温かい光となって日本全国をともしてほしい(橋本大会組織委員会会長)」、「コロナに打ち勝った証(菅首相)」と、安全安心をはなから決め込んでいる。感染拡大や医療崩壊のトリガーとなると国民の大半ばかりか新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身会長までもはっきりと「開催による危険性」を指摘しているが、「尾身会長の発言は承知しているが、すでに専門家の知見を伺うなど行っている・・・5者協議でも開催については合意している(橋下大会組織委会長)」。新型コロナウイルス感染症対策分科会を差し置いて尊重すべき別の専門家の知見があるかの発言には驚くばかりである。

開催中止なるB案を一切思考せず、大方が指摘する危険性を敢えて想定しようとせず、それで感染拡大に拍車がかかり、医療崩壊と命を落とす人があってもそれを「因果関係はわからない」「不運だった」と言って済ますつもりなのだろうか?国際原子力・放射線事象評価尺度(INES)で最大過酷評価「Level 7」且つ今もなお「原子力緊急事態宣言下」の原発事故でも「因果関係はわからない」とその実害を一切認めず当事者の事故責任も不問にするのであるから、「現実(リアル)を無視する心の動き=認識のゆがみ」はこの国の宿痾だが、その前提、すなわち「アンダーコントロール(安倍前首相)」が東京大会招致の決め手となった。

「日本国民の精神は賞賛の的」などとバッハIOC会長はその言葉につけ入り、あたかも相応するかに「打ち勝った証・団結の象徴(菅首相)」などと政治的な勝ち名乗りを上げる為に、五輪をやたらと神聖化し、国民の命と天秤にかけ挙句に「不運だった」と結果責任から逃げるのなら、もはや、五輪開催は犯罪行為に等しい。

「オリンピズムは、肉体と意志と知性の資質を高揚させ、均衡のとれた全人のなかにこれを結合させることを目ざす人生哲学である。(オリンピック憲章・根本原則から)」

現実(リアル)を無視する心の動き=認識のゆがみ」は到底「均衡のとれた全人」足り得ず、その根本原則において東京大会はすでに自家撞着している。否、開催都市(国家)の精神風土「現実(リアル)を無視する心の動き=認識のゆがみ」を巧みに利用し、その根本原則すら自ら蔑ろにするオリンピック自体、その歴史的使命が終わっているのである。


(おわり)

posted by ihagee at 05:48| 日記

2021年04月29日

緊急事態条項への危険な試金石



まことに十二月八日、この日をかぎりとして、
「どうなるのか、どうするのか」が、ふきとんでしまひました。われわれの思考の中から、疑問符は最早全く消えてしまひました。今はただ、一切の人間思案をすてて、神命のままに、最後まで戦ひぬくことただ一つとなったのであります。(中略)神の御命なるがゆゑに、これを畏んだわれわれの態度は絶對信順であります。挺身奉公であります。これがもし人間の命令ならば、どうしても人間對等のことでありますから、なかなか、さうはまゐりません。今更、事新しく言ふまでもないことながら、わが國が世界のどこの國と戰つても、かならず勝つといふことは、その根本に、
「大日本は神國なり」
といふ事實が儼然として存在することを、何よりも先づ銘記すべきであります。
(「必勝日本」 中山爲信著・出版者: 天理時報社; 昭和17)

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「日本の国、まさに天皇を中心としている神の国であるぞということを国民の皆さんにしっかりと承知して戴く(神道政治連盟国会議員懇談会・森喜朗元首相発言)」

『「神の国」という表現については、特定の宗教について述べたものではなく、地域社会においてはその土地土地の山や川や海などの自然の中に人間を超えるものを見るという考えがあったとの趣旨で述べたものである。したがって、御指摘の森内閣総理大臣の発言の内容は、憲法の定める国民主権の原理と矛盾するものではない。(衆議院議員保坂展人君提出「神の国」発言と森内閣に関する質問に対する答弁書・2000年5月26日受領答弁第三一号)』

「新型コロナウイルスがどうであろうと、必ずやり抜く(自民党本部で開かれた党スポーツ立国調査会などの合同会議・森喜朗組織委会長(当時)/ 2021年2月2日)」

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1941年12月8日未明(現地時間7日朝)、日本海軍が米国ハワイ州オアフ島の真珠湾攻撃で戦い(太平洋戦争)の火蓋が切られた。その日を境として「われわれの思考の中から、疑問符は最早全く消え」「神の御命なるがゆゑに、これを畏んだわれわれの態度は絶對信順であります。挺身奉公」が始まったと「必勝日本」は記す。

2021年7月23日、2020東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されれば、その日を境として「われわれの思考の中から、疑問符は最早全く消え」「神の御命なるがゆゑに、これを畏んだわれわれの態度は絶對信順であります。挺身奉公」が始まるのであろうか?憲法の定める国民主権の原理よりも、「人間を超えるもの」(=神命)に我々は畏むことになるのか。森氏の口癖たる「承知して戴く・わきまえて戴く・わきまえておられる」なる、原理(憲法)よりも道理(神の国)を心得よと、国民に忖度を促すことになるのか。

さすがにそう言ったカビの生えた復古主義(精神論)に与する程、我々も愚かではあるまい。そもそも、その精神論の単位となる家族が新自由主義経済下では崩壊している。いくら家族主義の美風を説こうが他方「自助」を要求するような現実社会で「家族の互助」など望むべくもないからだ。

そんな精神論よりも、むしろ、2021年7月23日が開催になろうと開催中止となろうと「コロナ制圧」をお為ごかしに国民主権に制約を加えようとする動きに「それも仕方ない」と我々が同調するか否かが、試されようとしている

つまり「緊急事態宣言を行ったところで、私権に制約を加えることができず実効性が上がらなかったわけです。今の憲法が悪いのです。」と、国会での緊急事態条項創設の議論に拍車がかかるのではないかと懸念する。

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「どうなるのか、どうするのか」の声が渦巻く今。「どうなるのか、どうするのか」さえ国民にメッセージを出せない菅政権の無為無策ぶりをむしろ逆手に取り、その声に応えるかにコロナ制圧をお為ごかしに緊急事態条項を含む憲法改正を虎視眈々と狙っているのは安倍晋三前首相であろう。「内閣独裁条項(緊急事態条項)」さえ手に入れれば再び首相の座に返り咲くのも夢ではないと本人は思っているに相違ない。「雨降って地固まる」の喩えではないが、「どうなるのか、どうするのか」という声が、オリンピック開催・コロナ感染拡大なる雨降りから強権発動の基盤を望む声に転じることがないよう願うばかりである。なぜなら、その条項はコロナに対してではなく国民主権に対して発動されコロナ要件がなくなろうとそれはずっと続くからだ(オリンピック開催の為に必要とされた「テロ等組織犯罪準備罪(共謀罪)」と同じ)。

新型コロナウィルスは恐ろしいほどに差別をしない。差別をするのは人間だ。(ハーバー・ビジネス・オンライン 2020年4月13日付記事から引用)」、ゆえに差別し合う人間の性(さが)を今こそ利用してやろうと考えているに違いない「こんな人たち」と国民に指を突き立てた安倍氏を忘れてはならない。

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火事場泥棒(IOCファミリー)にばかり目が行きがちだが、説教泥棒・憲法泥棒からも決して目を離してはならないということだ。

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「緊急事態に国家や国民がどのような役割を果たし、国難を乗り越えていくべきか。そのことを憲法にどのように位置付けるかは、極めて重く大切な課題だ」と指摘。国会で緊急事態条項創設の是非を議論するよう求めた。(安倍晋三首相(当時)・憲法改正推進派の民間団体のオンライン集会発言/2020年5月2日付時事通信報)

「自民党の衛藤征士郎・憲法改正推進本部長は20日にあった同本部の会合で、同本部最高顧問に安倍晋三・前首相が就任したと明らかにした。衛藤氏が安倍氏と直接会って就任を要請し、安倍氏は「喜んで」と快諾したという。(朝日新聞デジタル・2021年4月20日付記事引用)

今年の5月3日(憲法記念日)に憲法改正推進本部最高顧問である安倍氏が何を発言するのだろうか?「どうなるのか、どうするのか」という我々の声はだからと言って、緊急事態条項創設の動機付けに利用されてはならない。(憲法)泥棒がせっせと縄を綯う前に、我々主権者たる国民は選挙を以ってそのような泥棒に(現行)憲法の縄をかけるしかない。「みっともない憲法」(安倍氏)などと憲法を悪しざまに云い、「私がそう思えば法」とばかりに法秩序の連続性を断ち切るような政治解釈を平然と行う嘘と泥棒ばかりの自公政権はもううんざりだ。

関連記事:
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"オリンピック命" と言わせる日本の落日(続き5)

(おわり)

posted by ihagee at 06:17| 憲法

2021年04月24日

jam tomorrow / 決して起こらない良いこと





アリスは白の女王と出会いました。白の女王は「週2ペンスと1日おきにジャム Twopence a week, and jam every other day.」でアリスを侍女として雇うと言いました。さらに「ジャムは明日と昨日ですからね−−でも今日は絶対にジャムなし。それがルールでございますからね。 The rule is, jam to-morrow and jam yesterday--but never jam to-day.」と言いました。 LEWIS CARROLL『鏡の国のアリス』第5章』

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一見平易な英語のように見えて言葉遊びが隠されている。

every other dayは「1日おき」の意味だが、every / other dayとして訳せば「すべて他の日」となって、ジャムに今日は含まれない。さらに、昨日のジャムは貰ったことにされ、明日のジャムはお預けで、結局、今日という日のジャムは絶対に貰えない。つまり、明日になれば今日は昨日となり、いつまでたっても成就しない約束だが振り返れば貰ったことになっている。ジャムという楽しく望ましい方向とは逆の方向(後ろ向き)に生きている方が為になる('That's the effect of living backwards,') 、と白の女王は諭した。鏡の国は全てが逆立ちしているからそうなるのだろう。

to-morrow, to-dayはtomorrow, todayをハイフォンでわざわざ分綴している。morrowは古語として「朝 morning」の意味があり、dayは「昼」なので、「朝には」「昼には」とも意味することができるから、さらに言葉遊びが隠されているのかもしれない。

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'jam tomorrow' (British English) は「誰かがあなたに約束したが、決して起こらない良いこと 'good things someone promises you, which never happen' ロングマン英英辞典」の意味として使われることがある。ロングマンはさらにその例示として 'There is an element of ‘jam tomorrow’ about some of the government’s policies.' を挙げている (政府の政策には、「jam tomorrow」という要素がある)。実現されない様々な美辞麗句な政治的公約を表す言葉として使われている。すなわち、「空手形」「画餅(絵に描いた餅)」の意味。

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たとえ空手形・画餅であろうと「今日」と言い続けている限り「昨日のジャム・明日のジャム」で得をする白の女王の仲間たちがいる。約束は必ずしも実現しなくても良い。

" 衆院決算行政監視委員会で質問に立った立憲民主党の斉木武志氏は独自に入手した資料に基づき丸川氏を追求。人材派遣会社のホームページで、「ディレクター」と呼ばれる職種が日当1万2000円程度で募集されている一方、委託先への支払いの算出根拠となる人件費単価が最大20万円に上ると指摘した。そのうえで、斉木氏は「95%も中抜きして業者に渡すのは放漫だ」などと丸川氏に迫った。斉木氏は具体的な企業名を明らかにしなかったが、五輪スタッフの募集や研修に携わっているのは人材派遣会社の「パソナ」だとされ、これまでにも多くの不可解な契約が結ばれている。" (MAG2NEWS 2021年4月20日付記事から引用)

jam tomorrow / 決して起こらない良いこと、は今日という日ができるだけ長く続けば「良いことが続く」。

「今日」が必ずやって来ると信じる大会参加予定の選手たちは「明日の夢とか希望」を振りまいているが、開催するかしないかはあまり関係ない、そういう白の女王(IOC)の仲間たち(政商)もいるということ。白の女王(IOC)が元締めだから分け前をいずれ与る契約(開催都市契約)。何かと周到である。「明日の夢とか希望」とか言っている間に、都民・国民の税金をこっそり収奪しようとすることが「トリクルダウン」の意味なのだろうね。

「明日の夢とか希望」が施し物だけど、ジャムという楽しく望ましい方向とは逆の方向(後ろ向き)に生きている方が為になる('That's the effect of living backwards,')は正論かもしれない。「アンダーコントロール」なる必要に逆立ちした安全論(必要だから安全に決まっている)に端緒する世の中では、どうやら鏡の国のルールが正しいようだ。

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サイアノタイププリント 'jam tomorrow'

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いずれも、2021年3月15日に千駄ヶ谷で撮影。Sigma DP2Sのデジタル画像をフィルムレコーダ(Polaroid Digital Palette HR 6000)で35mm モノクロフィルム(Fuji AcrosII)に変換し、銀塩写真用引き伸ばし機(UV光源)で水彩画紙(Cotman Water Colour Paper B5 Fine)に焼き付けた(別稿:サイアノタイプ)。デジ→アナ変換は鏡の国のルールである。

posted by ihagee at 08:05| 東京オリンピック